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一日目 vs赤の天使 前編

 時間は既に夕刻に差し掛かり、日は傾き始め、青空は深い赤色へと変わっていく。通常ならば一仕事を終えて、帰路に着く者も多く、普段ならば寂しくなりつつ闘技場も決勝戦となり、会場はより一層沸き立っている。


 耳障りな歓声の中、一足先にマクスウェルは入場しており、準備運動を始めていた。


『―さてここでお知らせがあります!

 彼―パラナ氏の闘技者についてですが、改めて調べ上げたところ、スキルが発現していたそうです。

 それは"共鳴"。私も聞いたことありませんが、相手のスキルに呼応して、同等のスキルを発現するという能力だそうです! 確かに召喚されたのであればそんなスキル分かるわけないですよね! それ知ってたら入れてたよ金返せ!』


「おい司会、私情が混じってるぞ」


 マクスウェルが冷静にツッコミを入れ、ほくそ笑む。

 勿論、"共鳴"というスキルは存在しないし、彼の手を抜く、相手と同等の力加減で口実に使うための嘘だ。"スキル"がなん足るかを知っている領主たちであればまず嘘と分かるが、それを知らない観客たちを騙すには十分。むしろ、こういうスキルであったからこそ"人食い"、"亡霊"の戦いについて説明がつき―そして―と、ただでさえうるさい歓声が更に大きくなり、マクスウェルは一息吐いてから前を向くと、その先には敵がいた。


 悪趣味な、返り血に染まった半袖半ズボンの服。血が目立ちにくいはずの短く刈り上げた黒い髪にも、返り血のような赤みがかっている。血に染まっている癖に顔だけは子供のように無邪気で幼く、見ているだけで嫌悪感が沸く。


『皆さんご存じ! 人気No.1の闘技者こと"赤の天使"です! 今日はこの残酷な狩人はどんな戦いを見せてくれるのでしょうか!!』


 赤の天使、そう呼ばれた彼は嬉しそうに吠えると会場も沸き、マクスウェルは冷ややかにその光景を見つめる。


『―さぁ、皆様お待たせしました! 本日最終戦、始まります!!』


 そして、戦いを告げるゴングが鳴り響いた。



 最初に動いたのは赤の天使。"亡霊"も使っていた衝撃波―スキル"振動"を用いて、彼に襲いかかる。

 開始直後の、不意打ちに近い一撃に、マクスウェルが回避する間も与えず、それは直撃する。


「―ぐ、」


 亡霊と同じスキルとは思えない、重い一撃につい彼も声が漏れる。


『―! 埃しか付かなかった、彼の体に初めて傷が付きました!!』


 司会が興奮しながら叫ぶ。事実、今まで傷を一切与えられなかった彼の服は少し破れ、彼も食い縛ったときに口を切ったのか、血が滲んでいた。


(…私の防御を貫通するか。少し、認識を改めなければな)


 傷口は瞬く間に治るが、彼は相手の実力を再認識する。玩具に反応があったのが嬉しいのか、子供のように奇声を上げながら振動の嵐が襲いかかるが、彼の周囲に散布されるマナに力を込め、少しだけ防御を固める。

 それだけで嵐はただの騒音に変わり、彼は一歩、また一歩と先に進む。嵐が止んだ頃には、二人の間合いはゼロになっている。

 マクスウェルは構え、右の掌底を叩き込む。彼はそれを右側に避けて、がら空きの側面から殴り付けるが、咄嗟に肘を曲げてガードする。その衝撃で数メートルずり下がり、彼はもう一つのスキルを理解する。


「…巨人化、とは少し異なるか」


 巨漢であるが、ただ筋力だけで得られる力ではない。恐らく筋力強化に近いスキルを持っていることは理解した。そして距離を離されたということは―再び振動によって視界を奪われ、その隙を突いて赤の天使が肉薄する。


「千里眼、」


 遥か上空に魔法で作られた魔眼―"千里眼"と視界を共有し、俯瞰した場所から、拳を握って接近する赤の天使を視認する。

 振動によって巻き上がった土埃の中から現れた拳を受け流し、流れた背中に裏拳を叩き込む。

 鈍い音がしてそのまま倒れ込む天使の頭を踏みつけるも、転がってかわされる。その衝撃で、硬い地面にヒビが入ったのを見て観客が沸く、が彼は意に介さない。

 既に立ち上がった赤の天使が馬鹿の一つ覚えのように、振動を使って目眩ましをしてくるが、頭上に起動した千里眼を通した視界を持つ彼には無意味。


「―トリシューラ」


 自身の角と翼から放たれるマナの霧を固め、小さく宣言すると、彼の後ろに鈍い青色を呈する槍が三本現れる。


 接近してきていた赤の天使は、咄嗟に危険だと理解して彼の周囲を回るように逃げるが、彼が槍を掴み、地面に突き刺した槍は真っ白な煙幕を生み出し、会場を覆い尽くす。

 視界を完全に潰され、奇襲を恐れた赤の天使が空へ逃げたところ、煙幕の中から投げられたもう一本の槍が、彼を貫いた。

 悲鳴と同時に霧が暴風によって晴れて、何も持たないマクスウェルが墜落する彼に突進し、地面に直撃する前にその体を蹴り飛ばし、それは壁まで衝突する。

 轟音と共に壁が崩れる音がした。マクスウェルは追撃することなく、崩れた先を見ていたが、音もなく彼の背後に赤の天使が"転移"する。そして油断した首もとに爪が迫るが、彼にはもう一つの眼がある。そして、最後の槍もあった。

 景色と同化していた槍が姿を現し、彼の腹を貫いた。悲鳴を上げる間もなく、彼はその槍の柄を掴み、腹を貫き、拘束したまま、槍を地面に突き刺した。


 槍に貫かれ、物理的に逃げることは不可能な状態。彼は容赦なく拳を握り、殺意と魔力を込めて強化する。そして、一切の迷いなく、その頭に振り下ろした。


「ちっ」


 轟音と共に砕いたのは地面だけで、赤の天使は"転移"して逃げていた。だが、一方的に攻められたのが原因か、その顔には恐怖の色が滲んでいた。

 やけくそのような振動の衝撃波が叩き込まれるが、耐えられるだけの魔力を込めて彼は平然と駆けていく。

 嵐の中、明確な殺意だけを持って迫る相手は恐怖しか感じないのだろう、赤の天使は半狂乱になって振動を連発するが、拳を振りかぶり、彼の顔面を撃ち抜いた。

 身体強化の魔法で強化した拳でも、彼の首を吹き飛ばすことは出来ず、後方に高く飛んでいっただけだ。

 追撃をしようとマクスウェルは駆け出す。だが、吹き飛んでいったのはマクスウェルの体だった。

 彼がいた場所には拳を握る赤の天使の姿がある。―そして、次の瞬間にはその姿が消え、地面に転がっていたマクスウェルが再度吹き飛び、壁に衝突する。

 瓦礫を魔法で吹き飛ばし、瓦礫の中から出てきたマクスウェルは、口元の血を拭い、静かに赤の天使を見つめた。


(―どうして、今更になってこのスキルを使いだした? まさか、 恐怖がスキルを目覚めさせたとでもいうのか?)


 それ以上考える間も与えず、彼の姿が消失―ではなく、彼の目にはコマ送りのように、高速で動く姿を捉えた。

 彼の目に姿は確認できる。しかし、体が追い付かない。高速で、尚且つ強化された一撃はマクスウェルの守りの霧をぶち抜き、意識が飛びそうになりながらも、体内のマナを駆け巡らせて、魔法で無理矢理意識を繋ぐ。


(間違いない、"加速"している…!)

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