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12話 そうなる可能性もあったんじゃが?

 極度の疲労で足が棒になったので、シエルに連れられて(というか引きずられて)『喫茶はつらつ』まで帰ってきた。


「いらっしゃいませ~!」


 戸を開けると、そこには天使が。動きやすそうな冒険者スタイルから一転、パンツスタイルの制服とエプロンに身を包んだ、メイルが明るく迎えてくれた。

 

「ナル!? ずいぶんボロボロだけどだいじょうぶ?」


 儂の容態を見たメイルは少し慌てておしぼりを持ってきてくれた。

 それで顔や体についた大まかな汚れをふき取ると、傍らのシエルを見る。

 

「なにか言いたげね」


「いーや、なんにも」


 追加で消毒液や絆創膏を持ってきてくれるメイルに比べて、シエルやラツハさんの戦闘っぷり鬼畜っぷりときたら......。

 どうして同じ制服を着ているのにもかかわらず、天使と悪魔といえるほどの差ができるのだろうか。はなはだ疑問である。


「とりあえず奥の席すわって?」


「わかった」


 言われるがまま案内された席に腰を下ろす。

 少し意外なことに、シエルが上座のソファを譲ってくれた。


「ナル、自分で消毒できる?」


「さすがにそのくらいできるって、そこまでボロボロに見える?」


「見えるか見えないかで言ったら、見えちゃうね」


「あ、そんなに! じゃあメイルに労わってもらおうかな~」


「冗談が言えるならだいじょうぶだね」


 もうすでにあしらい方を理解されている。昨日の冒険者への対応といいやはりメイルはかなり強かな娘だ。


「それじゃ改めまして、喫茶はつらつへようこそ。ご注文はお決まりですか?」


「期間限定ステーキ定食、大盛り」


「じゃあ俺はサンドイッチで」


「はーいちょっと待っててね!」


「というかシエルも食べるんだな」


 あまりにも自然な流れで席に着いたので忘れていたが、シエルも制服姿だ。


「接客はからきし、料理はすこしできるけど私の仕事は用心棒と広告塔」


「ふーん?」

 

 だからって白昼堂々、客と相席して飯を注文するのはどうかと思ったのだが、藪蛇をつついて奢りがなくなるのも嫌だ。


「ところでさっきの稲妻だけど、あれがナルの魔法」


「魔法かぁ、テンション上がるなぁ」


「威力はまだ低かったけど、鍛えればきっと強くなる」


 少し褒められたことがうれしくなって、魔法の再現をしようと試みる。

 

 心臓から末端へ向かって力が流れていき、次第に指先にたまっていく感覚。ある程度のところでその堰を切ってやる。

 パチっとゴブリンに放った魔法よりかなり控えめの音を出した静電気は、目にも留まらぬ速さでシエルの方に飛んでいき。


「ひゃっ」


 みごと眉間に直撃した。


「おや?」

 

 どこかから不思議な声がした気がするなぁ。

 儂は口の端をゆがめてもう一度挑戦する。


「ひゃっ、ちょ」


 まるで可憐な乙女のような悲鳴は、間違いなく目の前の特訓悪魔から発せられていた。

 意外に可愛らしい一面もあるじゃないかとますます魔法を連発する。

 

「おやおや?」


「ちょ! やめっ!」


 シエルはどうにか防ごうと手を前に出してバタバタさせているが、結構な確率で眉間に命中させることができているし、なんなら手に当たった静電気にもかわいい反応を見せている。

 

「おやおやおやおやぁ???」


 ノリにノッた儂は両手で静電気を乱れ打つ。

 シエルの弱点は静電気! これでヒエラルキーを完全にひっくり返すことができる!

 

「あまり調子に乗るな」

 

 そう思っていた時期が儂にもありました。

 とうとう怒ったシエルが銀色の物体を投げつけてきたのだ。


「ひえ......」


 その正体を知って唖然とする。

 儂の儚い希望を打ち砕いたのは、シエルが投げたフォークだった。

 フォークは儂の顔すれすれを通過し、全長の半分以上が壁に埋まっている。

 

「あまり調子に乗るな、わかった?」


「はい、すいませんでした」


 シエルの眼光の鋭さに大粒で汗を流し、なにもないテーブルの一点を見つめることしかできない。

 そんな地獄のような雰囲気を破ってくれるかのように、入口のベルが鳴った。

 入ってきたのは、首から下を鎧で固めたスカーフェイスの男だった。


「いらっしゃいませ~!」


 調理中のメイルが店の奥から挨拶する。

 

「上玉が二人か......おい姉ちゃんたち、そんなヒョロガリと昼間っからお見合いするより俺と夜まで楽しまねぇか」


 明らかに三下のセリフを吐きながら、スカーフェイスの男はこちらに向かってきた。

 シエルは立ち上がって尋ねる。


「このあたりの出身じゃないよね、どこの人?」


「故郷なんて忘れたよ、いまは流れの風来坊さ。まああんたが相手なら腰を据えるのも悪くないがな」

 

「はぁ、安い文句」


 シエルは男の腕をつかんだかと思えば、次の瞬間肘から先の鎧が剥がれ落ちた。よく見ると、右手にはステーキナイフを隠し持っている。


「これでおわり」


 地肌をさらした男の手首にはナイフの峰が押し当てられていた。


「このアマァ!!!!」


 極まった三下ムーブをかましながら、左手を振り上げる男。

 しかし、その手はいつまで経っても振り下ろされることはなかった。


「あーた、うちの店員になにしてるワケ?」


 いつの間にか背後に立っていたラツハさんがガッチリと振り上げられた手を掴んでいる。

 男の方もかなりの力を込めているようだが、びくともしていない。


「べ、弁償だ! この鎧弁償しやがれ!」


 右手をシエルに、左手をラツハさんに抑えられて身動きが取れなくなっている男はなおも抵抗をやめない。

 

「確かに、左右非対称じゃ見栄えが悪いわねぇ」


 そういうと、左手の鎧がミシミシ音を立てて軋んでいく。


「おいまて! そういう話をしてるんじゃねぇ!」


 男の絶叫もむなしく、鎧は音を立てて砕け散った。

 ゴブリンの棍棒も大概意味が分からなかったが、鎧を素手で砕くのは本当に理解ができない。


「そろそろ夏だしね、半袖の鎧もアリかもね」


 メイルは何食わぬ顔で三人の横を通って料理を持ってくる。こんなことに慣れているのかよほど二人を信頼しているのかわからないが、目の前の光景はもう儂の理解を超えていた。


「ありがとう、今日もおいしそう」


 シエルは到着した料理を見ると、男から手を放し着席する。


「どうする? 一対一になったけどまだやる?」


「放せ! 二度と来るかこんなとこ!」


 ラツハさんの脅しにすっかり顔を青くした男は、切り落とされた右手の鎧を拾い上げると足早に店を後にした。

 儂もシエルと出会ってすぐに口説こうとしていたら同じ運命をたどっていたかもしれないと考えると背筋が凍る思いがする。ツッコミどころしかない簀巻き状態で表れてくれて助かった。


「じゃあ、いただきます......」


 無事(?)落ち着いたということで、儂はサンドイッチに手を伸ばす。

 具だくさんのおいしそうな見た目だったが、味なんてわからなかった。いつかこの感じに慣れておいしく食べられる日が来るのかな。

ご覧いただきありがとうございます!

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