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三十四日目 メインディッシュ 牛肉のソース煮込み

 国王の言葉から少しして、料理が運ばれてきた。

 一つ目の皿はシンプルにソースで煮込んだ肉。二つ目は色鮮やかなソースを掛けた魚のムニエル。その付け合わせとして、細かいサラダやスープが付いている。

 国王は料理が並ぶと共に食器を手に取り、食べ始める。


「思っていたよりも普通だったか?」


 国王は小馬鹿にするように笑い、切り分けた肉を口に運びながら話す。


「王だからといって、豪勢な食事をしているという訳では無い。それに、私はあまり食べる方ではないからな。あまり作りすぎたところで、勿体ないだろう」


 思った以上に当然の答えが返ってきて、パラナも小さく笑って食器を手に食事を始める。

 小さな音が鳴り続ける会場で、彼らは食事を進めていき、半分ほど食べたところで、国王が口元を拭って話し出す。


「話の続きとしようか。

 君に依頼したいのは、先ほど話していた軍部の反乱だ。そして、わざわざ君の闘技者に声をかけたのは他でもない。総司令が擁する護衛の一人に対して、ぶつけたいと思っていた」


「…まさか」


 その言葉にパラナが呟き、後方に待機するマクスウェルは静かに言葉を待っている。


「君の想像通りだ。"天魔"、君には"神成(オメテオトル)"と戦ってほしい。

 都合のいいことに、先日、君は接触しているようだからな。"敵"はよく分かっているだろう」


「……それは、」


 国王からの言葉に、パラナの手が止まり、回答を迷っているかのように目が泳ぐ。しかし、今回はパラナではなく、マクスウェルが回答した。


「それは、二つ返事で答えられん」


 主人の代わりに答えたのを受けて、国王は興味深そうに彼を見る。


「理由は?」


「一つ、私の力に制御が掛けられている。確かに、奴に敵う力は持っていると自負しているが、それは万全な状態という前提だ」


「ほう。それと?」


 マクスウェルの言葉から、他の理由も聞くと、彼はパラナを見ながら答えた。


「私という、異界の異物を使ってまで、アレを殺そうとする理由が分からん」


 自身がこの世界に於いて、異端であると理解した上で、マクスウェルは発言した。それを受けて、国王は食事を再開しながら話し出す。


「確かに、異界から来たお前には、我々がたった一人の闘技者に拘る理由は分からんな。

 ならば、まずは説明しよう。我々の始まりと、延々と続く、"計画"について」


 国王がそう話したところで、周囲が露骨に狼狽える。


「陛下、彼は異端では―!?」


「良い。そこまで話さなければ、彼に理由が伝えられん」


 部下たちの制止を一蹴し、彼は話しだした。


「君は、この国の成り立ちを知っているかな?」


「あぁ。ある小国でしかなかったこの国が、周囲の国に侵略戦争を繰り返し、今の形にあると。

 幾度となく戦争に勝ち続けられたのは、"スキル持ち"を無力化し、従えさせた事によるものだってのもな」


 マクスウェルの回答に、彼は拍手する。


「その通り。どこで学んだ?

 ―まぁ良い。君の言う通り、この国は神聖視されていたスキル持ちを服従させ続けていた結果、成り立った国だ。今も、他国との交流があるときは糾弾される材料にもされているが―それはどうでもいい話だ。

 そして再び聞くが、我々は今、スキル持ちを狩れるように、"スキルジャマー"という兵器の一種として利用しているが、その根本となる技術は何処から提供されたと思う?」


「…異界から、か」


 マクスウェルが呟くと、彼は頷く。


「その通り。元々、この国は異界からの影響を受けて、発展していくことになった」


「お前らはその異界の来訪者の末裔か何かというわけか?」


 彼の指摘を受けて、国王は笑った。


「末裔、末裔か。ふふ、なかなか面白い表現を使ってくれる。残念ながら、我々は末裔ではない。それこそ、"来訪者そのもの"だ。

 今の私は違うがな」


 彼の言葉の意味がわからず、しばらく思考停止していたが、マクスウェルはある可能性に気が付いて目を丸くする。


「…………、!? そんな、可能ではあるが、正気ではないだろう!!」


 マクスウェルの反応に国王は自嘲気味に笑い、説明を続ける。


「私は国王と名乗っているが、実権を握っているのは裏にいる老人たちだ。この体は、前に出ているだけの木偶人形。

 年を取り、子を成し、その子を新たな木偶となった時、新たな"器"に老人たちが乗り換える。そうやって、命と記憶を受け継いで、この国は続いていく」 


「呪われた国だな」


 マクスウェルが吐き捨てるように言うと、彼は一つ、息を吐いた。


「そうだな。私の命は、老人の命繋ぎとして使い潰されるために創られた。この国が神の力を飼い慣らすようになってから、ずっと続いてきた連鎖だ。

 つまり、私のこの"魂"に意味はない。故に、表舞台に出ることはなく、名前だけの王として、記録だけが残る」


「その呪いに抗うつもりは?」


「ない、と言えば嘘になるが、私に出来ることはない。老人たちと呼んでいるが、それは正真正銘の"神々"だからな」


 彼は諦観気味に語り、マクスウェルは面倒そうに頭をかく。


「そうやって、思考も何もかも潰すのも狙いか。

 ―そこはまぁいい。それで話を戻すが、結局のところ、老人たちの狙いは何なんだ? この話だけでは結論までは見えてこない」


 話を戻すと、国王はそうだな、と答える。


「我々は他国を蹂躙し、各地に散らばるスキル―神の力の断片を持つ者たちを集め、度重なる交配を続けている」


「お前らの言うスキル持ち同士の子は、それを継承して産まれる可能性が非常に高い。それを利用した方法だとは分かっているが、その果てにあるのは、極めて神に近い"異物"だ」


 マクスウェルが続けて話すと、話が早いな、と国王は興味深そうに聞く。


「先ほどの件もそうだが、随分と詳しいな。どこかで情報を知ったのか、実際に見たのか?」


「それに関しては後者だ。私の世界には、"言語"の神の力を分け与えられた奴を知っている」


 マクスウェルは無表情で答え、そうか、と残念そうに呟く。


「話を戻すとして、お前の言う通り、スキル持ちの交配の結果、産まれるのは神に近い何かだ。

 しかし、それが我々の目的であり、計画の最終地点である」


「わざわざそんなことをする理由なんて――……そう、か」


 理解できないと首を横に振ったと同時に、その理由を理解して、彼は悩ましげに額を押さえる。


「なるほどな。全てが繋がった。

 お前らの計画の真意とは、―老人たち、この国の隠れ蓑にずっといる神とやらの、"正しい器を創る"ことだったか」


 マクスウェルの答えを聞いて、彼は深い、深いため息の後に頷いた。


「その通り。この国そのものが、大きな実験場であり、そのために多くの時間と命を費やしてきていた。

 そして、それを知る者は多くない。この場にいる近衛兵たち、私に仕える領主の一部にしかこの話はしていない。

 何せ、この国の根幹ともいえる老人たちの計画の話だ。"計画"そのものを知っているものたちも、この国の成り立ちでもある、老人たちの事を知る者の方が少ない。故に、この結論に至ることは難しい」


「計画の目的が何かと私も考えていたが、まさかそんな事だったとはな。本当に―愚かしい」


 マクスウェルは冷たく言い放ち、深いため息と共に聞いた。


「それで、何故総司令たちはそれを知った上で反乱を起こそうとしている?」

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