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171 鷲宮の家系

 階下を集団が走り抜けていく。

 念の為、声は控えた。


”そうだ。真本たちが施設潜入に協力的だったのは、実はカタフラクトの回収がしたかったからなんだよな?基本的に全部ぶっ潰すのに賛成なんだろ?”


”そう言われてはいないが、状況的にそうだろうな”


 どこから仕込みだったのだろう?

 三男の誘拐は予定外だったのかな?

 優秀な手下が何人も殺されてたもんな。


”今、三男がラリって徘徊してんのは、陽動の為?”


”だな。ハシモト重工は役員のワシミヤ三男より会社維持を優先したという事だ”


”あの真本って奴は何なんだ?”


 浜尻も歴史が浅いのか、あまり突っ込んだ事知らなかったんだよな。


”ハシモト重工の創業メンバーの一人だ”


”それは聞いた”


”代々、・・・二代前くらいまでマイバルに仕えていたが、創業家のハシモトと一緒にワシミヤ傘下に入った。確か十年くらい前、ハシモト重工が傾いた時にワシミヤグループが資本提携して、お飾りとして役員が天下りする仕組みになった。以来、役員職はグループからの出向のみだ”


 ああ。そういう。

 会社喰われたのか。


”儲からない案件ばっか回されてずっと貧乏くじだったからな。グループからの出資ゼロで開発費相当かけたって言ってたし、あのカタフラクトはワシミヤに渡したくないんじゃないか?成果取られると思って、見分がてら騒ぎに紛れて役員を殺すつもりだったのかも”


”何人死のうが、別のお飾りが来るだけじゃないのか?”


”三男は重工に親身だし、好意的だったからな。何故殺すのか理解に苦しむ”


”力関係が良く分からなかったが少しスッキリした”


 話しながらも、送電量の偽装を終わらせる。

 基本、大幅な変動は無いから、チョロいもんだ。

 気付くのは現場から連絡が入ってからだろうが、そもそも送電が無い地域から連絡を入れるのが一苦労だろう。


”順番だけ決めて、一気に行くぞ?”


”やってくれ”


「ばーん」


 コントロール下にある送電網が、過負荷に耐えきれず、枝葉から枯れていく。

 太くて頑丈な所は無理して溶かさず、残しておく。

 どうせ電線を減らしていけば負荷をかけやすくなる。

 壊れなきゃ壊れないで、そこは仕方ない。


 範囲内全域で大停電だけど、発電所近くはやっぱ難しいな。

 新潟の海岸沿いも太っと過ぎて手が付けられない。

 だが、これで十分だろ。

 金持からオッケーをもらって、配電設定をぐっちゃぐちゃに掻きまわしてから切断した。

 後は知らん。

 これで俺も、中部地方全域からお尋ね者だろうな。


”金持がやりたかったのはそれか”


 のじゃロリからファージによる暗号通信が来て、開いたら暗く沈んだ声で音声通信が入った。

 音声だけか。


 なら、共有してやろう。


「金持、舞原と通信良いか?」


「ああ」


”俺と金持と舞原のみだ”


”シシ・・・、粋じゃの”


”カエデコ殿。済まない”


”わっしの商事の子会社も範囲に有ったからの。それで仕舞いか?”


 わざと明るい声出してるな。


”ああ”


”ならとっとと引き揚げい”


 悲鳴はほとんど聞こえなくなっている。

 施設内の人間はもう煙に巻かれてほとんど死んでいるだろう。

 二階へのドアも少し開いているが、誰も逃げ出してくる奴は居ない。


”金持!”


 慌てて手を引っ張り、物陰に隠れる。上空のスフィアからドアを確認すると、真っ暗な中、隙間に蠢く影が見えた。


”舞原!アレ三男じゃないのか?!”


”むう。瘤を千切ったんかの?人型してなくて放射能も無いから見逃したわ”


 何なんだ?

 何で見てるだけで近づいてこなかった?

 今も動いてないけど。てか、眼があるのか?

 真本たちに連絡取ってるとか?

 んでも、裏切られたんだよな?


”金持よ。そいつは使えるやもしれんぞ?”


 あ。やっぱロリもそう思う?


”だとしても、今のわたしでは背負うのは無理だ”


 確かに、ヘロヘロだもんな。今にもぶっ倒れそうな顔してる。


”俺が背負う。アシストスーツのエネルギーは塹壕までならもつ”


 触腕の先をピクピクとドアから出して様子を探っているが、俺がファージ走査を放射しても、ちょっと縮めただけで何もしてこない。敵意は無い。


「バカを言うな。とっとと帰る。リョウマ殿に放射能が着いたら何もかも台無しだ」


 何かを察したのか。三男がドアからずるりと這い出てきた。

 内臓を引きずり、所々焼け焦げてもう何だか分からない塊になっている。


「随分コンパクトになったな」


 俺の言葉に異論があるのか、小さな触腕の先っちょをビシビシと立てて反論しているみたいだ。


「これなら俺が背負える。放射線も反応が無い。自分で掃除したんじゃないのか?」


”鷲宮家は除染に一日の長がある。新たに経口摂取しない限り問題ないじゃろ”


 こいつら、ホントに放射能喰うのかよ。

 てか、この状態で死んでないのが不思議だ。


「好きな女の役に立ちたいってんだ。汲んでやれよ」


「代行殿・・・」


 なんかピクピクしてんぞ?


「そうだな。もう代行では無いな。ウィリアム殿。感謝する」


「ブッ」


 ウィリアム。


 カプチーノ飲んでたら危なかった。


「どうした?」


「何でも無い。ほら。行くぞ」


 しゃがんで背中を差し出したら、ぐっちゃりと貼り付いてきた。

 凄く、気持ち悪いです。


”舞原。こいつ真本にビーコン打たれてないよな?”


”わっしが見とるわ。安心せい”


”ならおk”


”お?・・・”


 おっと、不用意な発言は控えよう。

 火は少ししか見えていないが、施設全体が熱気を放っている。

 長くはもたないだろう。


「金持。三十六計だ」


「そうだな」


 カンガルーは、俺の背中にある触腕の塊を優しく叩き、完全に血が止まって三本指になってしまった右手に散弾銃を抱え直した。




 普通に考えて、真本たちに追撃されるかなと思ったが、何も無かった。

 完全に見失ってしまったのが不気味だが、そのままロリの所に戻る。

 なんだかんだで、青柳以外も集まって来ていた。

 荒井、ピアス君たち、舞原陰のもう一人。

 真本たちを抜いた三男救出時のメンバーだ。

 近くの道を見下ろすと、死体の絨毯が出来ていた。

 相当派手にやったな。


 ここの戦況自体はもう終盤で、銃剣を使った死体確認が一部で始まっている。

 ここにいても凄い熱だ、工場敷地内は熱過ぎてしばらく近寄れないだろう。


「地図をみてくれ。ポイントの塹壕から炭田までトロッコを敷いてある。車道が無いからそこまでは歩くが、わたしたちは一旦炭田に帰ろう」


 舞原の陰の片方が三男を背負うと申し出てきたのだが、なんかぴったり貼り付いて離れなかったのでお断りした。

 これであと二キロも山道歩けば、やっと落ち着いて一休み出来るんかな?

 もう、脚どころか全身棒みたいだ。

 俺の溜息を感じ取ったのか、背中の肉塊がプルプルしている。

 笑ってんのかぁ?おん?!


 踏み固められ始めた獣道を隊列を組んで歩き出した。気を使っているのか、金持は俺の横を歩いている。

 まぁ、その肩にはのじゃロリが乗ってるんだが。

 ケガして出血しまくったのに、容赦ないな。


 丁度良いので聞いてみよう。


”金持。こいつは何で放射能集めるんだ?”


 カンガルーもロリも同じ顔で俺を見た。

 何だよ?


”鷲宮家に代々伝わる奇病じゃからな。長男と次男はもう死んだが、捕まえた旅行客を歓待がてら、色々な手法で癌にして遊ぶのが好きだったらしいの”


 なんかもう。一族郎党滅びた方が良んじゃないのか?


”保留瘤が出来ると直ぐに鉛で囲う手術が行われるが、鷲宮家では経口摂取する放射能に内臓が耐えきれず早死にするのがほとんどじゃな”


 今までお家が途絶えなかったのが奇跡だ。


”溜め込む量が多ければ多いほど格が上がるらしいの”


 つくづく、風習ってのは理解不能だ。


”一族は皆タコなのか?”


 二人して噴き出してる。

 実はお前ら、仲良いだろ。


”それはこいつの趣味じゃろ。次男はもっと妙な姿だったの”


 鷲宮家の奴らはヒーローモノの怪獣役にそのまま出られるな。


”元はエルフ素体なのか?”


”そうさの”


 何が悲しくて、エルフからこんな触腕の塊になるんだ。


 コンコンと後ろ頭を小突かれた。


「うるせーヤク中。黙って掴まってろ。置いてくぞ」


 コンコンが速くなった。

 後ろ頭で勢いよく頭突きしたら収まった。


「あまり虐めてやるなよ」


 金持が呆れた顔で俺を見下ろしている。


「何で俺が悪者になってんの」


 点数稼いでニヨニヨしてる感が背中から伝わってきて凄くムカつく。


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