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後日譚5 発熱したお姉さまのお見舞いに行く話3

 それから、20分ほど経ったころだろうか。

「こらアカリ。お前が寝てどうすんだよ。そろそろ帰らないと家にもムラサキにも怒られるぞ」

 やや小声のニノマエが、居眠りかけていた星の肘をつついた。

「はっ! 私寝てませんわよ! ちゃんと帰りますし!」

 反射的にそう言って、星は紫の顔を再び窺った。

 呼吸の様子から、どうやら彼女は本当に眠っているようだが、先ほどよりも汗をかいていて、表情も険しい。

 また熱が上がっているようだ。

「……冷却シートだけ貼らせてもらっても大丈夫かしら。このまま帰るのは忍びないですわ」

 星は水に濡らしたタオルを固く絞り、そっと紫の額を拭う。

 ドラッグストアで購入してきた冷却シートを1枚めくり、前髪をよけて額に乗せた。

 すると、紫の瞳がうっすらと開く。が、完全な覚醒ではないのか、どこか焦点の合っていない瞳だった。

「ごめんなさい、起こしてしまいましたね」

 おそらく寝ぼけているのだろう。星のその言葉にも紫は「ん」と頷き、身じろぎしただけだった。

(カワーーーーーーーーー)

 まるで幼子のようなその動作に、星の母性本能が爆発、思わず抱きしめそうになったが、そこはぐっとこらえ、ずれた掛け布団を掛けなおす。

「おやすみなさい、お姉さま」

 星は定時通話でお馴染みの、いつもの挨拶をしてから立ち上がろうとした。

 すると。

「……帰る?」

 依然ぼうっとした瞳のまま、紫が星を見上げ、心細げにそう問いかける。

「かっぅ、…………帰らないですわーーーー!!」

「帰れよ!」

 ニノマエがすかさず星のこめかみにドロップキックをお見舞いした。

 一般の女子ならそのまま転倒、もしくは勢いで横の壁に激突するところだったが、体幹が強い星はなんとか転倒せず持ちこたえた。

「おっ、乙女の横っ面を全力で蹴るとかどういう神経してますの!」

「これぐらいしなきゃお前マジで帰らねえだろ! 門限までに絶っ対帰れよ!」

 珍しくニノマエが本気で怒っていた。おそらく彼なりに、紫が積み上げてきたものを壊さないよう気を使っているのだろう。それは星にもわかる。

「…………わかっていますわよ」

 星はしぶしぶ膝を曲げて、紫をあやすように語りかける。

「大丈夫ですわ。明日また来ますね。今度こそ、おやすみなさい」

 すると紫は小さくうなずき、おやすみ、と言った。そして最後にぽつりとこう呟く。

「あいしてる」

 と。


 ……。…………。

 やはり昨夜の電話でも聞き間違いではなかったのだ。

 今日は、きちんと返そう。

 そう決めて、星は胸に手を置き、一つ深呼吸をする。

 愛しています。私も、ずっと貴女を愛しています。

「私も、愛していますわ」

 再び眠りに落ちた恋人の夢に届くように、星は気持ちを込めてそう囁いた。

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