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寝起きでロールプレイ  作者: スイカの種
第三部

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169/284

169 オードブルのおわりに

”さて。戻った奴らが直ぐ引き連れてくるぞ”


 入口前の駐車場で燃える車たちの陰で、人を集め直しているのが分かる。

 作られ始めた塹壕からは火力支援はあるものの、距離があり過ぎて効力射になっていない。

 さっきの一斉攻撃に参加した付近の炭田組は連戦で持ち弾が少なくて牽制しかできない。

 これ、全員補充してから囲みたかったよなあ。

 多分、塹壕と一緒に補充物資も来ている筈だ。

 したらもっと圧倒的に潰せただろうに。

 入口に溜まっていた寄合衆は、奴らもほとんど弾が無いだろうが、こっちが弾切れになったと分かれば一斉突撃してくるだろう。


”見ればわかる”


 声が震えてた。

 全身ガタガタと武者震いが酷く、慌てて調整をかける。

 異様に疲れて全身ダルい。

 溶けるのか?疲れてるだけ?

 一応、体内ファージは異常反応していない。

 深呼吸。


 補給出来ないのが一番メンタルにくる。

 今日で終わると思っていたので、バッテリーもエアーも残り二十パを切っている。激しく動き回ったらあっという間に尽きる。弾も食料も背負ったままで、次にいつ補給出来るか分からないので、荷物置いて身軽に戦闘出来ない。取られたり荒らされたり、取りに戻ったところを狙われたら終わる。


 金持のあの感じだと、まだ長丁場になる。

 俺の筋力と体力では、バッテリー切れイコール死だ。

 ファージ操作が満足に出来ないこの環境で、ロリたちとか、タコたちとか。いつ後ろから撃つか分からない奴らと共闘。


 都市圏の時だったら、こんな環境で戦う選択肢を作ったりなどしない。

 絶対の安全性を考えた上で、日帰り戦闘するのがどれだけ安牌なのか。

 身に染みる。


 青柳が応援に来る前に、とりあえずはなんとかなった。

 でも、次は確実に殺しに来るだろう。

 呑気に座ってニヤニヤしているのじゃロリに殺意が湧いてくる。

 イロイロやりながら探してはいるのだろうが、まだ見つかっていないのか?


 青柳のマーカーは山際まで来てるが、道を挟んで向こう側なので、流石に突っ切って来れない。

 結構煙ってるけど、あそこだと入口から流れ弾が届くな。


”青柳、そこは目立つ。戻ってくれ”


 スモークでも焚ければ良いんだが、手持ちがない。


”いや。とりあえず隙見てそっち側行くわ。ちと待ってろ。無理ゲなら塹壕作ってる位置まで下がり始めろ”


 ロリがドヤってる位置まで下がりながら後ろを見る。


 遠くの山に、土煙が見える。あそこで塹壕造りが進行中なのだろう。地形図的に見ても、一番近い塹壕までは沢をいくつか挟んで高低差の激しい森の中を突っ切らなければならない。


 考えただけで青息吐息だ。


「シャッハッハッハッハッハッハ!!」


 いきなり大声で笑い出したロリが立ち上がり、両手を掲げた。

 その手が指す先を見ると、もうもうと煙った施設の上、バタバタ暴れながら徐々に空に浮かび上がる人影が見えた。

 施設内のまだ生きてるサーチライトから照らされて、気付いた寄合衆たちが騒ぎ始める。


「ヤニ臭いのぅ!葛西!年貢の納め時じゃ!」


 知り合いだったのか?

 ファージ操作であえて声を届かせている。

 付近のスフィアを向けると、空中に磔になったそいつが、動きを止めこちらを見ているのが分かる。

 髪を振り乱し、ボロボロの衣服で血塗れの男が、こちらを睨んでいた。


 何か言おうと口を開こうとしたそのエルフの頭が消し飛び、一拍遅れて道の反対側の斜面から対物ライフルの轟音が届いた。


 叫び声を上げ、寄合衆が右往左往し出す、こうなると隊列も統制もあったもんじゃない。


「これで全部片付けたの」


 腕を組んでドヤ顔のロリは無視する。


 内部に入り込んだスフィアの映像も、しっちゃかめっちゃかになっている。

 統制していた上杉の奴らは既に飢えた寄合衆たちの数の暴力により全滅した。

 スフィアネットワークにより戦闘プログラムのインストールは希望者全員に完了して電子防衛も済んでいる。

 後は、ここの寄合衆を皆殺しにして、兵站を徹底的に叩くだけだ。

 弾薬が足りないから補給が届くまでもたせないとな。


 っと、俺にはもう一仕事あるんだった。

 カンガルーは資材置き場の一角にある階段の陰から動いていない。どうしたんだ?

 張り付けてあるスフィアにもハッキングの形跡は無いし、何が起こったんだろう?


”サナモトから待ったがかかった。管理室の近くに抗菌された鎮圧用のカタフラクトが何体かいる。動いていないが、自律AIを積んでる可能性がある。今、確認取ってもらっている”


 なんだそりゃ?

 金持の邪魔するほどの事か?


”滅菌されてても、仕様が分かればスフィアからジャミングかけられると思うけど”


”重工のファージネットは既に全域が監視されている。ここの資料室にオフラインデータがあるらしい”


 変だなとは思ったけど、それでイケオジたちが通信悪かったのか?

 俺の衛星通信とか監視範囲内には探りは結構入ってくるが、DOSアタックみたいな大規模攻撃はまだ無い。

 のじゃロリとすり合わせてかなり巧妙に組んだからな。


”スフィア寄せていいか?形状から型番が分かるかも”


”起動トリガーがユーザー設定だ。何なのか分からないからアクションは控えたい。近くを寄合衆が通っても反応が無いのは確認した”


 なら話は早い。


 施設内の寄合衆で、視覚をサイボーグ化している中で、一番近くにいる奴にスフィア経由でレーザー使ってアクセス。

 視覚のコントロール権を奪う方法でいく。


”場所は?”


”わたしの前の、階段正面にある搬入口だ。何をした?”


”視界ハックした。向かう”


”そんな上手くいくのか?”


 通信は遠くからレーザーでやるから、電磁波は出ないし、ファージ干渉も起きない。

 カタフラクトの起動トリガーにはならない筈だ。


 生き物は基本、眼の向いている方にしか進まない。

 バタバタ逃げている寄合衆の一人をハックし、視線誘導を行う。

 パニクってる上にソフトが安物で通信対策もしていないので、俺のアクセスに気付いていない。

 自分の視線に一瞬戸惑いを見せたが、そのまま歩き出した。

 違和感が出ない程度に視線を振りながら誘導する。

 世が世なら、ゾーンに入ったと勘違いするだろう。

 人を誘導するのに、御大層な洗脳など必要無い。初見の奴ならこれで十分だ。


”見えた。アレか”


 資材置き場の一角にアーマーラックがあり、内の三つが埋まっている。

 設置されているカタフラクトはかなりキレイだ。未使用の新品だ。

 兵装は鎮圧用か。

 かなり頑丈そうだ。オフライン化して暴れたら確かに面倒だけど、言うほどか?


”金持、映像送るぞ?三男たちに共有よろしく。取れる回線、別の場所は無いのか?”


 視界を切ったら、寄合衆は頭を振ってまた逃げ出した。

 バカで良かった。


”ケーブルが一番繋ぎやすいのがあそこなんだが、む。型番が判明した。マスターコードを入れるそうだ”


 マテ。


”それ、中に人が逃げ込んでたら不味くないか?”


 動いてないし、電源もスリープモードだし、外観は乗って無さそうだが、スモークで中が見えない。

 空調はどうなってるんだ?

 危険を感じて動かされたら厄介だよな。


”伝えよう”


 その後、カンガルーの唸り声が聞こえた。


”マスターコードは内部にいると表示されて見えるらしい”


 まぁ、そりゃあな。

 んで、内部の搭乗者に権限が移ると。


”権限の固定は出来ないのか?”


”今聞いた。搭乗者が優先になる仕様だそうだ”


 オンラインでも邪魔するのが関の山か。

 DOSアタックしてもオフライン化されたら手間だ。

 何か弱点とか無いのかよ。

 機動装甲だしなぁ。

 市街地だと動きにくくて的にしかならないが、山岳地帯だと個人要塞として有用なんだろうな。


”仕様は?何も対処が無い訳じゃないだろ?”


”仕様書はハシモト重工の社外秘らしいが”


”直接話させろ”


 ケチってる場合かよ。


”・・・繋ぐぞ”


 お?話す気はあるのか。


”山田様。取説は公開出来ますが、仕様書はご勘弁願いたい”


”何か方法は無いのか?”


 動いて襲ってくるならそれはそれで、タゲ取って離すだけで良い気もする。


”バッテリーパックを取り外せば、内蔵バッテリー保持の為十秒で強制終了しますが”


 取説見たところ、硬いガワ引っ剥がして物理ロック無理矢理こじ開けないと無理だな。

 一般的に、こいつらはどう対処するんだ?

 のじゃロリとか取り巻きに使ってたよな?


「舞原。聞いてたか?カタフラクトはどうやって制圧する?」


「起動しても、外部からの認識を誤認させればよかろう?」


 そら、そう。


「この仕様は重工の未発表の新型じゃな。何故ここに三体あるかは聞かんでおこう。多分、ID登録されていない者が近づくと警告後に防衛行動を取る。センサーは・・・。全部書いとらんな?この期に及んで何故言わんのかのう?」


 スフィアの一つがブラックアウトして沈黙した。

 やられた!


”金持!”


 金持がファージ系のサーチから消える。

 急いで橋本重工の回線を遮断する。

 貝塚の衛星も監視されてそうだな。


”金持。生きてるか?”


 スフィアの暗号通信回線を慌てて作る。

 狙撃かな?遠くに配置してたスフィアからの映像では突然粉微塵になっている。


”生きてる。直ぐ隠れた。通信はこれのみにするぞ”


 心臓に悪い。


「この期に及んで何を考えとるんじゃ?あの阿呆は」


 ロリがオコだ。


「三体あったのは、役員が着ようとしていたのか?」


「ここで試運転しとったんじゃろ。わっしら用に作った重工の虎の子かいの。グループの役員に取られるのが惜しくなったんじゃな」


 すこし黙ったのじゃロリは仕様書を睨んでいる。


「上杉は全員片付けた。中にいるとしても、寄合衆じゃろ。それより、自律行動されると手間じゃ。わっしとおのこを効果測定に使われたらちと不快じゃの」


”金持。マスターコードは?”


”見せてもらえなかった”


 こんちくしょう。

 手を吹っ飛ばされた腹いせか?

 あのイケオジ、義理堅い奴に見えたんだけどなぁ。

 タコの主導かな?あのタコはよくわからん。


「真本!やりおった!」


 何だ?!


「金持が衛星回線で丸見えじゃ!」


 最悪。


「ファージネットの掌握は?」


「やっとるわ!まだ工場全域には回しとらん。空からもったり降ろしてたのが裏目に出たの」


 ロリはこの可能性を考えて何かコソコソやってたのか?


 とりあえず、衛星回線から金持を強制切断。丸見えにしていた橋本重工の回線の機材には容赦なくDOSアタックする。

 一応潰せたが、工場内に金持がいる事がバレた。

 金持の情報も真本の奴らから渡るだろう。死に物狂いの飢えた数千人とかくれんぼする事になる。


「動き出したの。装甲に乗ったのは真本と手下二人じゃな。もう正面から叩き潰すしかあるまい」


 ん?


「タコは?」


「ブフッ」


 真面目な顔で眉をひそめていたロリが噴き出す。


「シシ。そういやおらんの?」


「見付けて、金持が捕まる前に人質にとろうぜ」


 爆音がして、掃射が近くを舐めた。

 咄嗟にロリの頭を抱えて伏せる。


「むぎゅ」


 後ろの陰も無事だな。


「鎮圧用の兵装だけなんじゃなかったのかよ」


「近くにミニガンでも転がってたんじゃろ」


 ミニガンの威力じゃねぇぞ。戦車砲乱射された気分だ。


「とりあえず、ここは居場所がバレてる。移動しよう」


 俺らは兎も角。


”荒井。カタフラクト”


”うん。見失ったからアオヤギたちに再マーキング頼んだ”


 さっきの射線から一匹はなんとなく分かる。屋内で乱反射して、レーダーもソナーも綺麗に出ないんだよなぁ。

 スフィア近づけて壊されたら困るし。

 全域にファージが行き渡れば炙り出しが出来るが、それはロリの方が得意だろう。

 カタフラクトも定点でずっと撃ってくれればスフィアに直ぐ引っかかって一発なんだが、イケオジたちもそれは重々承知なのだろう。辺り一帯に忌諱剤とスフィアからのサーチ阻害用スモークもモリモリ焚いてその中に潜んでいる。

 ああ、火の手が上がった。

 囲んで威圧していた炭田メンバーが残り少ない火力で施設の方々に撃ち込み始めた。

 混乱を誘おうとするが、残弾がイケオジからバレてるであろうこの状況では悪手だ。でも、飢えた寄合衆に好き放題金持を追わせる訳にはいかないので、邪魔程度でも撃たない訳にはいかない。

 燃えて施設が使えなくなる前にインフラ破壊したいが、金持が捕まったら色々と困る。


”金持。インフラ破壊は諦めよう?今こいつらぶっ潰すだけで今回は十分だろ?”


 返事が来ない。張り付けたスフィアが生きてるから身体は無事だと思うが。

 スフィアの映像でも動かない。


”金持?見付かったか?大丈夫か?”


”大丈夫だ。通信可能な限り、作戦は続行する”


 強情な奴だな。


”鷲宮の三男が敵に回ったのなら、今ここで殺しておかないと院で票が足りない。全面戦争する資金力も人員も今のわたしたちには無い”


 まぁ、そうなるよな。


”電力網の破壊は必須だ。ここで優位に立っておきたい”


 ったく。


”お前が居なくなったら、炭田はどうなるんだよ”


”私一人抜けても、炭田は揺るがない。ジジイも、ハマジリもいる。お前も”


 はぁ。


「舞原。お前が大事なのはどの金持だ?」


 ここは、しっかり確認しておきたい。

 失礼承知で走査全開にして、少しの情報も取り零さないよう、のじゃロリの目を睨む。

 軍服ロリは澄んだ瞳で俺を見返して即答した。


「決まっておろう。何ものにも縛られぬ金持じゃ」


 うし。


「なら。ケツ持ち頼むぞ。一仕事片付けてくる」


 チマチマケチ臭い事はもう無しだ。

 全力で片付ける。


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