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6話 女神の力はそんなもんですか?

「もしかして私のこと呼びました?」


「ああ、呼んだとも」


 いつの間にやら背後にやってきたスエデはどこか不安げな顔をしている。


「もしかして病室のお爺さんですか?」


「ああ、そうだとも」


 儂の正体がわかると、いくぶんか頬を緩ませてこちらに2,3歩近寄ってくる。

 いや、なんで転生したら顔で判別つかなくなってるんだよ。アフターフォローの話どこいったんだこやつ。


「よかったぁ、まったく、私がどれだけ心配してわざわざ降りてきて飛び回ったか......って、もしかして怒ってます?」


 儂の表情の奥から何かを察したのか、少し汗を浮かべて尋ねてくる。転生したかと思えば森の中に飛ばされ、命の危機を味わい、独自の通貨があることすら知らされず、当然怒っていないわけがなかった。いくら愛らしい顔つきをしているからと言ってお茶目でかわいいのラインはとっくに通り越している。


「怒髪天を衝く勢いだとも」


「軽くでいいんで、理由だけ教えてもらっても?」


 まさかこの娘、自分がおこられている原因が分かっていないのか?


「冒険者名とはなんじゃ?」

「あれ、言ってませんでしたっけ?」

「レミスとはなんじゃ?」

「お金ですけど......言ってませんでしたっけ?」


 『言ってませんでしたっけ?』が多い! こやつあれじゃ、会社とか組織とかで後輩のうちはかわいいと思っていたけど昇進したとたんにその下の指揮系統がめちゃくちゃになる部類のバケモノじゃ!!


「儂、無一文なんじゃけど?」

 

「何もしてないのにお金が手に入るわけないじゃないですか、お仕事しないと」


 顔色一つ変えずにスエデは答える。

 

「履歴書すら作れんが、いいのか?」

 

「履歴書なんていらないですよ、元の世界とは違って、冒険者登録さえすればそれが身分証明書みたいなもんですから」


 すっとぼけた返答にげんこつが飛んだ。


「いたい! なんでぶつんですか!」


「冒険者登録が無料でできると思っているのか?」


「たかだか300レミスですよぅ! そんなにケチケチしなくたっていいじゃ」


 二度目のげんこつが飛んだ。


「今まで1レミスでも入手できる機会があったか?」


「ぐすん、だって、ぐすん」


「おい泣くな」


 不甲斐なさからか痛みからか、スエデは両目に大粒の涙をたたえてその場に座り込んでしまった。

 地面の汚れなんて全く気にかけず、とうとう自虐的になってしまう。


「どうせわたしなんて、何やらせても駄目な女神見習いですよ」


 そこまでされると泣かせた身でありながら若干の罪悪感が芽生えてきた。


「いや、そんなことはないと思うぞ? ちゃんと儂のことも転生させてくれたし、きっと今回も何とかしてくれるんじゃろ?」


「お金ならありません、そんな欲の塊を女神が持ってるわけないじゃないですか」


 フォローを入れてやると、まだ涙声ではあるもののふてぶてしさが戻ってきたような気がする。

 スエデでどうすることもできなかったら、いよいよ野垂れ死ぬか愛しのメイルに金の無心をするほかなくなってしまうのでここは大人の余裕をもって下手に出てやることにする。


「ど、どうにかできんのか?」

 

「こうなったら最終手段です、ちょっと待ってください」


 そう言うと、スエデは目を瞑り人差し指をこめかみにあてながらうんうん唸り始めた。


「おい」


「今話しかけないでください、集中してるので」


 少し待ってみると何やら神聖なオーラみたいなものがスエデの周りに集まってくるのが見える。

 次第にスエデの体は輝きだし、まるで女神のような慈愛に満ちた笑みをこちらに向ける。ゆっくり立ち上がると振り返ってさらに人気のない方向へと歩き出した。


「お、おい......どこへ行くんだ?」


 声をかけても返答はない。しかし、どう考えてもただならぬオーラを放っていることは確かだ。これは何かとんでもない価値のあるものを恵んでくれるとか、一生遊ぶのに困らない金銀財宝のありかまで案内してくれるとか、そんなイベントを期待してもいいんじゃなかろうか!

 

 期待交じりにスエデの後をついていくと、少し歩いた後に道路脇の暗がりにしゃがみこんだ。


「どうした? 大丈夫か?」


 相変わらずこちらの呼びかけには応えない。

 スエデは少し地面をいじるような様子を見せて、そこから立ち上がると右手を高らかに掲げる。


「あったぁぁぁっ!! 500レミス!!」


 よく見ると、スエデの右手の先には金色に輝く一枚の硬貨が握られていた!


「いま、拾った?」


「これぞ女神の力の神髄ですよ! 幸運なんて引っ張り出せばいいんです!」


「拾ったよなそれ? いまそこから拾ったよな?」


 女神の力だのなんだの騒いでいるが、儂の目にはどうにも暗がりに落ちていた硬貨を拾い上げたようにしか見えなかった。

 え? 女神の力ってそういうもんなの? 悪しきものを払ったりとか儂に特別な力を授けてくれたりとか、そういうんじゃなくて『あ、ラッキー』程度で済まされるようなもんなの?!


「そんなことに女神の力使っていいんか?」


「こほん......これは今のあなたに必要な物でしょう。使い時はよく考えるように」


 いままで大声で叫んでいたのを取り戻すかのようにおしとやかなしゃべり方で取り繕うスエデ。

 そんなしゃべり方ひとつで惑わされてたまるかと、きちんと硬貨を受け取ってから渾身のデコピンをかましてやった。


「なにするんですか! なにするんですか!!」


 おでこを押さえながらしゃがみ込むスエデはいつの間にか神々しいオーラも消え失せ、ぽんこつオーラとさっきまでの調子をすっかり取り戻していた。


「なーんでお前さんが助けてやったみたいな雰囲気を出しておるんじゃ! もとはと言えばお前さんの説明不足が原因じゃろうて!」


 そう言い放つとスエデは痛いところを突かれたというのを表情ににじませてしおらしくなる。


「それは......そうでした。ごめんなさい」


 肩を落とすと同時に、後ろの羽も元気をなくしたように畳まれる。

 感情表現が全身に現れてしまうあたり、まだいろんな面で未熟なのだろう。そんな態度をとられてしまっては怒るに怒れない。、孫のいたずらを叱った時を思い出してしまったではないか。


「なにはともあれ、これで冒険者登録ができる。そこはスエデのおかげじゃな、助かったよ」


「......はい! それはよかったです!」


 やはり可憐な少女は笑っているほうがいい。


「そういえば儂のことを探しておったとか言っておらんかったか? わざわざおりてきて飛び回っておったとか」


「そうでしたそうでした。恥ずかしながらお名前を聞いていなかったことを思い出しまして」

 

「これは失礼した、お嬢さんの名前だけ聞いてこちらが名乗っておらんかったとはの。儂は鳴上佑悟じゃ」

 

「改めてよろしくお願いしますね、鳴上さん」


 流れで右手を差し出すと、両手でしっかりと握り返してくれた。


「ところで冒険者になるんでしたら、冒険者名はもう決まっていますか?」

 

「あーそうじゃな......ナルとでも名乗ろうかな。将棋の成るともかかって縁起よさそうじゃろ」

 

「そうですね? ではナルさん、ご活躍を応援してますよ」


 どうやら、将棋のたとえは伝わらなかったらしい。いまどきの若い女の子は知らなくても無理ないか。わずかに締まらない感じを覚えつつも、正式に冒険者登録をするためにギルドへの道を戻ることにした。

 スエデはこの後も用事が詰まっているらしく、自身の多忙さがどれくらいのものかを必死に熱弁してから名残惜しそうに飛び立っていった。

さらっと女神見習い自白......! それどころじゃない主人公......!


ご覧いただきありがとうございます!

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