後日譚4 休日にお家デートをする話2
お昼ご飯は卵とじうどんを作って3人で食べた。もっと手の込んだものを作ってもよかったんだけど、星はうどんが食べたい気分だったみたい。
「15年前お姉さまに作っていただいたおうどんが、今でも無性に懐かしくなるときがあって」
星はうどんを完食したのち、満足げに箸を置いた。
「こいつお嬢様のくせにうどん屋には頻繁に行くんだぜ。セルフうどんも学校帰りに週一ぐらいで通って天ぷらむぐ」
星が笑顔のままニノマエの口をふさぐ。
「うどん、好きなんだね」
「間違いなくお姉さまのおうどんの影響ですわ」
そう言ってもらえると嬉しいけど、今日のうどんも冷凍うどんなんだけどね。
「じゃあ香川県とかもよく行くの?」
「いえ、恥ずかしながら本場の讃岐うどんはまだ食べたことがなくて……」
「実は私も四国はまだ行ったことないんだ。いつか行こうか、旅行」
「! 本当ですか!」
星はぱっと目を輝かせた。
「いつ参ります⁉ 夏休み⁉」
「星が大学生になってからかな」
私がそう言うと、星はみるみるしおれるようにうなだれた。
「かなり先すぎませんかお姉さま~……」
それは、期待させてしまって申し訳ないことをした。
でも、15年待った身としては、まだ3年は我慢できるかな。
「四国だと日帰りは難しいでしょう? 泊りがけは、流石に高校生の間はちょっと、ね」
「! お泊り……!」
星の瞳が再び輝きだす。
「ついでに高知で美味しいカツオのたたきも食べたいし」
「私も食べたいです! 愛媛の今治焼豚玉子丼もついでに食べたいですわ! ぜひ、いえ絶対、マストで、お泊りで行きましょう!」
良かった。星の機嫌も直ったみたい。
「あの、でもお姉さま。大学生になるのはちょっと先過ぎるので、できれば私が大学受験に合格して、高校を卒業するあたりでは駄目です……?」
そう来たか。でも、まあ
「そうだね。卒業式の後なら」
それなら私が決めたけじめの範囲内、かな。
「わーい! 約束ですよ! 絶対ですよ!」
両手を挙げて喜ぶ星も本当に可愛い。
うん。可愛い。
「しかしお前らさっきから食い物の話しかしてねえじゃねえか。四国に失礼だぞ」
ニノマエ、実は四国の生まれなのかな。
「これから3年かけて四国の名所について熟知しますから大丈夫ですわよ!」
「お前はその前にちゃんと勉学に励んで大学入試に合格するんだぞ。居眠りで補習とかしてる場合じゃ」
「アアアアア! それはお姉さまには秘密って私言いましたわよねええええ⁉」
もしかして金曜日のことかな。補習で帰りが遅くなったのか。なるほど。
「お姉さま! 私普段からそんな居眠りをしているわけではないんですのよ⁉ たまたま、そう、たまたま睡眠不足で、」
「お前との連続通話記録が他の女のせいで途切れたのが悔しくて眠れなかったんだと」
「んニノマエエエエエエエエエエ!」
星は恥ずかしいのかニノマエを掴んで真っ赤になって叫んでるけど、私はむしろ、ちょっと嬉しかった。
そっか。……そっかぁ。
「星も妬いてくれてたんだ、猪口さんに」
星はニノマエの首を絞めるのをやめ、ぱたぱたと掌で火照った頬をあおいだ。
「も、もちろんですわ。私、お姉さまの一番でなくては気がすみませんもの」
その言葉に、私はより嬉しくなってしまう。
今は触れられなくても、伝わるだろうか。
「私の一番は、ずっと前から星だけだよ」