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181 舞原大本営

 くそ。負けた。


 これは悔しい。


 ああ、でも生きてる。

 これ仮想空間じゃないよな?


 「はあ」


 久々に悔しい負け方だ。

 相手の土俵でボロクソに料理されてしまった。

 俺がこんな気持ちをまだ持っていたのだと再確認する。

 敵地みたいなものなのに。

 殺されたならまだ良いけど、脳缶にされてたら詰む。

 クソムーブに改めてゾッとする。

 完全に一本下駄の所為だけど。仕込みも色々あったし、もっとやり様はあった。


 目が覚めた場所は泊まっていた部屋だったので、一安心。

 念入りに調べたがウィルスも洗脳も不気味なほど汚染が無く、単純に治療だけされていた。俺の知らない技術で何かされたのだろうか?

 厄介な折れ方していた脇腹も治っている。

 結構時間経ったのかな?

 ログ表示したら半日経ってて、夜中の二時だった。中途半端な時間に起きてしまった。補修材使ってくれたっぽいな。

 違和感も痒みも治った後も全く無いからかなり金かけたなコレは。


 起き上がったら古典的な動体レーザー感知で発報されて早くも二回目の自己嫌悪。

 自分が置かれてる状況把握する前に何をやっとるんだ。


「山田様。お目覚めですか?」


 障子の向こう、縁側から巨乳メイドの囁き声がする。

 ずっと張ってたのか?


「あの後どうなった?」


「はい。治療ポッド使用後にこちらでお休みになられておられました。公主に伝えて参ります」


「いや、こんな夜中に。いいよ。明日の朝で」


「必ず直ぐに伝えよと仰せつかっておりま」


 言い終える前に超至近距離で爆発音があり、外に面した障子が全部折れて吹っ飛んできた。風圧でそのまま後ろに叩きつけられる。

 勿体ねぇ!年代物の障子が!!壊されるくらいなら舐めた指で穴開けてメイドさん覗きたかった!!!

 じゃなかった。

 怪我あるか?!全身痺れて痛いぞ?

 寝起きに爆撃でテンションがおかしい。

 半身で起き上がってた俺は、衝撃でそのまま飛ばされて壁に打ち付けられたのだが、後頭部おもクソ打った!痛ってぇ!

 後ろに花釘有ったら即死だった!


「山田様!?」


 え?メイド君無事なの?!


 もうもうと舞う土煙から両腕を広げたゴツめのアシストスーツがヌッと出てきてビビる。


 フルカウルタイプの強化装甲アシストスーツは胸からメイドの声を発している。

 中身の背丈はメイドっぽいが、本物か?

 廊下を傷付けないよう履いていたのだろう。最初に見えた足元のモフモフスリッパがアンバランス過ぎて、痛いのに笑ってしまった。

 メイドは呆れている。


 続けて付近で爆発音が上がり、メイドは外から俺を庇う位置で肩のシールドを展開した。いや。音が爆発って感じじゃないな。

 着弾音ぽくない。今度は空中で迎撃したのか?


「お手を」


 メタルタイルコートされた指先でそっと触れてくる。

 カタフラクト部隊とは違い、グローブ部分は人工筋肉に覆われていない。

 貝塚が以前使ってた義体に似てるが、パリパリしてなくて、あれの表面に透明なフィルムコートしてある感じだ。同じ技術か?


”横山様。緊急時なので接触接続で失礼致します”


”問題無い。どういう事なんだ?”


”現在この別荘は三千院の手の者らから襲撃を受けております”


 頭を見ると、綺麗に塗装されてたであろうカウルがベッコベコに凹んでいる。

 さっきのをモロに受けたのだろうか?よく見たら両肩に掛けたシールドもヒビ入って真っ白だ。昨日今日の損傷じゃ無さそうだな。結構使い込まれている。


”襲撃者は有線誘導弾を使ったみたいですね。屋根は抜けないので山向こうから精密射撃したのでしょう。ステルスかけていたのですが、お声掛けで気付かれたようです。申し訳ありません”


 サーチされてる。安否確認だろう。好きにやらせる。どうせ気を失ってたし、今更だ。

 あえてカウンターを切ったのに気付き、軽く頭を下げてくる。


”隣の間からシェルターに移動します。歩けますか?”


 四つん這いで二、三歩動くと頭全体がズキズキした。

 動けなくはない。


”ああ。問題無い”


 頷いたメイドは、爆風で襖が全部取れてしまった隣の部屋に入り、足元の畳をトンと踏みつける。

 バグン!と畳が二畳分持ち上がり、階段が顔を出した。

 かっけぇ。


 入るよう手で誘導されたので降りていくと、観音開きの耐圧扉があった。

 ギヤの回る音がしている。


「閉めます」


 一瞬真っ暗になった後、足元に赤色灯が点いて、また直ぐに上から衝撃が襲う。

 俺らの音声を正確に狙ってるな。

 それとは別に、下からギヤの回転音が迫ってくる。

 扉の下辺りで音は止まり、音も無く扉が開くと、二重扉の向こうはエレベーター籠だった。この装甲メイドが四人乗れるくらいデカい籠だ。


 中の両脇にはカタフラクトの隊長とあの熊手女がいた。

 装甲は着ていないが、突撃銃と手榴弾で武装している。

 操作パネルが無いけど、どこまで降りるんだ?

 俺らが乗ると、直ぐに扉が閉まって降下を始め、全員無言で扉を向いている。

 なんとなく話しかける雰囲気ではなく、俺も黙っていた。




「おうおうおう!地下市民様の御成りじゃ!」


 ああん!?


 軍服姿ののじゃロリは諸手を上げて俺を迎え、通路の両脇に整列させた三人に頭を下げさせている。

 何だよ地下市民て。


「何だ?」


 また何か下らないごっこ遊び始めたのか?


「ご挨拶じゃの。スーツを直してやっとるのに」


 なっ?!


「シシシ。直るぞ?わっしは財力も技術力も有るからの」


 俺の顔が余程面白かったのか、持ってる扇子で笑みを隠そうともせずバッサバッサ開いたり閉じたりしている。

 畳んだ扇子で小さな手の平をポンと叩いて、ドヤ顔ロリは先に立って歩き出した。

 面白くないが黙ってついて行く。


 地下製スーツだってバレたか。

 そりゃそうか。

 軽量スリムで吸排気完全気密。全身サーモで圧力弁も付いてて、各種ネット接続も自在な超高性能アトムスーツだ。

 バッテリーパックも規格が合うものが存在しないから、知ってる人が見ても一点ものっぽいのは丸わかりだろう。

 地下では標準規格だが、地上には部品すら流れてきていない筈だ。


「ちょっと待て。直せないだろ。配送止められるぞ!」


 こんな事で過干渉とみなされてビオトープから物流止められたら後味が悪い。


「いやいや。流石に部品の発注なぞせんよ?うちには工作機械も素材も揃っとるでの」


 ありえないんだが。

 二ノ宮ですら四苦八苦してんのに。ファージ技術なら兎も角、明らかに文明的に後進なこの東北地域で出来る筈が無い。


「スーツ自体は機械化された大量生産ではなく、手作りじゃな。生食の親和素材が三世代古いが、経年劣化を防ぐには確かに適しとる。首周りの基板も若干錆びてたから今若いのが顕微鏡見ながら打ち直しとるで。ん~。何時の時代も、高級な服は手法が変わっとらんの」


 満面の笑みで虚空を見ながらしゃべくりまくりだ。

 解析したのか。

 二ノ宮ですらざっくり部品を取り替えただけで、怖がって細かく調べなかったのに。

 てか、これ不味くね?

 自分のクソムーブ続きに嫌気がさしてくる。

 地下市民にバレて、明日の朝一で朝食前に神の怒りで焼き殺される気がする。

 いやでも、あのアトムスーツ無かったらこっちに来ようって気にもならなかったし。そ、そもそもアレは兵器じゃねーし!


 クソ真面目な地下市民たちの顔が思い浮かぶ。


 足を止める。


「ここで。全員殺して。俺も死ぬべきか?」


 音もなく、銃口が俺を向いたのが分かる。

 ここにはファージが有る。

 こいつと相打ち程度までならもっていける。


「その必要は無いの。修理し終わったらデータ破棄するでの。バンクにも保管はせんよ」


「そんな旨い話があるか」


 ちらりと流し目され、一瞬妖しく光るのが見えた。


「わっしのプロジェクトに協力してくれるんじゃ。これはサービスだで」


「まだ遺伝子抜いてないのか?」


「人権上、本人の同意と意識下の元、生検するのが筋じゃろ」


 こいつら本当に人喰いか?

 俺は寸劇に騙されているのか?


「横山。あのな」


 振り向いたのじゃロリは、両手を腰に当ててお姉ーさんムーブなのだが、見た目がコレなので可愛いだけだ。これはあざとさを狙っているのか?

 俺に射線は向けつつ、周囲の奴らもほっこりしているのが密かに感じ取れる。


「わっしらは義理と面子で経済を回しとる。地下を通して契約を交わした以上、わっしは炭田もおのこも、仕事のパートナーだと思っとるんじゃが。都市圏や地下では違うんかいの?」


 素直に面食らう。

 ナチュラリストから言われると衝撃でしかない。


 都市圏なら、利益優先で普通に裏切ったりするだろう。

 最終的には財力と法を握ってる方が勝つが。

 地下市民は、あいつらはそういう次元で動いていない。

 人類の未来に向けて淡々と物事を進めていく超人のコミュニティだ。


 人喰いの方が義理堅いってどうなんだ?


 のじゃロリが扇子を軽く振ると、全員銃口を逸らしてロックしてしまった。


「はあ。分かった。分かったよ。感謝する。だが、一つ訂正させてもらう」


「何じゃい」


「俺は地下市民じゃない」


「この期に及んでまだそんな事言うんかいの。地下を庇うってのなら要らぬ世話」


 そんなんじゃない。


「舞原の当初の見立て通り、俺はスリーパーの横山だ」


「・・・。何で地下製スーツの正規品持っとるんじゃ」


 うーん。

 言って良いのか?駄目だよな?

 でも言わないと拗れる気がするんだよな。

 何でこれが地下製だと断定できるのかがそもそもの疑問なんだが。


「知ったら不味いと思うが?」


 周りを見回しながら脅してみる。


「わっしだけ聞こう」


 扇子を持ってない方の手を差し出してきた。


”地下への干渉をしないと誓え”


”よかろう。この会話の内容における地下への詮索と干渉はしない”


"誓え”


”何にしようかの”


 あるかどうかは分からないけど、吹っ掛けておこう。


”舞原家のイニシエーションルームの全てのデータに誓え”


 ロリが固まった。

 一瞬後、俺への圧が急速に高まり、ファージ誘導が開始される。

 俺が干渉したかどうか探ってるのか?

 でも、目の前でそれやると、ルームがどこにあるか俺にバレるぞ?


 睨みつける俺の意図に気付いたのか、それとも心変わりしたのか。

 殺意を一瞬で解いたロリは、別荘地全体の電子防壁を厚くしながら首を傾け鼻を鳴らした。


「よかろう。誓う」


 周囲のメンバーも証人として使うという事か。

 こいつらは証言能力があるのか?崇拝者ではないのか?

 エルフには見えないけど。

 よし。


”ダストシュートから生きたまま地下に落ちた。洞窟の中、アトムスーツ着て下から歩いて登ってきた。起きてから間もない頃だ”


「はぁっ?!」


「マジで」


「はあ」


 気の抜けた返事をし、腕を組んでスタスタ歩き出してしまったロリの後を追う。

 色々と調べながら整合性を取っているのだろう。結構な量のデータの流れを感じる。

 素足だから冷たいな。病衣一枚なのでかなり寒い。

 リノリウム舗装された廊下をいくつか曲がり、格納庫スペースに出た。これあそこか。大本営搬入口みたいになってたトコの中か!

 ジェット機が余裕で入りそうな空間にゴチャゴチャと足場や機材が備え付けられてて、扉前にはカタフラクトや戦車もある。兵装してる奴は出払ってるのか、パッと見二十人・・・、この区画内にサーチ範囲内で二十三人いるな。整備員っぽいのしかいない。ここに残ってるのはロリの近衛のこの五人だけか?

 ん?隅っこのアレ温室じゃないか?何でこんな所に。・・・謎だ。

 この区画自体オフラインにされてるから位置がまだ把握出来てないけど、外につながってたんだな。

 立ち止まったロリは俺を無遠慮に見てくる。


「ほんっ・・・と。よう生きとったの」


 何でこいつしみじみしてんだ?


「そうだな。割としぶとい方かもな」


 てか、今更か。さっきからずっと調べてたのか?

 どこまで調べたんだろう?

 スミレさんもあえて調書作らなくて、データに残してなかったから、オンラインデータはたかが知れてると思うけど。


「治りも早いしの。親御さんは相当金掛けたの」


 チラッと俺の脇腹に目をやった。

 うん。そこは謎なんだよな。


「ノーコメントで」


「ふん」


 面白くなさそうなフリしてるが、バレバレだ。

 どこまで調べたんだろう?

 俺の不幸は余程お気に召したみたいだな。


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