Chapter14 「米子の神業射撃」
Chapter14 「米子の神業射撃」
米子達5人で5番レーンと6番レーンの2つのレーンを使用していた。ターゲットは同心円のターゲットで、直系3cmの真ん中の点数が10点で、外に行くほど低くなる。一番外側は6点で外れは0点となる。
「いいか、試験は命中率だけじゃなくて動作も見られる。いかに安全に配慮してるかが重要だ。試験管がいいと言うまで銃に触るなよ。発砲するとき以外は常に銃口を下に向ける。わかったな」
木崎が言った。
「はい、気を付けます」
樹里亜が言った。
「よし、樹里亜、立射、膝射、伏射で5発ずつ撃ってみろ。それぞれ42点以上で合格点だ。試験に使用する銃はSIG-P220の9mmだからそれにも慣れるんだ」
木崎が説明した。
樹里亜がレーンに入ると肩幅に足を開いて立った。腰のホルスターにはSIGーP220が収められている。
「射撃準備」
木崎が言った。樹里亜がホルスターからSIG-P220を抜くと左足を僅かに前に出して腕を伸ばした。
「違う! 左足を前に出すんじゃなくて右足を後ろに引くんだ。たとえ20Cmでも勝手に前に出るな!」
木崎が注意した。樹里亜がホルスターに銃を戻すとやり直した。
「撃ち方用意」
木崎が指示を出す。
樹里亜が左手でスライドを引くと腕を伸ばしてターゲットに狙いを付けた。SIG-P220には安全装置が無いのでスライドを引けば撃発可能だ。
「射撃開始」
『パン』 『パン』 『パン』 『パン』 『パン』
樹里亜が5秒間隔で5発発砲した。レーンに硝煙の臭いが漂う。弾は15m先のターゲットの8点~9点に集中した。
「撃ったらすぐにデコッキングレバーを押してホルスターに仕舞え」
木崎が注意する。樹里亜が言われた通りにする。
「よし、いい腕だ。46点か、命中率は問題ない」
「最近は狙撃がメインだったのでちょっと不安でした」
樹里亜が言った。樹里亜はその後、木崎の注意を受けながら伏射と膝射を行った。
瑠美緯が銃を構える。
『パン パン パン パン パン』
瑠美緯が連射した。弾はターゲットの、真ん中の9点~10点に集中した。
「もっと間隔をあけろ。最低でも3秒あけるんだ!」
木崎が注意した。
「普段45口径を撃ってるから9mmは反動が軽くて連射しちゃうんです」
「試験は9mmだ。連射は試験官の印象を悪くするからゆっくり撃て。まあ47点だから命中率は問題ないな」
木崎が言った。
「実戦では連射で当てる方がいいんだけど、試験だと生意気だと思われるんだよね。変な話しだよ」
ミントが言った。
「しかし2人とも射撃が上手いな。さすが実戦経験が豊富なだけはあるな」
木崎が言った。
「なんで拳銃だけでアサルトライフルの試験は無いんですか? アサルトライフの方が自信あります」
瑠美緯が訊いた。
「工作員になるには拳銃で十分ということだ。アサルトライフルは応用という扱いだ。戦闘チームでは独自の評価基準があるみたいだが、工作員の試験では重要視されない。実際に潜入工作チームや暗殺チームではまず撃つことない。お前達が特別なんだ」
木崎が言った。その後瑠美緯も伏射と膝射で射撃を行った。
「命中率は高いぞ。安全のための作法さえ間違わなければ合格するだろう」
木崎が言った。
「命中率が高いのは米子先輩から指導を受けてるからですよ」
瑠美緯が言った。
「沢村さんの射撃に比べれば私達なんてまだまだですよ。狙撃では負けませんけど」
樹里亜が言った。
「米子、見本を見せてくれ」
木崎が言った。米子がブレザーの内側からSIG‐P226を抜き出すとレーンに立った。
「珍しく226だね」
ミントが言った。
「9mm弾で見本を見せようと思ったから226にしたんだよ。私の229は357SIG弾仕様だからね」
米子が言った。
米子は肩幅に足を開くと右足を靴のサイズ分後ろに引いた。両手でグリップを包み込むように持った。
「俺も226を使ってる。参考にさせてもらうぞ」
木崎が言った。
「10発撃ちます」
『パン』『パン』『パン』『パン』『パン』『パン』『パン』『パン』『パン』『パン』
素早い連射にSIG‐P226の銃身が10回跳ね上がり、薬莢が宙を舞う。弾は全てターゲットの真ん中の10点の位置を撃ち抜いた。
「おおーー、やっぱり米子はレベルが違うな。どうしたら当てられるか樹里亜と瑠美緯に分かり易く説明してやってくれ」
木崎が言った。
「樹里亜ちゃん、瑠美緯ちゃん、当てようと思ったらダメだよ。弾は当たる事になってるの。だからイメージしたところに弾を導けばいいだけ。的を狙うんじゃなくて弾の通り道をイメージするの。トリガーを引いて撃つんじゃなくて導くの。銃は手の延長だから存在を意識しなくていいの。何もしなくても指先から弾が出ていくのをイメージするの。自然に出ていくようにイメージするの。そうしたら当たるから。射撃は当たる事が決まってるのを確かめる作業だよ」
米子が言った。
「難しいっす。哲学みたいっすね」
瑠美緯が言った。
「言わんとする事は何となく分かるけど、米子くらい射撃を極めないと辿り着けない境地だよ」
ミントが言った。
「狙撃にも使えそうな奥義ですね」
樹里亜が言った。
「指先から弾が出るようにイメージすれば当たるのか? 随分簡単に言ってくれるな」
木崎が抗議するように言った。
「固定ターゲットに当てるのは簡単です。可動ターゲットならもう少し難易度が高くなりますが、私はイメージ射撃を併用していますから問題ありません」
米子が言った。
「じゃあイメージ射撃を見せてくれ。群馬で米子に習ったけどもう一度見たい」
木崎が言った。
「目を瞑った状態でターゲットに当てます。嘘じゃない事を証明したいので目隠しをしてください」
米子が言った。木崎がレーンに入ると米子の目を塞ぐようタオルを顔に巻きつけて目隠した後に頭全体を覆うように脱いだスーツの上着を被せた。
「タバコ臭いです」
米子が言った。
「これでインチキはできなぞ。撃ってみろ。5発だ」
木崎が操作パネルを操作してターゲットを新しいもの変えた。
米子がスーツの上着を頭に被された姿のまま腕をゆっくり伸ばしてSIG―P226を構えた。
『パン』 『パン』 『パン』 『パン』 『パン』
米子が3秒間隔で5発発砲した。弾は8~9点の間に集中した。
「おおっ、43点か! 凄いな。ターゲットに当てるだけでも至難の技なのにどうなってるんだ?」
木崎が驚きの声をあげる。
「ターゲット位置を空間的に記憶してイメージで撃つんです。エアガンでも練習できますよ」
米子が目隠しのタオルを外しながら言った。
「私もイメージ射撃できるけど、全部は当てられないな」
ミントが言った。
「お前達凄いな。俺も家で練習してみよう」
「エアガン貸しましょうか? マルイのP226とベレッタ92とハイキャパです。ウェスタンアームズのガバメント系もありますよ」
「大丈夫だ。この前CO2仕様のガバメントを買ったんだ。CO2はリコイルが違うぞ。外国製で高かったんだぞ」
木崎が自慢気に言った。
「射撃は銃の値段じゃないよ。技術だよ」
ミントが言った。
「米子先輩がランダムターゲットを撃つところも見たいっすね」
瑠美緯が言った。
「他のレーンが使ってなければランダムターゲットも使えるんだけどな」
木崎が言いながら他のレーンを見た。全12レーンの内、他に4レーンが使用中だった。
「平日の夕方だから人は少ない。30分くらい協力してもらえば出来そうだな。樹里亜と瑠美緯がお願いすれば協力してもらえるかもしれないぞ。現役JKに制服姿でお願いされたらたいていの男はOKするだろう。これも工作員の能力の訓練だ、色目を使ってお願いしてこい!」
木崎が言った。ランダムターゲットは人型のターゲットが1番レーンから10番レーンにランダムに出現する装置を使った訓練だ。1番から10番のレーンを空ける必要がある。
「樹里亜先輩、やりましょうよ。私は1番レーンと3番レーンの人にお願いしますから、樹里亜先輩は7番レーンと10番レーンの人に頼んで下さい」
1番レーンでパーカーにチノパンを身に着けた30代前半くらいの男が射撃訓練をしていた。銃はCZ75だった。
「あのー、すみませんがランダムターゲット使いたいんで、30分ほど射撃練習を止めてもらえますか? お願いします」
瑠美緯が頭を下げ男に頼み込んだ。
「ランダムターゲットか。いいよ。急いでないし。しかし君は若いな、それは学校の制服か?」
「はい。高校1年生です」
「ほーーお、内閣情報統括室にもこんな若い子がいるのか。高校生だって? 事務関係かな?」
「いえ、暗殺です」
「なるほど。とても暗殺者には見えないが、そこが狙いなんだろうな。いいよ、丁度休憩しようと思ってたところだ」
「ありがとうございます」
瑠美緯は同じ要領で3番レーンで訓練をしていた男にも中断を認めさせると5番レーンに戻った。
「木崎さん、1番レーンと3番レーンはOKっす」
「よくやった。じゃあフロントにランダムターゲットを使用できように頼んでくるぞ」
「7番レーンと10番レーンは樹里亜先輩お願いします」
瑠美緯が言うと樹里亜がしぶしぶ立ち上がった。
「やってみますけど、こういう苦手なんです。はあ~」
樹里亜が自信無さそうにいった。その声は悲しみを帯びていた。普段大人しい樹里亜には荷が重いのだ。
「樹里亜ちゃん、無理しなくていいよ」
米子が言った。
「樹里亜、無理するな、俺が悪かった。お前はこういうの苦手そうだもんな。俺が交渉してくるよ」
木崎が言った。
「樹里亜ちゃん、私がサポートするよ。何事も経験だよ」
ミントが言った。
「そうですね。やるだけやってみます。大事なのは思い切りですよね」
樹里亜が自分に言い聞かせるように言った。
5番レーンでは黒いスーツを着た体格のいい男が射撃練習をしていた。年齢は40代くらいだ。樹里亜とミントは男が射撃を中断してマガジンに弾を詰め始めたタイミングで近づいて声を掛けた。
「あの~、私達5番レーンで訓練してるんですけど~、ランダムターゲットを使いたいんで協力してもらえますかぁ~」
樹里亜が上目使いで甘い声を出した。
「誰だ君は? 制服って事は高校生か? こんなところで何をやってるの?」
男が訝しげに言った。
「私、これでも工作員なんですぅ~。高校生なんですぅ~。来週1級工作員の試験があるから射撃訓練してるんですぅ~。ランダムターゲット使いたいんでレーンを空けてもらえると嬉しいなぁ~。それとオジさま、スーツ姿がステキ❤ ドキドキしちゃう! タイプかも~」
樹里亜が目を潤ませて男を見つめながら言った。ミントは目を丸くして樹里亜を見ていた。
「ははは、いいよ。丁度休憩しようと思ってたんだ。1時間くらい使わないから遠慮なく
ランダムターゲットで練習をするといい。試験、頑張ってね」
男が鼻の下を伸ばしながら笑顔で言った。
「きゃあ! ラッキーですぅ~。ありがとうございま~す。今度文化祭に来てくださいよ、オジさま素敵だからサービスしちゃいますぅ~。ウチの学校、女子高なんですよ~。オジさま、握手してください」
樹里亜が手を差し出して言った。
「文化祭か、いいねえ。私は諜報課の村西だ。本部に勤務してるから遊びにくるといい。食事くらい奢ってあげるよ」
男が樹里亜と握手しながらさらに鼻の下を伸ばした。ミントはその様子をただただ呆れて見ていた。
「嬉し~い、西村さんですね。遊びに行きますぅ~。やさしいオジさまだ~い好き~!」
樹里亜は同じパターンを使って10番レーンの男にも射撃を止めさせた。
「樹里先輩どうでした?」
瑠美緯が訊いた。
「なんとかOKをもらいました。しんどかったです。話すのがやっとでした」
樹里亜が疲れた顔をして言った。
「しんどいって、ノリノリだったじゃん! 樹里亜ちゃんって肝が据わってるっていうか、思い切ったら凄いよね。底が知れないよ」
ミントが言った。
「これも訓練ですから」
樹里亜が言った。
「米子、レベル5にするぞ」
木崎がフロントで借りたタブレットを操作しながら言った。
2番レーンに人型ターゲットが出現したすぐ後に6番レーンにも人型ターゲットが出現した。
『パン』 『パン』
米子が立て続けに発砲すると2つの人型ターゲットの頭部に命中した。6番レーンと1番レーンにほぼ同時に人型ターゲットが出現し、右から横に高速移動する人型ターゲットも出現した。
『パン』『パン』 『パン』
米子が発砲すると3つの人型ターゲットの頭部に穴が空いた。電光掲示板に『PERFECT!』の文字が表示された。
「凄いなあ!」
「米子先輩凄~い! カッコいいっす! 憧れます!」
「やっぱり沢村さん凄いですね」
「さすが米子だね」
木崎達が声を上げる。
「あの娘、たいしたもんだなあ」
「正確なだけじゃなくて早いよ」
「どこの所属だ? 内情関係にもあんなに若い子がいるんだな」
射撃を中断して5番レーンの後ろで見ていた男達も驚きの声を上げる。
「レベル5じゃ簡単すぎます。最高レベルにしてください」
米子がマガジンに9mm弾を詰めながら言った。
「わかった。レベル10にする。発射弾数は10発だ。ターゲットも早くなるぞ」
木崎が言った。
「頭と胸を交互に撃ちます」
米子が言った。
レベル10はターゲットの出現が早いだけでなく、すぐに引っ込むようになっているので素早い射撃が求められる。また、横に移動するターゲットのスピードも時速50Kmになる。
『パン』『パン』 『パン』『パン』『パン』 『パン』『パン』『パン』 『パン』『パン』
米子はランダムに出現してすぐに引っ込むターゲットと高速で左右に移動するターゲット全てに命中させた。宣言通りに頭と胸を交互に撃ち抜いていた。電光掲示板には『Congratulations, a perfect score! Your skills are at advanced instructor l
Evel.』(おめでと、パーフェクトなスコアです あなたの腕前は上級教官クラスです)と表示された。
「西部劇のガンマンみたいだ。見世物にすれば金が取れそうだな」
「米子先輩凄すぎです。感動しました」
「沢村さんの射撃は凄すぎて参考になりません!」
「米子と撃ち合うのだけは避けたいよ」
木崎達が感嘆の声を漏らす。
「もはや曲芸の域だな」
「この子、射撃の腕は内情で一番じゃないのか?」
「レベル10でパーフェクトなんて見た事ないぞ、凄いなんてもんじゃないよ」
後ろで見ていた男達も驚きを通り越して感動していた。
「銃は唯一、命を確実に守ってくれるアイテムです」
米子が言った。
「米子にとって銃は最高のパートナーっていうか彼氏みたいな存在だね」
「人間の彼氏は出来た事ないけど、銃は最高に頼りになる彼氏だよ、アサシンでいるうちはね」
米子が笑顔で言った。その笑顔は少し悲しみを帯びていた。




