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四十三日目 ∆∂∆∑

 完全なる魔物化。ヒトの姿を保てなくなるほどの魔力を持った結果、至ることになる魔族では"最終到達点"とされる姿。しかし、彼は"変異種"のデーモンを祖に持ち、その特性は自身の魔力を常に散布し、魔力の霧として纏うことで高い防御を持つ。常に魔力を放出していることから、保有できる魔力はその他の種族よりも大きく劣り、劣等種との烙印まで押された種族でもある。

 魔物化においても、その特性は他の種族よりもハードルが非常に高く、それでも尚、魔物化を可能となった彼の力は―他の魔物化しただけの魔族を凌駕する。

 手始めと言わんばかりに彼は、再構築した肉塊―百足の下半身はそのままで、上半身を人間を模した姿にすることで、天魔という単体に対しての対応力を上げた姿に変化している―に対し、地面から突き上げる数多の槍で串刺しにする。しかし、それよりも早く百足は飛び上がるようにその場を離れ、上半身から伸びる数十本はある腕を伸ばし、再び拘束しようとする。


「―ようやく真面目になったか?」


 先ほどとは比べ、明らかに動きが変わっていたことに気が付き、天魔はため息混じりに呟く。そして指を鳴らすと、目の前を埋め尽くす程の電磁砲、大砲、対物ライフルなどの重火器を魔力を代替に作り出し、その場で一斉砲火する。

 瞬く間に消し炭となる百足の一部には目もくれず、加速してかわした百足は下半身で彼の体を囲い、そのまま締め潰そうとする。


「もう少し工夫しろ」


 敵の解答につまらなそうに呟き、周囲に障壁を張り巡らせ、その攻撃を受け止める。万力のような力で締め付けているにも関わらず、不可視の障壁はびくともしない。ならば上から、と上半身が巨大な槍を構えたと同時に動きを拘束され、飛び上がった天魔の蹴りで、上半身が吹き飛び、天井まで突き刺さる。そのまま足場を作り、それを伝いながら、天井に叩きつけられた上半身に全力で強化した拳を叩き込む。

 ヒトを捨て、魔物化したことで増した膂力に加え、強化した骨格と筋肉で叩き込んだ一撃は、闘技場の壁を容易く粉砕し、その余波は空が見えるまで突き抜けた。

 崩れ落ちる瓦礫とその隙間から入り込む日差しを見ながら、天魔は一緒に落ちてくる肉片に呑み込まれないよう、適当な場所に転移して着地する。

 彼が転移で着地したところは事前に空間が歪むため、感知は可能だ。本能的にそれを理解したのか、千切れた下半身から再び口だけのような頭を生やし、今度こそ呑み込もうと襲いかかるが、天魔の頭に達した瞬間、停止する。


「行儀が悪いぞ」


 彼は極限まで時間を遅延させることであたかも停止したかのようにして、数歩歩いて距離を離した所で時間操作を解除。それと同時に重力を数十倍に掛け、無理やり地面に拘束する。

 突然降りかかった過剰な重力に肉塊の体も悲鳴を挙げ、どうにか動こうとしていたが、どうにもならない。


「ふむ。それだけ喰っていて、重力に干渉するスキルは無いのか? それは少し意外だったな」


 恐らく、実用性を見出せずに無視されていたスキルの可能性もあるが、彼の拘束を解除出来ないところを見て、驚いたように呟いた。

 その間に地面から降ってきた上半身が集合して再度肉塊となり、天魔へと向かってきていたが、彼が手をかざすと瞬く間に手足が凍結していく。


「全く、お前らに珍しいものを見せてやるというのに、せっかちだな」


 二対の半身を拘束した天魔は呑気 に空を見上げ、その時を待つ。

 数十秒後、天魔は空を見上げ、その姿を消した瞬間―天井を突き破り、紅蓮の業火が周囲一帯を破壊した。


 その正体は、重力魔法によって引き寄せた、小さな小惑星の衝突。衝突地点以外の影響は、天魔がしっかりガードしていたため、全く無い。ただ、その衝撃で闘技場がただのクレーターになってしまった。


「……やりすぎたか?」


 先に上空に避難していた天魔が今更ながら呟く。明らかにやりすぎた威力ではあるものの―肉塊は辛うじて生存しており、懸命に体を再生しようともがいている。


 焼けた肉の匂いの充満する中、天魔が死にかけの肉片にトドメを刺そうとするが、不思議そうに腕を組んだ。


「――お前、やはり―」


 ずっと感じていた違和感の正体を探っていたが、本体と思っていた肉塊をその目で確認して、ずっと抱えていた疑問は確信に変わった。


 すぐに臨戦態勢を取り、周囲の"空間を斬り裂いた"。そしてその境界から見えたのは、その肉塊と繋がった、更に巨大な人型の肉塊。


「…さしずめ、片腕だけで戦っていたと言うところか」


 その先にいる者こそ、本来の"∆∂∆∑"。彼はそれを確信し、空間の狭間で高みの見物を決め込んでいた怪物を、そのままこちら側へと引きずり出した。

 人型になってはいるものの、数多の人間が混ざり合った肉塊には変わらず、体格としては、先ほどの肉塊の倍以上。"腕一本"を焼却した分、幾らか小さくはなっているものの、先ほどの隕石の衝突で戦場を広げておいて正解だったようだ。

 即座に襲いかかってくると思いきや、頭部と思われる部分が蠢き、ヒトのような口を開いて言葉を発した。


『おマエ、ナンだ』


 カタコトの言葉で聞いてきたのは、彼の正体について。やはり本体は知能もあるのか、天魔は構えを解かずに答える。


「私は"天魔(エヴィル)"。異界から来た、魔王の一人さ」


 その答えと共に、彼は飛び上がり、巨大な剣で頭部を斬り落とそうとするが、それよりも早く腕が伸び、数多の腕で天魔の剣を受け止め、"融合"しようとする。

 すぐに魔剣を解除して、空中にいたまま足場を作り出し、着地する。


「私の魔力とも融合するのか? この異界の力と…?」


 融合というスキルの無法っぷりに天魔も少し困惑し、敵の出方を伺うが、悠長に待っている隙はない。

 時間を加速させて襲いかかる巨大な腕から、更に数多の腕が伸び、拘束しようと迫ってくる。

 天魔は空を駆けながら魔力の弾丸でそれぞれ細い腕を消し飛ばしていくが、物量の桁が違う。更に、動いているのは腕だけではなく、彼を追い詰めるようにその巨体も迫ってくる。


「―!! 大と小を兼ねるな!」


 天魔は面倒そうに叫び、辺り一帯が発光するほどの魔弾で迎撃。その衝撃で立ち上った煙の中でも動けるよう、敵の生体反応のみに反応できるように視界を細工する。

 案の定、敵の進軍を少し留めた程度にしかなっておらず、千切れ落ちた肉塊は地面を這って、本体の下へと戻っていく。


(体がデカくなっても、あの馬鹿げた再生は健在か…。面倒だな)


 先ほどの腕を消し炭にしたように、超高温であれば焼き払えるだろうが、一度隕石降下を見せてしまった事もあり、間違いなく警戒されているだろう。二度目も簡単に直撃してくれるとは思えないが―やるだけの価値はある。


 再び迫ってくる手足を撃ち落とし、あの巨体に向けて先ほどの重力操作の更に十倍の圧を掛けようとした時、同じく重力を操作され、無理やり解除される。


(成る程。重力操作は本体にあったか)


 しっかり対策されていることを理解し、彼は仕方なく真っ向勝負で叩き潰すことにした。

 とは言っても、長期戦は恐らく物量的に不利。恐らく、この相手も天魔の魔力と同じように肉塊による外皮(よろい)を纏い、本体へのダメージだけが有効打になっている可能性が高い。しかし問題は、あの物量を相手にどう本体を引き摺り出すかと言うことだ。


 馬鹿の一つ覚えのように、こちらを取り込もうと伸ばしてくる手足を避けながら、天魔は思考を巡らせる。


(あの中身を引きずり出す方法は、あの肉片を全部焼き尽くす。残念だが論外だ。隕石を落とせない上、アレを全部相手にするのは骨が折れる)


 セルフツッコミをかましながら、真面目に考えるが、一番楽な方法に行き着いた。


(やはり、直接核を潰すか)


 過去に戦った、山一つ呑み込んだ怪物―"魔界王"と呼ばれた妖精との戦いを思い出し、天魔はまずは相手の核を見極めるため、観察することにした。

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