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8話 あんなのが最強なんですか?

「食いすぎた......もう動けん」


 どう考えても多すぎた料理を消費するためにコトは儂以外の冒険者にも何かと理由をつけて食べさせていた。それでも一人当たりの消費量は多く、若い男だということもあって無理やり気味に料理を詰め込まれた結果、しばらくはグロッキー化していた。

 

「いやぁメイルと一緒だとつい頼みすぎちまうな!」

 

「毎度ありがとうなんだけど流石に限度あるよぉ......」


 儂と同じく、椅子から動けなくなるほどしんどそうにしていてるメイル。それでも御礼を言うあたりに人柄がうかがえる。奢ってもらった立場でも言うことを言う気の強さがあるのも好ましい。


「ところでナルは、この後どうするの? 宿屋に直行?」


 机に伏せた状態で顔だけをこちらに向けたメイルが尋ねてくる。

 正直全く考えていなかった。しかしこれからここで生きていかなくてはならないし、宿屋暮らしだとしても生活拠点は必要になる。そのあたりのことをメイルに聞いてみるか。


「宿屋って長期滞在できるのか? もしくは貸家があったりするんだろうか」


「都市部なら冒険者が長期滞在できる場所も多いんだけどねー、この辺は持ち家が多いし宿屋も一泊ごとかなぁ」


 何度かそれっぽい話をしていたが、ここは割と田舎なんだな。ここで飲んだくれている冒険者たちにも帰る家がちゃんとあるわけだ。冒険者業も、名前の通りの冒険や出稼ぎといったイメージではなく自治や自給自足の考えに近いのかもしれない。


「ちなみにメイルの家は?」


「ボク? ボクは出身がここじゃないから、いまはラツハさんのとこに居候中。森で会ったひと覚えてる?」


「あの体と話し方はそうそう忘れられるものじゃないな」


 ゴブリンが使っていた棍棒を片手で握りつぶしたのも相まって、おそらく一生忘れられる相手ではないだろう。


「ふふ、たしかにね。それでどうする? もうやることないなら宿屋まで案内するけど」


「ちなみになんだが200レミスで泊まれたりするか?」


 食い疲れでこれ以上動きたくはないのだが、今の手持ちは雀の涙ほど。スエデを呼んだときは冒険者登録をすることだけを考えていて、その後のことなんて気が回っていなかった。

 というか、やっぱりこの身一つでいきなり異世界に飛ばされて無一文で生きていくなんて不可能じゃないか。どうなっておるんじゃあの自称女神は。

 

「まっさかー! それっぽっちじゃ簀巻きで野宿だよ」


「じゃよな......よしもう一度呼んでブチギレてやる」


「え、誰に怒るのかはわからないけど......もしかして本気で200レミスしかない?」


「そう、本気」


「うーん......じゃあとりあえず一泊分くらいはすぐに稼げそうな依頼探してみよっか。運が良ければ残ってるかも」


 なるほど、その手があったか。日雇い労働のシステムもあるなんて冒険者は割と異世界人にも優しく設計されている。それはそれとして女神さまには生き抜くための知識くらい授けてほしいもんじゃが。


「いい案だ、正直まだ動きたくないが」


「ナルってあんまり危機感ないよね。おっとり? 達観? なんていうんだろ......」


「なるようになるもんだ、野宿になったってまあ大丈夫だろ」


「そういって、何人もの冒険者が襲われて......!」


 少し大げさにおどけてみせるメイル。


「忘れとった......ゴブリンとかうろついてるんだったこの辺り」


「そういうこと、人里近くには現れないと思うけど野宿はおすすめしないよ」


「仕方ない、動くか」


 そんなこんなで重たい腹をさすりながら、ギルドまで移動してきた。

 

 ギルドの中には鎧に身を包んだ男や杖を持った女性、おばあさんから少年まで実にいろんな人がいるがその中でも特に目立つ人がいた。

 ガタイのいい男たちも多い中で、さらに頭一つ抜ける高身長と胸板の厚さ、そしてそれに少しばかりとっつきやすい印象を与えるエプロン。


「あれ? ラツハさんだ」


 森で出会った、怪力の大男と再び遭遇してしまった。


「あら二人とも、もう町は見てまわった?」


「ここと酒場くらいかな、コトさんにご馳走になっててさ」


「充分ね、この町で見る場所なんてそれくらいだし......それはそうとあーたこれからどうするの?」


 話を振られたので改めて挨拶をする。

 

「ナルと名乗って冒険者として生きていくことにしたよ。改めてよろしく頼む、ラツハさん」


「よろしく、あーしがやってる『喫茶はつらつ』もご贔屓に」


 そういえば、最初に出会ったときに本職はマスターだとか言っていたっけ。喫茶店で優雅にお茶しながら新たな出会いを求めるのも悪くないな、今度利用してみるか。


「冒険者になったならちょうどいいところにきたわね、依頼受けてくれない?」


「本当か! 助かるよ、ちょうど今夜の宿代にも困ってたところなんだ」


「それじゃついてきて頂戴、メイルちゃんも一緒だと嬉しいわ」


「はーい」


 ラツハさんに連れられて来た喫茶店の裏手には大きな荷車を積んだ馬車が停まっていた。

 それを見て、メイルが最初に口を開く。

 

「ほえーいったい何頼んだのラツハさん? この量の荷物なんてそうそう見ないけど」


「あーしも最初は送り先の間違いかと思って確認したのよ? でも全部ここで合ってるって......多分発注を間違えたんでしょうけど、桁を3つ間違えるなんて初めてよ......」


「それじゃ、荷解きと仕分けをすればいいのか?」


「そういうこと、いきなりのお願いだから疲れる分ちゃーんと報酬は見合ったものにするわ」


「ボクは?」


「店の中に業者さん待たせてるから配達物のリストをもらってきて頂戴、その後は店番任せていいかしら」


「りょーかい! 今日は勝手に食材使っていい?」


「そぉねぇ......これだけ届いたし、オリジナルでもいいからできるだけ捌いてくれると助かるわ」


 メイルは上機嫌に店へと入っていった。あの人当たりの良さだ、接客業も得意なのだろう。


「じゃあとりあえず、中身の確認からお願いできるかしら。あーしだと流石にこの中は窮屈で......」


「あいわかった」


 あまり待たずして、リストを持ったメイルが出てくる。

 

「それにしてもたくさんだね」


 リストを見ると品名、個数などが3枚の紙にわたって羅列されていた。


「かなりいろんな種類を頼んだんだな?」


「おかしいわねぇ? 疲れてたのかしら......まあいいわ、確認してきて頂戴」


「了解だ」


 荷台に上がると、薄暗いもののなんとか文字は読めるくらいの明るさで、リストを上から確認していく。


「茶葉と......野菜類と......酒多いな」


 リストを読み進めていくと後半がほとんど酒類で埋まっていることに気づく。荷台の奥の方は樽で占領されており、おそらくそれらはすべて酒なのだろう。

 そして、大量の酒よりも目を引くものがあった。リストの最後尾、そこまでとは明らかに書体が異なる字で『ふとん』と記載されている。


「ふとん? 食料、酒ときて最後に布団?」


 あたりを軽く見回しても見当たらない。可能性があるとしたら、どこかの下敷きになっているか大量の酒樽の奥だろうと思い、身を乗り出して奥を覗き込んで唖然とした。


「頭が生えておる......」

 

 確かに布団はあった。

 ただ、丸められその上から縄で縛られた布団の中心には、人間の頭部があった。肩のあたりで切りそろえられた黒髪でおそらく女性だろうが、ぴくりとも動かない。


「簀巻きにされた、死体......!!」


 最悪の可能性が頭をよぎり、背筋が凍り付いていくのを感じた。


「ん、着いた......」


 しかしその予感は簀巻き人間本人によって否定される。


「あっつい......ちょっとそこのひと、早いとこ出してくれると助かる」


 声の主は、明らかに寝起きでかなり不快そうだ。

 儂は大慌てで荷台を降り、ラツハさんへ駆け寄った。


「ひと、人が! 中に人が!!」


「ひとぉ? ちょっと見せてみなさい」


 そういうとラツハさんは巨大な体躯を折りたたんで荷台に上がる。外から様子をうかがい知ることはできなかったが、少しして影から笑顔のスキンヘッドが現れた。


「心配いらないわ、あの子ならこのくらいしてもおかしくないから」


「知り合いなのかラツハさん?」


「あの子はシエル、あーしとは旧知の仲で世界最強の剣士よ」

ご覧いただきありがとうございます!

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