人が居なくなった世界の僕
本小説をお読みいただきありがとうございます。
皆様の退屈しのぎなれば幸いです。
★この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・妖怪への解釈などにはいっさい関係ありません
遠い昔とある屋敷の中で、美しく着物を着飾った少女と猫が戯れている、紐を追いかけ回し取ろうとする猫に少女は軽やかに笑いかけ愉しげに見つめた
「愛いわね、鈴丸は」
茶と白の毛をした猫の頭を撫でれば、猫は遊びに飽きたのか喉を鳴らしながら少女に近付き寝転んで身を丸めた
「眠とうなったか、ゆっくりおやすみ」
体を撫でられながら、鈴を転がすような声色の言葉にゆっくりと視界が閉じられたあと、数秒経ちそれは目を見開いた。
「随分懐かしい夢を見た。遠出したから少し休憩と思ったのに寝てたか」
身を震わせ欠伸をすると歩き出す
かつて人々が住んで支配していたこの世界は、その文明の行く末に滅んだ。
だからといって何か変わった訳では無かった。ひとつの種が滅んでも新たな種が支配するだけ
その中でも僕はあまり強くは無いが_______
この世界の覇者は今や妖怪に変わったのだ。
かつて人が信じ、畏れ、そして忘却の彼方へと追いやった僕ら妖怪は今は街に出て、商売をし、食べ、争い、生活している。
人が創り出し理にかなったものは残し、不要は捨て去った世界が眼前に広がっている。
「ここが街か」
犬とも猫とも取れない見た目をした者が、古今東西、和洋折衷が入り乱れた造りの街を歩きながら呟く。
「あらヤダ〜すねこすりじゃない」
「可愛い〜きっとお登りね」
「お、小型動物か?」
「やめてやれって、アイツも一応妖怪だぜ?パッと見間違えるが」
街中で移動する妖怪たちのなかから、遠巻きに彼を眺めながら話す声が聞こえる。それは珍しさとからかいの様な色を含んでいて思わず、俯く。
(確かに、小さいけれど....!!!こっちは身を立てるために街に来たんだ!夢はでっかく大妖怪!!!一族みんな応援してくれてるし)
『頑張ってーお兄ちゃん〜 鈴丸兄気をつけねー』
暖かく送り出してくれた弟分達や一族を思い出して、顔を上げて歩みを進める
「先ずは組合に行って名前を登録して、手形を取らないと」
小さい歩幅で街の中心地に向かった
「あら、見ない顔がいるわね」
組合内の女百目鬼のが窓を見て語り
「すねこすり....備前の出身かしら?組長どうする?」
背後にいる妖怪に尋ねれば
「珍しいね、迎えて」
と呟いた
組合もとい、[屋号組合]の建物前に鈴丸が着けば、中に入ろうとする直前で轟音と共に爆風が巻き上がり
「わっ!!!?;;」
その勢いに足が離れ飛ばされそうになると誰かがキャッチしをした
「大丈夫か!?」
眩い程の赤髪赤目の片輪車が覗き込めば、少し笑いかけ
「ありがとう」
彼が礼を彼女に尽くせば、彼女はゆっくりと地上に下ろされれば
「気をつけてな」
と言葉を残して素早く轟音の中に移動していった、その姿にあたりの妖怪達はにわかに沸き立つ
「廻り組だ!!!」
「喧嘩だ!!!喧嘩だ!!!」
「廻り組が来たわよ!!!」
「もう安心だ!!!!」
周囲の歓喜の声にハッとして、先程の女の服装を思い出し改めて鈴丸が粉塵と轟音が響く先を見れば、その目を輝かせた
「!!!!アレが廻り組」
そう、彼が目標とする大妖怪の登竜門とされるのが廻り組という名の武装鎮圧部隊であった
妖界には必須であり花形とも言え、全妖怪の憧れの役職である。
「いい加減にしろってんだ!!!!頭のお膝元でこれ以上舐め腐った真似は許さねぇ!!」
河童が暴れる高入道や猫南瓜を力技で殴り飛ばし辺りは砂塵が舞う
「キャー!!!!澪也さん!!!」
ニコニコしながら女妖怪達黄色い歓声をあげる、華やかな顔立ちをした河童は余裕があるようでパフォーマンスをしながら高入道雲を腕力でひねり潰した後、ウォーターカッターの容量で真っ二つにし
「火火!!」
澪也が片輪車の女が空中をかけあと火を吹き炙り倒すとゆっくり着地した
「皆ーもう安心していいよ建物は修復にたけたヤツをまたよぶからな!!」
火火の笑顔とその一言でまた日時の日々に戻って行く面々と廻り組の2名は、倒した妖怪を引きずって街市場の大きな建物に向かおうとする。
そここそが、この地域を治める大妖怪こと頭という役職の居城そのものなのだ
「!」
望外の感動をしていた、鈴丸だがある声で我に返った
「お客さん、うちに入ろうとしてなかった?」
目の前には、女の百目鬼が優しく笑いかけしゃがんでいた。
「はい、すねこすりの鈴丸と言います。登録して手形を頂きたくて」
「そう、ようこそ西派閥の屋号組合へご案内しまーす」
鈴丸を小動物かのように抱きかかえれば、女の百目鬼は鼻歌交じりで組合内部に入っていった
机の上に彼を下ろすと、一覧表を差し出して尋ねる。
「それで、すねこすりの鈴丸君はどんな手形が欲しいの?暮らすだけか、商売したいのか、それ以上か?」
松竹梅の内容を表が載っており、それぞれの手形で求める権利が異なっている
-松(仮手形)-
働きかつ、頭の手下となり立身出世の片道切符の手形。出世次第だが領内外に出ることも可能、自由度が高い。有事は主戦力となる
-竹(仮手形)-
頭の庇護下に置かれて何かを作ったり商売したい妖怪が持つ手形、許可が降りた場合に領外に出入り可能。有事は頭の要請があれば協力しなければいけない
-梅(仮手形)-
頭の庇護下に置かれ穏やかに暮らしたい妖怪たちが持つ手形、領内は自由に行動が可能だが領外には基本的には出られない。有事の際も戦闘はしなくて良い
と書かれていて
「手形は仮がすぐ支給されるけれど皆審査期間はあるし松に関しては、かつ試験に受からないと正式手形は貰えないけど、どうする?」
彼女が語れば、鈴丸は意を決して
「松で!!!」
と大声で返した、同時に屋号組合の内部がしんと静まりかえる先程まで説明していた女の百々目鬼でさえポカンとして、身体中にある目で鈴丸を見つめた
「驚いた〜挑戦的なのね?貴方」
周りに居た他の客たちは鈴丸に苦笑いしながら
「ホントか小僧?」
「いやぁ、流石にその体じゃな」
あまりにも小さく、先程吹き飛ばされたのをこの妖怪達も見ていたのかもしれない、そう考えればやはり説得力が足りない為何とも言えない空気となる
「ちょっとそんな言い方よしなさいよ、せっかくうちに来てくれた新入りなのに」
「嫌だってよー...」
百目鬼に注意され、気まずそうに話せば、その影隠れてから睨んでいる妖怪がいて
「くそっ!!!くそっ!!!あんなに早く廻り組が来なきゃもっと上手くやれたのに!!!!」
先程の事件に参加していた一妖怪らしくはぎしりをしていて
『こうなったら弱そうな奴らなら誰でもいい!!!ヤケクソだ!!!!』
屋号組合の妖怪たちに、襲いかかり
「キャア!!」
「!!!!白容裔か」
「さっきの仲間か!!!!」
白い布のような、小さい龍のような妖怪が現れ、その体からは粘度の高い悪臭を放つ液体が滴り落ちていて
「テメェらみんな道連れだ!!!せめてお前らの頭のメンツを潰してやるぜ!!!!!」
口から同じ液体を大量に放てば、次々とあたりの妖怪を取り込んだ百目鬼はその中で身を捩らせながら、顔を顰める。
『クソッ!!!しくった!!こんな奴に後手に回るなんて!!』
彼女があらん限りの力を使おうとする前に次々と妖怪たちが体液から分離され
「!!?」
驚いていると守るように鈴丸が立ちはだかり全身の毛を逆立てている。
「すねこすり君...」
呆気にとられる妖怪たちの姿や言葉にようやく、白容裔はその姿をその目に捉えた。
「すねこすりィ....?そんな弱っちい奴が俺の粘液を切っただと?そんなわけねぇ、お仲間は何処にいるんだ?」
すねこすりを頭数に入れていない白溶裔は他に協力者がいると思い
「まぁ、すんなりは出て来るわきゃねーか...ならお前からだなッ!!!!」
辺りが腐臭漂う液体ばかりになれば、それを操り襲いかかるも次の瞬間素早く身をこなし攻撃を交わしていき
「!!;;;」
困惑しているうちに鈴丸が白容裔の身体に触れるとその動きが緩慢になり身体が痛む、と同時に大きいの白溶裔の目前に鈴丸が揚力で造り出した巨大な牙が現れ開かれ
「忘れてるのか?すねこすりはお前らみたいな妖怪には相性がいいんだ」
その言葉に百目鬼がハッとする
「雨の日、液体、恐怖、夜に身を晒すと力が強化されるそれがすねこすりの特性」
逃れる事もままならない白容裔は、そのまま妖力で造られた巨大なトラバサミの様な牙に首を噛みちぎられ
無惨に頭部が崩れ落ちだ同時に粘液や異臭は軽減することとなる
『いや、それにしたってこんなすねこすりの技見た事ねーぞ』
泣き別れた胴を眺めながら白容裔は内心そう感じた
「ありがとな!!!すねこすりの坊!!!助かったぜ!!!」
「あなた強いのね、本当に感謝してるわ」
「さっきは軽んじてしまって済まなかったな!」
沸き立つように助けられた妖怪の面々がそう語り、鈴丸は揉みくちゃにされる彼は照れたようにも誇らしい様にも見える顔で
「いえ、そんな皆さん大丈夫ですか?お怪我とか...と言うか近いです、匂いもあるし撫で回さないで」
言葉を返していたが、百目鬼が転がった白容裔の頭部を印が刻まれた袋に入れれば
「コイツまだ生きてるわよせっかくだから屋敷に言って報告もするといいわ」
「へ?」
白容裔は目を丸くしふくろのなかで我に返る
「次いでに皆で掃除しちゃいましょう」
液体と異臭を取り除く為その場にいたもの達でフロアと被害者の体も洗えば
「改めてはい、松札」
「すげーな頑張れよ、応援してんぞ!」
ガハハと笑いほかの妖怪達は小さい鈴丸をバシバシ励ました。
「妖怪の世界の理はただ1つ、実力こそが全て。どうぞ松の仮手形よ、結果が出たらもう一度組合に来てね。試験後の手続きがあるから」
百目鬼が松の仮手形を首にかけながら、笑いかける
「ありがとうございます。」
署名に拇印すれば頭を下げ、背中に白溶裔の入った袋も背負い、みんなに見送られながら屋号組合を後にし居城に向かった。