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寝起きでロールプレイ  作者: スイカの種
第二部

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117/298

117 ゲーム

 急速な人口増加に対応できるシェルターの数が全く足りなくなり、大宮市役所地下に超巨大防空壕が作られ始めた。これが規模がとんでもない事になっている。


 俺のサルベージが順調に増えている成果で、例の如く企業誘致が爆発的に増え、大宮の地価は毎日上がり続けている。地上は既に開発しつくされ、後は上に伸ばすか下に拡張するかという話で、上に伸ばすと日照権の確保の為の大宮側のコストも増えるので、既存の地下市民登録者に権利の発生しない四十メートル以下の地下にしたそうだ。都市圏議会がスリーパー成金だった熊谷をターゲットにした事もあり、次の肉嵐が大宮へ誘導される可能性は十分に考えられるからだ。

 赤城山山頂に浮くショゴス雲は毎年すこしずつ増え、いずれまた決壊する。

 その時に準備が出来ているのといないのでは、出来る話も違ってくる。

 データセンターもある要衝なので大宮に誘導したがるバカは居ないと思うのだが、圏議会は何を考えているのか分からないからな。

 

 今回、私用で開発中の区画に入らせてもらった。演習場や駐車場の他には、貯水池や駅までの直通通路と搬入路くらいしか無かったが、渋谷ダンジョンを彷彿とさせる完成予定図だ。

 まだは基礎工事の段階で、外殻放水路を思わせる地下の広大な空間に巨大な杭が大量に打ち込まれていく様子が見学できた。

 といっても、巨大なホールハンマーをドッカンドッカン打ち込むのではない。振動掘削によってメタセコイアの何倍も太い杭が金属製の巨大な臼の中で穿孔しながら沈んで行き、杭の周辺の地盤を同時に固めて掘り進めるツツムシ工法というらしい。凄く静かだし、身体に振動も感じられない。

 大宮自体、大宮台地という固い地盤に乗っかっていて、市内に断層がほぼ存在しないので、地下区画を断層による地割れ前提のブロック式基盤にしなくて済むからメリットしかないと説明を受けたが、俺に対してそれを説明するのってつまりそういう事だよな?

 まぁ、熊谷みたいな事してこない限り当分ここに籍を置くつもりだ、二ノ宮のアジトもあるしな。

 今の所、大宮以上の安地は存在しない。


「元々ここは、市警の演習場として可動していたのですが、今回の開発計画を受けて基盤構築の最適スタート地としてつい先日選定されました」


 ドカヘルを被って熱心に説明するのは、大宮の議員二世。

 若手のホープと名高いらしい。

 長い黒髪をポニーテールで緩く後ろに流した、少し棘のある系の可美村係長って感じだ。声が立体的でツネりがある、歩き方に癖があるのに気付いた。

 脚に目をやったのは一瞬だけだったのだが、目敏く気付かれた。


「お見苦しく申し訳ないです。案内には支障はきたしませんのでご了承頂けますと幸いです」


 後遺症か。

 表情に陰りは見られないから、もう精神的には問題ないのだろうか。


「問題ない」


 ここに来たのは、見てみたかったというのもあるが、目的は別にある。


 興味はあったが期待していなかったエルフ舞原の彼氏のスリーパーと面会の段取りが早々に付いた。

 場所はこの元演習所の中央に造られた特設トレーラーハウスの中だ。

 これは、回復したスリーパーの強い要望によるもので、話す内容に関しては細かく知らされていない。

 この場所は市役所の直下に当たり、市役所設立以降最大の警備が行われている。




 スリーパーが直接会って話すという事は、ここ百年くらい公式には行われていない事になっている。

 誘拐やテロの標的になりやすいからだ。

 前回の時は歴史的な事件にもなったが、サルベージがまだシステム的に下火で、スリーパーがまだその価値を正当評価されていなかった事も有り、珍獣扱いされていた。

 その時ですら、厳重な警備の中テロが多発し、国家主導の誘拐作戦が何件も起こった。

 百年近く前、まだオランダがあった頃、ハーグでアンライター人権サミットという、移動可能なスリーパーが一同に会して話し合う場というのが設けられた。

 世界を上げての一大イベントで、当のスリーパーたちも楽しみにしていただろう。

 だが、ハーグに現地入りした彼らは集まることなく、サミット直前に塵になった。

 過激派の自爆テロにより、戦術核で街ごと消えた。

 以降、スリーパーの人権に関する話はヨーロッパでタブーとなり、日和った人権派団体はスリーパーをヒトから除外した。

 陰謀論も多く囁かれ、真相は分からない。

 近年、生体接続者によるアカシック・レコードのサルベージが金鉱だと知れ渡り、利権とそれに類する非人道的扱いが目立ってきた為、スリーパー保護法が布かれるまで、脳缶か豚扱いされてきた。ざっと調べただけでも酷いものだった。


 俺が籠原にいたのは運が良かった。

 最近起きたのはたまたま運が良かった。

 つつみちゃんに見付けてもらったのも運が良かった。

 幸運の綱渡りの上に今の俺がいる。




「あそこのトレーラーハウスです」


 大量の高輝度LEDに照らし出された地下空間に大量に行き来する大型ダンプ。その中の砂利山の一角に、装甲車に囲まれた十トントレーラー停まっていた。

 ホープ二世が指し示すトレーラーは分厚い複合装甲版が片面だけ持ち上がっていていて中はガラス張りで見えるようになっている。

 俺らに気付いて手を振る車椅子の男性と、後ろに控える四耳エルフ、あと、猫顔の法務部としゃべっているのは・・・、貝塚の佐藤だっけ?

 あれー?なんか毛色が違うから別人かなぁ。

 猫顔は特徴が見分けにくいな。

 もう一人は、金属袋だな。三十二番か?

 又なのか?


 一応、礼儀としてアトムスーツはフルセットで起動しておく。

 中に入るドアを開けた金属袋に一声かけると。


「覚えておいででしたか。お久しぶりです」


「前回は臨時のアドバイザーだった気がするが」


「お陰様で昇進しました」


 おお。良かったな。


「番号が繰り上がったのか?」


「クフッ・・・。失礼しました」


 佐藤がげっぷをしたのかと思ったが、笑ったらしい。

 ヤバ。これじゃ只のクソ野郎だ。


「済まない」


 本名だったのか。


「いえ。場も和んだ事でしょう」


 三十二番も苦笑いしている。


 大人で良かった。

 車椅子のおっさんがクスクス笑っている。

 その後ろのエルフは慈愛に満ちた目をおっさんから離さなかった。


 佐藤には目礼だけして。あ。やっぱ佐藤だった。イメチェンかな?

 んじゃ、メインに挨拶するか。


「ご足労申し訳ない。横山だ」


「初めまして。山田です」


 おお。この感覚よ。


 例のごとく、事前情報はほとんど無い。情報は伝達が発生した時点で流出の危険と隣り合わせになり、スリーパーの情報は流出イコールテロの原因となる。

 この会合も直前で知らされた。

 知っていたのはこの男と、セッティングを担当した貝塚、スミレさん、三十二番、佐藤。以上。

 この徹底ぶりは清々しい。


 男は、やつれていたが、どこにでもいそうな人の好さげな少し垂れ目の中年男性だった。


「思っていたのと違いますね。自衛官かミリオタかと思っていたのですが、いや失礼。こんな若い子だったとは」


「多分、あなたより年はいってるんじゃないか?」


 男は優しく微笑んだ。


「ああ、アンチエイジング世代ですか。これは御三家が目の色を変える筈だ」


 不穏なワードが。


「俺と話したかったのはナチュラリストの勢力圏の話か?」


「申し訳ない。少し測るような切り口でしたね」


 後ろ頭をエルフに小突くかれている。


「私たちを助け出してくれてありがとう。心から感謝します」


 頷いておく。

 成り行きだが、助けられてよかった。


「私は元々ナチュラリストの勢力圏で起きたのでね、この世の地獄とはここの事かと絶望しか無かった」


 そりゃ、奴らの勢力圏にも冷凍睡眠施設はあるだろうな。

 やはり利用されているのか。

 まぁ、それであんなになってたんだもんな。


「ゆうこさんに会えなければ、もっと早くに死んでいたでしょう」


 首を振る四つ耳エルフはゆうこって名前なのか。

 因果関係は気になるが。

 俺らの発言はどの程度今後に影響するんだろう。


「ちょっと待ってくれ。ナチュラリスよりは穏便だろうが、都市圏でもスリーパーの扱いはピンキリだ。保身はしっかりしないと酷い目に遭うぞ」


 互いに情報をボロボロ出すのはよろしくない。

 そもそも、この男がどんな奴で、何を考えてこれのセッティングを求めたのか良く分かっていない。


「横山さん、あなたの懸念点は分かります。前置きが不十分でしたね。私たちはあなたに害意を持ってはいない。以降迷惑をかける気も無い」


 言葉では何とでも言えるしなぁ。

 こいつがぶっ壊れてて実は虎視眈々と人類滅亡を願うサイコ野郎だったら目も当てられない。

 遺伝子錠は使えないらしいが、過去の技術はそれだけではない。


「俺は、保身や利権に拘るつもりは無いが、恩には報いるし、仇は返す」


 そもそも、スリーパーが集まるのが危険なのを知っていて何で俺に会いたいと思ったんだ?


「はっきりとそう言えるあなたが羨ましい。これは。興味。と。お礼と、・・・ケジメですよ」


 俺の顔を見て苦笑いしている。


「横山。山田に他意は無い」


 後ろでエルフが真顔で口を挟む。

 歯がきれいに揃っていた。治したんだな。


「社会も思考も昔と様変わりし、昔を思い返したい時もあります。例え、一度だけでも」


 懐古か。ついこの間、殺し屋とそんな話をしたな。

 俺とサワグチみたいな関係は凄く恵まれたパターンなんだろう。


「懐古は、脳の機能らしいぞ?経験していない事でも懐かしく感じるようになっている」


「ほう」


 なんだろう。キモくない。このおっさんの”ほう”は品がある。これが育ちの差ってやつか。


「俺も、始めはここはゲームの中だと思った。日常から隔絶された非日常だと。怪我は直ぐ治るし、魔法があるし。昔の日本から比べて命が軽すぎる」


「山田も起きたての頃はヤンチャしてた」


 四つ耳が溜息をついている。


「世界全てが敵でしたからね」


 武勇談でもあるのだろう。興味はあるが、ここでは聞けない。


「あなたはスリーパーの中でも成功者だ。これからの道筋を決める上でぜひ参考にさせてもらいたいものです」


 未だに、選択一つミスっただけですぐに死にかけてるけどな。


 一つ、気になっていた事がある。


「一つ、聞いていいか?」


「なんでしょう」


「イニシエーションを受けると、共有化されると聞いている。俺らが話している内容は筒抜けじゃないのか?」


 ルルルの時も、気にはなっていた。

 一応遮断されていたし、つつみちゃんが気にしていなかったので星川の谷間でのお茶会の時はスルーしたが、あの部屋見せられた後だと不安しかない。


「この頭の中は全部自分の肉だ。接続は切ってあるし再接続するつもりは無い」


 怒りの所為か、四つ耳の声が硬い。あの時の剣幕も、今言いたい事も分かるが、本当かどうかは俺には判断できない。


「裕子さん。彼が言いたいのはそういう事ではないよ」


 今にも噛みつきそうだった四つ耳は、車椅子を握る自らの手にそっと置かれた山田の手ですんなり黙った。

 ファージが無いからはっきりとは分からないが、何か接触通信したな。


 三十二番も佐藤も何も言わないが、俺がここで誰にも相談できず一人なのはイーブンな話し合いじゃない。別に争うわけじゃ無いが、スミレさんはどう考えているんだ?

 貝塚も黙ってみている筈だ。

 女王は二人とも、俺がどう考えるかはどうせ手に取るように分かってる。

 この状況は俺にとって問題にならないと考えているんだ。

 この場のセッティング自体が俺へのお礼みたいなものなのだろう。

 評価がどっちに振れてこうなっているのか気にはなるが、とりあえず、状況が動くまでしたい話を続ける。


「私が危険なのではないか。測りかねているんでしょう」


 俺も測りかねてる。


「眠る前は何をやっていたんだ?」


”山田はよくぞ聞いてくれた”といたずら小僧の顔でニヤリと笑った。


「ゲームのレベルデザインをしていました坂東システムってご存じですか?」


 マジか。

 知っているも何も。


「当時、あそこから出ていたS・RPGは全部やった。二作目が一番面白かったな」


「嬉しいですね。ツヴァイは私がフルディレクションしました」


 三作目まで神ゲーだった。


「四作目から作業感と絵面だけの凡ゲーになったな。スマホ向けの紙芝居ポチゲーは酷かった」


 山田は複雑な表情で乾いた笑いを漏らす。


「丁度、三作目出した後資金繰りに迷っていた時、大手に子会社化されましてね。課長以上が全部本社の人間に代わって私共に決定権が無くなってしまったんですよ」


 ゲームニュース系の動画でそんな事言っている奴がいた気がしたな。


 レベルデザインは当時、評価基準としてあまり重要視されていなかったが、ゲームの面白さの根幹に関わってくる要素だ。

 ストーリーやキャラ、グラ、モーションなど目立つ要素とは違うが、プレイヤーを愉しませる為に様々な総合知識が求められる。

 プレイヤーをどう誘導し、どう楽しませ、どうやって遊ばせるか。


「あの時、一番初めの全体会議で、本社の部長だった若い子に虚数グラフや言語見せられながらこれが分からない只のゲーマーにゲームは作らせないとドヤ顔で言われて、内容がスマホ向けのチープな文章とかだったので、それで私ら全員即退職を決めましたからね。それからは退職まで惰性で動いてました」


「なんか、良くある話だな」


「作品は残ります。私の名前が消せないのが恥ずかしい」


「俺が眠る直前くらいは、ゲームエンジンはかなり優秀だって聞いてたぞ?」


「ええ」


 山田は、車椅子に背を預けると目を閉じた。


「物理演算やイベント管理、マップ生成もエンジン任せでそれなりのモノが造れる時代でした。作り手が表現に迷う時代だった気がします」


「猿真似ばかりで遊び心を持たない奴が考えた遊びが、面白い訳がない」


 俺は、どちらかというとクソゲーマーだったが、年代的には眠る直前までゲームにのめり込んでいた。

 人生で大切なことは、全部RPGから学んだ世代だ。


「耳が痛いです。その後、転職したメンバーの一部で集まって、片手間にインディーで動いていたんですよ」


 それは知らなかった。


「好き放題やっていたので売れたり売れなかったりでしたが」


「何て名前だ?」


 気になる。


「・・・。忘れました」


 いい年こいたおっさんが何を恥ずかしがっているんだ。

 四つ耳が山田の顔を覗き込んでいる。


「もっとちゃんと見せて」


 羞恥プレイを喰らっているおっさんを見ても誰も得しない。

 砂糖吐きそうだが、幸せそうだから許してやる。


「私が起きた時、自分の環境に絶望しましたけど、同時に歓喜しました」


「ゲームの世界みたいだから?」


 山田はクスクス笑った。


「理知的なゴブリンや戦闘狂のコボルド。私たちの時代に美化されていたエルフは現代では悪の権化だった」


 オークは傭兵によく見かけるが、ゴブリン種には知り合いは居ない。

 ナチュラリスト圏には多いのかな。


 そうだ。

 聞きたかったんだ。


「エルフの魔法ってどういうものがあるんだ?」


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