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三十三日目 vs伽藍僧 前半

 王城地下にある、闘技場。

 不定期に、国王の希望によって開かれる御前試合の相手に選ばれた二人の闘技者は同時に会場に現れた。


 まずは"天魔"。以前のように、卸したばかりの執事服に身を包んで、いない。何度も見せていた、四本の角と翼、紅いスーツを纏った状態で現れた。


 そして、彼の相手となる"伽藍僧"。その名の通り、僧と呼ばれるだけあって、白い法衣の上に、胴を守る金属製の鎧を纏い、顔の上半分も白い頭巾で隠している。

 顔つきと体型から、男であるのは理解できた。そして、下の先端が刃となった銀色の錫杖を着いて、歩いている。


「……、」


「……」


 二人はおよそ50mほど間隔を開けた定位置につき、互いに無言で開始の合図を待っている。


 間もなく、試合のゴングが鳴った。


 先手は天魔。眼前に転移し、必殺の掌底を撃ち込む構えを取っている。それに動じることなく、伽藍僧は錫杖で防ぎ、怯むことなくその手を弾く。

 魔法で強化されているはずの攻撃を容易く受け止め、更に弾き返すことが出来た。この時点で、身体強化系のスキルを持っているのは確定する。

 天魔はその一瞬で得られる情報を集めつつ、返しの手で回し蹴りを放つが、それを軽々とかわし、大きく後ろに飛んで距離を離す。

 すぐに体勢を整えた天魔がそれを追い、転移しようとするが―転移するための軸が固定されていることに気がつく。


「…まさか、」


 天魔は敵のスキルが発動していることに気が付き、即座に解析を優先しようとするが、伽藍僧は既に行動している。

 一転、距離を詰め、鋭利な棘が付いた(カン)を叩きつけるように振るい、天魔はそれを避ける。そのまま持ち手を変え、鋭利な先端を槍のようにして突き刺す。

 流石にこの程度の攻撃、天魔が受け止められないわけはなく、そこを起点に攻勢を仕掛けようとした時、彼は低い声で呟いた。


「【受けろ】」


 体が言うことを聞かず、天魔は無防備な状態で胸を突かれる。


「…!?」


 天魔のスーツを貫くには威力が足りず、彼は後ろに倒れ込む。何が起きたのか理解する前に体が動き、立ち上がって体勢を整える。


 しかし、伽藍僧もその隙を見逃すわけがなく、再び接近し、鐶で胴体、ではなく無防備な顔面を殴りつけようとする。

 そして、防御しようとする天魔に向けて、再び呟いた。


「【腕を上げるな】」


「…!!」


 天魔の腕は動かず、咄嗟に足を上げて叩きつけを避けるが、体勢を崩して後頭部をぶつけるような形で転ぶ。

 再び伽藍僧が追撃しようとする前に、彼は身体強化で跳ねるようにして距離をとる。


 傷は一切受けていないものの、肩で息をしながら天魔は忌々しそうに呟く。


「―"言霊"とは、厄介な」


 それは天魔の呪いにも組み込まれている、"命令を遵守させる"スキル。パラナに刻まれたものは、彼が本当に命令しなければ起動しないものだが、相手のは次元が違う。

 しかし、先程のように具体的な命令のみしか受け付けない可能性があり、まだやりようはある。


 しかし、相手の情報が足りていない今の状態で不用心に接近するのは愚の骨頂。天魔は一旦距離を離して、牽制をしようとするが―


「【その場から動くな】」


 ―"空間全体"から声が聞こえ、天魔の足の動きが止まり、その隙に伽藍僧が接近する。


「…!」


 地面の中にセットしていた電磁砲を起動させ、牽制しようとするが、それよりも早く言霊が遮る。


「【撃つな】」


「くっ…!!」


 電磁砲の奇襲を阻害され、天魔は咄嗟に伽藍僧の錫杖の叩きつけを腕で防いだ、と同時にその奥に向けて"振動"が放たれ、彼は地面に叩きつけられる。


 倒れ込んだ天魔の頭を向けて、錫杖を突き刺そうとするが、その寸前で天魔は切っ先を掴み―魔力を電気に変換して放電する。


「―!!」


 閃光と共に、放った電撃は、金属製の錫杖を伝って伽藍僧に直撃する。

 一瞬で焼き付いた彼は、煙を上げながら倒れ込み、天魔はその隙に立ち上がって体勢を整える。

 そして距離を少し離し、敵の出方を見る。案の定それだけで絶命には至らず、倒れていた伽藍僧はゆっくりと立ち上がり、頭巾から見える黒い目がぎょろりとこちらを捉える。


「…当然、再生くらいは持ってるか」


 天魔は嫌そうに呟き、ため息を吐いて、この短時間で得た情報を纏める。


(複数のスキルの同時発動とは…最強格と呼ばれるだけはあるな。

 何より厄介なのが―今も起動している、"空間を閉鎖する"スキルで、転移を封じつつ、更に閉鎖空間内に言霊を伝えるように複合している、といったところか。

 ただでさえ厄介な言霊に対して、防御手段が少なすぎる。しかし、指定できる動きは大きな物はないように見えるが…はてさて、どういうことやら)


 情報を整理している間に、伽藍僧は構え直し、接近してくる。錫杖を構えて殴りつけてくると同時に命令する。


「【動くな】」


 動きそのものを止める言霊を言い放ち、天魔の動きが完全に停止する。しかし、彼の防御は手足だけではない。纏っていた魔力(スーツ)の一部を崩し、障壁として展開して攻撃を防ぐ。

 そして、足元から二本の茨を生やし、伽藍僧に向けて突き刺した。しかしそれは振動によって根本から砕け散り、返しの拳が天魔の顔面を狙う。再び障壁で防ぐものの、それを貫通、ではなくその先に振動が撃ち込まれる、はずが同じ波長の振動を放って中和する。


 その隙に言霊が解除されているのを確認し、"クロック・アウト"で加速して、音速を超えた掌底が伽藍僧の腹に突き刺さった。

 それを避ける事は出来ずに直撃し、彼は地面を転がっていく。そして開いていた手を握り、掌底で撃ち込んだ魔力に外向きの力を与える。破裂音と共に腹が破裂した伽藍僧の血飛沫が周辺に飛び散った。


「……」


 その姿を見て、天魔は更に追撃することはなく、即座に振り向いて、迫りくる錫杖の突き刺しを掴んで受け止める。

 目の前にいるのは、無傷の伽藍僧。それと共に、後ろにいた無惨な死体はブレて消え去った。


「…今のも、見抜いていたとはな」


 天魔が掴んだ錫杖を引き寄せようと力を込めている伽藍僧は感心したように呟く。天魔は錫杖を片手で掴んだまま、無言で空いた手を構える。


「【離せ】」


 言霊による命令に従い、錫杖から手を離し、その勢いと共に後退する伽藍僧を追撃し、今度は間違いなく実体を捉えたが、それと同時に天魔の顔面にも拳が突き刺さった。

 大きな音と共に、拳に加え、振動が炸裂し、天魔の顔が文字通り潰れる。しかし、それは瞬く間に修復していく。


「それが不死の呪いとやらか」


「そんなところだ」


 彼は適当に話し、ため息混じりに呟いた。


「話半分に聞いていたが、お前は強いな」


「その他の雑魚と一緒にされたら困る。逆にお前は、話以上に容易いな」


 伽藍僧も馬鹿にするように鼻で笑い、天魔もそれにつられて笑う。


「そうだな、ここまで執拗に顔面を狙われるくらいだ。対策すらしないのはそう言われても仕方ないか」


 天魔はそう呟き、不敵に笑う。


「じゃあ、対策してもいいか?」


「やらせると思うか?」


「悪いが、やらせてくれ」


「【動くな】」


 天魔の言葉に、即座に言霊を放つが、彼は何の影響もないように動き、目を閉じる。


「この状態の、本来の姿に戻らせてもらおうか」


 その言葉と共に、紅い魔力が殻のように展開され、天魔を包む。

 数秒の時間の後、殻が破れ、血のような紅い魔力の雨が降り注ぐ。


「―待たせたな。これが本来の私の第二形態だ」


 片手を上げた天魔は紅い鎧を纏い直し、素顔を晒していた顔にも、紅いヘルムで全体を覆い、さながら、騎士のような姿になっていた。


「さぁ、この箱庭で戯れようじゃないか」

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