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11話 儂だって魔法くらい使えるが?

「フンッ!!」


 儂と目が合うや否や、ゴブリンの親玉は棍棒を叩きつける。

 それを間一髪で避けるも、思いっきり前のめりに転んでしまう。


「死ぬ! 死ぬ!」


 みっともなく騒いでいると、突然空から何かが落ちてきた。


「ナンダ!?」


 それを見てゴブリンも手を止める。


 舞い上がった土埃が落ち着いて、その正体がわかった。シエルが降ってきたのだ。

 急斜面とはいえ、それなりに儂が転がってきた分の距離があるはずなのだが、それでもシエルは真上から降ってきたのである。あの丘から跳んできたのだとしたらとんでもない跳躍力だ。

 

「大きいの一匹、まあいいか......」


 相変わらず無表情のシエルを見てすこしホッとする。蹴落とされたのは何かの間違いで、なまじ間違いじゃなかったとしても、この状況を救ってくれるという希望に思えたからだ。


「スケダチ、カ?」


「気にしないで、観客だから」


 しかし希望というのは儚いもので、儂の安心もシエルに対する期待も十秒だって続いてくれはしなかった。


「はあ?! 何しに来たんじゃお主!!」


「死んでないか見に来た」


「というかなんで蹴り落したんじゃ?!」


「命がけなら動きが良くなると思って」


「そんな無茶苦茶な......!」


 シエルは特訓だとかなんとか言っていたが、絶対だれかを指導したことなんてないだろう。こんな殺人まがいな特訓があってたまるか。


「ゴチャゴチャト!」


「うお!」


 ふたたび振り下ろされる棍棒をすれすれで回避する。


「まぁ、頑張って」


「そんな適当な激励だけでなんとかなるわけないだろ! あぶなっ!!」


 横なぎ、投石、飛び上がってからの強打。

 そのどれもをやっとの思いで回避しながら、あてもなく林の中を逃げ回る。それでもすべてを完璧に避けきることはできず、細かい傷を負っていく。


「くそ! 何かいい手はないのかよ」


 常に次の攻撃を避けることに必死で、気づけば今自分がどこにいるかもわからず唯一の希望であったシエルの姿も完全に見失っていた。


 擦り傷が増え、足が回らなくなり、体力の限界を感じ始めたときのことだった。

 突然、体の内側から体力以外の力が湧き上がってくるのを感じた。


「なんじゃ、これは......」


 それは、心臓から右肩、肩から肘、そして手首へとまるで沸騰した血が巡るかのように流れていく。やがてそれは人差し指の先へと集まり、決壊寸前のダムのように、さらに流れる場所を求めているようだった。


「いまならなんか出そうな気がする......!」


 直観に従い人差し指を伸ばした状態で、手を銃に見立てる。そしてそれをゆっくりとゴブリンへ向けた。

 不思議なもので、なんとかなるかもしれないという希望を感じた途端に先ほどまであんなに機敏に見えていたゴブリンの動きがスローモーションのように見える。落ち着いて狙いを定めるのはゴブリンの眉間。


「これが! 火事場の馬鹿力ぁ!!」


 限界まで指先に込められた力はついに堰を切って溢れ出す。

 

 瞬間、閃光が奔る。そして――。




(いった)い!」「イッタ!」


 ゴブリンと儂、それはもう寸分の狂いもなく見事にハモったのであった。

 

 閃光の後、儂はしっかりと目撃した。

 バチッとはじけた様な音を立てて、稲妻がゴブリンの眉間をとらえたのを。

 つまるところ、特大の()()()が指先から発射されたところを。


「え? あの感じで静電気?」


「フッ」


 いまいちパッとしない残念な現実に肩を落とす儂。

 ついさっきまで棍棒を振り下ろしていたゴブリンですらも、儂のことを鼻で笑う始末。なんなら毒気を抜かれて戦意を失ったようにも見える。


「バカラシクナッタ、カエル」


「あ、食われずにすんだのか?」


「ナニイッテル? オレタチ、ニンゲンクワナイ」


「そうなの?!」


 新事実、ゴブリンは別に人間を食わない!


「チョット、ムカツイタ、タダソレダケ」


 それだけ言うと、ゴブリンは踵を返して森の奥へと行ってしまう。

 一人残された儂のもとに、一体どこから見ていたのか、シエルがすぐにやってきた。


「悪くなくなった、やっぱり全人類が死に物狂いになるべき」


 シエルはどこか自慢げだった。

 ひょっとして儂はシエルに間違った成功体験を積ませてしまったのだろうか。かといって今回の場合『失敗=儂の死』なので、シエルを思って失敗することなどできるわけがなかったのだが。


「そんなわけあるか」


「結果おーらい」


「いや! 二度とごめんだぞ!」


 そう叫んで、儂はその場に座り込む。

 どうやら叫ぶ分だけの体力も残っていなかったらしい。


「仕方ない、はい」


「おっとと」


 それを見たシエルから筒を投げ渡された。

 竹でできたそれは、振ってみると重心の移動を感じることができる。


「水筒か?」


「そう、飲んでいいよ、あたりを警戒しておくから」


「ありがとう......」


 水筒を渡すときの表情の優しさ、周囲に気を配る瞬間の横顔の凛々しさに不覚にもグッと来てしまった。


「帰ったら奢る、頑張ったから」


「案外優しいところもあるんだな」


「チョロい......これで特訓し放題」


「前言撤回だこの特訓悪魔め」


 わざとらしく悪態をつくと、表情は薄いながらに若干笑っているようにも見えた。

 あわや大惨事だったが、結果的にシエルと親睦を深めることができたように感じられた。

ナルは魔法が使えるようになった!!


ご覧いただきありがとうございます!

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