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十八日目 デーモン

 医務室に辿り着いた時には、三人の従者たちが右往左往しており、検査や輸血の準備を進めてくれていた。

 その内の一人がマクスウェルの到着に気が付いて、入口の右手にある部屋を指差した。


「血を洗い流すシャワールームはそちらです。介助はいりますか?」


「いや、大丈夫だ。まだ動けないわけじゃない」


 強がってるつもりはなく、マクスウェルはしっかりとした足取りでシャワールームへと向かっていった。

 中には2つのシャワーが備え付けられており、片方のバルブを回し、シャワーを浴びながら、紅いスーツを徐々に解いていくと、どんどん床が彼の血に染まっていく。そして、スーツの下、黒い剛毛に覆われた魔物の姿も露となる。

 数分ほどシャワーを浴びて血を洗い流し、綺麗になったマクスウェルはバルブを閉め、魔法で濡れた体を乾燥させる。

 そして部屋を出ると、外にいた彼らの視線が突き刺さった。


「…何だ、そんなに珍しい…いや、珍しくはあるか」


 この世界には本来存在し得ない、異界のデーモンの姿に戸惑うのも仕方ないと諦め、従者たちに聞く。


「準備は出来てるか?」


「あ、はい。その前に簡易検査をお願いしていいですか?」


「…構わん」


 先日、剣聖との戦いの後にもあった検査を受けるように言われ、彼は渋々それに応じる。

 大きな箱型の装置に入り、扉が閉まって密閉された空間になる。周囲をモニターに囲まれた空間の中で、彼は両脇にある取っ手を掴んで深呼吸して息を止める。大きな音が聞こえるものの、特に何も感じない時間が数秒経過した後、扉が開いて彼は装置から出てきた。


「どうだ?」


「……逆に聞きますけど、なんで立ってられるんですか…?」


「そういう呪いをかけてるからな」


 マクスウェルは結果を見て、蒼白になっている従者たちにそう話し、開いているベッドに横になると、すぐに輸血の準備をしてくれた。


「…血管ってどこにあります?」


「あぁ、すまんな」


 彼の腕を取り、針を手に困惑する従者の言葉に、彼は思い出したように一部の魔物化を解除する。

 人間のモノに戻った腕を見て、彼らは手際よく針を刺し、輸血パックに繋いてルートを開通する。ゆっくりと流れていく血を見て、彼は目を閉じて息を吐いた。


「―で、結局ネタバラシするとなんで無事だったの?」


 ようやくゆっくり出来ると思ったが、隣で寝ていた鏡華が話しかけてきて、彼は目を閉じたまま答える。


「無事という訳じゃない。ただ、"どんなことをされても命と意識を繋げる"呪いを自分に使っていただけだ」


「…反則じゃない、それ?」


「傷も反射する相手に言われる筋合いはない」


「いやぁ、一応首絞めとかは反射できないんだよね、あたし」


 不満げに答えるマクスウェルに対し、彼女は笑いながら別の手段を教えると、彼は暫し無言になってから小さな声で呟いた。


「なるほど、圧迫は対象外だったか…」


「拘束なら大丈夫なのは気付いてただろうけど、そっちはやっぱり気付いてなかったんだね…。いや、気付いてたらもっと早く終わってたか」


「そうだろうな」


 彼は淡々と答え、ところで、と聞いた。


「お前は出血とかは大丈夫なのか?」


「そう言われるとそうだね。今まで、疲労で運び込まれるのは何回もあったけど、貧血で運び込まれたことは無かったかも」


「"再生"の影響、か」


「だろうね。あたしはちゃんと知らないけどさ」


 そんな試合後の感想をお互いに言い合っていると、扉が開く音がした。


「マクス、無事か?」


「…、パラナか」


 入ってくるや否や聞こえた声から、主人と判断し、見えてはいないものの、空気の流れから、マクスウェルのスーツの下の姿、デーモンを見て絶句しているのは容易に想像できた。


「―意外か?」


「…そう言われるとそうだな」


「そうか」


 主人の反応にもあまり興味なさげに答え、パラナが来たところで従者の一人が提案する。


「丁度貴方が来てくれて良かった。この方はどうします? 医療者として、少なくとも明日の朝まではここから出したく無いんですが」


「君たちがそう言うなら、それに従おう。私よりも適切な判断が下せるだろうからな。ただ、歩けるようになったらで良いから、ここではなくアクレの下で安静にさせてやってくれ。あいつには私から話を通しておく」


「アクレ様に…? いえ、了解しました」


 パラナの頼みに対して、不思議そうに首を傾げてから、何かを理解して彼らは了承し、パラナは一旦マクスウェルの寝ているベッドの隣に立つ。

 マクスウェルがそれに気が付いて空いている手を挙げると、彼はその手を掴んだ。


「今日はしっかり休め。よくやってくれた」


「あぁ、久々にゆっくりしておくよ。ただ、明日も頼むぞ。アイツのこと、ちゃんと見てやってくれ」


 マクスウェルはその手を掴み返して伝えると、彼は無言でその手を握り返し、マクスウェルは笑ってその手を離した。

 そして用事は済んだと言わんばかりに背中を向けたパラナに向けて、彼は手を上げたまま言葉を投げかける。


「明日には戻る。よろしく頼むぞ」


「待っている。早く帰ってこい」


 パラナも一瞬振り返って答えてから、部屋を出ていった。


「―いやぁ、信頼されてるねぇ」


「茶化すな」


 二人のやり取りを見ていた鏡華は羨ましげに笑い、マクスウェルも苦笑する。


「ところで気になっていたんだが、お前のスキルの変異は何故花何だ? 確かに蔦は便利だが、足場を固定されるのはあまり効率的ではないと思うのだが」


「それをあたしに聞かれてもねぇ。"進化"のスキルは制御できるものじゃないし、たまたま花の姿になっただけだと……ん?」


「どうした?」


 会話の途中で考え始めたところを指摘すると、彼女は思い出すように話しだした。


「そういえば、子どもの時は外の世界の花に憧れてたなぁって話」


「幼少期の憧れや出来事が関係しているかも、と?」


 マクスウェルの問いかけに、彼女はどうだろうね、と肩をすくめる。


「何せ"進化"だからね。あたしの望みに反応して順応したってのもあり得るかもしれない」


「興味深いな。似た例は他にないのか?」


「流石にあたしもそんなに交流はないからね。これでも嫌われ者だし」


「…まぁ、そんなスキルではここだと嫌われても当然か」


「少しはフォローするとか気を遣えないの?」


 当たり前のように答えた彼に対して、不満げに頬を膨らませるが、笑うだけだ。


「お前に気を遣う必要があるのか?」


「あるでしょ、紳士として!」


「悪いが、私は異界の生き物だからな。世間一般の常識には疎いんだ」


 楽しげに言い返し、彼は腕で目を覆う。


「少し疲れた。寝ても良いか?」


「別に構わないけど、最後に一つだけ教えて。貴方のその姿は、自然にそうなったの?」


 眠ろうとしたマクスウェルへ、鏡華が質問を投げかけると、彼は微動だにせずに答える。


「そうだな。私のこの姿は、私が持つマナ…魔法と呼ばれる、異界の技術の源に対応するための姿だ。

 私は普段、力を制限して人間の姿を保っている。必要に応じて力を解放し、そのマナに耐えられるように 姿を変える」


「へぇ、君も大変な体をしてるもんだね。それで、その姿は全力と比べたらどのくらい?」


「一割から二割あたりだな」


「えぇ……」


「これでも苦労してるんだ。全力を出せる相手はロクに居ないからな。マナもため過ぎると体に毒になるから、適度に発散させないといかん。

 それには、この姿で全力でやるくらいが丁度いい。だから、今日の戦闘には私にとっても非常に有意義だった。それは感謝する」


 説明を受けながら、素直に感謝されるも、彼女としては腑に落ちない。


「いやぁ…素直に喜べないというか。結局、手を抜いてたんでしょ?」


「魔力の保有量だけで見ればそうだが、私は一切手を抜かずに戦っていたぞ。手を抜いたと言うより、外せない拘束具を付けられたという表現がただしいな」


「あぁ、そういえば君って力が出せないように呪われてるんだっけ」


 剛毛の下でも薄っすら見える、鎖のような痣に鏡華は気付いて思い出したように聞く。


「そういう事だ。

 ……そろそろ疲れた、寝て良いか?」


 戦闘後、瀕死の状態で話し続けていた事もあり、マクスウェルが少し辛そうに聞くと、彼女は元気よくベッドから起き上がった。


「それなら、あたしは帰るかな。大分体力も戻ったしね。思ったよりも話も楽しかったよ、天魔」


「そうか、また機会があったらな」


 手を振って部屋から出ていった鏡華を適当にあしらったあと、休んでいた医療の従者の内、二人が立ち上がった。


「それなら、私たちも夜間勤務の形態に移りますね。回復したら、アクレ様の所へ送るので声をかけてください」


「あぁ、助かった」


「いえ、主人からの命なので」


「……それは聞きたくなかったな」


 マクスウェルは真相を知って、嫌そうに呟く。従者たちも退室し、残った一人が灯りを常夜灯に切り替える。そのまま部屋の隅で電灯をつけて何かをずっと書き込んでいる。そんな部屋の中、マクスウェルは静かに寝息を立てて眠り始めた。

 その最中、ゆっくりとマクスウェルの姿も人の姿に戻っていって―残っていた従者が、輸血パックを入れ替えようと彼の姿を確認した時には、既に人の姿に戻っていた。それを確認して、彼は耳に手を当てて通話を始める。


「―回復したようだ。バイタルも安定しているし、このまま運搬作業に入る。手を貸してくれ」

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