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三十三日目 いつもの来客

 その日の夜。前回と同じく服装を整え、軍部の紋章が刻まれたコートを纏い、マクスウェルはパラナと共に戦場に向かう。

 別れた後の護衛として、クルドとヴェルディも着いてきており、普段よりもピリピリとした雰囲気を感じ取っていた。


「お前ら、何をそんなに警戒している?」


 会場へと向かう通路の途中、不思議そうにマクスウェルが聞くも、彼らは無言を貫く。


「無言、か。まぁ構わんが―こんなところで気を張るくらいだと疲れないか? 少なくとも、ここ周辺には何の気配も無いはずだが」


 マクスウェルが指摘するが、彼らは特に反応も返さず、黙々と先に進んでいく。それを見て、ため息を混ぜつつ彼も大人しく着いていく。


 そして彼らは無言で別れ、コートをクルドに任せたマクスウェルは、何とも言えない気分のまま、控え室で準備を始めていると、聞き覚えのある声が聞こえた。


「―"天魔(エヴィル)"」


「誰かと思えば、"剣聖(サンクード)"か。どうした?」


 剣聖、彼の名前を呼ぶと、物陰からいつも通りの紅白の袴を纏い、腰に帯刀した剣聖が姿を見せた。


「一つ、忠告をしておこうと思ってな」


「伽藍僧についてか?」


 指摘に対して、彼はそうだ、と肯定する。


「奴は力も有って、危険だ。まず、拙者の剣技だけでは歯が立たんほどに」


「そうか。つまり、本気でやれと? 殺す気は無いんだが」


「そんな悠長なことを言っている余裕がないということだ」


 余裕を見せるマクスウェルに向け、彼はきっぱりと言い切り、ふむ、と少し考える。


「最初から殺す気でいけと?」


「そうだな」


 剣聖が頷くも、彼は少し考える。


「しかし、だ。お前の言い方には少し含みを感じる」


「何かを隠していると?」


「そうだな。例えば―私の本気をどうしても見たい、なんてな」


 マクスウェルの指摘に、わざとらしい間を置いてから、剣聖は答える。


「……、そう思うか?」


「お前の言ってることは間違いなく真実だろうが、私に警戒させるだけとは考えにくい。それだとしたら、その先が本心だと判断すべきだろう」


 彼は淡々と説明すると、観念したように、剣聖は首を横に振る。


「そうだな、我々として、お前の力を知りたいのがある。そして、お前の姿の進行させるには、時間も必要だと考えたからだ」


「なんだ、そこまで分かっていて話したのか」


 特に驚いた様子もなく、試合前の準備運動を始めつつ話し出す。


「まぁ、お前の予想通り、私の"変身"には、時間の制約が付いている。文字通り、桁が違う魔力を扱うからこそ、クールタイムがないと、体が追いついてこないからな。

 ただ、一つ忘れているようだが―私の呪いの関係上、いくら危険だろうが、相手とはかなり接近しないと、まず魔力を解放できん。

 はっきり言えば、スキルが脆弱なお前が来たところで、私の意思関係ないし使える魔力が少なすぎて姿が変えられん」


 マクスウェルは呆れつつそう伝え、準備運動と説明を続ける。


「その裏を返せば、相手のスキルのキャパ自体は、相対した時点で私の呪いの影響で判断できるというわけだ。一つ聞くが、その伽藍僧とやらは相当に強力なスキルを持っているのか?」


「少なくとも、お前が今まで戦ってきた連中の中よりは間違いなく多い」


 剣聖の答えに、彼は淡々とそうか、と呟いて柔軟を始める。


「まぁ、少し期待はしておこう」


 そんな運動をしている最中、剣聖はふと腰の刀に手をかけ―即座に半身を拘束される。


「搦め手有りで私に奇襲できると思うなよ」


「…!」


 力を全力で込めても微動だにしない拘束を受けつつ、彼が力を抜くと、その拘束は弱まった。しかし、その一瞬の隙で抜刀、"座標操作"を含めた剣戟を飛ばすが、切り落とされたのは剣聖の腕だった。

 マクスウェルは淡々と準備運動を続けていたが、彼の腕が切り落とされた瞬間に立ち上がり、音もなくその腕を掴んで傷口に押さえつける。

 しばらくするとその傷口は綺麗に繋がり、手を離してから告げた。


「座標操作の対策が出来ないとでも思っていたのか? 御前試合や正々堂々なんて名目がないなら、別にお前を殺すのは容易いと言わなきゃ分からんか?」


「……、」


 剣聖の治療を終え、彼は面倒くさそうに椅子に座る。


「本気でやれ、と言われたらそういう事だ。私は今使える力の全てを使って相手を殺す」


 そう話しつつ、鎖のような左手首の契約印を見せつけた。


「それはこの呪いがあってもなくても変わらん。興行として戦えと言われ、私はやっているだけだ。

 興行もクソもない、殺し合いならば不死でもない限り、抵抗する隙も与えずに首を切り落としてそれで終わりだからな。だが、それではつまらんだろう。

 だからこそ、私は敵に合わせ、試合を長引かせる。しかし手を抜いてる訳ではなく、今ある手札で全力で戦っているということだ。

 それを踏まえて、全力を出せと言うのなら、私はただ手段を選ばないだけだ」


「…そういうことか」


 剣聖もマクスウェルの答えを聞いて納得したのか、それ以上は反撃することなく、納刀し、柄から手を離す。


「我々の思い違いだったようだな」


「そうか」


 マクスウェルはどうでも良さそうに呟き、剣聖は部屋から出ていく。


「……なんだあいつは」


 彼一人しかない部屋の中、好き勝手やっていった剣聖にむけて、ふと呟いた。

 そんな無駄なことをしている間に、試合時間が間近に迫っており、彼は慌てて椅子をしまって、バタバタと控室から出ていった。

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