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後日譚4 休日にお家デートをする話1

 私には歳の離れた恋人がいる。

 5回前の世でも、妹のような存在であり、その時からずっと、ずっと大切な人だ。

 こうして生まれ変わってもまためぐり合えたことに感謝しているし、私を死の運命から救ってくれた星自身の努力にも本当に頭が上がらない。

 なのでこの際、この17年という歳の差のことは、本当はあまり気にしたくはないのだけど、気になるものは気になる。


 それこそひと昔前ならともかく、令和の今、この日本という法治国家において、三十路を過ぎたいい大人が15歳の高校1年生と付き合うというのは、法律スレスレ、下手をするとアウト。

 自意識過剰かもしれないけれど、ふたりで外を歩くときは、腕を組むとかはもちろん、手をつなぐことも避けている。

 いや、女性同士ならむしろ腕を組んで歩くぐらいは友達同士でもする、という風潮も勿論理解しているけれど、そういうことではない。

 これは私自身が決めたけじめなのだ。


 それでも、水族館などのデートスポットに行くと、つい周りのカップルの様子を窺ってしまう。人目を気にせず手をつないだり、寄り添って歩いている彼ら彼女らを、少し羨ましく思ってしまう自分がいる。


 今日星がデート先に家を指定してきたのは、そんな私の内心を慮ってくれてのことだとしたら、それはそれで恥ずかしいというか、申し訳ないのだけど。

 でも、家に来てくれるのはとても嬉しいし楽しみだった。


 午前10時、電車でやってくる星を駅まで迎えにいく。

「お姉さま! お待たせしてすみません!」

「ううん、全然待ってないよ」

 今日の星もとても可愛い。

 上品なサロペットスカートもよく似合っている。

「私服、いつも素敵だね。今日はちょっと大人っぽいコーデ」

「きょ、恐縮ですわッ! お姉さまも、今日は前髪をおろされているの、とても素敵です」

「ありがとう」

 仕事の日は基本、社交的に見えるように前髪を上げているんだけど、下ろしたほうが若く見えるって猪口さんに昨日言われたから、今日は下ろしたんだよね。

「行こうか」

「はい!」


 私の家は駅から徒歩5分の1DKマンションの8階。

 1DKにしては家賃が少し高めなんだけど、駅近で徒歩圏内にスーパーもあり、特に不自由は感じないので就職してからずっとここに住んでいる。

「お邪魔します!」

「狭い部屋でごめんね。どうぞ」

 私は早速星をダイニングキッチンに案内する。

「お姉さま、これつまらないものですが」

 星が手に提げていた紙袋から四角い箱を取り出し、渡してくれた。

 軽く箱の中を覗くと、色とりどりのフルーツが乗った、タルトが見えた。

「わ、これキルフェボンのタルト? 気を使わせてごめんね。あとで一緒に食べよう」

「はい」

 とりあえずタルトを冷蔵庫にしまおうとしたとき、私は気が付いた。

 …………冷たい飲み物、買ってなかったな。

 この夏も目前の季節に、冷たい飲み物は必須だろう。

 そもそも温かい飲み物もコーヒーと紅茶しかないし、星は甘い飲み物のほうが好みだろうからスティックシュガーもあったほうがよかったかもしれない。

 映画でも見られるようにと思って動画配信サービスの入会は済ませていたのに、肝心の飲み物を忘れるなんて我ながら爪が甘い。

「ごめん星、飲み物用意するの忘れてた。すぐ買ってくるから待ってて」

「え、でしたら私も一緒に」

「ううん、スーパーすぐ近くだから、待ってて」

 私は上着も羽織らず財布と携帯だけ持って外に出た。


 休日でレジが混んでいたので、15分程度のつもりが戻ってくるまでに30分ほどかかってしまった。

「ごめん星、おまたせ……?」

 慌てて帰ってきたら、星はなぜかダイニングの隣の部屋で、上半身のみベッドにダイブするような形で眠っていた。その傍にいるニノマエが、やれやれといったふうに頭をかいている。

「悪いムラサキ。こいつ昨日、今日が楽しみであんまり寝れてなかったんだ。そもそもその前から寝不足だったしな」

 え、可愛いな。小学生みたい。そんなに楽しみにしてくれてたんだ。

 私は思わず笑みをこぼし、彼女の寝顔に見入ってしまう。


 星はとても幸せそうな顔で眠っている。

 長いまつげ、柔らかそうな頬、そして、……

 ああ、だめだな。ちょっと無防備がすぎるかも。

 私は彼女から視線を逸らした。


「ニノマエ、星を起こす前にお茶を淹れようと思うんだけど君はなにがいい?」

「俺はブラックでいいぜ。ていうかお前、飲み物買いすぎじゃね? どんだけ提げてきたんだよ」

 普段ペットボトル飲料をあまり買わないものだから、どれが正解なのか分からず沢山買ってしまっただけなのだけど。

 そうこうしていたら星がむくりと身体を起こした。

「はッ⁉ お姉さま⁉ おかえりなさい!」

「ふふ、ただいま」

 駄目だ、笑いがこらえきれなかった。

 寝起きでもすぐ『お姉さま、おかえりなさい』と言ってくれる彼女がとても可愛らしかったものだから。

「⁉ 私もしかして居眠ってました⁉」

「滅茶苦茶寝てたぞ」

「GYAAAAAAAAAAAA恥ずか4苦夜露」

「可愛かったから大丈夫だよ」

「全然大丈夫じゃないですわあああああああああああ⁉」

 大丈夫じゃなかったのはむしろこっちなんだけどね、とも言えず、私は星に飲み物を勧めた。

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