表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/279

178 横山談話

 逐一細かい説明などは無く、散策をしながら俺が気になる所を聞いていく形になった。


 よく見ていくと、変なモノが沢山あった。

 その都度聞いていくと、面白い答えが返ってくる。

 博物館の中を歩いている気分だ。


「なんだこれ?」


 苔やシダに囲まれた小さな池というか井戸の隣に屋根付きのベンチが在り、そこにヘンテコな機械の固まりがあった。

 これは温泉水じゃないのか?

 水中にも水草がある。


「それは、蒸気を使った水撃ポンプの試作じゃ」


 ポンプは真空ポンプくらいしか分からないな。

 無骨でゴッつい見た目だ。確かに蒸気機関車を彷彿とさせる。


「盤城から南の地域は毎年秋に渇水が起こる。テロで停電が起きた時に、石油では鮮度の問題があって備蓄できんからの。石炭動力で現地に運べる方が安定するんじゃ」


 耳が痛いな。

 俺の停電テロは新潟の方だが、どれだけダメージが出たのか。

 寄合衆以外でも、農作物が枯れたり、飲料水が足りなくなったりしてるんだろうな。


「個人で開発研究してるのか?」


「これは商事が請け負った政府案件じゃの。食糧自給が安定せず、太平洋は都市圏に支配されている。日本海通した大陸との取引だけでは限界があるで」


「食糧自給率はどれくらいなんだ?」


 華族はビオトープ確保してるんだよな?

 都市圏みたいに役所毎の戸籍管理が無いから取引窓口の数は少なそうだが、話を聞いてると引き出し食糧が少なそうな印象を受ける。


 舞原は腕を組み、下駄をカランと鳴らして腕を組んだ。

 迷っているのか?

 確かに、こういう話は都市圏が知ったらしっかり悪用しそうだ。

 言い過ぎたとでも思っているのだろうか?


 考えは決まったのか。

 ベンチには座らず、坂道を歩き出した。

 眼下にテニスコートと戦車が一緒に在ってシュールだ。

 床材は何で出来ているんだろう。

 少しでも凸凹あるとテニス出来ないよな?

 戦車と相性最悪だと思うけど。


「御三家はどの勢力も、アプローチは違えど、一つの方向を向いて動いておる」


 話を変えたな。


「都市圏の殲滅だろ?」


「人類の持続可能な社会の構築じゃ」


 その為に自然に還る必要があって、全人類に押し付けているというのが都市圏の言い分だ。

 実際そういう体で甚大な被害を被っている。


「ナチュラリストがやりたい放題やったら、都市圏はショゴスとファージ濃霧に飲まれるだろ。生き残るのはナチュラリストだけなんだろ?」


「わっしらが脅威でないと認識すれば、待ってましたとばかりに都市圏は搾取を始める。わっしらがある程度の自由裁量を維持する為には融和ではなくゆるい反発が必要じゃ」


 反発ね。

 自由経済の方が発展し易いのは歴史が証明している。

 都市圏の一部として活動した方が絶対メリットは大きい。

 いや。

 これは、東北だけの話ではないのか?

 ナチュラリストの全世界の支配地域との話か?


「そこまでして、何を成したいんだ?」


「今云ったじゃろ。このままでは人類は絶滅する。間氷期は後千年ももたぬからな」


 それは初耳だ。


「都市圏も色々やっとるが、多分間に合わんじゃろう。地下からの供給にも限界がある」


「ちとまて。サラッと凄い事言ってないか?氷河期って周期が有るんだろ?後千年ってなんで言い切れるんだ?」


「氷河期は周期で訪れるのでは無い。太陽系に近づく暗黒小惑星群の周回周期に起因する重力変動で起こる」


 な。ナンダッテー?!


「月の原型になった惑星が飛来した星系の一部じゃの。恒星がもう消失しとる上、太陽系に近いから観測が非常に手間じゃ」


 都市圏は知ってるのか?

 いや、地下市民は把握してるのか?

 眉唾じゃないのか?


「信じとらんな?まぁ、百年単位の観測が必要じゃが。望遠鏡ばっか覗いとる自称”気象学者”の願望的観測よりは精度が高いじゃろ」


 凄い自信だな。


「何で言い切れるんだ?」


 可動している宇宙望遠鏡はほとんど無かった筈だが。


「太陽系外にファージの糸を伸ばしとる。既に伸ばし始めて百九十年じゃ」


 糸?二百年近く!?それって・・・。


「ファージが開発された当初から宇宙に伸ばす計画が有ったって事か?」


「計画当初は、静止コロニーへの有線ネット接続が主目的じゃったが、確か・・・、距離による減衰が蜘蛛糸の電荷応用で発電と送電が容易になってからシフト変更かかっての。地球を中心として四十八方向に、何本か切れたのもあるし、真っ直ぐとはいかんが、既にボイジャーより伸びとるものもある」


 全く知らなかった。

 完全にこっち側でのみ行われてたプロジェクトだな。

 耐熱とかどうしてるんだろ?

 ここで聞くと対価に色々突っ込まれそうなので止めておこう。


「送電と送信技術には先代の開発した物も使われとる。完成しとらんからまだ改良途中だけんど。十分実用レベルでな」


 ルルルか。下手な事は想像も出来ないぞ。

 ひっそりとファージ探査されてる、カメラもかなりの数が走査をかけてるな。興味深気に俺を計測している。


 スル―しとく。


 もし、新世代通信技術を教えたとしたら・・・、こっちの宇宙開発も進展はするだろうが、完成してると知ったら、ルルルがどんな目に遭うか分からない。

 情報伝達の高速化はそのまま軍事力にも繋がる、今の都市圏では太刀打ち出来ないだろう。

 ルルルの事言わなくて良かった。危なかったな。


 都市圏は、地球からの脱出を視野に入れていない。

 あくまでも、地球を主軸に置いた宇宙開発競争をしている。

 アプローチこそ違うが、このナチュラリストの未来設計は地下市民に近い。


 思想が・・・、もうちょいなんとかならなかったのか?

 都市圏群への恨みは根深そうだからなあ。


 このまま、本州で三つの勢力が融和せずに千年経ったらどのみち日本は自滅しそうだ。

 地下市民の計画ならその前に地球脱出できるのかな?

 航宇艦の建造なんて何百年もかかるだろうし、月に動力と分銅くっ付けた方が早いまである。


 地下市民は、こういうのも知ってて食人するナチュラリストも駆逐せず同列に扱っているんだな。

 もしかしたら、三つ別々のアプローチの可能性にそれぞれ賭けているのかもしれない。

 俺程度が心配する話じゃないな。


「そうそう。して欲しい仕事の一つに急を要するモノがある」


 キタカ。


「何だ?」


「現在の遺伝子情報の経過解析に協力してもらいたい」


 スリーパーの遺伝子情報。


「遺伝子鍵の解析の為?」


「そこには手を付けないと約束しよう」


 ”そこ”だと?

 問題発言だな。

 鍵の特定出来てるのか?!


「内容は?」


 頷いたエルフは、坂道を歩くのに疲れたのか、カートを呼んだ。


 立ち止まって用水路を跨ぐ小さな橋の欄干にポンと腰を掛ける。

 危ないな。

 運動音痴っぽいから見ててヒヤヒヤする。


「横山の遺伝子は今、ファージ濃霧に晒された事による遺伝子の大量注入で、抗体反応による配列欠損から退行に向かってプロセスが起動しとる筈じゃ。その経過を観察したい」


 DNAが若返る?この指、復元すんの?

 初耳なんだが。

 てか、何でそう言い切れるんだ?


「アンチエイジング技術の為?」


「いんや。寿命の延長は興味ない。長寿も不老も、わっしらには意味の無い技術じゃ」


 エルフがそんな事言ったって聞いたら、都市圏で真面目に不老長寿研究してる奴らは発狂するだろうな。

 イニシエーションで脳の取り合いしてるような奴らだし、寿命には興味無いのか。


「なら、何の為に?」


「ん。ミッシングリンクは知っとるかの?ん?シシシ」


 豹変してしまったであろう俺の顔を見て悪戯っぽく笑ってから、後ろにいた巨乳メイドに抱っこで持ち上げてもらい、やってきたカートにご機嫌で乗る。

 今回のカートは二人乗りだ。促されて隣に腰掛ける。

 漆喰の白壁に沿って、坂の上へヘアピンカーブしながらゆっくり登っていく。

 ボク執事は兎も角、メイドが足音も上下移動もなく付いて来てるんだが、スカートの中はどうなってんだ?


「遺伝子には歴史が詰まっとる。修復過程・・・。わっしらは”設計図の退行”と呼んどるが、その過程を調べることで遺伝的進化のプロセスを統計的に推測できるんじゃ」


 言ってる事はなんとなく分かる。出来るかどうかは兎も角。

 統計用のデータとして、俺の、古代人の新鮮な遺伝子データは有用で、是非とも欲しいって事か。


「わっしらがどう生まれて、どう生きてきたのか。その解明はこれからの未来に応用されるじゃろう。氷河期を乗り越えた種はヒトだけでは無いからの」


 来るべき未来の為の遺伝子的なアプローチか。


「何で俺の遺伝子が退行してるって分かるんだ?」


「当時、アンチエイジング受けた個体は須らく、強力な遺伝子修復因子を備えておる。現存する技術とは退行手順が全く異なる。最も自然修復に近い治り方でな」


「この欠損した指がまた生えるのか?」


「わっしが思うに、設計図が補完された後に組織修復を行えば戻るじゃろうな」


 古代人すげーな。


「データ提供すると俺はどうなる?」


「どうにもならん。細胞は五十種類ほど頂くが、身体にダメージは無い。どうせわっしらより深部に潜れるんじゃろ。精々、設計図のプライバシーがわっしらの商事の研究チームにもろバレな程度じゃ」


 俺の性癖とか歴史が赤裸々に公開されるのは大問題な気がする。

 まぁ、都市圏でも既に把握してる事だし、使用用途を考えれば吝かではない。寧ろ”ミッシングリンクの解明”なんて!俺も喉から手が出るほど知りたい内容だ。


「対価は?」


「おのこの知りたいわっしらの技術を一つ進呈しよう」


「何でも?」


 エルフは少し考えた。


「舞原家の裁量で動かせるモノだけな」


 知った後で殺されるとか監禁されるとか普通にありそうなんだよな。

 いや、こいつはそんな事しないかな?

 こいつがしなくとも他の奴がするかな。


「表向きはキャッシュで請け負った事にしようかの。別に渡すで」


「受けよう」


 知的好奇心は、抑えられない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ