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Chapter19 「復讐のプレリュード」

いよいよ復讐パートです

Chapter19 「復讐のプレリュード」


 米子は新橋のディスカウントストア『カムラヤ』の5Fの文房具コーナーを一回りしてボールペンを手に取った。一瞬離れた場所にいる男の店員と目が合ったが左右を確認すると素早く棚に並んだ銀色のボールペンをブレザーのポケットに入れた。米子は何食わぬ顔をして5mほど横に移動すると別の商品棚に並んだ消しゴムを手に取ってブレザーのポケットに素早く入れた。そのままエスカレータで1階まで下ってディスカウントストアの入り口を出ると新橋駅に向かって歩き始めた。


「君、ポケットの中の物を出しなさい」

男が突然が前を塞ぐように現れて言った。

「なんですか?」

米子が言った。

「高校生? 自分のした事わかってるよね?」

男が米子の目を見つめながら言った。 

「何の事ですか? 人を呼びますよ」

「いいからポケットの中の物を出して。こっちは警察を呼んでもいいんだよ」

米子は下を向いて黙った。

「事務所で話を聞くから来てもらうよ。いいね?」

男が言いながら米子の右手首を掴んだ。

「やめてください」

米子は手を振りほどこうとした。

「暴れると押さえつけるよ。これでも僕は武道の経験があるんだ」

「暴力はやめてください。怖いです」

米子が腕の力を抜いた。全てが計画通りだった。


 事務所は倉庫のような場所だった。部屋の真ん中にテーブルが一つとパイプ椅子が4つあり、その後ろには使い込んだホワイトボードが置かれ、さらにその後ろには商品の在庫が入った段ボールが高く積まれていた。米子は男とテーブルを挟んで座っていた。テーブルの上には米子がポケットから出した銀色のボールペンと消しゴムとリップクリームに生徒手帳が並んでいた。男は片山と名乗った。米子は神崎から貰った片山に関する資料の内容を思い出していた。


 『片山秀樹、35歳。沢村家を襲った犯行当時は24歳で沢村栄一に改造拳銃でトドメの刺している。現住所は板橋区志村3丁目12―18チンポーココーポ204。勤務先は新橋のディスカウントストア『カムラヤ』。職場では主任として商品管理を中心に店舗運営を行っている。片山は高校時代はギャングを気取った中途半端な不良で、卒業後はフリーアルバイターとして働いていたが何事も上手くいかず、常に世の中に対する不満を抱えていた。21歳の頃、居酒屋で飲んでいた時に隣に座っていた男と意気投合して懇意となる。懇意となった男は『真革派』のメンバーで片山に組織に入るよう誘った。自分の居場所を探し、常に鬱憤を晴らしたいと思っていた片山は男の誘いにのって真革派に入った。片山はデモや破壊活動に積極的に参加し、実働部隊の『赤い連隊』の一員となる。赤い連隊の一員となってからは破壊活動に加え、個人に対するテロも行うようになった。片山に思想はなく、ただ鬱憤晴らし暴れただけだった。組織の力を借りて自分が強くなったような気がした。やがて公安にマークされ、組織の指示もあって32歳から活動を休止している。片山自身は活動への熱も冷め、出来る事ならフェードアウトして真革派を抜けたいと思っていた。現在片山はディスカウントショップで正社員として働いているが給料はもっぱらパチンコや風俗に使っている。職場の後輩に対するパワハラや若い女性アルバイトなどに対するセクハラ行為も問題となっており、職場では孤立しつつあった。


 「ふーん、桜山学園の生徒か。割と偏差値が高い高校だよね。その制服も桜山学園の制服か」

片山が米子の生徒手帳を見て言った。片山は米子の顔と体を舐め回すように見ていた。

「あの、学校には言わないで下さい」

米子が言った。

「そうはいかないよ。ボールペンと消しゴム、それに1階ではリップクリームも万引きしただろ。立派な犯罪だよ。初めてじゃないよね?」

「初めてです。お金は払いますから許してください。イライラしてて、つい手が出てしま

ったんです、ごめんなさい!」

「だったら最初から払えよ。社会を舐めるなよ。謝って済む問題じゃないんだよ。とにかく親に連絡するから電話番号教えてよ」

「それは勘弁してください。親には言わないください!」

米子が泣き出しそうな声で言った。

「甘いんだよ! そんなの社会じゃ通用しないんだよ。お父さんかお母さんの携帯の番号でいいよ。君を引き取りに来てもらうから。教えないなら警察を呼ぶよ!」

片山が大きな声で言った。

「何でもしますから許してください。警察は呼ばないでください」

米子が言った。

「何でもって何?」

片山が興味深そう言った。

「だから何でもです」

「ふーん、そうかぁ。まあ、俺も鬼じゃないし、若い人の前途を閉ざすような事はしたくないんだよな。でも万引きだって立派犯罪だからね。捕まれば前科がつくよ。誠意を見せて欲しいね」

片山が優しい声で言った。

「誠意って、何をすればいいですか?」

米子が片山を見つめながら言った。

「そうだなあ、じゃあ、まずは服でも脱いでもらおうか。誠意と覚悟を見せてもらいたいね」

片山が落ち着いた声で言ったが目がギラついていた。

「脱ぐって?」

「着てるものを全部脱ぐんだよ、グズグズしてると警察呼ぶぞ」

「脱いだら許してくれるんですか?」

「まあ、許してやらないでも無い。しかし君、カワイイね。学校でモテるでしょ。俺も高校生の頃、こんなカワイイ子と付き合ってみたかったな。へへへ、グへへ」

片山は下品な顔をして笑った。

ドアが開いて女性の店員が顔を覗かせた。

「主任、洗剤の棚とペットフードの棚の前列の商品が無くなったんで品出ししてください」

女性店員が言った。

「後でやっとくよ! 今は万引き対応で忙しんだ」

「じゃあなるべく早めにお願いしますよ」

女子店員が言うとドアを閉めた。

 

 片山は立ち上がってドアまで歩くとドアノブの鍵とドアの下の防犯用の鍵を掛けた。

「これで邪魔は入らねえな。早く脱げよ」

片山が椅子に戻りながら言った。

「監禁罪と強制猥褻罪になりますよ」

米子が言った。

「偉そうな事言ってんじゃねえよ、この泥棒が! お前こそ犯罪だぞ、さっさとしろよ」

片山がスマートフォンを操作して撮影の準備をした。撮影した画像をネタにさらに脅しをかければもっと過激な要求ができると思い、ほくそ笑んだ。

「人を殺すのは犯罪じゃないんですか?」

米子が訊いた。

「何言ってるんだ?」

「9年前に人を殺してますよね?」

「何の話だ、お前ふざけてんのか?」

片山が驚いたような顔をして言った。

「私、沢村米子です。さっき生徒手帳見ましたよね? 苗字に覚えがありませんか?」

「えっ? 沢村?」

片山の顔が青くなった。

『バスッ!』 『ガキッ』

米子がブレザーの内側から素早くサイレンサーを装着したSIG―P365を抜き出すと発砲した。弾丸は片山の右耳を掠めて後ろのホワイトボードを貫き、液体洗剤の容器が入った段ボール箱に命中した。薬莢が床で跳ねて転がった。

「うわっ!」

片山が声を上げて驚愕した。右耳を銃弾で5mmほど抉られ、血が滲んでいた。右耳に感じた衝撃波とホワイトボードに当たった衝撃音から拳銃が本物であることは理解した。片山自身テロ行為で改造拳銃を何度か撃った事があるのだ。しかしなぜ女子高生が拳銃を所持しているのかは想像が追いつかなかった。段ボールから液体洗剤が滲み出して床に流れ始めた。

「私のお父さんを改造拳銃で撃ったのはあなたですね? 片山秀樹さん」

米子が落ち着いた声で言った。

「お前誰なんだ? お父さんって、まさか?」

「沢村栄一の娘です。あの時、押入れの中から見てました」

「えっ? えっ? 確か生き残った女の子が そんな、えっ? やめろ! あれは革命の為だったんだ!」

「革命の為に私の家族を殺したんですか? 革命はどうなったんですか? 万引きした女子高生を脅して服を脱がせる事が革命なんですか?」

「そもそも革命なんて無理なんだよ。俺はサークル感覚っていうか思い出作りでやってただけなんだ。悪いのは上のやつらだ。それに俺はもうあの組織からは抜けて今は真っ当に生きてるんだ。あれは上の命令に従っただけなんだ。そうだ、助けてくれたらあの時のリーダーの居場所を教えよう、俺はあいつの命令でやったんだ」

「野村雅史ですよね。知ってます。あなたを殺してから野村雅史も殺します」

「お前、いや、君は何者なんだ! 何で拳銃なんか持ってる!?」

「あなた達のせいでこうなりました。話すと長くなります」

「あの組織のせいだ。あの組織が悪いんだ! 何が真革派だ! 俺は利用されたんだ、許してくれ!」

片山が今にも泣きだしそうな声で言った。米子はこれ以上片山と話したくなかった。殺す価値も無い男だと思った。弾丸が勿体ないとすら感じた。長年待ち望んだ復習がこんなにも軽く、呆気無いものだとは思わなかった。その事に名状し難い寂しさと虚しさを感じた。この男を殺しても両親や弟は戻ってこないと思う反面、こんな下らない男に一番大切なものを奪われたというやるせなさが心に浸透していく。

目出し帽子を被った男達と父親が格闘する映像が頭の中に蘇った。父親は何度も刃物で刺された。それでも家族を守るために血まみれで戦った。そして発砲音・・・・・・あれから9年。

「頼む、見逃してくれ! 悪気は無かっ

『バス』 『バス』 『バス』 『バス』 『バス』

9mm弾が片山の顔に2発、胸に3発命中して血しぶきが飛び散った。片山は後ろにのけ反ると椅子から崩れ落ちた。米子は涙が滲んでぼやけた視界でそれを見ていた。


 米子はこっそりと事務所を出ると4Fのトラベル用品売り場で目を着けておいた150Lの特大スーツケースを購入した。

「鍵は袋に入れますか? それともすぐにお使いですか?」

レジの女性店員が言った。

「このまま使いたいんで鍵はそのままください」

米子が言った。

「旅行ですか? それとも部活の合宿? もしかして海外留学とか?」

店員は笑顔で言いながらスーツケースの鍵を米子の前のレジの上に置いた。

「ちょっと遠い所まで行くんです」

「いいですね、お気をつけて行って来てくださいね」

米子はスーツケースを引きながら再び事務所に戻った。事務所の中で訓練所で習った通りの必要な処理をした後、店員達に咎められる事なく『カムラヤ』を出る事ができた。外は暗くなっていた。


 米子は大きなスーツケースを引きながら晴海ふ頭を目指して、冷たい夜風の吹き抜ける隅田川に架る『築地大橋』の上を歩いていた。復讐を果たしても心が満たされることは無く、虚しさだけが心を支配して放心状態に近かった。米子は雪が降り始め事にも気付かずに歩き続けた。


 14:00、警視庁公安部部長室で阿南と柳瀬は応接テーブルを挟んで座っていた。

神崎は阿南から内線電話で呼ばれ、入室したばかりでドアの横に立っていた。

「沢村米子が動きました」

柳瀬が言った。

「詳しく報告しろ!」

阿南が身を乗り出して言った。

「3日前の12月13日、沢村米子が復讐対象である真革派の片山秀樹を暗殺したようです」

「ようですとはどういう事だ? 詳しく報告するんだ」

「はっ。我々は沢村米子の復讐対象である野村雅史と片山秀樹を監視していました。

12月13日、片山は勤務先の新橋のディスカウントストア『カムラヤ』に出社しましたが、帰宅しなかったようです。我々は翌日の12月14日の朝、組織犯罪対策本部の刑事に扮して、片山に違法薬物売買の容疑が掛かっているとしてカムラヤの店員に聞き込みを行いました。その結果、片山は前日の勤務中に行方が分からなくなったとの事でした。昨日の夕方、品川の第3台場の台場公園で男の射殺体の入ったスーツケースが発見されましたが、その死体が歯形によって片山のものと判明しました。スーツケースは運河に捨てられたものが流れ着いたようです」

「片山はどこで殺られたんだ?」

「職場だと思われます。店舗内の事務所です」

「職場だと?」

阿南が怪訝そうな顔して言った。

「片山は事務所で万引きした女子高生の聞き取りをしていたそうです。その女子高生が同店でスーツケースを購入したとういう目撃情報もあります。また、新橋駅近くと外堀通りの防犯カメラに同日19時頃に沢村米子らしき人物がスーツケースを引いて歩く姿が記録されています」

「万引きした女子高生が沢村米子ということか?」

「おそらく計画的犯行だと思います。わざと万引きをして片山に捕まったのでしょう。死体は肩の関節と膝関節が外されていたそうです。スーツケースに収めやすくしたのでしょう。アサシンならではの技術だと思われます。訓練所で習ったのでしょう」

「万引き犯に成りすまして罠を張ったのか。恐ろしい女だ」

阿南が漏らすように言った。


 「さすが、沢村米子ならではの作戦です。確実な暗殺方法だ」

神崎がドアの横に立ったままで得意気に言った。

「次はもう一人の復讐対象の野村を狙うでしょう」

柳瀬が言った。

「沢村米子の居場所はまだわからないのか?」

「すみません。まだ居場所は掴めていません。しかし沢村米子は確実に現れます。野村を徹底的に監視すれば暗殺現場に臨場する事ができます。監視チームと一緒に襲撃チームを待機させます。片山に付けていたメンバーも投入できます。完璧な罠を用意できます。沢村米子が現れたら四方からの一斉射撃で確実に抹殺します」

柳瀬が自信満々に言った。

「いよいよあの女を葬る時が来たようだな。まったく手間を掛けさせてくれたな」

阿南が言った。

「そうなるといいですね」

神崎は心にも無い事を言った。

「だが、一斉射撃はするな。野村の暗殺を成功させるんだ」

阿南が言った。

「どういう事でしょうか?」

柳瀬が驚いた顔で訊いた。

「野村の復讐を終えて喜びの絶頂にいるところを全員で飛び掛かって拘束するんだ。『ネットランチャー』と『テーザー銃』を使え。楽に死なせるな! 最高の苦しみの中で絶頂から奈落の底へ突き落すんだ。私に歯向かった事を後悔しながら死んでいくんだ。それがあの女にふさわしい」

阿南が説明した。ネットランチャーは捕獲用の網を撃ちだす装置で、テーザー銃は先端に針の付いたワイヤーを撃ち込んで強い電気を流して対象者を拘束する道具である。

「苦しみとはどのような手段を使えばよろしいのでしょうか?」

柳瀬が不安そうに言った。


 「公安で飼ってるエス(スパイ)の中に拷問や嬲り殺しが好きで堪らない変態が何人もいるだろ? そいつらを使え。沢村米子は美少女だ、変態にとっては最高の素材だろう。外から見えないように目隠しをした護送バスを使うんだ。死体は適当な理由を付けて献体として中野の東京警察病院に引き渡せ。神崎君には一番近い観賞用の特等席を用意しよう。君はあの女のファンのようだからな」

阿南が笑顔で言った。

「いえ、私は沢村米子の優秀さと強さを認めているだけで、別にファンではありません。沢村米子は邪魔な存在です」

神崎が務めて冷静に言った。阿南の徹底した汚さと底知れぬ恐ろしさに勝負の行方を危惧したが動揺を見せる訳にはいかなかった。しかし神崎は阿南が『悪手』を打ったとも思った。米子は詰将棋のように感情を捨てて最短距離で命を取りに来る。だが阿南は勝利を確信したのか『命の遣り取り』を遊びとして楽しみ始めている。それは慢心といえる。そこに米子の勝機があった。その勝機を米子に引き寄せてやれるのは自分だと思った。たとえ自分が殺されても、米子が拷問されて命を失う姿など見たくなかった。死神は死んだりしない。死神の振りをした天使。死神にならざる得なかった天使。それが米子なのだと思った。そして自分はその死神の守り神になるのだと・・・・・・

「そうか。まあいい。この件が片付けば君も公安1課の仕事に専念できるな」

阿南が言った。

「さっそく作戦を立てて拷問担当のエスを準備します。猟奇的な前科者も当たってみます」

柳瀬が言った。

「楽しみだ。当日は最高のワインでも用意するか」

阿南がうっとりとした表情で言った。


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