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三十四日目 夜の食堂にて

 パラナたちは屋敷に戻り、マクスウェルは普段通り別れて、私室、ではなく食堂に向かう。

 最低限の灯りが灯る部屋に、誰も居ない、わけではなく。明日の仕込みを終わらせた若いコックの一人が、丁度片付けをしていたところだった。


「あれ、マクスさんじゃないですか。どうしたんです、こんな時間に」


「おや、客がまだ居たか。こんばんわ、アステル。

 会食の護衛として参加してきたんだが、きちんとしたものを食べて無くてな。寝る前に軽いものでも作っていこうかと」


 若いコックの名前を呼び、経緯を簡単に説明すると、彼は目を輝かせて聞いてくる。


「噂にあった陛下との会食です!? 一体、どんな料理があったんですか!??」


「……まぁ、色々あったな。客人用のコース料理と言うものもあって、手の込んだものもあれば、一見シンプルだが、工夫の見られる料理もあった」


「へぇー。あ、護衛っていうことは食べてないんですね」


「そういうことだ。何か余ってる食材とかあるか?」


 質問を適当にあしらい、目的を伝えると、彼は思い出したように聞いてきた。


「それなら、俺が作った料理の味見してもらっていいですか? 料理長にも紹介できるか心配で…」


「成る程。是非とも食わせてくれ」


 マクスウェルは楽しそうなニヤけて空いている席に座り、彼はすぐに準備を始めた。


「今回は冷めたもので考えたんですけど…」


 そう言って出されたのは、シンプルな魚のカルパッチョ。赤みと白身、貝類を綺麗に並べてあり、赤、緑、白のソースで見た目も楽しくなっている。早速フォークを取り、一つ、まずは白いソースのものから手を付ける。


「白いのは、大豆のソースか?」


「えぇ、大豆をベースに他の調味料を混ぜてみたものです」


「成る程。なかなかに面白い。だが、少し大豆の風味が強いな。これではアクセントではなく、味をぼかしてしまう。大豆の配分を少し減らしてみたらどうだ? それか、ホワイトソースを作るとき、小麦粉と一緒に混ぜるとかな」


 しっかりと食べながら提案すると、目の前に座った彼はメモを片手に熱心に聞いている。


「他のはチリソースとバジルソースか。こちらはシンプルで悪くはない。

 それと、魚を切る時に厚さを使い分けるのも一つの手だ。今回はどれも薄切りだが、厚く切って、ディップさせるような食べ方も悪くない。尤も、料理としては別物になるが。

 …うん、うまかった。ごちそうさま」


 一通り食べきり、皿を返すと、彼の手元には追加の料理が待っていた。


「まだあるのか?」


「もう少し、見てもらってもいいです?」


 懇願するように彼が見てきて、マクスウェルも答えにくく、仕方ないと言いたそうに立ち上がる。


「構わんが、紅茶を淹れてくる。お前は飲みたいのあるか?」


「あ、シナモンティー飲みたいです。甘めで!」


「分かった、少し待ってろ。折角だからアイスも付けてやる」



 そんな遅めの夕食を済ませていると、食堂の扉が開いて鉄仮面を着けたヴェルディが入ってきた。


「マクスウェル、こんな所で夜食ですか?」


「お前もな。夜食でも探しに来たのか?」


「まぁ、そんなところ」


 お互い、ここに来た理由は同じであり、二人は小さく笑って、マクスウェルは隣の席を引いて手招きする。


「折角だからお前も食っていけ。若コックの賄いがまだあるんだ」


「おや、それはそれは。同席しますね」


 思ったよりもヴェルディは気軽に彼の誘いに応じ、席に着くやいなや、大きくため息を吐いた。


「あぁ…疲れた…」


「なかなかに緊張していたようだったな」


「当然だろう」


 彼女は不満げに言い、マクスウェルが紅茶を置くと、ゆっくりと飲み始めた。


「…落ち着くな」


 しみじみと呟き、マクスウェルはコックが用意してくれた野菜のチップをつまみながら笑う。


「それは良かった。これからはもっと大変になりそうだけどな」


「……あまり思い出させないでくれ」


 心底嫌そうに呟く彼女に対し、鼻歌交じりに彼は紅茶を飲む。


「結局のところ、前線で戦うのは私だ。その後の処理だけに集中していれば、いくらか気楽だろう」


「お前一人で片付けられると思ってるのか?」


「片付けてやるとも。今までも、何とかしてきた」


 彼ははっきりと言い切り、それとも、と悪戯っぽく聞く。


「お前らが尻拭いを出来る相手なのか?」


「それは…」


 言い淀むヴェルディに向け、彼女の背中を軽く叩く。


「そういうことだ。気負うくらいなら、最初から私に任せておいた方が楽だろう」


「…そういうことにしておこう。頼んだぞ、マクス」


「任せておけ」


 マクスウェルは胸を張って言い切り、かぼちゃのチップを手に取り、呟く。


「ところで、これはこれで酒が飲みたくなるな」


「お茶請け代わりに考えてたんですけど、酒のほうが良さそうです?」


「あぁ、塩気が丁度いい。なんならチーズとかもあるか?」


「それは…ちょっと切らしてますね」


 そんな事を話しながら、マクスウェルは何本か酒瓶を既にテーブルに置いており、人数分のグラスも用意していた。


「適当に私の家の酒蔵から持ってきた酒だが、飲み比べてもするか。お前ら、好きな種類とかあるか? なんなら今日、国王に開けた食後酒も残ってるぞ」


「え、俺も良いんですか?」


 コックの分のグラスも用意しており、思わぬ誘いに確認すると、彼はいつの間にかチーズやミックスナッツまで用意しつつ答える。


「構わんよ。申し訳ないと思うなら、夜食の代金としてもらってくれ」


「なら、私は陛下にお出ししたワインを頂こうかな。食後酒となると、これだけで良いのだろう?」


「そうだな。まぁ、ここは会合でも何でもない。好きに飲んで、咎める奴も居ないさ」


「それは助かる」


 ヴェルディの言葉に、マクスウェルは鼻で笑い、彼女も早速注がれたワインの香りを確かめ、一足先に口に着けようとした所、動きを止められる。


「おっと、少しだけ待ってくれ」


 残りの2人の分も注ぎながら、彼は制止して、全員分揃った所で、それぞれのグラスを掲げ、音頭を取る。


「では、今日という一日を終えたことへ―乾杯」


『乾杯』


 それぞれが乾杯を口にして、小さな宴が始まった。

備考

登場人物紹介

伽藍僧…スキル 空間支配/言霊/再生/振動/身体強化

闘技場でもトップクラスの闘技者。戦闘向けのスキルを複数持ち、更に同時起動も難なくこなす強者。

その最大の能力は空間支配により、周囲の空間を閉鎖し、己の言霊が届く空間へと書き換えること。しかし、言霊そのものを対策されると、自身の空間転移などのスキルを封じる結果となるため、欠点は存在する。

彼の持ってる錫杖の先端には麻痺性の毒が仕込まれており、早期に毒を仕込まれるとじわじわと毒が回り、結果として戦闘不能になることも。

敵のスキルに対して完全に対処する天魔との相性は最悪で、無音空間を作り出すことで言霊を完封、身体能力でも勝てないため、惨敗することになってしまった。


国王/ジャイロ=Ⅶ世

パラナたちの暮らす国の頂点に存在する国王。世襲制であるが、その根底には神と取引をした祖先の存在がある。その結果、彼は神の傀儡として生きることを強いられ、次の世代が産まれた後には新たな繋ぎの器として捧げられる。

その命に生贄以外の意味はなく、それに抗おうとしても、抗うことは敵わない状態が続いている。

設定としては年齢は20代前半。


アザゼル

名前だけでてきた、この国を支配している、進化の一角を担う"神"の一柱。

ある目的―己の入り込む、完全な器を求めるためにスキル持ちを掛け合わせた手法を試している。


アルマロス

アザゼルと手を組んだ、進化の一角を担う神のもう一柱。

その本質は"スキル封じ"であり、スキル持ちを利用して器を創る方法が成し得ているのは、彼の存在が大きい。



補足

・この世界の神について

堕天使の名前が今回出てきましたが、それを神と呼ぶ理由についてはep57にて、マクスウェルが話していた理論を当てはめると分かりやすいと思います。

要約すると、"神"とは力の概念であり、後付けとして名前と姿が与えられたものです。ヒトに"武器や戦争"を伝えたとされるアザゼル、"魔術への防御"を伝えたとされるアルマロスはその役目に当てはまった力の概念=神ということになります。そして、姿を持たない概念だからこそ、姿はなくとも影響を与えることができたりします。

そもそも概念のみの存在が自我を持って動いているとか、仮初の器を供給できている彼らが、完全な器を求めるかはまた後ほど作中にて。

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