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十九日目 vs機神

 闘技場に到着し、しばらくして彼女の出番となった。彼女は文字が読めるため、事前に確認した表から機神(マクトゥーター)が相手なのは分かっている。

 元々、彼女は"振動"との相性が最悪で、戦いにくかった相手だが、シナロアも以前とは違う。以前に比べれば遥かに戦いやすくなっているが―機神もまた、マクスウェルと関わったことで新たな力を手に入れている。この場にマクスウェル本人がいれば、何かアドバイスをくれただろうが、それはあくまでもしもの話。現実は彼女は一人なのだから、己の力で勝ち抜くしかない。

 一旦クルドとは別れ、久々の会場までの通路の最中、彼女は己を鼓舞するように頬を、仮面を軽く叩く。


「―よし、やるしかないんだ」


 ここまで来たら、覚悟を決めるしかない、と考えを新たに通路を歩いていき、戦場に足を踏み入れました。


 狂おしいほど、本日も晴天なり。

 雲一つ無い空は、青く澄み渡り、そこから日差しが降り注ぐ。影も濃く、"影送"を使うにも十分。

 シナロアは静かに息を吸って、吐いてから一歩踏み出し、歓声を受け流しつつ先にいる相手―機神を見る。

 相変わらず真っ黒な機械仕掛けのパワードスーツに身を包んでおり、両腕、背部には二門ずつ砲塔を積んでいる。既に脚部はバランスを取れるよう、四股に分かれ、それぞれにタイヤが装着されている。

 今回は、オールレンジではな く、地上戦に特化した機体のようだ。シナロアが静かに機体を観察していると、いつもの解説の声が響く。


『お待たせしました! 今日の1回戦、3戦目の闘技者はまず、皆さんご存知"機神"! "人食い(グーラント)"へのリベンジに燃えているようです!

 そして、今回から初参加となるのは、"天魔"の後任として送られました! その名は"逆行少女(リトレイル)"!』


 聞き覚えのない名前を聞いて、つい彼女は苦笑して手をあげる。―そして、集中すると、もう外の音はシャットダウンされる。


 以前使っていた得物はない。彼女は左手を盾のように前に構え、腰を落とす―マクスウェルから教わった構えを取る。


 音が消えた世界の中、しばらくして、戦いを告げるゴングの音が鳴り響いた。


 鐘の音と同時に逆光少女は駆け出し―否、空へ駆けた。天魔から教わった、"振動"の応用。スキルを推力として利用することで、人間離れした加速を行う方法。

 文字通り瞬く間に距離を詰め、戸惑う機神の脚部の一本に向けて、掌底を叩き込もうとしたが、それよりも早く、彼女は距離を離す。

 逆行少女は攻撃を空振りながらも問題なく着地し、闘技場を滑走する機神を追いかける。

 こちらを向きながらタイヤで走行する機神の両腕の砲塔、マシンガンが火を吹き、弾丸が襲いかかる。機神を追いかけながら、迫りくる弾丸の時間を"逆行"させ、すぐにスキルを解除すると、勢いを失った弾丸が地面に落ちていく。


 見たことのないスキルに会場は湧くが、彼女の耳には入らない。高速で移動する機神を追いかけながら、進行方向へ"振動"を放つ。進路に向けて放たれた振動は直撃し、その勢いのまま、機神は大きく転倒する。

 そのまま追撃し、中にいる本体を引きずり出そうとした時、転んだ状態からも下半身の先端が変形し、爪となって地面をしっかり掴む。そして足を器用に動かし、難なく起き上がった。


「…見た目よりも、復帰はしやすいんだね」


 見た目からして、一度転倒させれば一方的に攻撃できると思ったが、そんなことはないらしい。一旦、スキルの浪費は止めて、彼女は機神を観察することにした。

 追撃が来ないことを確認し、機神は一転攻勢に切り替える。背部にある、天を向いていた砲塔が肩から飛び出るように前方を向き、標準を定める。そこから砲弾が発射され、地面に衝突すると、硝煙が巻き散らかされた。視界が制限された中でも機神は油断せず、再び背中の砲台へ再装填し、発射準備を整える。

 そして、硝煙をかき分けるように逆行少女の姿が見えた途端、背中の砲台から、弾丸が放たれるが―それは機神の砲弾を破壊した。

 予想外の反撃に、機神も思考が停止し、大きな隙を晒す。その隙を見逃すはずがなく、彼女が接近し、足の一本に掌底を叩き込み、内部を"振動"で破壊する。

 足の一本を機能不全にしたところで、機神の意識も現実に戻り、残った三本の足で器用に距離を離す。それを振動による加速で追いかけていると、再度両腕の砲塔がこちらを向くが、その動きは突然停止する。


「……、」


 逆行少女は何も言わずに機神を追いかけ、再び接近を許す。

 そこで機神は突然空を飛び、脚部が変形、二足歩行へと変形する。逆に肩から砲塔の代わりにアームが飛び出し、腕の砲塔は鋭利な刃物へと変化する。

 地上を走行して砲撃する機体から一転、近接特化になるが、逆行少女は動揺することなく、構えを崩さない。


 振り下ろされる刃を紙一重でかわし、がら空きの胸部に踏み込んで振動を叩き込もうとするが、視界の外から肩から生えたアームが彼女の腕を掴む。

 そのまま、棒きれのように振り回され、壁に叩きつけられる。

 頭が割れるような痛みはあるが、意識はある。まだ、戦える。

 彼女はすぐに崩れた壁の中から起き上がり、追撃のミサイルの雨から逃げ出し、その爆風を利用して一気に距離を縮めた。しかし、機神の片腕はまた砲塔に変化しており、バチバチと帯電している。それは、いつぞや天魔が見せた、"電磁砲"と酷似していた。

 その嫌な予感は的中し、轟音と光と共に、光速の砲弾が放たれた。


「――!!」


 全力で集中し、時間を"逆行"させる。しかし、視認ができない光弾だけを逆行させるのは不可能。だからこそ、範囲を広く指定して、自分の時間もろとも逆行させる。

 ―その甲斐あって、電磁砲の直撃は避けられ、電磁砲はあらぬ方向へ飛んでいった。


「…ふぅー、」


 咄嗟の判断だが、功を奏し、彼女は息を吐いてから目の前の戦闘に集中する。しかし今度は機神も意識が外に向かうことはなく、加速しながらその巨体で踏みつけようとする。前方に軽く飛んで避けて背後に回り込み、そのまま本体へダメージを与えようとしたが、既に両肩のアームは後方を向いており、本体への打撃は諦める―訳がなく、彼女は膝に当たる部分に振動を叩き込んだ。

 基本的に二足歩行はバランス感覚が重要であり、四足歩行に比べてより綿密な制御が必要になる、とどこかで読んだ覚えがある。その知識を元にした攻撃だが、二足歩行の機械であっても、問題はなかった。


 機神は大きくバランスを崩し、後方に倒れ込む。それに巻き込まれないよう、逆行少女も退避して、倒れた瞬間にトドメを刺そうとしたが、まだ相手は諦めていない。

 両肩のアーム、両腕、両足が回転し、六足歩行をするような形で体を起こし、再び立ち上がった。


「……しつこい」


 彼女はつい呟いてしまい、機神は嘲笑うかのように両腕に再び砲塔を装着する。そして、先程の反省か、再び四足歩行型に戻ってしまう。


 再びこのイタチごっこを続けるのも飽きてきた上に、体力もこれ以上消耗したくはない。

 彼女も覚悟を決めて、温存していたスキルを全開にして戦うことにした。


 再び走り出した機体を、"影送"で地面に映る全ての影に干渉して固定。それを解除することなく、"振動"を使って接近、機神の本体のいるコックピット付近に辿り着いた。

 トドメの一撃を撃ち込む前に両脇から隠し武器の槍が飛び出て、逆行少女の体を突き刺す―筈が、"逆行"させることで収納した状態に時間を巻き戻す。

 ガラ空きとなったコックピット、胸部の分厚い装甲を叩き壊すのは、ここまでスキルを使い続けた彼女には不可能。ただし、無理矢理破壊するだけが方法ではない。


 そして撃ち込むのは、掌底による"打撃"ではなく、"振動"。残った余力を全て使い、装甲の奥、この機体を操る本体に向けてスキルを撃ち込む。

 当然、直接残る手応えはないものの、逆行少女は力の全てを使い果たして、息を切らして機神から離れ、膝を着く。

 機神を拘束していたスキルも解除され、反撃が来るかどうか、それは賭けとなったが―機神は完全に沈黙した。

 正直、コックピットがどこにあるかという確証はなかったが、何度か変形して、一度も変わらない胸部周辺にあっただろうという彼女の読みは当たり、勝利した。

 逆行少女の意識の外で、戦いの終わりを告げるゴングが鳴り響いていた―

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