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寝起きでロールプレイ  作者: スイカの種
第三部

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167/284

167 ステルスと心配性について

”何個か付ける。後ろの二個は好きに使え”


 フェンスを乗り越えて忍び込む黒い影を見付けて、マーカーを打ったら金持だった。慌ててテックスフィアを割り当てる。

 もうあんなとこまで行ってたのか。人ごみはどうやって抜けたんだろう。

 薄着に防弾チョッキだけ。コートを着ていないから一発撃たれただけで大怪我だ。


”スフィアは苦手だ。咄嗟に使えない”


”なら、操作ログ開示しとく。フラッシュと音響で適当に援護する。いらないコマンドはオフにしてくれ”


”了解”


 忌諱剤の効果でファージ接続はもうほとんど使えない。

 施設内部は大混乱だろう。

 風向きの所為でこっちにも少し流れてきて、ロリが面白くない顔をしている。

 ファージを位置固定すると操作してるのがモロ見えだから、整頓だけしてそのまま流すみたいだ。どうしてもガードは緩くなるから、一応俺の方でもテックスフィア越しにノイキャンを使っておこう。気休めにはなる。

 三男たちは破壊工作の為既に前線に出ており、今ここには俺とロリの他にはロリの部下一人しかいない。

 スフィアネットワークは一応ハマジリだけでも管理出来るが、もし俺が行動不能になったら何故維持できるのか疑問に思うだろう。ハマジリの存在がバレる。

 ロリは何かしてくるだろうか?

 カンガルーに対する配慮が有る事を期待したい。


”いくつか金持に付けたな?共有化してくれんかのう?”


 スフィアをか?駄目に決まってる。


”ハマジリ。そっちからのアクションはなるべくしないでくれ”


 返事がないのが返事だと思っておこう。

 炭田への接続に対する防壁が、笑いがこみ上げるくらい厚くなっていく。

 そうだな。スフィア全域の維持だけしてもらって、緊急時に指示を仰ぐくらいで丁度良い。


”お前が俺を信用しないように、俺もお前を信用していない。失敗する訳にはいかないんだ。諦めろ”


”勘違いしておるの”


 ロリが剣呑な声を出すと、連動して後ろの陰が威圧をしてきた。


”我らの間に信用など必要無い。おのこには取り立てる自信が無いだけじゃ”


 そうとも言う。


”そうだ。だから何だ”


 肯定したら間抜けな顔で一瞬黙った。

 可愛かったのは内緒だ。

 こいつはナチュラリストだ。


”おのこには矜持が有らんのか”


”そんなもの。狗に喰わせとけ”


 仲間がバカにされようと、自分がバカにされようと。

 そんな事はどうでも良い。

 他人に理解されなくとも、実害が無ければ痛くも痒くもない。

 勝手に思ってろ。


「シシ・・・」


 笑う処あったか?


”随分平和な世界から来たようじゃの”


 何故そういう解釈なんだ?

 どこがどう繋がる?


 落ち着け。

 俺の思考からスリーパーだとバレた訳ではない。


”宗家に認められたおのこが。肝っ玉の小さい事言うでない”


 その手にはのらない。


”すべて終わってから、金持の許可が出たら言う。それで我慢しろ”


”わっしに辛抱させるとは、なかなかに命知らずだいの”


 俺は優先順位を守りたいだけだ。


”肝っ玉が小さいんじゃなかったのか?”


”無知も考えものと言い替えるで”


 ガキは嫌いだ。




 言葉遊びだけしている訳ではない。

 スフィアネットワークを通じて、全員の戦闘プログラムを更新、アップデートが済んだ部隊から、この地域全体を俯瞰して、三男たちの情報を元に予めアタリをつけておいた物資の多い場所を再精査、優先制圧ポイントを割り当てていく。弾薬も食糧も無ければ、このクソ共は一日も戦えないで自壊するからな。ゲームと違って、無限に弾をバラまきながら殺されるまで生き残ってるなんてことは無い。

 施設周辺に展開する部隊から塹壕の予定建設地が送られてきたので、現状の誘導可能ファージや散らばり始めた寄合衆に合わせて若干の変更を打診した。

 確認できた奴には全てマーカーが打ってあるので、真っ暗な森のでも姿も射線も丸見えだ。多少多くても全く問題無いだろう。


 工場内の監視システムは基幹コントロールとは独立していて、入口近くの管理棟で操作が出来るのだが、設計段階でこの時の為にハシモト重工が仕込んでいたそうだ。

 イケオジ真本たちは早速掌握したらしく、内部のライヴカメラ映像が続々と送られてくる。

 施設内では、腹が減った寄合衆と、発狂したエルフたちと、家畜扱いされていた人間たちで三つ巴になっていた。

 上杉の兵装は贅沢だが、施設内で流石に持ち弾は当然少なかったらしく。あっという間に弾切れになり、逆切れした寄合衆に喰い散らかされていく。

 エルフの方が美味いのか、優先的に齧られている。

 数こそ多かったものの、統制が取れていない家畜人間たちもみるみるその生きてる数は減っていった。


”何故まだ燃やさぬ?兵站の完全破壊まで待つのか?奴ら逃げ出すぞ?”


”逃げるかな?他に餌が無いのに”


 とりあえず、とぼけておく。


 金持がネットを繋ぎ、電力インフラへの破壊工作が済むまでは、この施設は可動させておかなければならない。

 実際、もの凄い数の寄合衆が溢れ出すかもだが、工場を囲む塹壕も着々と出来ているし、なんとかなるだろ。それに、燃やし方によっては逃げ出す数が多くなってしまう。


”ふん?”


 黙り込んだ軍服ロリは、上空の操作可能なファージを細かく誘導しだした。


”何をしている?”


”言う必要があるかいの?”


 あ、いじけてる。虐め過ぎたか?

 この見た目だからあまり実感は無いが、こいつは貝塚とかスミレさん並みの権力者なんだよな?



”燃やすまで上杉を逃さぬよう網を張っておるだけじゃ。ファージ誘導可能な場に一人でも逃げ込まれると、先のアレみたいに厄介だでの”


 見つけた上杉の奴らは手あたり次第マーカーを打っている。

 サナモトたちから送られてきた従業員のシフトと照らし合わせて、確認は済んでいる。


”抜け漏れは無い筈だ。職員は全員照らし合わせた”


”ぬかせ。役員は出退勤押しとらん。想定では三人いるんじゃが、わっしもまだ見付けとらん”


”そういう事は早く言え”


 不味いな。


”聞いてたか?上杉のエルフ。施設内にマーカーが打てていない役員が三人は居るそうだ”


”出てきたら殺す”


 帽子から返信があった。

 ノコノコ出てくれば、大砲のスナイプで片付けてくれるだろう。


”該当する三人のデータは有るのか?”


「ほれ」


 ハシモトや貝塚のアクセスしている回線を介したくないのか、手を差し出してきた。

 凄く、嫌なんだが。


「おのこなあ。それは、乙女は普通に傷付くぞ?!」


 仕方なく接触部分だけデータ隔離して指先でつまんで接続したら、データ送信と一緒にしっかりハッキングしてきやがった。慌てて振りほどく。

 もうホントクソ。


「チッ」


 ちっじゃねーよこのスカタンが!


 くれた職員データは詳細な個人情報が入ったしっかりしたものだった。

 該当人物に対して、ファージもスフィアネットも貝塚の衛星とリンクしたハシモトの回線も、全部別口でネットワーク全域指定の上、走査開始する。

 見つかればそれに越したことは無い。


”引っかかった!二人は車に乗ってこっちに向かってる。一緒だ”


”早いの”


 やべ。つい言ってしまった。

 少し時間を空ければ良かった。


”残り一人は見付からないな。オフラインで地下深くに潜ってたりしたら走査出来ない”


”中で野垂れ死んでれば世話無いんじゃが、上杉は逃げ隠れだけは得意だで”


 得意じゃない奴はこの地域で長生きできないだろう。

 それに、役員クラスが臭い工場に寝泊りするか?

 ハシモト重工の図面に役員が寝泊り出来そうなハイソな部屋は見当たらないんだけどな。

 中に潜んでいる前提で考えよう。


”あいつらはどうやって隠れるんだ?”


”わっしが知ってたとして、教える訳なかろう”


 ノリで教えてくれるかなとか、ワンチャン思ってた。


「まぁ、良かろう。基本だで」


 いたずらっ子の眼でニシシと笑う。

 良いのかよ。

 知ったら殺されるとかじゃないよな?


「おのこは隠れる時どうする?」


 ここは正直に言うべきなのか?


「視覚情報に認識されない。音波と電磁波を出さない。熱放射をしない。周囲の環境との違和感を無くす。ファージへの相互干渉を無くす」


 ざっと思い付くのはこれくらいか?


「まぁそんなもんじゃろ。相手がソナーやレーダーを打って来る時はこれを返さないで誤魔化す機構も必要じゃな」


 散らばり始めた寄合衆を意味不明な手段で入口前に集めた軍服ロリは話を続ける。

 集まった奴らは、周辺の斜面に隠れて囲んでいる炭田組がカモ撃ちしているが、数が多すぎて捌ききれていない。奴ら、死体を土嚢代わりにし始めている。

 圧殺されるクソ共に少しだけ不憫を感じる。

 自業自得だ。

 人喰いに生まれた自分を怨め。


「それ以外にも沢山あるぞ?まずニオイ。後、動かなくともファージの触覚で形状から判別されるし。居たという過去の情報から居場所を特定される事もある」


 言われてみればそうだ。至極当然だ。

 知覚と情報に関する全てから認識されなくする事で初めて完全に隠れる事が出来る。


「わっしらが隠れる手順はきらびやかな魔法ではない。そう特別な事をしている訳ではない。見つかる可能性を一つずつ潰し、一つずつの作業の完成度を高める。その積み重ねの差が実戦に出てくるというだけの話」


 俺、イベント戦で確定でドヤ顔しながら颯爽と逃げる敵が大嫌いだったな。

 当時はその演出だけでそのゲームが嫌いになった。


「六日町ではあと一人が何故見付からなかった?」


 ロリはその答えを既に持っていた。

 頷き、目の前の木の葉に光る夜露へと指を這わす。


「全ての家屋の天井裏から蟻の穴まで調べた。でも、街中を流れる渓流の中はよう調べなんだ。仮死状態で潜まれたら、ファージで見付けるのは一筋縄ではいかんの」


 流れる水の中ではファージの固定は不可能だ。

 調べるにしても、ファージ誘導だけでは、あの川の流れの中では音もオブジェクトも多すぎて、俺にもいい方法が思い付かない。

 銀行の時の流動パラフィン程度だったら、自分が浸ってればなんとか判別できるだろうが、遠距離だとエネルギーが足りないからどうしようもない。


「現地で明かりで照らしながら視認すれば気付けたかもしれん。でもわっしは行けなかったし、カメラを飛ばすという考えにも至らなかった。結果、見逃した」


 相手の使ってくる知覚だけ誤魔化せば、それは消えたのと同義だ。


「今回は?」


「流石に、風呂に水張って潜ってれば気付くわ」


 だよなあ。


「施設内にいると仮定して。ファージが薄い内に無力化したいよな?」


「当然じゃ」


 何か無いかな。

 今、施設の中は死体の山だ。

 寄合衆同士でも血みどろで殺し合っているが、派閥でもあるのかな。

 死体に紛れて死んだふりはよくあるが、生死確認は必ずされると思ってるだろうし。

 そうだ。


「匂いはどうなんだ?エルフは寄合衆みたいに悪臭はしないんだろ?臭い奴全部除外すればどうだ?」


 高級な香水とか使ってないのか?


「生皮被ってたら見分けがつかん。それに生肉喰う奴はどいつも口臭は公害じゃ。しかし。うん?」


”真本よ。上杉の執行役員で青い箱の紙巻を吸っとた奴がおるじゃろ?”


”カ、葛・・・西・・・、殿で、すな?”


 通信状況が悪い、入り口前の管理棟にいるのかと思ったが、結構奥まで入り込んでるっぽいな。

 カメラに移っていない、スフィアでも感知出来ないのでどこにいるのか分からない。


”銘柄なんじゃったかの?”


”歴・・峰の空で御座・・・ますな”


「歴峰、グレードが空。台湾からの輸入品じゃな」


 ロリの流し目が一瞬顔を出した月の明かりでキラリと妖しく光った。


「わっしはタバコのデータベースなど持っとらん。おのこはどうかいの?」


 貝塚の回線から都市圏にアクセス出来る。

 国内のタバコを総括しているタバコ産業開発機構のデータベースからニオイの成分表示を検索。

 分子構造は何種類かに別れていて、合致する成分構成を抽出。

 ゲジゲジのフェロモンと同じステップだ、懐かしい。ファージの誘導による検知しかやった事無いんだが、これはどうすっかな。

 今、今の俺の技術力では施設内のファージ操作は不可能だ。

 ロリに聞いてみるか。


「出そろったからデータ検出で特定は可能だ、可視化も出来るが、ファージ誘導でしかやった事無い」


「見せい」


 仕方なくまた手を差し出すと、ギュッと握ってきた。

 グローブ越しに人差し指と中指を握ってきたが、今度は何も悪戯してこなかった。


「ふんふんふん」


「あ」


 施設上空に展開していた霧状のファージが全体に被さっていく。


”ちょっと。接続されたらどうするんだよ!”


”それはそれで、わっしが止めを刺すだけじゃ”


 それもそうか。

 降ろしてるファージ全部こいつのコントロール下だ。

 見敵必殺するだろう。


 金持が何するか知りたいというのもあるのかもな。


”金持、気を付けろ。舞原が全体にファージを被せている”


”了解”


 一応、スフィアの回線で金持に注意喚起したが、何をどう気を付けさせれば良いのかも分からない。


”寄合衆が自前で忌諱剤を撒くと手間だで、そっちに手は出さんぞ?”


”だな”


 潜入しているカンガルーは兎も角。誰もロリに返事をしないので仕方なく俺が返した。

 炭田の奴らはほんと協調性が無いな。


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