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2話 ほんとのほんとに女神さまですか?

 気が付くと、あたり一面に何もないただ真っ白な場所にいた。


 果ての見えない白だけに覆い尽くされた世界を、心地よいとは言い切れない浮遊感と共に漂っている。


『ここは......?』


 声を出したつもりだったが、それは音にはならずに終わる。

 手足の感覚も上下左右の感覚もない。どうやら、本当に口も手足もないようで視線を回すことすらできない。


 そのことに気づいた途端、無の世界に線が足されていき、白に色が混ざり始める。


 どんどんと色が足されていく中で、純白を保った存在があった。その姿は見慣れないもので、けれども確かに見覚えのあるものだった。


「あの」


 恐る恐る声をかける。

 今度はきちんと発声ができていたようで、大きく背伸びをしていた女神さまがこちらに気づいた。


「あれ? 戻ってきちゃったんですか?」


 女神さまは驚いた顔をしているが、驚きたいのはこっちだ。


「戻ってきたというより、そもそも行ってないような気がするんじゃが」


「あ、どうやら転生者で混み合ってるみたいですね」


「混み合うことが起こるのか? その間儂はどうなる?」


「......お話でもします?」


 もしかしていまの間は、儂の質問を無視したのではなく、単純にわからないせいで答えられなかったんじゃあるまいな?


「ああ、そうじゃな」


 一抹の不安を感じたが、それを払拭するためにすこし会話をすることにした。


「それじゃあ、なにか質問とか、あったりします?」


 自分から会話に持ち込んでおいてそれはないだろうと、心の中で突っ込んでおいてからそれじゃあ、と質問をしてみる。


「女神さまは、儂以外にも地球の人間を転生させたことはあるのかの?」


 その質問に対し、女神さまは背中の羽を前に回して照れたように毛づくろいをしながら答える。


「女神さまだなんてやめてくださいよぅ、私まだ女神じゃ......あっ」


 そう、途中までは......。


 それから女神さまは毛づくろいをしていた羽をゆっくりと顔の前まで持ち上げ、こちらの視線を遮る。その奥で、へたくそな口笛がなっていた。


「まだ女神じゃ?」


「ナニモイッテマセンヨ?」


「じゃが」


「なにもいってませんからっ!!」


 明らかな動揺を指摘しようとすると、強い口調で遮られてしまった。流石にそれ以上は言及できず押し黙ってしまう。


「い、意外に鋭いんですねぇ」


「意外に?」


 よほど動揺しているのか、取り繕ったお世辞ですら余計な一言が付いている。


「そ、そんなことより! これからの人生での質問とかは大丈夫ですか?」


 この流れはさすがにまずいと思ったのか、話を変えられたので、ようやく目の合った女神さまにこれからの流れを軽く確認しておく。


「女神さまの力でいまから儂は転生して、魔王を討伐する、でよいのじゃろ?」


「えーと、呼び方は『女神さま』じゃなくて『スエデ』と呼んでいただけると......いえ、なんというか、あれですよぅ、あのー、そう、お近づきのしるしです、決して他意はありませんよ? ほんとですよぅ?」


 こうして眼前の少女は、『女神さま』から『翼が生えていて不思議な力が使える少女』へと評価を落としていくのであった。ここまで怪しくなると、転生の取りやめすら考えてしまう。


「わかったわかった。ところでスエデ、いまからキャンセルって」


「普通に死んじゃいますよぅ?」


 どうやらどれだけ怪しくても転生するしかないようである。


「仕方ないの、転生はする」


「ありがとうございます! では向こうについたら頑張ってくださいね!」


 転生することを向こうにつくとかいうんじゃないよ......貴重な体験なのに......。


「ああ、ありがとう、できるだけゆったりと過ごさせてもらうがの」


 若干辟易しながらお礼を言う。


「話の腰を折っちゃいましたけど、質問とか大丈夫ですか?」


「うむ、どうにか頑張ってみるとするわい」


「ほんとに大丈夫ですか?」


 いや、そこまで念を押されるとだんだんと不安になってしまうが。


「というか本来もう転生できていたんじゃろ?」


「そうですねぇ、そうしたらまるで私が説明不足だったみたいになるので、困っちゃいますねぇ」


 あははと軽く笑って頬を描くスエデ、おぬしの場合は説明不足というよりもはや詐欺の領域じゃろ。


「説明不足とか、ないよの?」


「え、ええと、多分?」


 照れ笑いの表情から一転、困り顔でくえすちょんまーくを頭上に浮かべる。


「そこは嘘でも、ないと言っとくれ」


「嘘はだめですよぅ」


 真顔でそんなことを言ってくるスエデだが、ついさっき嘘ついてなかったのかと問いただしたくなる。


「......そうじゃな」


「向こうでうっかり雑魚モンスターに殺されちゃわないように気をつけてくださいね」


「えっ、うっかりで儂死ぬの?」


 魔王がいるくらいだから、ほかのモンスターがいても不思議ではないが、うっかりで死ぬなんて聞いていない!!


「あっ、そろそろ行けそうです」


「待て、せめて死なないコツだけでも教えてくれ!」


「そんなに知りたいんだったら向こうについてからでも『天の声』で会話はできますよ?」


「ここにきて初見の単語を出さんでくれ!!」


 なんだ『天の声』って?! やっぱり説明不足じゃないかッ!!


「『天の声』は三回しか使えませんけどね」


「それは説明不足じゃろ!?」


「もしかしたらそうかもです......」


 問答をしながらもどんどんとスエデが翼の奥へと隠れていく。


「と、とにかく! 転生先でもがん」

「が゛あ゛あ゛っ!!」


 台詞の途中でバシュンと視界が純白に染まり、これをもって今度こそ儂は異世界へと転生した。

 旅立つ直前まで不安はぬぐえず、それどころか新たな不安の種を植え付けられるという最悪の形で。











 不安を残したまま転生した人間を見送った一方で、不手際を晒して転生を見送った自称女神は、この後説教を受けるかどうかを不安に思っていた。


「はぁ、これ絶対怒られちゃいますよねぇ」


 独り言を口にしながら、手元の紙に必要事項を記入していく。


 転生者は境遇の変化に馴染めず体調を崩したりするため、そうなる前に定期的にささやかな幸運を送って『俺、異世界でもうまくいくんじゃね?』と思わせる、これも女神たちの仕事の一つ。


「まあ、これさえきちんと記入していれば、あとはお姉さま方がどうにかしてくださるでしょうし」


 この紙に必要事項を記入すれば、転生者を特定することができる。

 この仕事は、地味ではあるがかなり重要な仕事である。しかしきちんと記入するだけで終わるため、重要度の割に難易度は高くない仕事だ。


「担当女神は......スエデっと、そうそう見習いも付け忘れずにっと」


 転生者にはどうにか守ってきた秘密、スエデはまだ女神見習いであった。

 見習いを付け忘れると後の事務処理が少々面倒になる、過去の失敗からそのことを痛いほど知っているスエデは、声に出しながらきちんと記入した。


「次は......ぁ」


 次の記入項目を見たスエデはそこでフリーズした。

 やらかしに気づいたのである。


 ついさっき会話していた人、一人称が儂で年齢の割によくしゃべっていたお爺さん......。


「転生者名......聞いてなかったぁ」


 そう遠くない未来に待ち受けるお説教を想像し、スエデは大きくうなだれた。そして、大粒の涙をためて一瞬で天界へと飛ぶ。


 ここがスエデのおバカポイント、あくまで魂を転生させただけなので、体も、なんならネームプレートだって病室に残っている。まだお説教を回避する手立てがあったのである。




 しかしながら、このあと馬鹿正直に事の顛末を話して、正式な女神さまにやんわりと怒られるのはまた別の話。


 これは、若いときはモテた老人が転生し、ただひたすらにハーレムづくりを目指すという夢とロマン溢れる、素晴らしい物語なのである!!

ご覧いただきありがとうございます!

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