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202 本気度

  お通夜状態で暫く滞空していた俺らの乗るヘリは、十分後、螺旋軌道で廃村に降下していく。はぁ、もう消えたい。

 制圧が完全に終わったみたいだ。


 ローターが全て停止してから降りる貝塚と壺頭、とその上のロリ。

 ロリが振り返った。


「行くで」


 俺らも?


 廃村の中心辺りの、枯れた雑草だらけ運動場跡に、バッテリーが外された機動装甲とサナモトたちが、舞原の兵に囲まれていた。

 詰めていた寄合衆はヘリの音を聞いただけで一目散に離散したらしい。


 付近でヘリから降ろされたであろう、舞原の手下たちの装甲車とクレーン車も続々と村に入ってきている。


 腕を飛ばされたのはサナモトの部下で、二の腕から先が装甲に挟まって取り出せなかったらしく、グラインダーで腕ごと切り離して、空気血栓防ぐ処置だけしてからヘリの薬品保管用チルド室にブッこむと小耳に挟んだ。怪我した方は、舞原の部下たちに担架に載せられたまま手当を受けていた。

 引きちぎって逃げようとしたらしく、手下のもう一人もサナモトもそいつの血で真っ赤になっていた。


 金持たちと一緒にヘリから降りて、近づいていく。

 俺らの武装解除されてないんだよなあ。

 何をどうするつもりだろう。

 貝塚もロリの横で何も言わない。


 部下の前に力なく立ったサナモトは無言で舞原を見ている。


「よう手を出さずに我慢したの。良い的がなっから飛んでたんべ」


 あざ笑う声だが、舞原の顔は全く笑っていなかった。

 重厚なファージガードが幾重にもサナモトを取り囲み、電磁波妨害も張り巡らせている。


「貝塚グループに干渉する許可は貰っておりません」


 痛みに悶え押し殺した声で呻く部下を、気にしないようにしてるが、微妙に視線が揺れている。

 こいつ、こんなに部下を大切にする奴だったのか?

 鷲宮三男の為に使い捨ててた気がするけど。


 まぁでも、ヘリ部隊に一発でも発砲したら、こいつらは今頃反撃で消し炭になっていただろうし。いくら高性能でも短期作戦しか出来ない強化装甲如きで逃げ切るのは不可能だ。

 さっき乗った時にチラ見してしまったが、貝塚が引き連れてきたのは、まだ市場に出回っていない電子兵装ガン積みの亜音速ヘリだ。囲んでる黒ずくめも俺が空母とか銀行で会った奴らより装備が一ランク高い。

 こいつらは貝塚の虎の子だ。

 それだけ今回の本気度が窺える。


 何で態々、敵地のど真ん中に着陸したんだろう?

 こいつらの最期見る為だけに、ここに来た訳じゃなさそうだな。


「ご老公に発砲したの。許嫁殿から沙汰を申し渡すんじゃが、何ぞあるかいの?」


 ご老公?許嫁って、俺じゃないよな?

 沙汰とか聞いてないんだが。

 貝塚は単語のいくつかに反応し、興味深そうに見守っている。


 サナモトは俺の足元を睨み、震える声で深呼吸した。


「スフィアを解析し、ビーコンだけ置いて本社へ行く予定でした」


 そういう感じか。

 俺らが来たのが予想以上に早かったって事だな。

 炭田のスフィアたちがゴミになるところだった。


「ここの地下には橋本重工の核兵器実験場があっての。」


 ロリの一言にサナモトは顎に力を入れて首を垂れる。


 あっぶねぇ!

 ノコノコ攻め入ってたらヤバかったな。

 金持の全身の筋肉が一瞬硬直した。知らなかったろ。心臓に悪い。

 直下で爆破されたら放射線出なくとも衝撃で全員破裂してた。


「スフィアネットワークの成功は前例を作ってしまいました。橋本重工としては寝耳に水です」


 俺の後ろの金持は微動だにしない。


「炭田が実際に何を成したのか、わっしとお主以外には正確にバレとらん」


「公主はこの国を壊すおつもりか!」


 金持を見た後、舞原は首を振った。


「頭が固いの。壊すも何も。たかが兵器運用の一端。ただファージを使わんというだけだ。わっしはどこぞの半島やら大陸みたいに、目先の利益にそそのかされて同じ民族同士で潰し合って滅ぶつもりは毛頭無い。恨みは墓までしか持って行けんぞ」


 尚も噛みつこうとするサナモトにそれまで黙っていた貝塚が口を挟んだ。


「時間稼ぎならよし給え。ここではもう血は流れないよ」


 多重音声全開で語りかけると、サナモトが息を呑むのが聞こえた。


「初めましてだね。貝塚だ」


 やっぱ怖ぇ。


「存じて・・・おります」


「キミの所の本社とは話しがついた。先ほど、本州連の公正取引委員会から許可も出た。株の五十五パーセントを取得したよ。鷲宮と上杉の方々には役員を降りてもらった。ああ。三男君は在留かな?」


 橋本重工は都市圏の貨幣価値換算で時価総額二十兆円近くする。そんな軽々しくインスタントで買える会社じゃないと思う。


「都市圏が・・・?今朝方の会議では何も」


 本社と連絡取ったのか。これはスフィアネットワークの事は漏れたクサいな。


「元々、炭田を買うつもりで来たのだがね。思わぬ出費になった」


 その一言に金持がゆらりと圧を高める。

 のじゃロリ。商売上手過ぎんだろ。ほぼ十倍だ。

 貝塚に外貨準備してた手元資金使わせて、自分が炭田を購入し易くする腹積もりだろうか。

 思わずのじゃロリをチラ見してしまった。

 表情は惚けているが、目だけキラッキラしてる。ああ、なんて清々しい笑顔。


「公主は・・・、始めからこうするつもりだったのですか」


「いんや」


 足を組み直し、笑顔を噛み殺す為か、壺頭に肘を載せ、閉じた扇子を口元に寄せた。


「主らもわっしが手に入れるつもりじゃった。送電網の安全と引き換えに話を持ってく算段。許嫁殿にミンチになってもらう訳にはいかんで。急遽、話のついでに打診したら、二つ返事での」


 金の暴力にがっくり肩を落とすイケオジが少し可哀そうだ。


 つまり、さっきの数分間で話しをつけたのか。

 ゴリ押しが過ぎる。

 口約束だけで、今書類通してるんかな。

 だから珍しく多重音声なのかも。

 別の用事で会ってたのか。何の話のついでだったんだろう?


 あれ?


 てか、皆の前でロリにしっかり恩を売られたぞ?

 貝塚も、許嫁って聞いて表情動かしてないから、経緯は聞いてるのか?

 どこまで何を聞いている?

 ヘリの中でもおいそれと話しかけられなかったからな。


 舞原に電話口でサナモトと”もしもし”してもらって、スフィアを回収するだけのつもりだったのに。


 貝塚が動いたって事は、ハシモト重工は鋼鉄より価値が高いモノかなり持ってるんだろうな。

 重工自体、炭田の大口取引先だし。

 鋼鉄を手に入れる分には大差ないとか思ってそう。


「私らどもの進退は如何する」


 ロリが振り返った。


「聞かれとるぞ?」


 俺?どうしろと。


「そんな権限は無い」


 確かにミンチにされかけたが、公衆の面前で無抵抗の奴を私刑するほどサイコでは無い。


「ヤマダ君。君は既に、合弁会社九十九物流改め、九十九カンパニーの副代表だよ。橋本重工の社外取締役も承認された」


 九十九物流自体がペーパーカンパニーなんだが。

 神社作る時に話半分で口に出した会社だ。

 そもそも、都市圏の審査通らないだろ。


「書面を渡しておこう」


 以前貝塚と作った古い接続から送られてきたのは、つい二十秒前に出来たばかりの公的文書だった。

 身分詐称通知済みになった山田太郎の名前で、身元引受人のつつみちゃんの直筆サイン付きだ。

 これは酷い。


 投げよう。


「処分は据え置き。一連の流れを顛末書で報告してくれ。人事は代表に一任する」


 そもそも、この九十九カンパニー代表誰なんだ?

 何だ山田花子って。俺の姉妹かよ。

 テキトー過ぎんだろ。


「山田。受け取れ」


 ロリが顎を上げると、装甲車周辺にいたカタフラクトの一人が小走りで・・・スフィアの残骸を持ってきやがった!


 貴公、むき出しで渡すと申すか。


 貝塚に見られたぞ。くっそ、ワザとだな。


「ではこれで失礼。散った寄合衆はわっしの方が片すで」


 ご機嫌な舞原は仕事は終ったと言わんばかりに、貝塚にそう言って、壺頭の肩に乗ったまま上品に会釈すると、クレーン車に積み終った機動装甲を引き連れ、お気にの装甲車に乗って去ってしまった。


「ヤマダ君。お連れの方たちも。送っていこう」


 にこやかに目を細める貝塚。


 そそくさとヘリに乗り込む他人事の帽子と赤鬼。

 俺はカンガルー二匹に挟まれ、吐き気が止まらない。


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