表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/144

二十日目 vsマクスウェル

 翌日。マクスウェルは普段通り仕事をしていたが、シナロアは闘技場での戦闘のダメージを回復させる、という理由で休みを貰っていた。

 とは言え、やることがあるわけでもなく、闘技場に行ってもサクが重症で入院中ということもあり、知り合いがいる保証もない。

 なので、久々に書斎に篭って読書をしている内に夜になっていた。


 パラナにも呼ばれ、夕食を皆で済ませた後、食休みを挟んで、マクスウェルに連れられ、闘技場にやってきた。


「…今日は、ここなんだね」


「そうだな。どうせ直すし、折角なら広い場所で気兼ねなく暴れるのもいいだろう」


 真っ暗な戦場で、彼は土の感触を確かめながら話し、指を鳴らすと―照明が一斉に点灯し、戦場を照らした。


「これだけあれば、灯りも十分だろう」


「あれ、ここってこんな設備あったの?」


 シナロアの質問に、マクスウェルは笑う。


「剣聖から教えてもらった。あいつもたまに訓練でここを使ってるらしくてな」


「そうなんだ…」


 そんな話をしながら、二人は準備体操を始めており、マクスウェルが説明を始める。


「さて、ここでは私の呪いの限定解除はされていない。つまり、出力そのものはお前と互角となる。そして、今回もお前と同じスキルだけを使うのは変わらん」


 マクスウェルがなぜそんな事を伝えるのか、疑問符が浮かんだが、すぐに納得する。


「つまり、マクスウェルも本気で来るってこと?」


「ご明察。頑張って耐えてくれ」


「えぇ…」


 シナロアは本気で嫌そうに言うが、彼は楽しげに笑いつつ構えを取る。


「さて、私は準備できたがそちらはどうだ?」


「…………、まぁいいよ。お手柔らかに」


「そうだな、本気で殺す気で来ていいぞ」


 会話が噛み合わないものの、それを開始の合図として、二人は同時に駆け出した。

 先手はシナロア。振動による加速で一気に距離を詰め、その勢いを利用して渾身の掌底を撃ち込むが、簡単に腕を掴んで、その勢いを利用して背負い投げる。地面に叩きつけられるも、上手く受け身を取って、ガラ空きの頭を踏みつける足から逃れ、急いで立ち上がる。その隙を逃さずに足を踏み出すが、一点集中の影送がそれを阻む。それを感知した瞬間にマクスウェルが閃光を放ち、影を打ち消してスキルを解除する。

 しかし、それだけ時間があれば体勢を整えるには十分で、彼女はすぐに構え直し、距離を取る。

 今度はマクスウェルが振動によって加速し、距離を詰める。しかし、距離を詰めるだけに留め、その勢いで地面を蹴り、方向転換、翻弄するように周囲を飛び交い―至るところから振動による爆撃を繰り返す。

 肉を打ち、至るところにアザが出来ていくが、シナロアはひたすら耐え、隙を伺う。決定打にはなり得ないと判断し、マクスウェルがこちらに再接近した瞬間を見逃さずに、影送で片足を止め、体勢を崩した瞬間に顔面に向けて掌底―ではなく、振動を叩き込んだ。それと同時に影送を解除し、振動が直撃したマクスウェルは地面を転がっていく。


 転がっていく途中で受け身を取って、曲芸のように回りながら立ち上がり、鼻血を吹き出して鼻を鳴らす。


「なかなかやるじゃないか」


「上手くなったでしょ」


 マクスウェルの言葉に自慢げに胸を張って、彼は悪戯っぽく笑う。


「あぁ、かなり上手くなった。スキルの使い方は無理に教える必要は無さそうか?」


「いや、それは教えてほしいな」


「それなら良かった。そこで満足されたら困るからな」


 彼は笑いながら構え直し、姿が消えた。否、空を飛んだ。


「少し、応用に入るぞ!」


 彼はそう言って、シナロアの頭上まで飛んで―振動で無理矢理起動を変えて拳を握った。高速で落下しながら繰り出される一撃は、直撃すればひとたまりもない。シナロアは即座に退散し、拳が地面を砕き、土塊が飛び散った瞬間―散弾のように砕け散って飛んできた。


「!?」


 突然の攻撃に、シナロアも咄嗟にガードをしてツブテを防ぐ。しかし、それで足が止まり、隙ができたのを見逃さず、ガードの上からマクスウェルの掌底が突き刺さる。そして、彼の掌底は奥まで届く。

 ガードを貫通し、シナロアの頭を揺さぶり、体勢を崩す。


「そこ!」


 衝撃で跳ね上がった頭に上段蹴りが突き刺さり、シナロアは地面に倒れる。


「――あ?」


 脳を揺さぶられ、視界が揺れるが、意識はある。それでも尚、立ち上がれるのは再生だけではなく、元の状態に戻ろうとする"回帰"故の回復力。大きくバランスを崩した隙を一切見逃すことはなく、幾度となく攻撃が突き刺さるが、一瞬、大振りの拳が見えたところでガードが間に合った。


「…………、」


 幾度殴られようとも、意識は残っていたため、気が付けばスキルによって、めまいも収まり、全身痛いものの、まだ戦える。

 再び構えたシナロアを見て、マクスウェルは笑った。


「あぁ、本当―良い子だ」


 マクスウェルの言葉の真意は分からない。シナロアも口に溜まった血を吐き捨てて、腫れ上がった目でマクスウェルの動きを見る。

 正直、体はほとんど動かない。だからこそ、一撃に賭け、マクスウェルの動きを集中して見つめる。

 マクスウェルは彼女の意図を汲み取ったのか、不敵に笑って駆け出した。


 不思議なことに、コマ送りのように、スローモーションに見える世界。マクスウェルが構え、体重を乗せた掌底を胸に叩き込もうとするのがよく見える。

 そこでシナロアが行えるのは―マクスウェルの腕をピンポイントで止めて、その勢いで突っ込んでくる彼を迎撃する。

 不意打ち気味の拘束は成功し、そのまま突っ込んでくるかと思いきや、彼はすぐに立ち止まり、体勢を崩しながらも停止した。

 予想とは違う結果となったが、それはそれで好都合。体勢を整える前にこちらも掌底を叩き込もうと接近した時には―既にマクスウェルは迎撃の準備を終えていた。


「!?」


 意味がわからないまま、掌底を受け流され、返しの膝が腹に突き刺さる。限界間近であった彼女だが、それでもまだ立ち上がろうとするが、彼女のこめかみを狙った拳が既に迫っており―意識は刈り取られた。



 しばらくして、果物を混ぜ合わせたような味を感じて意識が戻されていく。


「起きたか。やはり、随分と回復が早くなってるな」


「……、」


 朦朧とした意識の中、マクスウェルに膝枕されつつ、指を伝って飲み物を流し込まれていたことを理解する。普段なら恥ずかしがっている場面だが、そこまで考える余裕はなく、彼女は何処か遠くを見ながら呆けていた。


「まだ意識は曖昧のようだな。反省会兼解説はもう少ししてからが良さそうか」


 彼は淡々と話すも、その言葉は彼女の耳から通り抜けていく。マクスウェルもそれ以上特に話すことなく、静かに彼女の回復を待っていた。



 更に暫くして、シナロアが立てるくらいまで回復したところで話しかける。


「そろそろ種明かしが聞けるか?」


「……なんとなく、分かってるよ。回帰、というよりその一部の"逆行"、を利用したんでしょ?」


 ふらつきながらも立ち上がり、深く息を吐き出してから彼女は話す。


「御名答。違和感に気付ければ難しい問題ではなかったか?」


「そう、だね」


 マクスウェルはわざらとらしく拍手をしてから、解説を始める。


「先程の戦いで使ったのは二箇所。まずは、上空から地面を砕いた直後だな。飛び散った土塊で視界を防ぎつつ、逆行させて普通に着地、その後に土塊を蹴り砕いてお前の方に飛ばした」


「当たり前のように言ってるけど、何もその使い方」


 不満げにシナロアが言い放つと、彼は楽しげに笑う。


「あるものは全て利用しろ。それはスキルだけじゃなく、環境もそうだ」


 マクスウェルの正論にぐうの音も出ずに、シナロアは黙り込み、話を続ける。


「……まぁ、もう一つは最後の所でしょ」


「そうだな。お前に片腕の動きを止められたから、無理にでも止まる必要があった。しかし、それはそれで隙を与えてしまう。それならば、その直前までに逆行し、油断した相手に奇襲をした方が効果的だろう」


「結果的に、昨日の敗因と同じ感じだね」


 しみじみと語ると、マクスウェルは鼻で笑った。


「そうだな。確かに、戦場において相手の行動を先に読んで動くことは間違いではないが、その妨害が自分の望む形になると考えるのは間違いだろう。

 一般的な戦闘であれば、間違いない行動だが、ここは神の力(スキル)を皆使う戦場だ。常に気にする必要はないが、反撃を受けるかもしれない、という心構えは重要だな。

 ―確かにお前のスキルの使い方は確実に上手くなってるし、出力もこの短期間で随分と上がってきている。

 ただ、それに見合う実戦経験がだ足りてないと言った感じだな。お前も若いんだから、それは追々身についていくさ」


 マクスウェルは笑って反省会を締め、軽く伸びをする。


「今日ももう遅い。試したいことがないなら帰って寝るぞ」


 一応確認をして、マクスウェルは帰ろうとするが、それを呼び止めた。


「マクスウェル、もう一つ聞いて良い?」


「どうした?」


 帰るつもりではあったが、特に気にする素振りは見せずに立ち止まって振り返る。


「しれっとやってた、あの周囲からやる振動ってどう使うの?」


「…あれか? その場のノリでやっただけだし、燃費がすこぶる悪いからオススメはしないぞ?」


「そうなの?」


 マクスウェルは嫌そうに言いつつも、少し考えてからまずは説明から始める。


「―いや、別の応用が効くな。

 あの動きは、振動を二重で起動させたやり方だ。それだけではなく、スキルを複数同時に起動できれば戦闘の幅も広がるし、覚えていて損はないだろう。

 体力が無さそうなら、とりあえず動きだけでも実際にやって説明するか」


「はい!」


 元気な返事が聞こえ、二人の訓練は続いていく――

スキル解説

・逆行

シナロアが使用する、"回帰"と称されるスキルの一部。時間を巻き戻すスキルであり、適用範囲は自身から、一部の無機物のみとなっているため、咄嗟の回避、弾丸の反射など、応用が利きやすく、強力なスキル。


・回帰

時間を巻き戻し、"元々あった姿へと戻す"スキル。再生と逆行の2つのスキルが組み合わさって"発展"したスキルと言われており、外傷のみならず、脳震盪などの衝撃に対しても回帰することができるため、再生の上位互換となる。


・鏡面世界

自身を鏡と見立てて、指定した相手とリンクさせることで、自身の傷を相手にも与えるというスキル。

ただし反射できるのは傷のみであり、外傷を与えない圧迫や拘束には無力。



人物紹介

鏡華…所持スキル 再生/鏡面世界/身体変化/空間転移

"教育"の領主に仕える闘技者の一人。鏡面世界という厄介極まりないスキルのせいで、ほとんどの闘技者から対戦したくない相手と直々に指名を受けている嫌われ者。

しかし、本人は割と気にせず生きており、闘技場以外では子どもたちの指導役として働いている一面もあったりする。他の闘技者に比べても知性もあり、しれっとマクスウェルの情報も集めていたりする。

自分が傷ついて、相手が傷付く顔を見るのが大好きという謎の性癖を持っている。


シナロア/逆行少女…所持スキル 回帰/振動/閃光/影送

ついに新たな名前を得て闘技場に舞い戻った、元亡国の貴族。マクスウェル直々の戦闘訓練を得て、以前とは比較にならないほど戦闘力も上がっている。

そもそも、以前は栄養失調でろくに力も出ない状態でなんとか戦っていたこともあり、今と出力が違うのも当然あったりする。

以前は得物を利用していたが、マクスウェルからの指導もあり、徒手空拳で今回は挑んでいた。しかし後ほどマクスウェルから『邪魔にならないなら武器も使ったほうがいいだろう。何せ、お前は身体強化もないんだからな』と言われて、その後は状況に応じて使い分けるようにしている。

仮面によって素顔が見えず、ミステリアスな雰囲気と、パラナの都合もあって滅多に出場しないことから、参加した時の人気はそこそこ出ているようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ