Chapter24 「復讐のエピローグ」
Chapter24 「復讐のエピローグ」
【警視庁本部庁舎2階会議室】
闇夜のカラスのメンバーの神崎、川島、藤谷、杉浦が集まっていた。阿南が消えた今、警視庁本部庁舎の会議室を堂々と使えるのだ。
「みんなご苦労だった。神奈川県警の鑑識の現場検証資料が手に入った。今から阿南の死亡の詳細について話す」
神崎が言った。皆が真剣な目で神崎を見ていた。
「阿南は横浜市神奈川区守屋町3丁目の『高島線』の線路上で上半身と下半身に分かれた轢死体で見つかった。両膝と左肘を弾丸が貫通していた。現場には357SIG弾の薬莢が3つ落ちていた。阿南も発砲したようだ。現場で発見された阿南のニューナンブM60の弾倉内の弾は全て発射されていた。鑑識は阿南と何者かが拳銃で撃ち合い、両膝を撃たれて動けなくなった阿南が燃料輸送貨物列車に轢かれたという分析結果を出した。もちろん阿南を撃ったのは沢村米子だが神奈川県警の刑事部は犯人の見当がついていないようだ」
神崎が言った。
「神奈川県警は事件の捜査をするんですか?」
川島が訊いた。
「いや、警察庁の上層部は阿南の自殺で片付けるようだ。神奈川県警にストップをかけるだろう。阿南が赤い狐に関わっていたとの情報がある勢力から警察庁にタレ込みがあった。事故もしくは自殺で処理するように依頼もあったようだ。それに被害者は警視庁の公安部長だ。神奈川県警も捜査をしたくないだろう」
神崎が言った。
「ある勢力ってどこですか?」
藤谷が訊いた。
「おそらく榊先生だ」
神崎が答えた。
「榊先生襲撃を阿南が企てた事がバレたんですね?」
川島が言った。
「沢村米子が榊先生に阿南と闇桜の関係を教えたみたいだな」
「凄い! 米子ちゃんは榊先生を味方に付けたのか。やっぱり頭がいいなあ」
川島が言った。
「でも高島線の線路って、なんでそんな場所で撃ち合ったんですかね?」
杉浦が言った。
「沢村米子が阿南の運転する覆面パトカーをバイクで追い詰めたんだ。阿南はパトランプを点けてサイレンを鳴らしながら猛スピードで逃げていたらしい。その後ろを制服を着た女性の運転するバイクが追いかけていたそうだ。阿南はバス会社の駐車場で逃げ場を失って徒歩で線路に入ったんだろう」
「映画のシーンみたいですね。頭の中に映像が浮かびました。見たかったなぁ」
川島が言った。
「私もそう思ったよ。何にしても榊先生に手を出した天罰が下ったようだな」
神崎が言った。
「やっぱりあの娘は凄い。俺たちが出来ない事をやったんだ」
藤谷が言った。
「沢村米子は家族の復讐も果たした。むしろそっちが本命で阿南を倒したのは障害を排除したにすぎない。しかしまあ、大したもんだな。女子高生とは思えない」
神崎が感慨深そうに言った。
「私、彼女とお茶を飲む約束をしたんです。阿南を追い詰めた時の話を詳しく聞けるかもしれないな」
杉浦が嬉しそうに言った。
「いいですねえ、米子ちゃん本当にアニメのヒロインみたいだよな。JKアサシンか」
川島が言った。
「沢村米子の懸賞金は取り止めになった。サイトにもそう記載した」
神崎が言った。
「じゃあ米子ちゃんはもう命を狙われる事はないんですね? 闇桜も解散ですよね?」
川島が言った。
「闇桜は解散です。闇桜の生き残りは私も含めて8人いますが、監察の尋問を受けた後、警察を去る事になるでしょう。元々警視庁の警察官名簿から消された存在ですから表向きは問題ないはずです。私も監察の尋問を受けますが闇夜のカラスの事も沢村米子の事も絶対に口を割りません。阿南の企みについては話すつもりです。私も警察を辞める事になるでしょうが、夜桜の仲間の弔い合戦が出来たので後悔はありません。警備会社にでも転職します」
藤谷が言った。
「藤谷さんには公安に残ってもらいた。あなたの処遇は私が何とかする。公安1課でよければ私の下で働いてほしい」
神崎が言った。
「いいんですか? 私は夜桜と闇桜にいた人間ですよ?」
「かまわん。今回は実に良くやってくれた。感謝している。君のような男がこれからの公安には必要なんだ」
「ではお言葉甘えさせて頂きます。正直いって退職の事を妻にどう切り出そうか悩んでいたんです」
「そういえば昨日原田さんの見舞いに行って来ました」
川島が言った。
「おう、怪我の具合はどうだ?」
神崎が訊いた。
「盲管銃創ですが、弾は摘出しました。肝臓や膵臓を外れていたようです。3ヵ月ほど入院すれば回復するそうです。ただ皆さんが見舞いに来るのは止めて欲しいと言ってまいした」
「どうしてだ? 是非とも見舞いに行きたい」
「闇夜のカラスの秘密が外部にバレる事を気にしているようです。退院したらまた参加したいそうです。阿南の事と米子ちゃんの事を気にしていたんで、この後見舞いに行って教えようと思ってます」
「是非そうしてくれ。それと治療費は公安の機密費から捻出するから気にしないように伝えてくれ。報酬も出すつもりだ。闇夜のカラスは継続しようと思っている。原田さんの事を待っていると伝えてくれ」
「分かりました。原田さんきっと喜びますよ。これからも米子ちゃんを支援したいって言っていました。そのためにも闇夜のカラスに戻りたいと言っていました、やはり沢さんの事に責任を感じているのでしょうね」
「そうか。沢村米子は赤い狐と戦うだろう。赤い狐は我々にとっても敵だ。これからも陰ながらあの娘の支援をするつもりだ。あの娘のおかがで我々は警察官としての誇りを取り戻すことができたんだ」
「そうですね。私も回り道をしましたが、公安刑事として真っ当な仕事をしたいです」
藤谷が言った。
「私も沢さんの教えを守って警察官として精一杯生きますよ」
川島が言った。
「私も惰性で公安刑事をやってましたが、今回の事をきっかけに気分を一新して頑張るつもりです。この国のために出来る事がまだまだあるはずです。あの娘を見習いたい」
杉浦が言った。
「我々はこれからも国民の平和のために活動するんだ。そのために赤い狐と戦うことになるだろう。警察は赤い狐と戦うために全国の県警を横断する組織を作っている。防衛省や外務省とも連携するようだ。当然ながら内閣情報統括室も動くだろう」
「いよいよですか。総力戦になりそうですね」
川島が言った。
「私は内情の東山管理官と木崎課長に会おうと思っている。この前阿南と沢村米子の身柄を引き渡すよう申し入れに行ったが、その事の詫びを入れに行くつもりだ。それと沢村米子が阿南を倒した事への礼も言いたい。私が知っている事と阿南と赤い狐の繋がりについて教えるつもりだ。あそことも上手くやっていく必要があるからな」
神崎が言った。
「神崎さんはこのまま公安1課の課長を続けるんですか? 私は公安4課のままですよね?」
松浦が訊いた。
「そのつもりだ。公安では1課が赤い狐担当になるようだ。もう国内の極左集団を相手にしている暇は無い。松浦さんは今まで通り4課の仕事続けてもらうが闇夜のカラスにも参加して欲しい」
米子は西新宿の事務所の応接室で応接テーブルを挟んで木崎と向かい合っていた。
「阿南は高島線のレールの上で真っ二つなっていたそうだ。殺ったのはお前だな?」
木崎が訊いた。
「はい」
米子は小さな声で答えた。
「警察の発表では自殺とういう事になっている。警察も警視庁の公安部長が赤い狐と通じていた事を表沙汰にしたくないようだ。だから捜査はしないだろう。事実を闇に葬るつもりだ」
「警察は阿南が赤い狐と繋がっていた事を知ってたんですか?」
「リークがあったようだ。おそらく榊先生の陣営だろう。内閣もこの件にはたいへん興味を持っている」
「阿南を消す事で赤い狐の侵攻を遅らせる事ができたんでしょうか?」
米子が訊いた。
「多少はできただろうが、ヤツらはいろんなルートでこの国に入り込んでいる。赤い狐との戦いはこれからが本番だ」
「国の組織全体で対応できるといいですね」
米子が言った。
「片山や野村や篠田麻衣を殺ったのもお前か?」
木崎が訊いた。
「片山と野村は個人的な復讐です。2人は両親と弟を惨殺した実行犯です。篠田麻衣は人質に使いましたが、闇桜との銃撃戦に巻き込まれて殺されました」
米子は片山の暗殺や篠田麻衣の略取から始まる一連の出来事を木崎に報告した。
「阿南の罠を逆手に取って闇桜を殲滅したのは見事だったな」
「神崎さん達の協力がなければこっちが確実に殺られてました」
「しかし神崎、原田、川島、藤谷、杉浦は何でお前の味方になったんだ?」
「よくわかりませんが、阿南の暴走を止めたかったのだと思います。原田さんは父の直接の上司だったようです。神崎さんはその上の上司だったみたいです」
「なるほど、みんないろいろ事情があるようだな。まあ、ご苦労だった。どっちにしろ阿南には内閣情報統括室から暗殺指令が出ていたと思うから結果オーライだ」
「闇桜は壊滅ですね」
「復讐も終わって阿南も倒した。とりあえず一段落じゃないのか?」
「今回も多くの命を奪いました。私は死神です」
米子が静かに言った。
「死神でもなんでもいい。俺は米子が無事に戻って来てくれたことが嬉しい。それにお前は死神なんかじゃない。任務に忠実なアサシンだ。内閣情報統括室の実働部隊のエースだ。なくてはならない存在なんだ。それだけは忘れるな」
木崎が強い口調で言った。
「殺戮マシンと死神は違うんですか?」
米子が訊いた。
「どうしたんだ? 米子らしくないぞ。それより一段落したところで悪いが関西のアサシン達と合同訓練をして欲しい」
「前に言ってた奈良の訓練所を卒業した人達ですね? 高校生でしたよね? 強いんですか?」
「実戦経験はまだ少ないが、暗殺はすでに何件か実行している。俺たちが潰した『二和会』の残党や九州の武闘派ヤクザの幹部なんかが対象だ」
「合同訓練って何をすればいいんですか?」
「模擬戦闘だ。彼女達はまだ戦闘の経験が殆ど無い。訓練は厳しく実施しているみたいだがお前たちの事例を知って模擬戦闘をしたいと思っているようだ」
「以前実施した本部の戦闘チームとの演習と同じ感じですか?」
米子が訊いた。
「そうだ。場所は奈良県の訓練所になる。戦闘実績を基にした講義もして欲しいそうだ」
「東北の護衛任務やSATの演習テロ事件とかを説明すればいいんですか?」
「それは任せる。これまでの戦闘のポイントや教訓を教えてやればいい」
「いつ実施ですか? メンバーはどうします?」
「3日後だ。20日の土曜に出発して21日の夜に帰ってくる。20日は大阪まで始発の新幹線で移動して、そこからは関西支部の車で奈良の訓練所に入る。メンバーは米子、ミント、樹里亜、瑠美緯の4人だ。俺も行く」
「1泊2日ですか。慌ただしいですね」
「それと帰ってきたら本部の東山管理官に一連の出来事を報告して欲しい。もしかしたら三枝室長も同席するかもしれない。報告するのはゼニゲーバ商務長官暗殺から今日までの出来事だ。三枝室長は閣僚会議に出席する事になったようだ。内閣も赤い狐に興味を持ったらしい。三枝室長も公安と赤い狐との関係や闇桜について知っておきたいのだろう」
「真革派の山荘を襲撃した件や如月カンナの事も報告するんですか?」
「関連する事項だから報告しておいた方がいいだろう」
「わかりました。忙しい年末になりそうですね」
「ああ、正月はゆっくり休みたいな」
木崎が言った。




