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168 森の三十二人

「思ったんだが、入口に溜まってる奴ら操作元に気付かないか?」


 まだ相当数残ってるんだが。

 ピンピンしてるのが五百人近くいる。


「そりゃ気付くじゃろうな」


「対策考えてるのか?」


「おのこがなんとかするんじゃろ?」


 出来るかボケェ!


「何人いると思ってるんだ!!」


 俺の持ち弾あと五十七発だぞ。

 全部当てても一割しか行動不能にできない。

 ダメ元でファージ使うしかないな。空間内にある事はあるんだ。

 ああ。気付かれた。近い奴らが隊列組んでる。


「おい逃げるぞ」


「動いたら葛西を見付けられんぞ」


 見つける前に殺される。

 ザッと三十人いる。

 並んで動き始めた。凄い速度で斜面を駆けのぼってくる。

 異変に気付いた炭田組が火力支援してくれてる、マーカーが見えてはいるのだろうが、遮蔽物が多すぎてあまり効果が無い。


「まだ忌諱剤が充満しとるからわっしの補助は期待するでない。もうバレとるんじゃ。風は吹き寄せておこう。」


 迫りくる死。自分には豆鉄砲とアシストスーツしかない。

 ファージ操作が出来るようになるまでここで定点か。

 無茶振り過ぎて膝がガクガク震えてきた。

 落ち着け。深呼吸。

 やるしかない。


「おい陰。撃てるか?」


 頷いた陰は腰からデカいハンドガンを抜いた。

 ゴメン。聞いた俺がバカだった。

 今こいつが出来るのは、ロリの身辺警護だけだ。


 今奴らとの距離は五百メートル弱、凄い速さで近づいてきてどんどん距離は詰まってるが、林の前に鬱蒼と茂る森の斜面を挟むから、遮蔽物が多すぎて見えていても当てるのは激ムズだ。


「銃は持っとるが、全員弾切れかの?鈍器としてしか使わんだろう。弾があったら死体に隠れて撃ってきとる」


「マジで?」


 なら少しは希望が持てる。


「前に出て制圧射撃してくる」


「現金な奴じゃ」


「第一、見つかる前提でこんな敵の真ん前まで来るかよ」


 絶対見付からない予定だったのに。

 タバコ野郎の所為で台無しだ。


「見つかるまで時間を稼ぐ」


「片付けるくらい言ってみせい。戦闘プログラム組んだんじゃろ」


「アレは金持たち用だ。・・・はあ」


 深呼吸のつもりが、溜息がでた。

 そもそも運用方法が違う。こんな一対三十とかで使う戦闘プログラムではない。

 一応無線内でコールしとこう。


”前に出る”


 仕方ない。

 やるか。


 俺の背より高い茂みに飛び込み、ヘイトを溜めやすい見晴らしの良さそうな迎撃ポイント目掛けて走り出す。


”おいバカ。俺が着くまで三人とも下がれ”


 あ。青柳きてくれるんだ?

 でも、接敵までに間に合わなそうだ。

 足止め出来るか分からないが、やるだけやってみよう。




 俺の銃は、まっ直ぐ飛ぶのは百メートルだ。二百で当てる練習はしたが、中腰で遮蔽物利用しながら走って迫ってくる奴に当てられる気がしない。

 真っ暗な中、奴らに点いたマーカーがチラチラ視認出来る。

 二百まで近づいたら撃ち始める。下に降ろしたスフィアの音響操作でトラップも始めればそこそこ混乱する筈だ。

 一発目は慎重に。

 大丈夫。あいつらは大宮の盗賊共よりよっぽどやり易い。

 近接戦闘もコボルド以下だ。フェイントにも引っかかりまくるし、力が強くて人喰いのクソなだけ。


 銃剣を装着し、ハンドシャベルの抜き具合を何度も確認する。


 見通しの良い場所でやり合ったら囲まれて即殺される。

 ステルスキルが上手く通じるのは一人までだろう。

 後は、スフィアのデコイ操作と、このスーツのノイキャンと、自分が積み上げてきた格闘スキルを信じる。

 通りそうなポイントを絞って何か所かに狙いをつける練習をしておく。

 ハリネズミは自分の射線も表示させられる。


 敵地奥深くでの孤軍奮闘。

 俺一人だったらとっくに安地まで逃げているが、あのロリは俺を殺したいのか?

 身バレしてまで片付けるというアホムーブはどうなんだ?

 あいつ自身も危ないだろうに。

 ここでは全てをなげうって敵対するエルフを取りに行くのは普通なのか?

 ああ。うん。

 まぁ、そうでもしないと安心して眠れないのかな。

 あの山何個も跨いだ魔法合戦見ちゃうとな。


 奴らの先頭が二百まで近づいた。

 向かってきてるのは全部で三十二人。

 ロリは大規模操作で身バレしてるが、俺はまだ見付かっていない。

 攻撃を開始する。

 いくら見えているとはいえ、俺の射撃スキルで動いてる奴に当てるのは無理だ。

 あの脈絡の無い動きは、ファージ操作で瞬殺されるのを防ぐ為だろう。


 隠し置きしておいたスフィアでフラッシュグレネードの効果を発生させる。暗闇でのフラッシュ自体は奴らの常套手段だが、いきなりその位置で誰もいない場所から喰らうとは思わないだろう。


 一瞬止まった奴を。

 狙い。

 撃つ。

 リロード。

 移動。


 使ったスフィアは直ぐに上空に上げ、次の位置へ。


 近づいた奴を。

 スフィア起動。

 狙い。

 撃つ。

 リロード。

 移動。


 全体の動きが止まった。

 やっと俺に見られている事に気付いた。フラッシュを警戒してるみたいだが、関係ないね。


 居場所は丸見えだ。止まったなら。そのまま撃ち抜くだけだ。

 周囲の戦闘音もあるし、カービンへのノイキャンの効果も最大にしている。ほとんど当たってないとはいえ炭田の奴らの支援火力もあるから、ここから撃っているのはまだ気付かれていない。

 警戒しているのはスフィアの邪魔に対してだろう。

 奴らからしてみれば、ファージの大規模誘導してるエルフが身バレしたから周辺のファージ掌握される前に制圧しようとしたら、スフィア使ってスナイプされる。

 訳が分からない筈だ。

 そして、少ししたら、一斉に制圧されていないことに気付いて、こちらが少数だと予測して突貫してくるだろう。

 現時点で全く撃ってこないから、弾は本当に持ってないのかもしれないが、撃たれる前提で考えておく。


 七人目を行動不能にした時、奴らが動き出した。


 ここからだ。


 弾を込め、チャンバーにも補充。

 ファージを無理矢理動かしていく。

 ハリネズミだけではまだ不安なので、視認範囲でファージの認識阻害も自前で張ろう。


”おのこや?この濃さで使うと”


”知ってる”


 溶けて死ぬかもしれないが、皮剥がれて生きたまま喰われるより千倍マシだ。

 近接で二十五人綺麗に倒せる気がしないからな。


 忌諱剤を無視して、とりあえずコントロール出来る部分にめちゃくちゃに回線を張り巡らし、バグが多くて使えなそうな空間は放置隔離でオフ状態にしてしまう。体内にファージがある奴には容赦なく攻撃を行う。

 今回は手堅く、経静脈の収縮を強制的に続ける操作だ。

 勢いのある動脈と違い、静脈には弁が有るから少ないコントロールで止め易い。

 この地域のナチュラリスト共はファージで敵を制圧する時、脳内麻薬精製がスタンダードなので、この手法は訳が分からないだろう。これなら薬物耐性があっても関係ない。気を失わせる程度の事しか出来ないが十分だ。アタックかけても勘の良い奴には気付かれた。十人程、十一人だな。瞬時に昏倒する。残りの奴らは既に忌諱剤を起動していた。

 崖から降りて、急いで近づく。

 集まってこないうちに逃げ回りながら少しづつ片付けるか。


 闇に紛れ、近くを通りそうな位置で潜む。

 位置はベスト。

 慌てない。

 視覚に入らない。

 今!

 飛び出す。


 突き出したライフルの銃剣が、小走りに距離を詰めてきた中腰ギリースーツの首に吸い込まれる。

 慌ててのけ反ったそいつは、片手で首を抑えながら振り返り、突撃銃のトリガーを引いた。

 ヒヤッとした。

 弾は発射されず、反射的に指が動いただけみたいだ。

 撃たれたら当たってた。もっと慎重に位置取りしないと。


 異変に気付いた近くの奴らが警戒をしながら囲んでくる。

 デコイが多すぎてどこにいるか把握できてないな。ライトで全く関係ない所を照らしている。

 ノイキャンを細密に使っているから、環境音を消さずに俺の動く音だけ綺麗に消せている。


 スフィアを位置調整し、足元に転がっていた腐りかけの木片を投げる。

 ちょっとワザとらしい音だったか?

 気付きはしたが、警戒されている。着々と囲まれているから待つことは出来ない。

 後ろで音と光を出し、一気に近づく。

 背中から心臓を狙ったが、骨で入らなかった。

 叫び声を上げながら銃を振り回してよろけるソイツの首に銃剣を叩きつける。

 抵抗もなく振られた銃剣は、確実に首をかっ捌いた。

 まだ死んでいない。

 持っているショットガンがこっちを向く。

 いやな予感がしたので、近づきながら射線から外れる。


 耳元で破裂音。


 衝撃が左肩を叩いた。


 構わずもう一度首を刺し、膝をついた奴の頭を蹴り飛ばすと、動かなくなった。

 暗闇の中、自分の肩を見る。撃たれてはいない。

 火薬の衝撃だけで、弾は当たらなかったみたいだ。

 心臓に悪い。


 落ち着く間もなくライトで照らされた。

 相手に一人ストロボもいる。三人か。


 周囲のスフィアも使い、照らし返す。

 射撃音も使う。

 ふん。いくらチカチカ照らそうと、こっちはバイザーを降ろして、カメラも可視光視は使っていないからノーダメだ。

 朽ちて倒れた木を遮蔽に、落ち着いて。

 撃つ!

 近いけど外した!

 力んでブレた。

 五メートルで当たらなかった。

 畜生リロード。

 射線が見えたので咄嗟に転がる。


 一発撃たれた!が、今いた所の木に当たっただけだ。

 木っ端の破片を浴びながら、腰だめでもっかい撃つ。

 当たった奴は汚い悲鳴と息を吐き出し大の字に倒れた。


 ああ、もう!こいつら普通に撃ってくるぞ!?

 話が違う!


 近くに後二人。

 手をかざしてよろけている方に走り寄る。

 リロード。


 もう一人がこっちに銃を向けようとしているので、耳元で破裂音をだした。

 そいつは叫びながら音のした方を撃った。


 目の前に集中。射線から外れ、走り寄り、首を刺す。

 ギリースーツは刃を叩きつけると微妙に滑る。

 切るより刺した方が効果的だ。

 刺されながらも反撃してきた。

 銃床で上から叩きつけてくる。

 目の前で浮いてるスフィアからフラッシュ。

 射線が横切ってきたので、引き抜き、身体を捻りながら寝転びつつ金的に刺し込む。

 情けない声を出してそいつは蹲った。

 中腰で起きた俺はそいつの首をもう一度上から刺す。


 さっき誤射した奴は銃口をこっちに向けている。

 何で撃ってこない?


 奴が構えているのはショットガンだ。

 薬莢の構造上、ポリグラフの時の金持みたいに弾頭の引き出しは出来ない。

 この位置だと、避ける前に当たるな。

 気付かれないようにファージを動かす。

 ああ、駄目だ。こいつ忌諱剤を散布しまくってる。

 なんか、全身が震えているな。

 ワーム戦法使えれば隙が作れるんだが。


 もしやと思い一歩詰める。

 一歩下がった。

 もう一歩近づく。下がった。


 無いんだな。


 悲鳴を上げるソイツに走り寄り、振り上げた隙だらけのショットガンを躱して勢いをつけ銃剣を首に刺す。

 剣先が後頭部を抜けて銃口まで刃が入った。

 即死だ。

 倒れるそいつから無理に抜こうとせず、軽く倒れる方向を調整して倒れてから真っ直ぐ抜いた。

 五人、逃げ始めたな。

 あとは・・・、少し遠い二人が一直線にのじゃロリたちに向かっている。

 射線は通っている。

 弾あと何発だっけ?

 残りは、少し離れた位置に二人。こいつらは後にしよう。そいつらの射線だけ切って、ロリたちに向かう二人に照準を近づける。

 轟音がして片方の頭が無くなった。


 驚いてしゃがんだもう一人を俺が後ろから撃つ。

 三十メートルあったがしっかりヒット。

 よろけながら立ち上がったそいつに向こうからもう一度轟音が響き、そいつはすっ飛んで動かなくなった。

 あのロリ陰。結構ヤるな


 残り二人は、地面に伏せ動かなくなった。

 近づいたら撃つつもりだろう。

 さっきの崖に戻れば射線は通るが、ここから近づくと一方的に撃たれる。


 待っている余裕は無い。

 逃げ帰った奴らが応援を呼んで来るかもしれない。

 周辺に呼び寄せたスフィアのノイキャンを切り、早足の速度で回り込みながら下草の音を立てて近づけていく。

 スフィアが一つ撃たれたが当たっていない。ライトで照らしてはこない。

 行くか。


 自身にはキャンセラーを張ってゆっくり近づく。

 心臓が飛び出そうな程バクバクいっている。

 周囲でガサガサするスフィアたちをめっちゃ警戒している。

 木の遮蔽になる方向からギリギリまで近づき、銃口の向きが一番離れた時を狙い、陰から飛び出す。


 寝っ転がってる片方に、至近距離から首に一発。

 音で振り向いたもう一人の銃を蹴り潰し、顎に銃床を叩き落とす。

 ヘルメットごとギリースーツの頭がすっぽ抜け、驚く髭面が見えた。

 顎紐を締めてなかったのか。メットの意味ないじゃん。

 ヘルメット被って顎紐締めないバカは死んでくれ。

 間抜けに口を開けてるその目に向かって一発。

 目に黒い穴を開け、ビクンと震えてそいつは動かなくなった。


”シッシッシ。良き”


 振り返ると、俺がスナイプした高台からロリが胡坐を組んで顎肘ついて見つめていた。


 


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