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四十三日目 悪夢と呼ばれたモノ

 旧闘技場、地下。

 今までの闘技場も相当な広さを持っていたが、ここは更に倍以上、直径として3kmはあるだろうか。とてつもなく広い戦場は観客が居ないにも関わらず、数多の照明に照らされている。

 その闘技場に大小一組の影が突然現れた。

 片方は、紅い軽鎧を纏った、四枚の翼と角を持った悪魔―天魔、マクスウェル。そして残りの片割れは、全長100mはありそうな、山のような巨体をした―肉塊。文字通り、肉の塊であり、それはおびただしいほどの人間が混ざり合った、肉の山だった。


「……確かに、"悪夢"だな。こんな生き物が存在していて、作られたということが」


 外側にある顔の一つ一つが苦悶の表情を浮かべながら呻いている。一体、どれだけの人間が犠牲になったのだろうか、彼には知る由もない。

 ただ、やるべきことは決まっている。故に、天魔は臨戦態勢を取る。


 彼の強い敵意と殺意を感じ、数多の目が天魔を捉え、それぞれが絶叫する。


「……!!」


 "言霊"の混ぜられた絶叫に、天魔は歯を食いしばり、敵が動くよりも先に音を遮断し、体勢を整える。


「悍ましい」


 天魔は吐き捨てるように呟き、速攻で勝負を着けにいく。加速した時間を維持したまま、敵の周囲に数多の光弾を作り出し、一斉に降り注ぐ。

 轟音と共に巻き上がった爆風が悲鳴に掻き消される。少なくとも、外皮に傷をつけられるだろうとタカを括っていた天魔に向け、硬質化した腕が伸び、天魔の腕を掴む。


「……」


 天魔はその腕を振りほどくことなく、空いた手に槍を作り出し、無造作に投げ捨てると―体内に転移して大爆発を引き起こした。


 ビチャビチャと音を立てて肉片が地面に落ちていくが、腕を掴む力は弱まることは無い。

 奴も相当な力を込めている筈だが、天魔もそれに対抗して筋力を強化しており、その綱引きで地面に亀裂が入っている。いつまで経っても拮抗する綱引きに痺れを切らした敵は、見た目以上の俊敏さでこちらに向かって、大きな口を開いて不格好に走り寄ってくる。―と思った時には、深淵のように深い口腔内が目の前に迫っていた。しかし天魔は一切怯まず、数多の棘を生やした手を伸ばし、その口を掴んで引き裂いた。

 流石に体内からの攻撃はある程度ダメージが通るようで、血ではなく肉片を撒き散らしながら、敵は退いていく。


「…血が流れていないのか?」


 掴んだままだった腕を引き千切り、その残りを捨てながら断片を見るも、特に出血している様子はない。


「いや、元は人間のはずだ。多少なりとも栄養を送る器官があってもおかしくないはず」


 冷静に考察をしつつ、恐らく本体へのダメージは一切入っていない結論に至った所で、飛び散っていた肉片はいつの間にか本体に合流したようで、元の姿に戻った"悪夢"がこちらを観察していた。


「……、考える時間も余計だな」


 この考えている時間の間に、奴は完全に再生してしまっている。それに、先ほどの攻撃で今までのエサとは違うということも学習したようだ。無鉄砲に突っ込んでくることはなく、慎重にこちらの行動を観察している。


「成る程、悪夢と呼ばれるだけあって、正にその通りだな。だが―」


 改めて敵の危険度を認識し、天魔も少なからず絶望する、なんてことはなく。即座に加速し、音速の世界で魔剣を生み出し、その巨体を至る方向から切り刻む。時間差で切り落とされる数多の顔や肉片が地面に落ちるより先に刻みながら残した魔力の残滓が発光し、大爆発を引き起こす。

 先ほどとは比較にならない程の肉片が辺り一帯に飛び散り、一回り小さくなった先にも、まだ残っている顔を潰すように、10mほどの巨大な槍を突き刺した。

 悲鳴を挙げる声は遮断して無視し、腕をハンマー代わりに、杭を打ち込むように殴りつけて更に深部に槍を突き刺したと同時に、肉塊に動きが見えた。

 明らかに中心付近から"ナニカ"が逃げるように動いたのを確認し、天魔は槍を消し去ってそちらに向かって転移する。その移動した先に向けて全長30mほどの巨大な杭打機―パイルバンカーを装着する。

 ナニカが、必死にこちらに向けて言霊を飛ばしてきているようだが、頭部周辺を凪状態にしている天魔に聞こえるわけがない。


「―御託はいい、死ね」


 聞こえるわけがない、死刑宣告。迷いのない殺意を肉塊に向けて撃ち込んだ。しかし、思った手応えはなく、周囲から集まる肉片が、彼のパイルバンカーに絡みついて動きを止めていた。

 しかし、その杭はただの杭ではなく、"腐れ杭"。触れた対象を腐食させる禁忌の一つ。へばりつく肉塊は瞬く間に腐り落ち、無残な姿で地面に落ちていくと思いきや、それを超える"再生"の力で侵食を食い止める。いつぞやの"伽藍僧"の戦いでも感じていた出力不足を感じながら、彼はそれ以上の追撃は諦めてパイルバンカーを消し去り、代わりにそれを構築していた魔力を爆薬に変化させてその場から離脱する。

 血ではなく、真っ黒な肉の雨を遠くで眺めながら、天魔はため息を吐く。


「―埒が明かん」


 この短時間の戦いで、恐らく負けることは無いだろうが、単純に敵の耐久を削りきれる自信がない。天魔も防御力には自信があったが、自分以上にしぶといかもしれないと思っていたところ、爆煙が消え、その向こうには再び一つの肉塊へと融合した"悪夢"の姿があった。


「やれやれ、悪い夢だな、本当に」


 彼は呆れながら構えたところで、悪夢が目の前に転移して接近し、避ける間も与えず、数多の腕で彼を拘束する。

 そのまま大きな口を開けて、食いつこうとする前に、魔力を電気に変換し、その場で放電する。

 悲鳴とともに拘束が緩んだ瞬間、開きっぱなしの口の中に魔力の球を放り込み、体内で炸裂させる。

 内部に仕込んでいた、小型の腐れ杭を体内に埋め込んだ筈だが、魔力の供給が出来ない杭はすぐに機能停止し、一瞬の足止め程度にしかなっていない。

 体内からの攻撃は危険過ぎる事もあり、天魔は再度外皮を切り刻もうと魔剣を取り出し、斬り掛かったところ、悪夢にも動きがあった。

 彼の魔剣を模倣した剣を地面から引き抜き、彼の剣を受け止めた。そのまま馬鹿力で天魔を弾き飛ばし、外皮にいる数多の腕が、至るところから剣を生成して構え始めた。


「…私を模倣したか?」


 その行動は、天魔の動きから得られる物を学習し始めたことを示唆している。あの肉塊にそんな知能や理性があるとは思えないが、天魔も少しだけ危機感を覚える。―実際、そんな悠長なことを考える暇はなく、回転しながら襲いかかる斬撃の嵐に天魔は後退し、それと共に地面が耕されていく。

 これ以上足場を不安定にされるのも迷惑なので、逃げ続けていた天魔は足を止め、踊り狂う剣の雨に立ち向かう。訳ではなく、器用に力の流れを変換し、右手方向へと殴りつけるように受け流す。まさか、受け流されると思っていなかった肉塊は、そのままあらぬ方向へと転がっていき、天魔はそれの周囲に帯を作り、内側に刃を取り付けて縛り上げた。

 回転を続ける肉塊は刃に自ら斬りつけられ、悲鳴とともに抉られていく。両断するつもりで縛り上げていたが、天魔の目に、肉塊の中で蠢く肉が見え、すぐに追撃の構えを取る。


「トリシューラ」


 短い宣言と共に現れたのは、全長10m程の三本の槍。その内の一本を手に取り、本体であろう場所に向けて投げつけ、天魔は残る一本を手にとって接近する。

 地面に飛び散った肉片が、一本目の槍を受け止めるが、それは肉片に触れた途端燃え上がり、炭になるまで焼き尽くす。その隙に接近していた天魔は蠢く肉に向けて手に取った槍を突き刺そうとするが、切り離された残る肉塊が天魔に覆いかぶさる。しかし、彼は槍を空へ向けて掲げると、冷気が吹き出して周囲一帯が凍結させ、肉塊もその場で動きを止める。

 動きを止められたにも関わらず、天魔の周囲一帯は凍結した肉塊に覆われ、その向こうでは人一人分程の黒い肉が、這いずり回っている。


「死ね」


 天魔は空いた手を下に下ろすと―肉の上部に透明化して待機していた毒々しく染まる槍が、最後の肉片に向かって振り下ろされた。

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