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179 日雇い

 内容は書面にして互いに電子署名しつつ保管した。


「なっから疑り深いスリーパーじゃのう」


 ナチュラリストがイギリスよりまともだとは到底思えないからな。

 金持たちからも、法に厳しいとは聞いているが、俺自身そこまでこいつらを信じ切れていない。


「契約は役場を通したいんだが」


「良いじゃろう。わっしも世界を敵に回す度胸は無いでの」


 契約に不履行が有れば地下からの供給が止まるとなれば、ナチュラリストの過激派も少しは躊躇してくれると思いたい。




「受理されるまで少し運動でもしてもらおうかの」


 どう見ても巨大地下壕入口っぽい物々しいトンネルの前でそう仰るのじゃロリの前にはカタフラクトが整列している。

 一体、この俺に何をさせる気よっ!?


「横山の無双した話をしたら、こいつら信じんでの。少し揉んでやって欲しいんじゃ」


 ここで始めるのか?

 こいつらは昨日はいなかった。今日返ってきたのかな?



「カタフラクトに勝てる訳ないだろ!!いい加減にしろ!」


「ばったばったとなぎ倒す横山が観たいんじゃが。銃無しならイケるんべや」


「それはお前の願望だろ」


 なんだ、こいつルルルと同じ穴の狢かよ。

 さっき散歩がてらスペック聞いたんだが、ファージガードは元より、物理的にも温度的にも、これにダメージ与えるには戦車砲クラスが必要だ。


「まぁ、互いのファージ干渉と強化装甲無しで身体強化パーツのみ程度なら」


「言ったな?」


 白い装甲部隊の一人から声が上がった。

 野太いおっさんの声だ。


 ガチャガチャ音を立てて皆脱いでいる。

 全部で十二人、半数は女性だったのに驚いた。

 どいつもこいつも、ギリシャ人かよってくらい筋肉を作っている。

 こいつら、地下でのじゃロリ守ってた奴らだよな?

 重機関銃の山を前に大盾ダブルで構えて一歩も引かなかった奴らだ。


 寄合衆はホント、見えにくくて速いだけで只のバーサーカーだったんで、ファージ誘導を使わないこの兵隊共が戦術的な動きをしてくるのかどうか興味はある。

 いずれやり合う時にどの程度やってくるのか知っておきたい。

 この間の作戦時、のじゃロリに見られた動き程度なら別にもったいぶる程でもないからな。

 戦闘プログラムが配布されたのもロリは知ってるだろうが、アレの動きは金持基準なので俺程度の動きがネタバレしても全く問題無い。


「一人っつか?全員か?」


 ロリ以外の全員が鼻白むんでいる。


「一人ずつだ」


 野太いおっさんが集団から出てきた。


「シシシ。始めい」


 近づいてきて合わせた拳を掴もうとしてきたので突き指狙いで押したらヒョイっと引いて、軽くステップを踏んだ。一見キックボクシングだが前足が軽い、ムエタイっぽい構えだな。

 力に任せてくる感じなのか?

 こいつらの軍事格闘はどういうスタイルなのだろう?

 城攻めの時も、施設包囲の時も、お付きの陰二人は・・・トリッキーだな程度の感想しか無かったな。


 干渉はしないが、見るのは禁止とは言っていない。

 しっかり。じっくり。

 見させてもらおう。

 視覚バフを起動し、周囲のファージ計測を始めると、おっさんは何か言いそうになったが、その後見られてるだけと気付き、何も言わずに俺に近づいて来る。

 構えを変えず、半歩入り二歩下がり、三歩飛んでから間合いを横にずらし俺の動きを見ている。

 なんとなく間合いを掴まれたな。

 んじゃ、動くか。


 目を瞑り、後ろを向く。

 一瞬迷ったおっさんは直ぐに蹴りにきた。良いね。ほとんどタイムロスが無い。


 セオリー通り。中段の突き蹴り。


 この体格からこの蹴りをまともに喰らえば、俺みたいなひヒョロっちぃのは坂の下のテニスコートまでぶっ飛んでいくだろう。


 出し惜しみはしない。


 肘を固定し、両手を地につき、後ろ向きのまま倒立気味に蹴り上げる。

 インパクトの瞬間、蹴り足の膝関節に高速筋電位を使う。

 反動が来ないように体重は載せてない。

 このおっさんみたいな重量物から反動が来たらこっちがぶっ壊れる。


 逆関節から蹴り脚に上への衝撃を喰らい、そのまま体勢を崩して後頭部から綺麗にスッ転んだおっさんは、咄嗟に後頭部を両手で庇っているのは流石だ。

 神経弄ってるのかな?

 反応は良かった。


 蹴り足に体重載ってたし、やっぱムエタイタイプだな。


「おぉっ?!」


 起き上がるかと思ったらそのまま中腰でにゅるにゅる近づいてきてビビった。手に何か持ってんな。

 あ、投げた。この近距離で!

 っ!

 向こうで見てたやつもさり気なく同時に投げやがった!

 キャッチできるけど何だか分からないな。

 両方避けよう。

 体勢崩した俺に、おっさんがついでに喉を掴みにきたので、指を二本立てて斬りにいくフリをしたら、引っかかって下がった。

 ニヤリと笑ってあげる。

 指で切れる訳無いだろ?


 広場の向こうで硬いモノが転がる音が聞こえて、ファージ走査で投げたモノを確かめたら、ナットだった。


 ナットかよ。


 考える暇もくれず、殴るのか掴むのか良く分からない絶妙な挙動で手が出てくる。

 軽そうに見えるがパリィング出来る気がしない。コンクリの固まりが動いてるみたいだ。当たれば大怪我だろうな。

 突き指狙いでまた手を出してくるのを誘っているのか?

 勿論のってあげても良いが、それでは面白くないだろう。


 ハイキックの挙動から重心載ってる脚に近づき、下がられる前に背中に張り付く。

 体重が重いから俺がしがみ付いてもびくともしない。

 肩までするする登り、耳に指をブッこむフリをすると、しゃがみながら俺を殴りつけてくる。掴みにこなかったな。


 タッチレスでメットをロック解除し、肩を足場に上へトンと跳ぶ。

 微妙に視線ギリを意識して前にメットを放る。


 頭上から移動する陰を見て構え直したおっさんは、飛んだのがメットだったのに気付き、体勢を変えながら上に構え直そうとした。軸足に体重が乗ってなくて、移動にワンテンポ遅れが出ている。その不安定な姿勢はカモだ。


「イオ上!」


 遅いな。


 見学勢の叫んだ女から俺の顔に向けてナットの横槍が入ったが、何が来るか分かってればキャッチするだけだ。既に振りかぶった俺の下駄の歯がおっさんの顎にクリーンヒットしている。

 完全に脳震盪いったな。

 そのままうつ伏せにバタンキューして瞳孔が開いた。


 体重差とスピード差があるからこそできる曲芸だが。


「ご満足いただけただろうか」


 飛んできたナットを弾いてその女に返す。


 心臓がバックンバックンして口から飛び出しそうだ。

 失敗したら笑いものだった。

 これが相手が殺し屋だったら、触れてる時点で加重から俺の動きを予測されて綺麗に料理されていただろう。


 カタフラクト着てると加重の感覚鈍るんじゃないかと思ったが、予想通りだ。細かい過重制御は装甲頼みなんじゃないかな?

 着た事無いからわからんけど、俺が地下製アシストスーツでベルコン振り回してた時は、逆に細かい事考えてるとキリ無いから無視したりが結構あった。

 重い装甲着てると加重にキャンセラーかけながら動くことが多いから、脱いだ直後の弱体化は悲惨だ。


 全員腰からナイフを抜き、構えて広がり始めた。

 大人げない奴らだな。


「殺すなよ?横山」


「俺かよ!」


 ヘイト上がったぞ!?どうしてくれる!


 俺みたいに、とりあえず勝てば良かろうの精神で誤魔化してる身にとっては、専門職にナイフ持って囲まれるって状況は詰みだ。

 正解は逃げの一手のみ。


 ただし、俺が徒手でファージ走査もバフも無しならな。


 この囲まれた想定での模擬戦は熊谷で飽きるほどやった。

 映画とは違い、市街戦とか室内戦で弾切れになった時”補充して仕切り直ししましょう”とはならない。背中に山ほど弾背負っていけば只のお荷物。お前弾何キロ持ち込むの?とか鈍亀扱いで笑われるし。だからって身軽に少な目で行って弾少ないのを察知されれば突貫されるし、逆にこっちが察知出来れば仕上げに行きたくなる。

 つい撃ち切ってあとマガジン一つみたいな時、相手が弾数分だけしかやってこないなんて事は無い。

 残弾ゼロで死ねばやり直せるなんて状況無いからな。


 こっちに来て、あんな不利な状況でエルフ守りながらガチバトルやらされるとは思ってなかった。

 もう二度と、準備不足でヤり合うのはごめんだ。


 今回、ここに来るにあたり、絶対手合わせ願われるだろうから、舐められるなと口を酸っぱくして言われた。

 舐められた方が良いと思うのだが、なんかエルフ相手だと文化的によろしくないらしい。強さを誇示しておかないと取るに足らない存在だと思われ、暗殺される可能性大。敵だろうが味方だろうが、とりあえず簡単に殺されない強さが必要だそうだ。

 確かに、のじゃロリも三男も、初顔合わせの時は好戦的だった。

 示威行動したら静かにはなったけど、物騒な奴らだ。


 全体的に、ヒーロー大好き文化だからなのか?


 暗器とトラップのセッティングは万端だし、アシストスーツも一本下駄もオリジナルで仕込み済み。

 だが、こいつらももう油断しないだろう。

 無双出来るほど超スキルや良い作戦を持ってる訳ではないが、ロリが満足するレベルで何とかしないといけない。

 気が重い。


 のじゃロリは俺を軽く揉むつもりだろうが。たぶん、この中の何人かは即死狙いで刺してくる。

 これを殺さないようにしっかり片付けるのが今日の俺の仕事だ。


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