Chapter22 「巨悪を追え」
Chapter22 「巨悪を追え」
『パン!』 『パン!』
倉庫内に銃声が響いた。闇桜の男達の後ろに立っていたダークグレイのスーツを着てサングラスを掛けた男がニューナンブM60を発砲した。ネットランチャーを持っていた闇桜の男が2人がその場に崩れ落ちた。1人は38スペシャル弾が背中から心臓を貫通し、もう1人は肩甲骨を撃たれた。
『こちら ヤマカガシ 背後 から 撃たれました! ガラガラヘビは死亡』
インカムに肩甲骨を撃たれた男の声が流れた。
「誰だお前は!」
小型コンテナの屋根の上に伏せていた闇桜の男が立ち上がって叫んだ。
『パン!』 『パン!』
サングラスの男が素早くニューナンブM60を発砲した。
屋根の上の男が胸に被弾して後ろに倒れた。
「沢村君、闇桜の襲撃だ! 逃げろ! 敵は8人だ!」
サングラスを掛けた男が叫んだ。神崎だった。米子は焦った。闇桜が復讐現場で罠を張ろうとしている事は知っていたので十分注意したつもりだった。この場所を選んだのも闇桜の監視をかわす為だった。もし襲われても反撃しやすい場所を選んだつもりだった。
『阿南だ。何をやってる! 敵を殲滅しろ! さっさと沢村米子を射殺しろ。私も今から倉庫に入る』
阿南がインカムで指示を出した。
『オロチより各位、プラン変更、タゲートを射殺せよ!』
『パン』 『パン』 『パン』
闇桜の男達が腰のホルスターからグロック17を慌てて抜くと神崎と米子に向けて発砲した後、木箱の陰に隠れた。弾丸が神崎の左肩を掠り、米子は咄嗟にしゃがんだ。
『バン』 『バン』 『バン』 『バン』
米子が振り向いて右後方と真後ろに発砲した。木箱の角が砕け散り、1発が隠れた闇桜の男の胸に当たった。米子が素早く移動して床に置いたショルダーバックから9mmパラベラム弾仕様のVZ85スコーピンと弾帯を取り出すとスコーピオンのスリンを首掛け、弾帯を腰に巻いてP229を腰と弾帯の間に差し込んだ。ポケットから出した鍵で篠田麻衣の足枷を外す。
「麻衣さん、逃げて。此処にいたら殺される。トイレの奥に裏口があるから」
米子がしゃがんだ姿勢でスコーピオンのコッキングハンドルを引きながら言った。米子は当初の計画では篠田麻衣を殺すつもりだったが、何故か助けたいと思った。
「わかったわ! 一緒に逃げましょう」
篠田麻衣が米子の手を掴んで立ち上がった。
『パン』 『パン』 『パン』
『パン』 『パン』
篠田麻衣の体から真っ赤な血が飛び散り、踊るように体を半回転させて床に倒れた。1発は胸の右脇に、1発は胸の中央に、2発が背中に当たって体の前から抜けた。裏口から発砲しながら闇桜の男が2人突進して来た。
『ダダダダダダダダダ』 『ダダダダダダダダダダダダ』
米子が突進してくる男2人に向けて蹲踞の姿勢でスコーピオンをフルオートで発砲した。米子のガンコトロールは完璧だった。男達は体中を撃ち抜かれて惰性で前に転がった。米子が立ち上がって血塗れで横たわる篠田麻衣を見つめて4、5秒動かなかった。感傷的になり、篠田麻衣に対して申し訳無い気持ちになっていた。米子にしては珍しい行動だった。状況を思い出し、慌てて走りだしてコンテナの横に移動した。
『パン!』 『パン』
『パン!』 『パン!』
『パン』
『パン!』 『パン』
倉庫内に銃声が響く。響く銃声が9mm弾と38スペシャル弾である事に米子が気付いた。銃撃戦が起きているようだった。
「米子ちゃん、原田だ! 入り口は押さえた! 川島も一緒だ!」
原田の声が倉庫に響いた。
米子はスコーピオンのグリップから手を離すと2段に積まれた12フィートコンテナの端に付いた細い梯子を勢いよく登り、登りきると屋根の上に伏せた。2段に重ねたコンテナの高さは4.5mだった。隣の1段のコンテナの屋根の上で神崎に撃たれた闇桜の男が仰向けに倒れていた。立ち上がると倉庫の中が良く見えた。入り口で2人の男が膝を着いて倉庫の中に銃を向けていた。原田と川島だった。神崎は前方の木箱の陰でしゃがんでいる。倉庫の床には米子が撃った男が3人、神崎の撃った男が2人倒れている。残りの2人が前方の木箱の陰から原田達に発砲していた。40m離れた小型クレーンの陰にも闇桜の男が隠れているのが見えた。木箱の陰にいた闇桜の1人が米子に気が付いた。米子が伏せる。
『パン!』 『パン!』 『パン!』
『ガキン!』 『カーン!』 『ヒュン』
闇桜の男が3発発砲した。2発がコンテナ当たり、1発が米子の頭上を掠めた。米子が顔を上げると原田が銃を持った右手を伸ばしながら突進するのが見えた。
『パン!』 『パン!』 『パン!』
『パン!』 『パン!』 『パン!』 『パン!』
闇桜の男2人が原田に向けて発砲する。原田が弾かれたように倒れると床を転がった。
『パン!』『パン!』『パン!』
川島が発砲する。
米子はSIG-P229を腰から抜くとコンテナの屋根の上に右膝を着いて闇桜の男達を正確に狙った。距離は30m。米子は完全にアサシンの戦闘モードに切り替わっていた。
『バン!』 『バン!』
SIG-P229が2回跳ね上がる。原田を撃っていた闇桜の男2人が続けざまに崩れて床に倒れる。1人は頭を、1人は斜め上から首を撃ち抜かれた。銃声が止んで静かになった。
「撃つな、藤谷だ! 撃たないでくれ! 闇桜のヤツらはほぼ全滅だ。あと1人いるが逃げたみたいだ」
小型クレーンの陰から藤谷が両手を高く挙げて姿を現した。
米子はコンテナの縁にぶら下がると手を放して足から床に着地した。米子は原田に向かって走った。
「原田さんが撃たれました!」
倒れた原田の横で川島が叫んだ。神崎と藤谷も原田に駆け寄った。原田は生きていたがベージュ色のブルゾンの右脇腹が真っ赤に染まっていた。不思議と顔は穏やかで薄目を開けていた。川島がスマートフォンで救急車を呼んでいた。
「傷を見ます。訓練所で救急医療を習いました」
米子がしゃがんで原田のブルゾンの前を開き、白いシャツと肌着を捲り上げると顔を近づけて血が流れ出している傷口を見た。米子は訓練所時代に医学や救急医療についての講義を受けていた。刃物による傷や銃創に対する応急処置は写真や動画、実験用の人形を使った講習が実施された。
「肝臓は外れてますが輸血が必要だと思います」
米子が言って止血の為に傷口に手を当てて押さえた。
「米子ちゃん、無事なんだな?」
原田が薄く目を開けたまま目玉だけを動かして米子の方を見た。
「はい、大丈夫です。すみませんでした」
「謝らなくていい。柄にもない事をした私の自己責任だ。それよりいろいろと辛い事を思い出させて済まなかった」
「いえ、おかげでケリをつける事ができました」
「昔、まだ家内が生きていた頃、一緒に米子ちゃんの家に遊びに行った事がある。夏の暑い日だった。みんなでアイスクリームを食べたんだ。憶えてるかな?」
「薄っすらと憶えてます。たぶん私が幼稚園の年長の時だったと思います」
「君の弟はまだベビーベットの中だった。懐かしいなあ」
「もうすぐ救急車が来ます。傷が治ったら警察官だったお父さんの事を教えて下さい」
「ああ、君のお父さんは優秀な刑事だった。今度ゆっくり話してあげるよ」
「わかりました。もう喋らないでください」
原田は頷いて目を閉じた。
「まだ油断できないぞ。闇桜を1人逃がした。救急車が来たら撤収しよう」
神崎が言った。
「そうですね。阿南にはまだ10人ほど闇桜の駒があります。私がスパイである事もバレたでしょうから、暫く何処かに潜ります。もし捕まっても口は割りません」
藤谷が言った。
「すまない。しかし阿南もこれだけ部下を失えば上層部も黙っていないだろう。私も全てを警察庁長官と国家公安委員会に直訴するつもりだ」
神崎が言った。
「阿南も終わりですね。そうあって欲しいです」
川島が言った。
神崎が銃身3インチのニューナンブM60のシリンダーを横にスウィングアウトさせると銃口を上に向けてエジェクターロッドを押して5つの薬莢を床に落とした。ポケットからスピードローダーを取り出すと下に向けたシリンダーに押し当てた。給弾してシリンダーを銃の本体に戻す。ニューナンブM60は1960年から日本の警察官に支給されているミネベアミツミ社製リボルバー式の拳銃で38スペシャル弾を発射することができる。装弾数は5発と少ない。装弾数が少ないのは、日本の警察では拳銃の使用は最終手段と考え、銃撃戦を想定していないからである。銃社会で銃撃戦が想定されるアメリカでは装弾数15発以上のグロックやベレッタやSIGが主流となっている。
「行けーー、あの女を撃ち殺せ!」
男の声が響いた。
『パン』 『パン』
黒いスーツを着た男が裏口から突進して来て発砲した。距離が30mあったので誰にも当たらなかった。撃った男の後ろに黒いコートを着た男が立っていた。命令した男だ。
『パン』 『パン』
神崎が素早く反撃した。
『パン』 『パン』 『パン』
『パン』 『パン』
川島と藤谷が銃を抜くと伏せながら発砲した。
黒いスーツの男が胸に1発被弾して倒れた。後ろの黒いコートの男は体を反転させると裏口に向かって走って逃げた。
川島の銃は警察の制式拳銃リボルバーの『M360J SAKURA』、藤谷の銃はグロック17だった。M360J SAKURA は2006年より支給が開始されたS&W社製のリボルバーの銃で、古くなったニューナンブM60に置換え中である。発射できる弾丸は38スペシャル弾で装弾数は5発とニューナンブM60と同じである。グロック17は闇桜の標準装備となっている。グロック17はグロック社の製造するポリマーフレームのオートマチック拳銃で9mmパラべラム弾を発射し、装弾数は15発で西側の法執行機関や軍隊で広く使用されている。
「逃げた男は阿南だ!」
神崎が大きな声で言った。
「バイクで追います! 原田さんの止血をお願いします」
米子が立ち上がって走り出そうとした。
「よし、止血は俺がしよう。元気そうだな、東北では世話になった。君は阿南を追ってくれ」
藤谷が米子の顔を見て言った。
「藤谷さん、お久しぶりです。止血をお願いします」
米子が頭を下げた。
「沢村君、阿南の車は黒いクラウンだ。ナンバーは品川332『み』の0721だ」
神崎が言った。
「神崎さん、いろいろありがとうございます。サングラス似合ってますよ」
米子が感謝の気持ちを伝えたくて慣れないお世辞を言った。
「そうか? 『あぶない刑事』みたいだろ?」
「それはよくわかりませんが、阿南は必ず仕留めます!」
米子は走り出した。途中で床に置いていたショルダーバックを拾い上げると首に掛けていたスコーピンと腰から外した弾帯を走りながら押し込むように中に入れた。倉庫の裏口を出た所は車が10台ほど置ける駐車スペースになっており、闇桜の男達が乗って来たバンが2台停まっていた。
米子は自分のバイクに跨がろうとしてメーターの横に見慣れない機器が取り付けられている事に気が付いた。突然1人の男が目の前に現れた。米子は咄嗟に右手をブレザーを内側に入れてショルダーホルスターからSIG-P229を抜くと親指でハンマーを起こしながら男に照準を合わせた。
「うわっ、沢村さん俺だよ、杉浦だ!」
男は以前米子を監視していた警視庁公安部公安3課の杉浦だった。米子は慌ててデコッキングレバーを押すとSIG―P229をショルダーホルスターに戻した。杉浦は現在、神崎が中心となって作った『闇夜のカラス』の一員で米子の活動を支援する立場になっている。杉浦はライトグレーのスーツの上に紺色の作業ジャンパーを着て手にドライバーとスパナを持っていたい。
「すみません、杉浦さんも私の援護に来てくれたんですか?」
「そうだよ。そのハンドルに付けたのはカーナビだ。阿南の車のバンパーにGPSロガーを仕掛けたからそのカーナビで追えるよ。緑の点が阿南の位置だ。バッテリーは5時間位持つと思う」
「ありがとうございます」
米子が言ってKawasaki KLX250に跨った。米子が黒いフルフェスのヘルメットを被るとエンジンを始動した。
「沢村さん、気を付けるんだ。また喫茶店でコーヒーを飲もう。現役女子高生とお茶できるなんて凄い事だと気付いたよ。今度はテーブルの下の銃の脅し無しでゆっくり話したいな」
杉浦が言った。
「いいですよ。私がJKなのもあと3カ月なので早めに行きましょう。じゃあ行きます」
米子がギアを入れてスロットルを捻るとKawasaki KLX250は高いエンジン音を響かせて勢いよく発進した。




