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Chapter32 「元旦の混乱」

Chapter32 「元旦の混乱」


 元日の7:00、木崎、米子、ミント、樹里亜、瑠美緯は応接室に集っていた。米子とミントは昨日明治神宮で起こった出来事をみんなに説明した。テレビは音声を消していたが、画面には特別報道番組が映っていた。

「本部からのメールの情報では明治神宮での爆発が4回。川崎大師では5回、鶴ケ岡八幡宮も5回、幕張メッセのライブでは6回爆発があったらしい。爆発の規模は明治神宮が一番大きく、川崎大師と鶴ケ岡八幡宮はほぼ同等、幕張メッセは爆発の規模は比較的小さいそうだ。明治神宮では軽傷も含めると死傷者が150人でそのうち死亡もしくは重体が82人。川崎大師の死者は52人、鶴ケ岡八幡宮は46人、幕張メッセは39人だ」

木崎がスマートフォンを見ながら言った。

「82人も亡くなったの? 犠牲になった人は初詣で私達と同じ場所に並んでたんだよ。許せないよ。やっぱり赤い狐の犯行なの?」

ミントが訊いた。

「待て、警察の発表みたいだ」

木崎がリモコンでテレビのボリュームを上げた。


 『こちら 原宿警察署の前です、つい先ほど、警察の発表がありました』

テレビ画面の中でマイクを持ったレポーターが言った。

宮野『山田さん、お願いします』

報道特番の司会者の宮野が言った。宮野は月曜日から金曜日の14時から16時までの枠でワイドショー『ミヤノ屋』の帯番組を持つ関西出身の司会者だった。


山田『昨夜の連続爆破テロについて警察から発表がありました。

警察の発表によりますと明治神宮で起きた爆発と川崎大師と鶴ケ岡八幡宮で起きた爆発は迫撃砲によるものとの事です。また、幕張メッセの年越しライブで起きた爆発は小型ドローンによるものと判明しましたが、犯人および詳しい事は調査中との事です』

宮野『えっ? 迫撃砲? 迫撃砲って大砲ですか?』

山田『詳しい事は分かりませんが、現場の被害状況や散らばった破片などからそのような判断になったようです。幕張メッセでは小型のドローンが複数使われたようです。原宿警察署前からは以上です」

山田がマイクを持って答えた。画面がスタジオに戻った。


宮野『下田さん迫撃砲ってどういう事でしょう?』

宮野がスタジオのゲスト解説者の下田に話を振った。下田は軍事アナリストである。

下田『迫撃砲は戦争で使われる近距離用の大砲です。迫撃砲から撃ち出された砲弾は山なりに飛んで上から落ちて来ます。歩兵を倒すための大砲で、口径にもよりますが射程は3kmから10Kmくらいです。

砲弾の大きさによっても威力が大きく異なりますが、爆風と破片で敵の兵士を殺傷する兵器です』


宮野『兵器が使われたって事ですか? 正月早々物騒すぎますね』

下田『迫撃砲は各国の軍隊が戦争で使用するもので一般に流通するものではありません。外国の警察組織

でも所持していないでしょう』

宮野『今、その迫撃砲の写真を出しますね』

アシスタントの女性が迫撃砲の写真のパネルを持ってきた。パネルは急きょネット上で検索した画像を拡大コピーして作ったものだった。


宮野『これが迫撃砲ですか。第2次世界大戦の戦争映画でよく出て来るやつですよね?』

下田『現代でも陸上戦で使っています。ウクライナでもウクライナ軍とロシア軍の両方に使われています。ミサイルやドローンと違って第2次世界大戦から使われている 旧式のアナログ兵器ですが、構造が簡単で機動力があって比較的安価な兵器です。小さい物だと2~3人で運用できます。小型トラックやバンに載せて移動させる事も可能です。また、発射速度も速く、1分間に10発以上撃てます』


宮野『威力はどれぐらいなんでしょうか?』

下田『砲弾の大きさによりますが、大きな物だと火薬の量がTNT火薬3kg~5kgです。

手榴弾の火薬の量が180グラムですからその20倍以上の物凄い爆発力です。殺傷半径30m~50mで、何百もの破片が音速に近い速さで飛散します。今回の明治神宮の爆発の規模を見るとおそらく120mmクラスの重迫撃砲が使われた可能性があります。大きな迫撃砲です。川崎大師や鶴ケ岡八幡宮は爆発規模からみてもう少し小さい迫撃砲かもしれません』


「米子の言った通りだね。やっぱり迫撃砲だったんだね」

ミントが言った。

「さっき言ってた飛翔音の話しだな?」

木崎が訊いた。

「そうです。1回目の爆発の直前に『ヒュー、シュルシュル』っていう音がしました」

米子が言った。

「私も聴いたよ」

ミントが言った。

「被害の大きさから見るとテレビでも言ってるように明治神宮で使われたのは120mmクラスの迫撃砲だな。俺は自衛隊時代に80mm迫撃砲を撃った事がある。120mmは射撃を間近で見た事があるがあんなのを街中に撃たれたらたまらん」

木崎が言った。

「私も北海道の訓練所時代に松島地区の大演習場で迫撃砲の射撃を見学した事があります」

米子が言った。

「なんにしてもやっかいだな。ドローンや誘導ミサイルみたいにジャミングを使ったり電波妨害ができない。レーダーにも映らないから撃たれれば確実に着弾する。小型トラックや大型バンに搭載すれば移動も迅速に行える。アナログゆえに見つけにくい。その割に攻撃力があって都市部に撃ち込まれれば大きな被害が出る。いつ何処から攻撃されるか分からないから心理的影響も大きい」

「迫撃砲って上に向けた砲身の先からどんどん弾を落として撃つやつだよね。映画で見たことあるよ。第2次大戦の映画ではよく出てくるんだよ。あんなので繁華街を撃たれたら犠牲者が一杯でるよ。戦場で使う兵器を街中で使うなんて酷いよ」

ミントが言った。

「迫撃砲って簡単に撃てるんすか?」

瑠美緯が言った。

「角度の調整は計算が必要だが、撃つだけだったら誰でも撃てる」

木崎が言った。

「上に撃って目標に落下させるなんて狙いを付けるのが難しそうですね」

樹里亜が言った。

「迫撃砲は仰角と方位角を調整して狙いを付けるんだ。目視無しの座標射撃なら初弾は50m~100mずれる事が多い。だから観測して修正しながら何発も撃つんだ。迫撃砲は点を狙うんじゃなくて破片で面を制圧する兵器だ」

木崎が言った。

「なるほど、面で制圧ですか。銃の狙撃とは違うんですね」

樹里亜が納得するように言った。

「人がぎゅうぎゅうに一杯いたから私達は破片に当たらなかったんだね」

ミントが言った

「おっ、本部から新しいメールが来た」

木崎がスマートフォンを覗き込んだ。

「発射地点が分かったぞ。目黒区の『東京大学駒場キャンパス野球場』だ」

木崎が言った。

「駒場の野球場から明治神宮まで直線で2.2kmです」

タブレットPCでGoogleマップを見ていた米子が言った。

「テレビでもやってるよ」

ミントがリモコンでテレビのボリュームを上げた。


山田『再び原宿警察署前より警察の発表をお知らせします。昨夜明治神宮の爆発の原因となった迫撃砲の射地点が判明しました。迫撃砲の発射地点は東京都目黒区の東京大学駒場キャンパス野球場とういう事です。昨夜零時近くに『ドン』という大きな音が何回して、警察に通報があったようです。警察が駆け付けた時に怪しい男達5~6人が野球場のグランドから大きな何かを運び出しているようだったとの事です。


 警官が職務質問をしようとしてところ、男達がいきなり拳銃を発砲してきたという事です。この発砲で警官1人が死亡、もう1人が重症で救急搬送されたようです。なお犯人と思しき男達はその後と小型トラックで逃走した模様です。また、川崎大師の砲撃地点も判明しました。大田区の多摩川河川敷から発射されたようです。こちらも警察に通報があり、警察が駆け付けると怪しい男達が逃走し、現場に迫撃砲を残していったとの事です。警察の調べでは現場に残されていたのは旧ソ連製の82mm迫撃砲との事です。また、鶴ケ岡八幡宮を狙った発射地点はゴルフ場の鎌倉カントリークラブとの事です』

宮野『東京大学の野球場? 多摩川で見つかったのはソ連製の迫撃砲ですか?』

山田『はい。警察の発表ではそうなっています』

宮野『下田さん、旧ソ連の迫撃砲ってどういう事ですかね?』

下田『旧ソ連の82mm迫撃砲の古い型は第2次大戦より前から使われています。有効射程は3000m

ですから多摩川から川崎大使なら射程圏内です』

宮野『何で旧ソ連製なんですかね?』

下田『理由はわかりませんが武器市場に出回っているのでしょう。調達ルートが絞り込めるかもしれません。犯人グループは迫撃砲を最低でも3門持っていた事になります。今も2門持っています。そのうち一つは重迫撃砲です』

宮野『山田さ~ん、犯行グループから犯行声明とか出てないんですかね?』

山田『はい、警察の発表では犯行声明は出ていないようです。犯行グループの正体も掴めていないと思われます』

宮野『いやー恐ろしいですね。えーそれから、宮内庁の発表ですと明日の皇室による皇居での一般参賀は

中止ということです。また警察からは暫く不要不急の外出は控えるようにとの事です。特に人が集まる場所やイベントへの外出は控えるようにとのことです』

下田『それがいいでしょうね。迫撃砲はいつどこから撃ってくるかわかりません。人の集まる所は危険です。もし犯行グループがまだテロを続けるようならば人の集まる所を狙ってくるでしょう』

宮野『しかし新年早々えらい事になりましたね。元旦ですよ! 犯行グループは何者で何が狙い何でしょうか?』

東原『これはある意味の侵略行為ですよ! 

先日の経団協ビルや合同庁舎爆破事件と関係があると思います。外国勢力の侵略ならテロでも防衛出動す

るべきですよ。だいたい公安は何をやってるんですかね? もう警察の手には負えないのじゃないです

か?』

ゲストの東原が発言した。東原はお笑い芸人出身の元参議院議員だった。


 「旧ソ連製の迫撃砲は120mmと82mmの2種類と考えていいだろう。赤い狐の犯行で間違いないだろうな。この前は経団協ビルと霞ヶ関の合同庁舎だったが今回は無差別に一般市民を狙っている。元旦に実行したのは心理的効果も考えての事だろう」

木崎が言った。

「内閣情報統括室は動かないんですか? 私はいつでも出動できます」

米子が言った。

「そう焦るな。今はまだ警察の仕事だ。犯行グループの居場所もまだ分からない。だが、居場所が判明したら暗殺任務か戦闘任務の指令が来るかもしれないから覚悟しておくんだ。いつでも出動できるようにしておけ」

木崎が言った。

「受験前だっていうのに赤い狐のやつら頭に来るね」

ミントが言った。

「まあ、敵はこっちの都合なんて待ってくれないよ。でも試験の日だけは外してもらいたいよね。これで

も受験勉強したんだからなんとか現役で合格したいよ」

米子が言った。

「だよねー、私も任務の合間にめちゃくちゃ受験勉強頑張ったよ。『慶優』に受かって米子と同じ大学に通うんだよ。それに浪人費用は組織も出してくれないだろうしね」

「悪いが組織は予備校の費用は払えない。もし浪人したら自宅浪人だな。もちろん組織の仕事はやってもらう」

木崎が言った。

「お正月にテロを起こすなんて許せないっすよ。みんなが新年に希望を持ってお祈りとかする時ですよ。1年で一番平和な時なのにマジムカつきますよ」

瑠美緯が言った。

「ジョニーズの新春コンサートも中止になりそうです。チケット買ったのに~。許せないです!」

樹里亜がスマートフォンを見ながら言った。

「迫撃砲に小型ドローンか。今までの戦法じゃ赤い狐には勝てないかもね。受験が終わったら本気で戦術を考えるよ。戦術だけじゃなくて戦略も考えないと勝てないかもしれないな」

米子が呟くように言った。


  元旦の砲撃事件以降、都内の野球場、サッカー場、広い公園など迫撃砲が発射可能な場所の多くが使用禁止となり、警察の定期的な立ち入り検査が行われるようになった。また、多くのイベントが中止となり、人々はいつ何処から飛んでくるか分からない迫撃砲の砲弾に怯えなければならなかった。また、昨年末まで上がり続けていた株価も年明けに一気に暴落して日経平均は2万5千円を切り、為替も1ドル170円まで円安が進んだ。


 人々の間で、日本を標的にした大きなテロ組織があることが真しやかに語られるようになった。ネットの掲示板でも経団協ビルと霞ヶ関の合同庁舎でのテロと元旦の砲撃事件に対する様々な考察が書き込まれ、数々の陰謀論が広まった。テロの影響は経済の低迷と重なって日本国民のマインドを下げ、言いようのない閉塞感が世間に蔓延した。



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