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【中置】蹴り上げて潰す

どぉもです、銃です。

この時期は相当テンションいかれてたんでしょうねぇ…。

今思えばやり過ぎたと反省しております。

ちなみにこれで【中置き】は終わりです。

あとは堕ちていくのみです…。

                     銃.

【中置】蹴り上げて潰す




茶屋が長閑な暖色に染まり世界が広がる。

また新しい一日が始まる…。


くるりは「ゆめ」と共に茶屋を出た。

すると「ゆめ」がふっと息をつき一言―――


「たぶん…完全に終わったわね……「堯湖(たかこ)」。」


くるりは皆より早く寝てしまったのでその後の大惨事について詳しくは知らない。

くるりが知っているのはあの後いきなり「堯湖」が号泣しながら女言葉で笑いだし、しまいには着物を脱ぎ出した所まで……。


「お前達はもう寝なさいっ。」

そこまでいくと「露歩(つゆある)き」がさっさとくるりと「ゆめ」を奥の間に押し入れてしまった為その後どうなったのかをくるりは知らなかったのだ。


「あの後がすごいのよ…。ほら、お酒って普段の鬱憤が出ちゃうっていうじゃない?

 まさにそれなのよぉっ!」


「ゆめ」がやっと話せるとばかりに茶屋の前でくるりにひそひそと耳打ちをする。

どうやら「ゆめ」はくるりが寝てしまった後も襖の隙間からその様子をつぶさに観察していたらしい。くるりはうんうんと相槌を打ちながらその話に耳を傾ける。


「で、いきなり「堯湖」が

「くるりだけずるいッ!僕も「さき」と接吻がしたいィッ!」

とか叫び出してさぁ~。

 「さき」もいきなりだったからね…思いっきり「堯湖」に押し倒されて――」


そこまで話した所で茶屋の引き戸がぎしりと音を立てて開いた。

出てきた主は「さき」だった。


「ッ……さっ「さき」!」

「…………。」


「ゆめ」はあからさまにあたふたと動揺し、「さき」はというといつものように冷え冷えとした眼差しでそんな「ゆめ」の様子をじっと見つめた。


「………ねぇ。」

「っ!……あっいや…その…さ…。」


「ゆめ」が訳のわからない言葉を並べて不自然に「さき」に笑いかけた。

「さき」はというとそんな「ゆめ」を見つめながら普段通り不機嫌を顔に貼り付けて立っている。


「………ちょっと。」

「っ……ごっ…ごめんなさいっ!「さき」ィ~。」


「ゆめ」は「さき」に向かって拝むような仕草をして「さき」の許しを請うた。

「さき」はというと不機嫌な眉根をさらによせてそんな「ゆめ」の仕草を睨むように見つめる。


「何してるの?

そこどいて。出られないでしょ…。」


「さき」はそういうと「ゆめ」の肩を掴んで軽く脇に押しやり表に出た。

「ゆめ」は不思議そうな顔をして「さき」の姿を目で追う。

くるりも「ゆめ」に倣って「さき」のその後ろ姿を追った。


「「さき」……。」

「……もちろん、聞いてた。今話していた事…。」

「っ……!」

「ゆめ」がびくりと肩を震わす。

それとほぼ同時に「さき」がその恐ろしく不機嫌な顔だけを「ゆめ」の方へと傾けた。


強い意志を感じさせる形良く整った眉、艶やかな長い睫毛に縁取られた鈍く光る鋭い黒瞳、血の気の失せて久しい固く閉じられた細い唇。

美しいが故に凄みを増す、初対面の人には怒っているようにしか見えない「さき」の普段通りの表情。

もちろん「ゆめ」も「さき」が普段通りだという事は頭ではわかっていたが、後ろめたさの為かその表情に怯えを感じずにはいられなかった。


「怯えてるの?「ゆめ」。

 別に私は何も怒っていない。

昨日の話をくるりにした事も気になどしていない。」

「え……。」

「だけど……。」

「っ……なっ何?」


「ゆめ」は一瞬ほっとしたかと思うと、また鋭く響いた「さき」の言葉に背筋を伸ばして緊張した。


「そこで話を区切るのだけはやめて。」

「え……?」

そこまで言うと「さき」はくるりの方に顔を向けた。くるりが不思議そうな顔をしてその顔を見つめる。


「とっさに蹴り上げて潰した……。だから接吻なんてされていない。」

「……?」

くるりがいきなりの「さき」の発言の意味を読み取れず首を傾げた。

見ると「さき」の後ろに佇む「ゆめ」がひゃっというような奇声を上げて両手を頬に当てている。


「何を?」


いけないくるり発言投下。


「ひッ……ちょっ……くる―――」


「ゆめ」が顔を赤くし慌わててくるりに近づこうとした時、また「さき」がその形の良い唇を軽く開きかけそのあられもない言葉を発しようとしたその時、茶屋の引き戸がぎしりと音を立ててまた開いた。

そこに立っていたのは誰あろう―――


「あれ…?皆さんおはようございます。

 二人共、もう出かけたと聞いたけれどまだいたんですか?

 …?どうしたんですか?こんな所で……?」


「堯湖」だった。


「たぁッ……!」

「おはよう「堯湖」。」

「…………。」


三人が思い思いに「堯湖」を見つめた。

三人の視線を一身に受けた「堯湖」は一瞬怯んだが、すぐに三人に向かって朗らかに笑いかけた。


「な……どうしたんです?三人して……。

 ははは、嫌だなあ…なんです?何か僕の噂話でもしていたんですか?」


その表情は何の裏もなくけろりとしている。そこに立っているのはまぎれもなく普段通りの「堯湖」だった。


「ちょ、ちょっと「堯湖」。

まさか昨日の事一切覚えていない、とか言うんじゃないでしょうね…。」


「ゆめ」が信じられないといった風に「堯湖」に恐る恐る尋ねる。


「もちろん覚えてますよっ!

 全く本当に糞餓鬼ですよねっ!「丸嬰(まるえい)」はッ……。」

「はい……?」

「いきなりお酒を飲ませるなんて…僕はもう息が止まるかと……。」

「あぁ、そうそうそれでその後―――」

「そうそうその後…。まぁおかげで一晩ぐっすり眠れたみたいだから良かったですけどね。

 やはりあれですね…「寝酒」という言葉があるようにお酒は睡眠に良いというか…。

僕、まともにお酒を飲んだ事なかったんですけどね、すごく相性がいいみたいなんですよ。

ほら、昨晩確かすごく飲まされたでしょう?けれど全然二日酔いとかにならなくて。

 いやなんていうかむしろ体も心もすっきりはっきりしているというか…。

 もう今夜から毎晩飲んだ方がいいんじゃないかって位で……。」


「堯湖」が憎らしくてぶちのめしたくなる位、とびきりの笑顔で本当に嬉しそうに語り切った。

三人は思惑は様々ながら「堯湖」のその様子を呆然と見つめていた。


「……え、と…。」


一息置き「ゆめ」が何か言おうとしたその時、その脇を「さき」が音も無く通り過ぎ「堯湖」の目の前でゆらりと止まった。

すると「さき」は「堯湖」の両腕を軽くつかみ、やや見上げるような感じで「堯湖」の顔を睨みつけた。


「さっ……「さき」?」

「え……あ、「さき」……何……です?」


「ゆめ」と「堯湖」が「さき」のその行動に慌てる。

「さき」はひとしきり「堯湖」の顔を見つめると、ぼそりと呟いた。

「私と接吻したいか?」


「っ……!」

「ゆめ」絶句…。

「………。」

くるり無言…。


「あ……・・え………ゑェッ??」


もう耳まで真っ赤になって何がどうしてそういう言葉が今この状況で出てくるのか全く訳がわからず、「堯湖」は「さき」に腕を掴まれたまま体を固くして瞳をさ迷わせた。

そんな「堯湖」の顔を「さき」は瞬き一つせず責める様な眼つきでじっと見つめ続ける。



「や…・・…あの……「さき」……僕は……ですね…。」

「死んでも御免だ。」

「え……・・?」

「堯湖」がしどろもどろに何か答えようとしたその時、「さき」は「堯湖」の腕をきつく掴むと右足を思い切り蹴り上げた。

「ッ………!はッ……。」

「堯湖」はゆっくりと前かがみに……そしてよろよろとその場でうずくまり悶絶した。

その様を「さき」は道端で潰れている虫けらでも見るかのように、上からつまらなそうに一瞥する。


「う、わぁ……。」


「ゆめ」が半ば青ざめ気味に「堯湖」の地面にうずくまる様を見つめた。

両手を「堯湖」に向けてさ迷わせるが、何をどうしていいものかわからずただただその手は空気を掻き混ぜる事しか出来ないでいる。

「さき」はというと何事もなかったように踵を返すとさっさと茶屋の縁台の方へ向って歩いていった。

くるりはそんな「さき」と地面の「堯湖」を見つめた。

「堯湖」は無言で必死に何かを堪えるように地面に丸くなっている。

とにかくとても苦しそうだ…。


「くるり…。」

「さき」がくるりを呼ぶ。くるりは「さき」に視線を向けた。

みると「さき」がくるりの方に顔だけ傾けて立っている。

その唇がわずかにうっすらと微笑んだ。


「これが……蹴り上げて潰す。…わかった?」

「さき」の問いかけにくるりはゆっくりと、けれど大きく頷いた。




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