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四十三日目 暴徒

 戦場に生き残っている肉片がないことをしっかり確認している間に、人の姿に戻ったマクスウェルは、そのまま帰ることにした。


 変な所で誰かと鉢合わせになるのも面倒だったので、パラナの屋敷の転送室に直接転移すると、外は随分と騒がしそうだった。

 珍しくメイドや執事たちが総勢で伝言や受け答えをしているようだが、彼は特に構わず執務室に向かう。


「遅くなったな、戻ったぞ」


 普段通りに執務室の扉を開くと、忙殺されながらもパラナはこちらを向いて応じてくれた。


「お疲れだったな。結果については…聞くまでもないな」


「その言い方からして、見てはいなかったか」


「途中までは見てたんだがな、通信が切れた所で一気に仕事がなだれ込んできて、今屋敷総出でなんとかやっている」


 彼は忙しそうに書類を斜め読みし、何かメモを書き加えてシナロアやクルドたちに渡している。


「……災害でも起きたか?」


「その通りだ。大規模な地震が立て続けに三度も起きたのもあって、各地で混乱が起きている上、火事場泥棒や反乱の狼煙に使われている状況だ」


 三度もあった地震。マクスウェルも心当たりしかない単語を聞いて、申し訳なさそうに提案する。


「パラナ、私を派遣しろ。限定解除はまだ残っているし、場所と相手が分かれば手当たり次第制圧してくる」


 その言葉を聞いて、彼は手を止めた。


「それは本当か? 実際に助かるのだが―場所だけ伝えて、あとはアドリブで頼む」


「任せろ。通信機器か何かはあるか?」


 間違いなく自分が引き金を引いていたから、なんてことは絶対に言わず、彼はパラナの指示を仰ぎ、それを聞いたクルドがすぐに、仮面と軍部のえんじ色の軍服を持ってくる。


「通信機も備え付けてある、軍部の一式装備だ。これを着て、現場に向かってくれ。

 俺が随時連絡する」


「分かった。すぐに行く」


 彼は文句も言わずにそれを受け取って、その場で服を脱いで着替え始める。

 忙殺されていることもあるが、割と彼の裸体を見ることも共有浴場のせいで珍しくないため、彼らは何も言わずに仕事に集中していた。


 マクスウェルはすぐに着替えを終え、仮面を被ると、マイクでも入っているのか、声が聞こえてくる。


『無事に装備が済んだな。まずは近隣にて、反乱者が暴れているようだから、兵士とともに制圧してくれ。ついでに家屋の倒壊に巻き込まれた人の救助も頼む』


「了解した」


 彼はすぐに転移して今までずっと、窓から眺めていた世界へと降りていく。



 ―いつも見ていたときは、人々の笑顔や楽しげな声に溢れていた城下町。今は火薬の臭いと悲鳴の響き渡る場所へと変わり果てていた。


 適当な屋根に転移して着地したマクスウェルは、軽々と城下町の石畳に着地し、真っ先に目についた、軍部の兵士たちと交戦している人々を死角から制圧する。


「誰だ…!」


 不意打ち気味に一瞬で制圧し、呆気に取られたえんじ色の軍服を纏った兵士たちは、思い出したように銃を構えたが、彼の服を見て仲間であると理解して構えを解いた。


「その仮面…軍部の諜報部か。助力、感謝する」


「構わん。他にやることはあるか?」


 感謝の言葉はほどほどに、彼は他の仕事を聞くと、涙と返り血でぐちゃぐちゃになった男が足を引きずりながら縋り付いてきた。


「助けてください、妻と子供が生き埋めに…!」


「―! 任せろ、すぐに案内してくれ」


「この先の、崩れた家屋に―」


「……理解した、この人は頼む」


 マクスウェルは千里眼を使って位置を把握し、よく見ると男の腹に木材の破片が突き刺さっているのに気が付き、兵士たちに治療を任せて一人、救助に向かおうとした。


「おい、そちらは一人で大丈夫なのか?」


「大丈夫だ。―何せ、私は"天魔"だからな」


「…何だと?」


 聞き返してくる兵士に対してマクスウェルはそれ以上は話さず、足早にその場から離れていく。


 ―男の示した先にある、倒壊した家屋。その奥からは確かに生き物の気配を感じており、彼はすぐに救助を始める。

 ∆∂∆∑との戦いで魔力は浪費しているが、余裕がないわけではない。彼は重力を操作して、瓦礫を纏めて浮かび上がると、下敷きになっていた若い女性とそれに抱かれる小さな子供が見えた。


「無事か?」


 瓦礫を浮かせたまま、彼が女性に声を掛けるも反応はない。見た所、 子供を庇って瓦礫を受け止めたせいで、息は辛うじてあるようだが、傷がひどい。


「…ちっ」


 このまま兵士たちに渡したところで、治療が間に合うとは思えない。仕方ないと言いたげに、彼は同様に気絶している子供も一緒に抱え上げて、安全な場所に避難させる。そして瓦礫を再び地面に落としてから治療を始める。


 ―失血死する前に傷口を塞ぐことができ、一安心、と思ったところで周囲に気配を感じる。


「……こんな事態だ、そんなことをしている暇があるなら、一人でも助けたらどうだ?」


 マクスウェルは周囲から向けられる敵意に向け、そう言い放つが、相手はこちらの敵意を緩めない。


「…………お前らと遊んでいる時間はないと言っているのが分からないのか?」


 珍しく、怒気を少し孕んだ声で周囲に向けて忠告するが、それでも相手は引く気がないようだ。


「はぁ…」


 彼は面倒そうにため息を吐いて、軽く地面を叩くと、周囲一帯の地面が隆起し、彼らを覆う土の檻を作り出す。


「暫くしたら解ける。少しは反省しろ」


 彼はそれだけ伝え、穏やかな呼吸に戻った二人を抱えて、道を戻り、事前に見付けていた、臨時で建設されている救護所に向かった。


 その後、余計な邪魔をされながらも適宜無力化しつつ、救助を続けていく。そんなことを続けていると、突然クルドから通信が入った。


『マクス、順調みたいだな』


「お前か。次の指示か?」


 余計な茶化し合いはなく、単刀直入に用件を聞くと、そうだ、とクルドも本題に入る。


『"医療"の領地の病院が襲われている。"人喰い"、"剣聖"含めた闘技者やスキル持ちが応戦しているが、戦況は不利らしい。

 あちらは守るべき病人も多い。すぐに加勢に向かってくれ』


「心得た」


 それだけ伝えて通信が切られ、次の戦場に向かおうとする時に、衛生兵の一人に呼び止められた。


「天魔殿、もう行かれるのですか?」


「ここはもう大丈夫だろう?

次の戦場が待ってる」


 天魔はそれだけ伝えて転移しようとした時、その場にいる全員が敬礼した。


「御武運を」


「……あぁ、行ってくる」


 そう言って、彼らに見送られながらマクスウェルはその場を離れていった。




 "医療"の領地。国内でも最大規模の大病院の入り口付近にて、巨人が一人、戦っていた。

 しかし、いくら巨人でもたった一人では多勢に無勢であり、ダメージは再生のスキルの許容量を超えており、今にも倒れそうなものの、気力だけで侵攻を防いでいた。


 咆哮と共に地面を叩き、周囲の地面を隆起させ、その隆起した地面を殴り飛ばし、石礫として制圧する。

 しかし盾や防御壁の"スキルを装備"した人々に軽々と受け止められ、返しの砲撃が彼の体を焼き焦がす。

しかし、その目に光が失われることはなく、歯を食いしばりながら、一人でも巻き込もうと、その巨腕をやたらめったらに振り回す。

 しかし、その集団は冷静に距離を離して対処し、再度集中砲火を浴びせようとしたその時、暴風によって人々が紙吹雪のように舞い散っていく。


「―待たせたな」


 呆然とする人喰い―サクの前に、紅い鎧を纏ったマクスウェルが姿を現した。


「マ、クス」


 膝をついて、息も絶え絶えのサクが呟くように彼の名前を呼ぶと、マクスウェルは笑って彼の顔を撫でた。


「よくやった。あとは私に任せろ」


 彼の言葉を聞いて安心したように気絶して、スキルも解除されたのを確認し、数十人程度に囲まれた状態でマクスウェルはカモフラージュを解除し、四枚の翼と両手を広げて言い放った。


「さぁ、かかってこい」



 ―病院内。患者だけではなく、医師や看護師、スタッフたちの避難先の確保に動いていた紅白の袴姿の剣聖は、ふと窓を見やると入り口付近で氷と炎の蛇が踊り狂っている様を見て、絶句する。


「――」


 あんな真似をできる相手は、一人しか心当たりはない。確かに少し前、軍部からの増援について聞いていたが、まさか彼が来るとは思っていなかった。しかし、それはこちらとしても有り難いことには変わりない。

 彼と同様に、窓の外の異様な光景を見て不安そうにしている人々に向け、彼は説明する。


「安心していい。"アレ"は、軍部からの増援。拙者たちの味方だ」


 それだけ伝え、潜り込んできた襲撃者を峰打ちで即座に無力化し、彼は先を急ぐ。


「天魔、そちらは頼んだぞ―」

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