事件簿その1~課金カード詐欺未遂事件~
オフ会は楽しかった。
友達も出来たし。
……いや、全くいない訳じゃないから、ただみんな恥ずかしがりで画面から出てこないだけだから。
それはともかく。
地雷ちゃん。
いや、しとらすちゃんと連絡先を交換し、その後駅に向かって歩き出した。
その時である。
「そういえばさ、この間の都内のイベントあったじゃん」
「あったねぇ」
「あそこで松陰先生と晋助さまのアクスタあったよねぇ」
「そうだねぇ」
「しとらすちゃんはね。それ持ってる人居たら欲しいなって思ってるんだけど」
交換、ではなくて欲しいとだけ言った時に警戒すべきだったのかもしれない。
だけど私は気にせず言ってしまった。
「ああ、それ持ってるよ」
「マジで!」
「うん。三個まで限定だから多めに買ってきちゃった。欲しい人いるんじゃないかと思って」
「ナイス! ここに居るんだよね~」
「えっと、じゃあ………流石に今持ってないから、住所とか教えてもらってもいい?」
「え? 送ってくれるの? いいよー!」
「じゃあ送料とかもあるから、代金は送った後でいいよ」
その日はそう言って別れた。
そして私は数日のうちに荷造りをし、その日から一日に何度も何度も連絡が来るラインにメッセージを送った。彼女が一方的に松陰先生についての魅力を語ったレスに最低限の返信をし、私は用件を伝えた。
「えっと。送料込みで○○だけど。お金ないって言ってたから送料分値引きして端数も切って△△ね。前にも言った様に届いたらでいいから! 詐欺とかあるし」
本当は、友達になった印にタダであげるよ。
と言いたかったんだけど恥ずかしかったからやめた。
だってそんなこと言ったら友達なんて居ないみたいじゃん。
……聞こえない。
何言ってても聞こえないから!
用件を伝えたところ。すぐに返信が来る。
「ところでお金のことなんだけど……」
「まあ無いってんならそれでいいよ。待てるし」
「そうじゃないの。知り合いから貰った課金カードがあるんだけど……これでもいいかなって」
そう。私たちの共通の趣味である歴史偉人ゲーム。
H”ERO。そこで使える課金カードだ。
余談だけどファンの間でのこのゲームの呼称はH,ero(えっち、えろ)なんだけど。
元々の原作がエロゲだからってこれは無いんじゃないかなって常々思ってて……。
え? 本題? お前の話なんかどうでもいい?
……まあそうだね。
私はどうでもよかったからこう答えた。
「別にそれでもいいけど」
「ホント? じゃあ品物届いたら番号送るね~」
「うん」
本当はさ。何で必要な額ぴったりのカードをなんでちょうどよく友人からもらってるの?
って疑問に思うべきだったのかもしれない。
けど私はそんなこともあるんだなとしか思わなかった。
***
それから数日後
「グッズありがと! 届いたから送るね~」
その言葉と共にコードが送られてきた。
すぐに使う予定も無かったけど、とりあえずチャージだけしておくかと番号を入力していく。
その結果は……
「あれ? おかしいな……使えない?」
そんなことないはず。
私が番号を間違えたのかな?
そう思って何度も何度も入力する。
だけど結果は変わらなかった。
やられた。
「……こういう場合って大抵もうすでに通じないってオチなんだけど……まあ一応連絡してみるか」
私はそう思いつつも、律儀に相手に連絡した。
課金カードの使用失敗のスクショも添えて。
「今この状態なんだけど? どういうことか説明してもらえる?」
返事はないだろう。
このままブロックされるだろう。
そう思っていたが予想に反して返信が来た。
「ちょっと待って……え?……嘘……なんで!」
返信のメッセージを見ている限りだと、相手は慌てている様子だった。
あの時は普通に心配していたのだけど。
これも本当は演技だったのかもしれない。
そう思ってしまう自分が悔しいなって思う。
「まず、お金ないことは知ってるから。支払いはどうするかは後で話そう。どうしてこうなったのか教えて?」
「え、待って待って待って」
相手とは会話にならなかった。
そのまましばらく何度も何度も同じことを聞きながらちょっとずつ事態を前進させていった。
「とりあえず聞きたいんだけど……そのカードくれた知り合いってしとらすちゃんを虐める人だったりしない? 前にも嫌がらせされたりしなかった?」
「……それは無いと思う」
今後付き合ううちに分かったのだけど。
この子は何かあると他人に責任転嫁して「自分は悪くない!」って言い出すんだ。
向こうの連絡が遅れた時に理由を聞いたら事故にあったって嘘つかれたときも「昔事故にあった時のことを正直に話しただけだから、嘘じゃないもん」って言い出すぐらいには当たり前に嘘と責任逃ればかりする。
だからこの時に全然知り合いを責めようとしなかったから。多分知り合いに貰ったっていうのも嘘なんじゃないかなと今は思っている。
だってカードが使えなくても「知り合いがやった」って言えば責任逃れできちゃうからね。
後々彼女の正体も分かるんだけど……もしもこの時。しとらすちゃんにとって気に食わない行動を私がしてたら……知り合いから騙された事にしてたんじゃないかな?
この時は彼女の「お気に召した」から払ってもらえたんだと思う。
さて、何度も何度も話を聞いていると。やっと何が起こったのか白状した。
「登録してた?……え?」
つまり、使用済みのカードの番号を私に渡したってことだ。
「本当に使えるのかわからなくて……普段は課金カード買わないから」
「それを先に言ってよ~使い方ぐらい教えるのにさ~」
私はホッとしていた。この時はその言い訳を素直に信じていたから。
「次からは『正直』に言ってね」
今お金無いのは知ってるから、次渡す時に気をつけてもらえばいいか。
そう思いつつ、話がつき、日常に戻ろうとした。
そんな私を待っていたのは……次の災難だったのだ。