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184 レストア

  俺よりチビッ子のトマスがえっちらおっちら一人でシーツを取り払うのを全員で和やかに見つめる。

 中から出てくるのは当然、俺のアトムスーツだ。


 ん?んん?!


「これは・・・。データ持ってたのか」


「持っとらんぞ?」


 知っている筈の無い地下の規格で交換してある部品もある。

 メットは、何度も変更したから原型を留めてなかったが、完全に初期型が再現されている。これは、設計データ持ってないと出来ない。

 地下で殺し屋が改良する前に見た仕様にかなり近く感じる。


「元の状態を再現出来たはずじゃ。手を加えて欲しい部分が有ればうちのメカニックに言えば対応するで。費用は全額こっち持ち。ゲノムデータ経過観察で十分じゃ」


「交流があるのか」


「無いぞ?」


 まぁ、有るとは言えないよな。大問題だ。


「教えても良いが、只ではの」


 そこは金取るのかよ。


「これ以上何を毟り取るつもりだ」


「人聞き悪いのぅ」


 勿体つけて茶を何度か啜った後、悪い顔になった。


「まぁ、ええじゃろ」


 高くつきそうだが、是非知っておきたいな。


「わっしら御三家の初代は、元々地下から来た」


 爆弾発言が多いな。このロリは。

 こいつらが下から出てきたのは何時だ?

 くっそ、今ネット繋げないからな。

 色々確かめたい事が増えた。

 五大氏族とかの内の三家なのか?

 話はルルルや浜尻から聞いた事だけだから、すり合わせは慎重にしたい。

 思わぬ一言からルルルの情報が漏れるのは困る。


「歩いて来たんでアトムスーツも勿論持っとる。地下の物品も全てアカシックレコードでコード管理されとるのは知っとったかの?」


 考えなくは無かったが、見付けようがなかった。

 砂漠の中で蟻の群れ探す方がまだ簡単だからな。

 見つけた事を地下に知られたら供給がストップする可能性も大だ。


「列記とした使用用途が有れば、手順は言えんが許可の取り方はある。許可取った後は、地下の汎用ブラウザを使って秒で検索が済む。型番だけ調べて設計図閲覧と材質一覧を確認した」


 そんな事出来るのかよ。


「ブラックボックスは開くと違法だから流石に開けんが、基板の仕様くらいなら何の問題も無い」


「技術流出したらどうなるんだ?」


「勿論。わっしらの配給ラインは止まるじゃろうな」


 やっぱり。

 そこまでリスク負って直すほどのモノか?

 俺としちゃ有難いけど。


「おのこにとって大切な物なんじゃろ?」


 錆や劣化につながらない表面の傷はあえてメッキし直してあるだけだ。

 その一つ一つを丁寧に見つめる舞原の目は、傷の出来た歴史も見えているのだろうか?


「何度も命を救われたのは確かだ」


 嬉しそうに笑うと、満足げに茶を飲み干し、お代わりに新しい茶葉を入れさせている。

 まだ飲めそうだが、贅沢な奴だ。

 大宮では新茶が百グラム五万円ちょいした。


「何人で来た?」


「下からか?二人だ。移動は二日くらいだったかな?」


 のじゃロリはギョッとして立ち上がりそうになり、びっくりして飛び上ったチビッ子がお茶っ葉を少しこぼしてしまい、チラチラとロリの顔色を窺っている。

 行儀悪いが、テーブルにこぼれた茶葉を摘まんで自分の口に放り込んだ。

 やっぱ美味いお茶だ。乾燥してるのに、噛むと瑞々しい香りが広がる。


 座り直したロリは、俺の意を汲んだみたいで、あえてトマスに何も言わず話を続けた。


「初めから?もう一人も生きて出てきたんか?」


「そうだな。一緒に落ちた。殺しても死なない奴だ」


「ロボットか」


「人間だよ。・・・たぶん。改造もネット接続くらいでほとんどしてないんじゃないか?」


 メンテナンストンネルに巣食ってた奴らから情報来てないのか?

 都市圏のナチュラリストとは交流無いとか言ってた気もするな。


「てぇ~・・・。時代は変わったの」


 地下から来たのなら、アトムスーツの有用性もいやほど分かっているのだろう。


「コンタクト取るなよ?キレて俺が殺される」


「わぁっとるわ。空気読むわい。・・・初代たちは二個分隊二十四人で、半月かかって地上に出てこれたのは、三人だけじゃった」


 それは・・・。八甲田山よりはマシだが、きっついな。


「国府博物館に当時のままスーツも資料も保管されとる」


 都市圏には全く伝わってない情報だ。

 伝わったらそれはそれで大ニュースになりそうだ。

 こういう情報も含めて、人力でカットしまくってるんだろう。


「何の為に出てきたんだ?」


「ん。当時はビオトープもまだ試運転状態じゃったからの。軌道に乗るまで地上の人類を存続させる必要があった」


 それは、愕然とする話だな。


「そう。おのこの思った通り。何の因果か。低コストで持続可能なコミュニティを広めようとしたわっしらの初代は、問答無用でナチュラリストとしてテロ認定された。当時の都市圏群の発展に逆行する考えだったからの。テロリスト達がやって来て、わっしらの名を使ってテロ行為を始めるのに一年もかからなかったらしいの」


 それが本当なら、いや。もう遅い。

 金持たちはどうにかしようとしてるが、この事情は知ってるのか?


「当初の教義は捻じ曲げられ、いまでは見る影も無いが、人類の存続を真剣に考えるという点で、わっしらと地下は同じ方向を向いておる。それは今でも変わらん」


 地下で、係長が言葉を濁していたのは、この辺りの事情も関係するのだろう。


「地下の計画は把握してるのか?」


「大まかな年表はな。ビオトープが完成してからは、流通以外の情報交換はほぼ断っとるから細かい変更は知らんの」


 裏技使ったりできるけど、リスクもあるし、基本都市圏と同じで流通だけの関係か。

 俺の知ってる範囲内で年表を伝えるのも有りだが、悪用されたら都市圏が困るしなあ。


「政府とか、都市圏群に対してどう思ってるんだ?」


「都市圏というより、ファージ経済思想全般じゃな。無駄な資源利用は控えて欲しいとは思っとるの」


 まぁ、そうなるよな。

 来るべき宇宙進出に備えて、何百年もかけて全人類で準備していかなければ、文明を維持できるだけの資源が足りなくて次の氷河期で確実に滅びる。


「金持たちにどうして支援したんだ?」


 思想が真逆じゃないのか?


「ん。わっしらが内側から声高に唱えても、誰も本気にせんからの。それに、屑の一掃は小気味よいわ」


 やっぱ、都市圏はこいつらとは争うべきじゃない。

 マッチポンプで不干渉なのか?

 歴史の軋轢もあるしなあ。

 仲が悪いままでも良いのだろうけど、資源浪費は頭が痛いな。

 こっちの人喰い文化はほんと、どうにかなんねぇのか?

 そだ、それで思い出した。


「あの映像は何だ?」


 マヤの儀式より質が悪そうだった。

 そもそも、あれはいつの映像なんだ?

 ルルルは両親が亡命したんじゃないのか?

 整合性が取れない。


「あれは鎮めの祭りじゃ。ほれ、あの来る時見た利根の源流よ。あそこで毎年やっとる」


 毎年臓物バラ撒いてんの?!


「あの回は、失敗しての。当主が貧乏くじ引いた感じじゃ」


「どういう事だ?」


「あの湖上には、非コヒーレントポイントが有る」


 なんか、聞いたことがあるぞ?


「消失は無理じゃが、拡大を防ぐ為に、毎年晩冬に精密調査と調整が行われる。もう百五十年以上続くかの?」


「百五十三回に御座います」


 ボクが頑張ってる。


「おうおう。そうじゃったの。トマスは聡いの」


 ロリに頭を撫でられて俺をチラッと見た後モジモジしてる執事服君、この絵面はどうなんだ?


「元々、御当主の元婚約者は、適齢を大幅に過ぎているのに無理に行ったイニシエーション化の所為で拒絶反応が出た直後じゃったからの。おのこ程では無いが接続の得意な奴じゃった、慢心してメディカルチェックを断ってそのまま溶けてしもうての」


 そうは見えなかったが。

 なら、あのルルルの有様は何だったんだ?


「納得いかん顔じゃの。わっしらにも家同士とは別に、家系内でも企業同士でも争いがあるんじゃ。立ち回りが考えられん奴はそれ相応の報いを受ける」


 家督争いとかに負けたのか。

 俺はどっちにどうするつもりも無い。

 別の事を聞こう。


「イニシエーションについて聞いていいのか?」


 周囲の空気が張りつめたのが分かる。


「それは、横山殿はこちらに骨を埋めると捉えて良いんかの?」


 声にキレが増す。

 今聞いてた内容だけでも、かなり譲歩してくれたグレーラインだろう。

 あっちに戻れるかどうかは兎も角、俺はまだ安地を決めかねている。


「聞かなかった事にしてくれ」


「色々特典付くんじゃがのぅ?」


 猫なで声でチラチラすんなよ。

 俺が特典に絆されてホイホイ会員登録して情報抜きとられて損するリテラシーの低い古代人に見えたなら心外だわ。


「宗教勧誘は他所でやってくれ」


 DNA抜かれた時点で、偉そうなことは言えないけどな。

 都市圏より固く契約を守るってのを信じるしかない。


「当主の婿でもあるからの。これだけは言っとくで」


 何だ?違うけど。


「許嫁はスリーパーじゃった。イニシエーションに失敗して我々と共有できんかった。原因を調べる間も無く遺伝子崩壊してしもうた」


 何がどうして、そうなったんだ!?


「因果じゃの。罪な女じゃ」


 いやだから、そこは違うんだって。


「あの胸で皆やられてしまうんかのう?」


 自分の胸元へ寂しそうに視線を落とし、小さく溜息をついている。


「人の魅力は外見だけでは無い」


「ふん」


 鼻で笑われた。

 ワザとらしく周りの美男美女を見回した後、俺をねめつける。


「おのこが言うと説得力あるの」


 余計なお世話だ。





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