四十三日目 闘争の果て
灼熱と空間の振動がぶつかり合い、その余波で空間が歪む。
その爆風に晒されながらも、二人は微動だにすること無く、それどころかその中を問答無用で駆けていく。
天魔は巨大な槍を手に、神成は何も持たずに向かっていく。
爆風を裂きながら放たれた巨槍は軽々とかわされ、二人は素手のまま睨み合う。
神成の空間諸共抉り取った突きを、その範囲すら見切った上でかわし、同じく空間に干渉した爪で反撃する。
その影響で部屋の装置が破壊され、日差しのように投影されていた世界が一瞬で暗闇に覆われる。
しかし、彼らの戦いに光は不要。相手の体温や生体反応で互いの存在を認識し、戦いは続く。
時空に干渉した二人は、地面も空中も関係なく飛び回り、互いの力を、どちらが優れているのか、命を賭けて競い合う。
互いに"∆∂∆∑"のような異常なまでの再生能力は存在しない。当たれば一撃で即死してもおかしくない攻防であるにも関わらず、二人は危うさもなく戦い続ける。
その拮抗を崩しに来たのは天魔。暗闇に慣れてきたところで、突然閃光を放ち、視界を潰す。
その一瞬の隙を見逃すこと無く、彼は首を刈り取る一閃を放ったが、その殺気に反応してかわされる。ただ、神成の視力はまだ戻っていない。
その隙に更なる追撃をしようとしたところで、彼女は大きく距離を取った。しかし、その行動に何の意味はなく、天魔は一息に空間を転移して距離を詰める。
冷たい殺意を纏ったまま、その首に手を伸ばすが、その前に彼女が天魔の手を掴もうとするが、それは幻影。彼女の背後から迫る蹴りが後頭部に直撃する時、時間が停止―したと思うほど遅延される。
時間軸への侵食は天魔にも行える。その停止も数秒程度で時間は再び動き出したが、その前に神成は改めて距離を離し、その目を開いた。
「…本当、危ないね」
冷や汗をかきながらも、余裕の表情を崩さずに彼女は呟く。その一方、鉄仮面を被った彼の表情は見えない。
「……」
特に何も語ることはない。ただ、目の前にいる敵を殺すだけ。と言いたそうに構え直した天魔に向けて、彼女はため息を吐く。
「このままだと、本当にジリ貧で負けそうだ。…君、まだ余裕あったりする?」
答えは沈黙。天魔は無言で拳を握り、一瞬で転移し、眼前で拳を振り下ろした。それを引いて逃げた先に、電磁砲が放たれ、咄嗟に正面に空間をずらした壁を作り出すが、軌道上に小さな反射鏡が現れ、光速の弾丸は綺麗な弧を描いて背後から彼女を襲う。
「!!」
予想外の動きに意識を持っていかれるが、正面には天魔の本体が迫ってくる。脅威度で見れば、弾丸の一発より、天魔の本体の対処が優先。
そちらを向いた瞬間、絶望が待ち構えていた。彼の後ろにあるのは、数十の銃口。それらは全てあらぬ方向を向いており―彼女の周辺にはおびただしい程の反射鏡が並べられている。
「"多角的狙撃"」
彼の宣言と共に、一斉に無限の軌道を描く弾丸が雨のように降り注ぐ。そして、天魔はそれを見ているだけではなく―鎧で弾丸を弾きながら突き進み、殺意の込めた眼差しを向ける。
一見、絶望的な場面ではあるが、彼女の笑みは絶えない。
「―ふふっ」
彼女の笑みの理由は、すぐに分かった。空間そのものが抉り取られ、不可侵の領域が展開される。
流石の天魔にもそれはすぐに対処できず、逆に呑み込まれる前に距離を離す。その空間の歪みに彼の弾丸は全て呑み込まれ―天魔に向けて反射される。しかし彼の鎧は傷つくこと無く、何の反応もなくそれを受け止め―空間の歪みが収まり、神成の姿が現れる。
「さぁ、準備運動はそろそろいいでしょ?」
不敵に笑う彼女に、溢れそうになる殺意と嫌悪感を抑えながら、天魔は大きく息を吐いた。
「…"降神"、か」
本能から来る嫌悪感。それから導かれる答えを呟くと、彼女は笑う。
「そうだね。契約してる神は…言わないほうが良いか」
「言ってくれないのか?」
煽るように天魔が聞くが、神成は首を横に振る。
「君の奥の手も分からないのに、こちらが先にネタバラシは不公平じゃない? 例えば―ほら、"神殺し"の力とかさ」
「よく言う」
馬鹿にするように彼は鼻を鳴らし、拳を握る。
「神が降りていようと、お前の体は生身だ。殺せばそれで終わりだからな」
「おや、思ったより冷静だね」
神成という"神"を殺すのではなく、彼女という"人間"を殺す方法を選び、それを口にした天魔に向けて不思議そうに首を傾げる。
そして彼女が指を鳴らすと、巨大な茨が彼に向かって伸びていくが、その内の一本を軽々と受け止め、迫りくる茨たちをリボンのように結んでしまう。
地面を耕しながら迫る植物たちを軽くいなしていきながら、すぐに間合いを詰める。
殺意を込めた一撃は壁のように張り巡らされた茨に遮られ、天魔の力を奪おうとする。
「悪いが、それは私の専売特許でな」
天魔に触れた途端、瞬く間に茨が枯れていき、天魔は枯れた茨を引き千切り、その先にいる神成に掌底を叩き込む。
予想とは裏腹に、その一撃は命中し神成の体はくの字に曲がり―天魔は迷いなく、体内に撃ち込んだ魔力を暴発させ、その体を木っ端微塵に爆破しようとする。しかしそれは叶わず、天魔はすぐに自身の魔力を吸収されたことを理解し、距離を離す。
彼の居た場所が爆発し、世界が再び光に包まれる。
「……面倒だな」
改めて光に照らされ、地面は大きく抉り取られ、壁もボロボロとなった戦場の中、強烈な光に照らされた神成は宙に浮いている。
「まだまだやれるよね?」
彼を試すような問いかけに答えるより先に、文字通り、光がネジ曲がって形を作り、それが光速の弾丸となって降り注ぐ。
その先に作られた反射鏡が力の流れを曲げ、弾丸は一つたりとも彼には届かない。その間にも天魔は再接近し、光に対抗するように、落とされた影が巨大な刃となって両腕に纏う。
「"影送"かい、それは?」
「いや、"影踏み"だ」
光によって巨大化した影の刃が、神成を両断しようと薙ぎ払われる。しかしそんな大振りの攻撃が当たるわけは無く、彼女は地上に降りてかわし、再び光がネジ曲がる。
光の奔流が天魔を飲み込むが、その足から伸びる影に天魔は吸い込まれ―神成から伸びる大きな影から姿を現した。
そのまま握っていた巨槍は神成の腹を貫くが、その姿は光の粒となって消える。
「成る程。言うなれば、"光源操作"と言ったところか」
「ご明察」
光から作られた幻影であることを理解した天魔の呟きに、背後の神成が答え合わせをする。
天魔はすぐに振り向いて掌底を叩き込むが、それは腕を掴むようにして受け止められ、彼の周囲に光が集まっていく。
「…!」
天魔は少し、焦ったように彼女も巻き込もうと強く引くが、動くことはない。次の瞬間、世界が再び光に包まれた。
熱線のような光のレーザーに焼かれ、天魔の鎧であっても―貫かれていた。
光が収まった時には、天魔の体に幾つもの風穴が空いていた。―しかし、その穴は瞬く間に塞がっていき、数秒の間に鎧まで再生してしまう。
「少し、焦ったぞ」
離れた位置に待機していた神成に向け、腕をコキコキと鳴らしながら呟く。
「…その再生力は、すこし想定外だったかな」
「そうか? 予想くらいはしていたと思ったが」
とてもどうでも良さそうに、彼は戦闘の続きをしよう、と構えた所で通信が入ってきた。
『マクス、今どこにいる?』
「神成と遊んでるところだ」
天魔が前を見ながら通信に応えると、疲れた声が返って来る。
『…そうか。病院の必要なものの避難も終わったし、思う存分にやっていいぞ』
「それは良い知らせだな。
ここを更地にしない程度には暴れて良いのか?」
『そこまで許可した覚えはないんだが』
「残念だ」
天魔は本当に残念そうに呟いて、構えた所で、神成が構えを解いた。
「なんだ、もう避難は済んじゃったんだね。それなら、君の時間稼ぎが成功したんじゃない」
「余計なものに気を遣わなくていいし、もう少し相手してやっても良いんだが?」
相手に対してやる気の天魔に対し、神成は完全にやる気を失って帰る準備をしている。
「…いや、辞めておこうかな。君とこの場で戦っても、決着が着く前に余計な邪魔が入りそうだし」
「…む」
確かに、邪魔に入りやすいこの場で戦っても、お互いに望む結果は得られない。それは彼を納得させるには十分であり、天魔も構えを解いた。
「話が早いね。じゃあ、私は帰るから―"パラナ"によろしくね。帰れたら、だけど」
「―!!」
構えを解いたその一瞬の隙をついて、神成は天魔を拘束しようとする。しかし、彼もそんな不意討ちに易易と引っかかる訳が無い。
拘束から逃れ、逆に神成を土と金属の壁で拘束しようとするが、座標を書き換えられ、天魔の周囲に壁が立ち上る。それと同時に頭上に千里眼を展開―したが、即座に潰される。
周囲を囲われ、視界も潰された。ご丁寧に空間も固定して簡単に逃げられないようにされる。
「この程度…!」
天魔も空間の操作は可能。相手の能力に干渉して、更に潰すくらい訳はない。
周囲の壁を破壊しつつ固定された空間を破壊された先は―よく見慣れた、薄暗いモニター室だった。
「――は…?」
想像もしていなかった場所に、天魔も拍子抜け、変な声が出る。
一応、鎧の姿を保ったまま、彼は見慣れた数多のモニターを確認し―大陸の各地を覗き見る映像は嘘偽りない本物であると理解する。
「――お、帰ってきたのか、親友」
この現実が"現実"であると突き付けるように、彼の後ろから、よく聞き慣れた低く、くぐもった声が聞こえた。
「……あぁ、不本意だが、帰ってきたようだ。"親友"」
キャラ紹介
∆∂∆∑…スキル 融合
"融合"というスキルを持つために、"神の器"に最も近いと考えられ、あらゆるスキル持ちと融合させられた結果、手に負えなくなり、結果として封印された怪物。処分場として、不要になったスキル持ちを捨てるために利用されていた。その間も肥大化した結果、手に負えない存在となっていたが、マクスウェルに核を潰されて殺害された。
強弱に関わらず、あらゆるスキル持ちを取り込み続けていたため、実際全てのスキルが使用可能。しかし核、本体は既に理性のない、人型の肉であり、それに対応できる知能はなく、応用と戦闘経験の差で敗北した。
マクスウェル/第三形態
天魔ことマクスウェルの本気の姿。紅い軽鎧から蒼い重鎧へと変わり、鎧の下は完全な魔物へと変身している。鎧自体、魔力の塊なのでデザインは自在に変更可能。
元々、彼の協力者である友人が気に入っていたデザインを好んで使っており、掛け声をしてから変身するのも、その友人の影響。
紅い軽鎧、第二形態と比較して数倍の魔力量となっており、その余りある魔力は自動で傷を瞬く間に治療する。そのため、この姿は隕石が落ちても壊しきれない魔力の塊に覆われた上、致命傷でも即死しなければ即座に全快するというとんでもない耐久能力を持っている。
そのため、どんな敵でも基本的に相手にすらならないため、この姿になることは滅多に無く、それこそ"神"クラスの相手でなければ変身することはない。




