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Chapter1 「闇桜」

第5部の米子は熱い男達の支援を受けて戦います。公安(闇桜)VS公安(闇夜のカラス)&内閣情報統括室。男達の戦いあり。いよいよ大詰めのJKアサシン米子。復讐の行方は? 感想などを頂けると嬉しく思います。投稿は【毎週 火曜日&金曜日の夜】を予定しています!

Chapter1 「闇桜」


 新宿の高層ビル群の底に晩秋の強く冷たい風が吹いていた。男は西新宿の議事堂通りを走って逃げていた。右前に窓にまばらに明かりがついた東京都庁が見える。立体交差の通りの下は新宿西口から真っ直ぐ伸びる副都心12号線だ。黒いスーツ姿の男が逃げる男を追いかけている。その男の顔には赤い狐のお面が着けられていた。逆方向からも同じ格好の男が現れ、逃げる男に向かってくる。逃げる男は挟まれた。黒いスーツの男2人は手にはサイレンサーの付いたグロック17を持っている。

「ユーは何者? 公安ですか?」

追われている男が訊いたが黒いスーツの男達は無言だった。

「撃っても無駄で~す。ミーは弾丸を避ける事ができま~す、アニメ見て習得しました。リコリコで~す」

逃げていた男が反復横跳びをするように左右に動いた。

『バス』

『バス』

「うわっ! 痛てっ!! うそ~ん」

サイレンサーで押さえられた銃声が陸橋の上に低く響いた。弾丸が男の右肩と左の脇腹に命中した。

「なにあれ?」

「ドラマの撮影かな?」

「でもカメラとかないよ。スタッフとかもいないし」

たまたま陸橋を歩いていた若いカップルが足を止めた。

『バス バス バス』

『バス バス バス バス』

赤い狐のお面を着けた男達がカップルに向かって発砲した。カップルは一言も発する事無くその場に崩れ落ちた。追われていた男は慌てて道路脇の柵に足を掛けた。副都心12号線との高低差は7メートル以上あった。

「アイ キャン フライ!!!」

男の声が夜の高層ビル群の底に響いた。

『ドサッ  ドゴッ!!  キキィーーーーーー』

男はアスファルトに叩きつけられて時速50Kmで走っていたタクシーに轢かれた。タクシーのブレーキ音が夜の街に響いた。

「どうする?」

「死んだだろ、撤収だ」

議事堂通りから見下ろしていた赤い狐のお面を着けた男2人が言った。飛び降りた男が動かない事を確認すると2人は左右に別れて足早に夜の街に消えて行った。


 轢いた運転手が運転席から飛び出して来て倒れた男の横にしゃがんだ。運転手は50代前半で頭が禿げ上がっていた。轢かれた男は俯せで口から血を流している。

「あんた大丈夫か?」

運転手が倒れた男に声を掛ける。他のタクシーが2台停まって運転手が降りてくる。

「やっちまったな。救急車を呼ぶぞ」

降りて来た角刈りの運転手が言った。

「この男が陸橋の上から落ちて来たんだ!」

禿げた運転手が訴えるように言った。

「そいつは運が悪かったな。後続車が来ると危険だから三角表示板置いて来るぞ」

降りて来たもう一人の白髪の運転手が言って歩き出した。

「あーー、もう少しで提灯(個人タクシーの資格)だったのに、なんてこった」

禿げた運転手が嘆くように言った。


【警視庁本部庁舎公安本部長室】

「沢村米子の行方はまだわからんのか!?」

阿南が会議室のテーブルを叩いて言った。米子がゼニゲーバ商務長官の暗殺に失敗して失踪したら2週間が過ぎていた。

「すみません、全力で探しています。内閣情報統括室も居所を掴めていないと思います」

神崎が言った。神崎は米子と会ったことを報告しなかった。尋問された失態を隠すためではなく、心のどこかで米子に逃げ切って欲しいと思ったからだ。なぜそのような気持ちになったのか神崎自身もよく分からなかったが、何故か米子に賭けたくなったのだ。

「ゼニゲーバ長官の暗殺未遂の詳細が内閣に知られたら不味い事になる。それに赤い狐には暗殺に失敗した実行犯の女は既に消した事にしている。とにかくあの女には生きていてもらっては困るのだ」

阿南が焦りを覗かせる口調で言った。

「その点は大丈夫です。真革派に雇われた薬物中毒の女がレセプション会場で発砲したことになっています。ご存じのように、その女の死体は豊洲運河に投げ込みました」

「身代わりの女は誰だ?」

「須藤亜美という19歳のキャバクラ嬢です。背格好は沢村米子に似ています。ホストクラブに借金があって、薬物にも手を出していました。部長の指示通りに暗殺計画が始まった時点でリスク回避の為に確保していたのです。マスコミの発表もその女がレセプション会場で発砲した犯人という事になっています。暗殺に失敗した口封じに真革派の『赤い連隊』が殺したという筋書きです。身代わりを用意しておく考えは実に有効でした。さすが部長です」

「もし沢村米子が本当の事を口外したらやっかいだ。早く見つけて始末するんだ。赤い狐に疑いを持たれる前にやるんだ」

「はっ、見つけ次第確保して、死体の残らない方法で処分します」

「しかし沢村米子が失敗するとは予想外だったな。内閣情報統括室の仲間が護衛任務で阻止するとは想定外だった。沢村米子は私の顔に泥を塗った。おかげで赤い狐の私に対する評価が下がりそうだ。死んだ事になっているが、本当に殺すんだ。懸賞金の件は進んでいるのか?」

「はい、そちらの方は万全です。最近はどこの暴力団もジリ貧です。2億円の懸賞金は魅力的でしょう。2億円は機密費から捻出します。それと内閣情報統括室が護衛任務についていたのはまったくの偶然です。ゼニゲーバは運がいい男です」

「クズ共に金を払うのは癪だが仕方あるまい。これで沢村米子も終わりだな」

阿南は焦っていた。米子の失敗と逃走は計算外だったのだ。また、失敗した米子の事を口封じに殺害したとの嘘を赤い狐に報告していたのだ。

「しかし、沢村米子は懸賞金目当てのヤクザや半グレに殺られるほど間抜けではありません」

神崎が言った。

「ほう、あの女を持ち上げるのか。いつからあの女のシンパになったんだ? 君の評価では『ただの小娘』じゃなかったのか? 神崎君、君はもうこの件からは外れていい。公安1課の仕事をしっかりやってくれ」

阿南が不愉快そうに言った。

「違います。沢村米子の戦闘力は侮れないと言っているのです。暗殺に失敗したのは内情に妨害されたからです。逃走中にSP4人を撃ち殺しました。4人とも頭を撃ち抜かれていたようです。内情の訓練は我々の想像を遥かに超える凄まじいものです。あのむすめはその訓練で殺戮マシンに育てられました」

「訓練は受けていても所詮は18歳の女子高生だ。我々の敵ではない。君は関わらなくていい」

「私は用済みという事ですか? ゼニゲーバの暗殺に失敗からですか?」

神崎が低い声で言った。

「君はよくやってくれた。だが、調査や段取りは得意なようだが決定力が足りない。所詮は公安刑事だ。餅は餅屋だ。私はもっと実行力のある駒が欲しいのだ」

「実行力ですか?」

神崎が訊いた。神崎の心は怒りより失望の方が強かった。阿南はついていける上司では無いと思った。

「壊滅した『夜桜』に変わって新しい実働部隊を構築した。『闇桜』といったところだな。沢村米子の件はその闇桜に任せようと思う」

「闇桜・・・ですか?」

「そうだ。今度の実行部隊は公安だけではなく、SATにいた者や警備部のSP経験者を何名も入れた実行力のある戦闘部隊だ。それに懸賞金目当ての裏社会の奴らも沢村米子を狙っている。あの女ももう終わりだ。それと沢村米子の仲間で私の事を探ったバカがいたようだが、昨夜、闇桜が血祭りにあげてやった。闇桜のデビュー戦だ」

「部長、沢村米子を舐めない方がいいですよ」

神崎は米子に負けて欲しく無いと思った。米子なら阿南に勝てるのではないかとさえ思った。仄かな期待でもあった。


 「あの女が消えるのも時間の問題だが駒としては申し分なかった。実に惜しい。だが生きていてもらっては困るのだ。もし今回の失敗が無ければもっと使えたはずだ。福山や東郷を葬る事もできたかもしれん。榊もだ」

「えっ!? 榊って榊翁さかきおうですか!? それは、まさか、そんな事まで・・・・・・」

神崎は狼狽し、背筋が冷たくなった。

「赤い狐はいずれ日本を完全に支配する。その前にこの国の中枢を大掃除する必要がある。それが私の役目だ。君にも協力してもらうかもしれん」

「あの、私にそこまでの覚悟は・・・・・・」

神崎は阿南に恐怖を感じた。阿南は恐ろしい暴走を始めている。それは許されない種類のものだった。そしてそれを止める手立てが思いつかなかった。

「神崎君、ご苦労だった。君は噂ほど優秀な男ではなかったが公安1課課長としての席は残してある。君には似合いの場所だ」

神崎は席を立つと一礼してドアを開けて退出した。廊下に出るとちょうど入れ違いで1人の男が本部長室に入って行った。男の顔に見覚えがあった。警備部の柳瀬警視正だった。


 神崎は沢村米子の件から外された。それは阿南のラインから外されたと同じだった。これ以上の出世は望めないだろう。しかし神崎はどこかでホッとしていた。阿南にこれ以上関りたくないと思ったのだ。そこには恐怖感とは別に、警察官としての矜持があった。それは思い出し、取り戻どそうとしている矜持だった。


 月曜日の夕方、木崎、ミント、樹里亜、瑠美緯が西新宿の事務所の会議室に集まっていた。

「ジョージが車に轢かれた。新宿センター病院に収容されて重体だ。轢かれる前に陸橋から落ちたみたいだ」

木崎が報告した。

「えっ? 山ちゃんが? どういう事?」

ミントが驚いて言った。

「肩と脇腹に弾を喰らっていた。陸橋の上では若いカップルの射殺死体も放置されていた。ジョージとカップルを撃った弾は9mmだ」

「撃たれた後に落とされたの?」

「飛び降りたんだろう。陸橋の柵に靴の跡があったようだ」

「きっと追い詰められたんだね。やった奴は誰!? 報復したいよ! 山ちゃんだってかけがえのない仲間だよ!」

ミントが叫ぶように言った。

「犯人の居場所が分かったら教えて下さい。狙撃します。山本さんの仇は取ります」

樹里亜が冷静に言った。

「私がそいつの部屋に侵入して殺ってもいいっすよ」

瑠美緯が言った。みんな仲間が殺されかけた事が許せなかった。米子の事でも気が立っていた。

「詳しい事は分かっていない。だがジョージと射殺されたカップルの体内あった弾頭の数と現場に残された薬莢の数が一致した。撃った弾を全部命中させた事からプロだと思われる。薬莢の位置から、カップルまで10m以上はあったらしい」

「撃たれたカップルは巻き添えですかね?」

樹里亜が言った。

「そうだろうな。カップルはバイト先の仲間みたいだ。バイト帰りに巻き込まれたのだろう。狙われたのはジョージだ」

「山ちゃんが狙われた理由は何なの?」

「今朝、ジョージのパソコンの履歴を見たが、公安のデータベースにハッキングを行ってアクセスしていたようだ」

「公安?」

「警視庁公安部のトップの情報を探っていたようだ。それも米子の依頼によるものだ」

「米子の?」

「これを見ろ。ジョージのスマートフォンにあったメールだ」

木崎がメールの内容が印刷されたA4用紙をミントに渡した。


『沢村です。急なお願いで申し訳ありませんが調べて欲しい事があります。警視庁公安部の『阿南』という男の事を調べて下さい。山本さんだけが頼りです。今度食事行きましょう。夜景の綺麗な所で山本さんと素敵な時間を過ごしたいです❤ 米子』


「山ちゃんは米子のファンだからこんなメール貰ったらイチコロだね。でも阿南って誰?」

「警視庁公安部の部長だ。公安のトップだ。夜桜を作った男でもある」

「じゃあ『新しい力』の側の人間だね」

「そうだ。かつては敵だったが、今は公安と内閣情報統括室は対レッドフォックスで共闘関係にある」

「なんで米子は公安のトップの情報を探ろうと思ったんだろう? アメリカの商務長官の暗殺未遂と関係あるのかな?」

「やはり米子から真相を聞くしかないだろうな」

木崎が言った。

「私、米子に会ってみるよ。どこにいるか分からないし電話も繋がらないけど、メールを打つよ。米子の家のポストにも手紙を入れみるよ。たまには帰ってるかもしれないよ。この前も荷物を取りに来てたよね」

ミントが言った。

「そうしてくれ。ジョージのパソコンに阿南を調査した結果のファイルがあったからメモリーに保存した。もし米子に会えたら渡してくれ。それと米子の部屋から押収した拳銃も渡してくれ。組織が貸与した銃は返せないが、米子個人で所有してた銃は返そうと思う。組織所有のセーフハウスも押さえたからそのカギも渡してくれ。セーフハウスの場所は後でメールを送る」

「うち組織は米子を許したの?」

「東山管理官から米子を支援するようにという通達があった。我々の組織も本格的にレッドフォックスと戦う事を決断したようだ。場合によってはこっちから攻撃を掛ける。そんな状況だから米子の存在が戦力として重要視されたようだ。米子のこれまでの経験と実績が評価されたんだ。東山管理官は理解のある人だ。米子の支援のためなら武器使用も構わんとの事だ」

木崎が言った。

「よかったよ。これで遠慮なく米子を支援できるよ。今の米子には武器が沢山必要だよね。何とか連絡を取ってみるよ。セーフハウスなら安全かもね」

「米子先輩に連絡が取れたら教えて下さい。私も米子先輩の手助けがしたいです、米子先輩は憧れなんです。米子先輩の支援、ありよりのありっすよ」

瑠美緯が言った。

「私にも教えて下さい。懸賞金目当てで沢村さんに近づく人間は全部狙撃で排除します」

樹里亜が言った。

「瑠美緯ちゃんと樹里亜ちゃんが心配してる事は伝えるよ。みんなで米子を守らないとね。上のお墨付きがあるのは有難いよ」

「私達は沢村さんがいたから生き残れてたんです」

樹里亜が言った。

「そうですよ。米子先輩がいなかったら暴力団や半グレやテロリストに勝てなかったです。米子先輩あざまる水産って感じっすよ」

瑠美緯が言った。

「だよねー、またみんなで旅行に行きたいね。ゴンちゃんの別荘、楽しかったよね」

「伊勢海老と松坂牛と海が最高でした。また食べたいです~」

樹里亜が遠い目をして言った。

「私、米子先輩と同じ布団で寝ました。凄く癒されて、チルかったす」

瑠美緯が嬉しそうに言った。

「私達は家族がいないけど、4人は家族みたいなもんだよ。最高の仲間なんだよ」

「当たり前じゃないですか。命を預け合う仲間です」

「そうですよ。その辺の女子高生の友情なんて私達に比べたら友情ごっこっすよ」

「だよねー、私達は戦友みたいなもんだからねえ」

ミントが言った。

「それな、ホントっすよ」

「瑠美緯ちゃん無理してギャル言葉使ってない?」

ミントが突っ込みを入れた。

「学校の友達がギャル系なんすよ。私の話し方が体育会ぽいって言われたんでギャル語を習得中っす」

「なんか混ざってて変だよ」


 米子はカンナの部屋に匿ってもらうのを止めて自分の部屋に戻る事にした。内閣情報統括室は事態を静観し、赤い狐もゼニゲーバ商務長官の暗殺に失敗したアサシンは阿南に消されたと思っているという情報を得たからだった。自分を狙って来るのは阿南の手下と懸賞金目当ての裏社会の人間だと考えた。逃げ回るよりも姿を現して襲って来る相手を返り討ちにしようと思ったのだ。米子も住んでいるマンションはセキュリティが万全であった。学校の中まで刺客が来るとも思えなかった。外出時に警戒を厳とすればなんとかなると思った。もう後には引けないのだ。


 米子は荷物を持って笹塚のマンションに移動した。移動途中は常に周りを警戒し、尾行されないようにタクシーを3回変えて大回りをした。指紋認証機能のついたマンションの裏口から1度マンションに入ると表玄関から外に出て郵便受けを確認した。宅配ピザなどのチラシの中にピンク色封筒を見つけた。封筒の表には何も書かれていなかったが裏面にはサインペンで『ニコニコ企画』とだけ書かれていた。米子は表玄関の暗証番号入力と網膜認証装置をクリアしてエレベーターに乗り、3階で降りると部屋に入った。勉強机の前の椅子に座ると便箋を取り出して読んだ。


 『米子、とにかく連絡して。内閣情報統括室は米子の味方になったから安心していいよ。私達は米子を助けたい。 ミント』

米子は嬉しかった。ミントがわざわざマンションまで手紙を持ってきてくれたのだ。米子自分のスマートフォンでミントにメールを打った。

『明日の夜8時に新宿南口のカラオケ『ビックポコー新宿南口2号店』で会おう』


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