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三十四日目 会食会場にて

 通路を更に進んでいき、ようやく招待状に記載されていた、大きな扉の前に来た。

 扉の両脇にいた、胸甲とグリーヴという簡素な鎧の下に、スキルを装備できるスーツを纏った兵士たちに招待状を確認してもらい、彼らは中に通される。

 扉の奥は、煌びやかとは言い難いが、白を基調にした、とても落ち着いた部屋。壁にはアクセントとして小さな絵画や写真が並んでおり、額の装飾が電飾の光を反射して、キラキラと光っている。

 そして部屋の中心には円形のテーブルが置いてあり、既に二人分の椅子が用意されており、兵士に案内されて手前側の席に座る。そして、兵士の一人がマクスウェルに声をかけた。


「噂には聞いているが、君が"天魔"かな?」


「そうだが、何の用だ? サインは受け付けてないぞ」


 冗談交じりに応じると、彼はそうじゃない、と笑う。


「君の料理の腕は総司令殿から太鼓判を押されていてね。料理長もそれを聞いてたから気になっていたみたいで、是非陛下にもお出しできないか見せてほしいと言われていたんだ。

 つまるところ、調理場に借りてもいいかな?」


「だそうだ、パラナ」


 主人に判断を仰ぐと、彼はため息混じりに答える。


「どこに行っても人気だなお前は。別に構わんが…陛下は遅れそうなのか?」


 一応、マクスウェル含めて遅れるわけにはいかないため、パラナは時間を確認すると、もう一人の兵士が時計と予定表を見ながら教えてくれた。


「今の執務がまだ押しているらしい。これから準備もあるということで、もう少し時間がかかるようだ。

 調理場も近くだし、陛下が来るまでは時間も足りるはずだ」


「それなら大丈夫だな。マクスウェル、行っていいぞ」


「御意」


 パラナの了解を得て、マクスウェルは兵士に連れられて部屋を出ていく。ヴェルディは無言で彼の後ろに立っており、それを残った兵士がじっと見ていた。


「……お前、"接続者"だよな?」


「…………? その声、もしかして」


 ヴェルディは兵士の顔をじっと見て、思い出したように呟いた。


「諜報部のズィーナじゃない。

 こんな所で何してるの」


「お、覚えてくれたのか、嬉しいねぇ。

 でも、諜報部にいたのはだいぶ前で、今は近衛隊やってんだよ。お前が諜報部から除隊して少ししてからだな」


「成る程。随分と出世したみたいじゃない」


 嫌味もなくヴェルディが拍手すると、彼は彼で渋い顔をする。


「割と表向きには何してるとか言えない仕事なのは変わりねぇんだけどな」


「陛下直属の兵となれば当然か。まぁ、私も似たようなものだけど」


「まぁ、お前もパラナ様の側近だもんなぁ。言っても、昔から人付き合いのないお前には都合が良いんじゃないか?」


「……それは言わないの」


「ヴェルディ…お前、なかなか休まないと思ったらそう言うことなのか」


 彼らの会話を聞いて、パラナがふと口を出すと、彼女は珍しく声を荒げる。


「別に、知り合いが居ないというわけではないですから!」


「いや、お前とは十年近く側に置いていたが、浮いた話の一つもないのは…、とクルドも三年くらい前までは心配してたぞ」


「あの人に言われたく無いです!」


 つい、主人に向けて強い口調で言うも、パラナは不思議そうに首を傾げる。


「いやあいつ既婚だし子供いるぞ? もう子供も大きいし家を出てるから仕事に専念してるだけで」


「え……?」


 今まで割と長い付き合いだというのに、聞いたことない情報を貰い、聞いたことないような声を出す。


「なんなら、妻は私の屋敷で働いてる。子供は"教育"の所にいるみたいだが」


 今まで知らなかった情報が連続で飛び出し、彼女は情報を処理しきれずにへたり込む。


「……本当に知らなかったのか」


 パラナも申し訳無さそうに呟き、あまりの姿にズィーナも苦笑した。


「ま、まぁ良いことあるって」


「そういう君は?」


「結婚してますよ。子供そろそろ四人目が産まれます」


「は、…はは……」


 パラナの問いに彼は堂々と話し、それを聞いたヴェルディは力なく笑っていた。



「―何してるんだお前は」


 食前酒ならぬ食前茶の準備を終えて、部屋に戻ってきたマクスウェルがへたり込んでいるヴェルディを見つけ、困惑気味に聞くと、パラナは笑う。


「知らなくてもいいことを知ってしまったようだ」


「―そうか。まぁ、人間、生きてれば良いことあるぞ」


 それだけで何か察したマクスウェルが優しく言うと、彼女は逆ギレして詰め寄ってくる。


「嫌味ですか!」


「何のことかよく分からんが、折角淹れた茶がこぼれる。やめてくれ」


 マクスウェルは淡々となだめ、物凄い剣幕で騒いでいた彼女を適当にあしらっている内に落ち着いたのか、不機嫌そうに壁際に戻っていった。


「……何だったんだ」


「はは…」


 困り顔のマクスウェルに向け、パラナは何とも言えない表情で笑い、彼が紅茶の準備をしている所で、扉が開いた。

 彼らの視線の先には、とてもシンプルな灰色のスーツを纏った青年が、後ろに二人の兵士を連れて入ってきた。

 彼は雪のように美しく、長い銀色の髪をなびかせ、静かに席に座る。そして切れ長の赤い瞳で目配せして、パラナたちは姿勢を正し、彼に向き合う形で整列する。

 そして彼の薄い唇が開き、低い声で話しだした。


「執務が押していてな、待たせてしまって申し訳ない。

 お初になるだろうが、私がこの国の現国王。ジャイロ=Ⅶ世だ」


 彼、国王はそう名乗り、パラナは静かに一礼して名乗った。


「此度は、招待頂き光栄です。

 私はパラナ。"軍部"の息子となります」


「噂には聞いている。こちらこそ、今回の回りくどいやり方に付き合ってもらって助かった」


 二人はそんなやり取りをして、マクスウェルが話に割り込んだ。


「お二人とも、挨拶はそのくらいにして、紅茶でも如何でしょうか?」


 マクスウェルは笑顔でそう勧めると、国王は目を丸くして彼を見て、誰か理解して笑った。


「お前が"天魔"か。話の通り、大層な男だな。

 王を前にして臆さぬというか」


「えぇ。私の主人は一人しかいませんから」


 マクスウェルは笑顔で答え、国王は怒ることなく、楽しそうに笑う。


「成る程。皆が面白いと言うわけだ」


 それだけ言って、ティーカップに手を伸ばし、リラックスした様子で一口含む。


「これは、なかなか。ハーブを三種類ほど調合したか?」


「その通りです。いやはや、一口で見抜くとは…作り手としても嬉しい限りですね」


 マクスウェルは本当に楽しそうに話し、その雰囲気にあてられ、パラナも静かに紅茶を一口飲むと、爽やかなハーブの香りが広がった。


「リラックス効果のあるハーブを二種、それと香辛料を一つ混ぜたものになります。食前茶、となればリラックスして、食欲を沸かせるような物が良いでしょう?」


 彼はそう説明し、国王はふむ、と紅茶をゆっくり飲みながら頷く。


「悪くない」


「お気に召したのであれば光栄です」


 彼は仰々しく一礼して、役目は終わりと言わんばかりに一歩下がる。


「随分と良い従者を持ったものだな」


「えぇ、彼は素晴らしい従者ですよ」


 国王の言葉を素直に受け取り、前菜が運ばれ始め、会食が始まった。

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