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十八日目 vs鏡華 前編

 防衛長官のせいで、無駄に気になることを増やされたが、マクスウェルのやることは変わりない。気持ちを切り替えて、戦場へと向かう。


 既に一つ試合を終えた後のようで、戦闘の跡が所々にあるが、彼は特に気にせず、足元の地面の感触を確かめる。

 前と同じく、無駄に硬く、しっかりと踏ん張りが利く地面であることを確認してから、前を向くと、数十メートル先には、対戦相手が既に待っていた。

 目の前にいるのは、動きやすいのか、体の線がよく出たスーツを着た女。腰にいくつかのホルダーを装着しており、それぞれに得物の柄が見える。

 身長は170cmほどで、綺麗な緑色の髪は短く切りそろえている。

 顔つきも美人というほどではないが、不細工ではない。ただ、どこにでもいそうな、印象に残らないという感想が強い。これも個性といえばそうだが、マクスウェルとしてはどうでもいいことではある。敵なら倒す、それだけだ。


「君が噂の怪物くんか、聞いてた話よりもずっと良い顔してるねぇ」


 落ち着いてはいるものの、やはり印象に残り辛いトーンの声で彼女は話しかけ、マクスウェルも暇なのでそれに応じる。


「なんだ、もっと化け物みたいな姿を希望か?」


「まぁそれはそれで良いけど…今の君の顔を歪めるのも楽しみだから、そのままが良いかな」


「そうか。そうならないようにしないとな」


 マクスウェルは塩対応で答え、彼女は不満げに口を尖らせる。


「君って思ったより冷たい男なんだねぇ」


「無駄話が嫌いなだけだ。特に、初対面の女とそんな親しく話す趣味はない。

 こちらは元々、ハニートラップとかも仕掛けられる立場だからな」


 素性の知れない相手、特に異性相手は何かしら裏を感じてしまうこともあり、彼はそういう対応をしていると話すと、彼女は楽しげに笑った。


「ふふふ、噂に聞いてた通りだ。やっぱり領主寄りなんだねぇ、君は」


「そうだな。どちらかと言えばそちら側に私は居たいと思っている」


 マクスウェルの返答に楽しそうに笑った後、彼女は一息ついてから名乗りだした。


「あたしは"鏡華(メイレン)"。"教育"の領主の闘技者の一人よ」


「―、知ってるとは思うが、私は"天魔(エヴィル)"。軍部の領主の息子の闘技者だ」


「そして、異世界人、でしょ?」


「そうだな。隠すようなことでもない」


 鏡華と名乗る女に応じて彼も名乗り、鏡華の指摘を隠さずに答える。それを聞いて、彼女は楽しげに話しだした。


「あたし達のルーツを辿れば、様々な異世界人だろうけど、本当の異世界人に会うのは初めて。君は、どんな顔で戦うのかな?」


「……悪趣味だな」


 マクスウェルは呆れ気味に呟いたところで、試合の開始を告げるゴングが鳴り―即座にカモフラージュを解除して、魔族の証である翼と角を露わにした。



 戦闘が始まり、天魔は相手の出方を観察しながら、一歩足を踏み出した。それと同時に彼女も得物の一つ、ダガーナイフを取り出して得意げに自分の手首に添えて、手首を裂いた。

 深く切ったようで、勢いよく血が噴き出すが、それは"再生"のスキルで瞬く間に治っていく。

 意味の分からない自傷に困惑する間もなく―天魔の手首から血が噴き出していた。


「……!」


 突然の出血に戸惑うも、すぐに魔法で治療したところで、彼女はケタケタ笑い出した。


「これがあたしのスキル、"鏡面世界"。あたしの傷を、鏡のように相手に与えるものよ。貴方はどこまで耐えられるかしら?」


「…ふー、」


 相手の余裕から、このスキルは一方的に自身の傷を相手にも与えるというのは理解した。ただ、そんなことで天魔は止まらない。

 傷が癒えたところで駆け出し、そんなスキルは知らんと言わんばかりに思い切り拳を振り抜いたが、鏡華は紙のようにひらひらと攻撃をかわし、一瞬の隙を突いて、自身の胸にナイフを突き立てた。

 器官が傷つき、逆流した血液が口から漏れるが、天魔は一瞬怯んだだけで傷口を押さえることすらせず襲いかかる。

 一歩踏み込んで間合いに入り、歩幅を大きく構え、逃げ道を制限する。狙える間合いで掌底を撃ち込もうとするが、彼女はのらりくらりと天魔の背面に転移する。しかし天魔も動きを止めず―転移しながら追撃を放つ。

 眼前で大きく足を上げ、脳天を叩き割ろうとするが、再び転移して逃げ出した。空を切ったかかと落としは地面に亀裂を入れ、土塊を空中に飛び散らせる。本当の狙いはこちら。硬い地面から得られた"弾丸"は魔法によって電磁波を纏い、然るべき漆黒の砲塔に装填され、電磁砲が放たれる。


「―!?」


 不意打ち気味の攻撃には鏡華も対応出来ず、電磁砲が直撃し、彼女の体が吹き飛んだ。

 回転はほとんど与えず、単純な加速だけによる衝撃が直撃すれば、人間の肉体が吹き飛ぶのは容易に想像が出来る。それは"鏡面世界"に繋げられた天魔も例外ではない。

 直撃したであろう腰から太もも辺りまで吹き飛んでおり、流石の天魔も苦悶の表情で膝を着くが、その傷はどんどん塞がっていく。

 そして、完全に傷が塞がって、立ち上がった頃には、同様に回復した鏡華も彼の前に立っていた。しかし、再生の急激な酷使による疲労はあるようで、彼女は最初の余裕は見られない。

 それは天魔も同様―ではなく、彼は何ら変わりない様子で足を踏み出した。


「…!」


 あり得ない、と言いたげな表情で転移しようとするが、相手のやれること(スキル)を理解し、多少の時間があれば対策は可能だ。しかも、座標操作ではなく空間転移のスキルであれば更に対処は容易。

 周辺の空間軸を固定し、転移を防ぐ。逃げる術を封じ、先程のダメージで足元もまだ覚束ない。避けることは叶わず、天魔の拳が顔面に直撃し、それと同時に天魔の頰にも青あざが出来るものの、彼は一切止まらない。そのまま倒れ込んだ頭を踏み潰そうと迷いなく踏みつけようとした時、鏡華を覆うように蔦が天魔の足を受け止める。


「……」


 即座に天魔はその場を離れ、相手の動きを観察する。その間に、反射された傷は全て治しておいた。


 彼女を守った蔦は周囲から次々と生えてきて、鏡華を飲み込んだ。そして、戦場には蔦が集まって出来た大輪の花が咲き誇る。美しい銀色の五枚の花弁を持った禍々しい花だ。


「…この姿は、ここの修理が大変だから、あんまり使うなと言われてるんだけどね」


 その花の中心、恐らく柱頭の位置にいるのは、上半身のみの鏡華。まさしく、鏡の花弁を持つ華である。

 もう随分昔の話に思えるが、赤の天使(イヴェル)の肉体の変形を思い出した。


「……ふー、」


 天魔は珍しく参ったと言いたげに溜め息を吐いて、迫りくる数多の蔦を魔剣で薙ぎ払うと、彼の指や耳が切り落とされる。


「やはり、全てがお前の体の一部というわけか」


 彼の予想は間違っておらず、切り落とされた体の一部も瞬く間に修復される。生え変わった蔦が再度襲いかかってくるのを見て、面倒そうに紅い宝石の埋め込まれた首飾りを外して掲げた。


「―私も真面目にやってやる」


 迷いなくそれを砕き、彼は紅いスーツを纏いながら器用に蔦を一本ずつ固定し、それを伝って鏡華の下へと向かう。

 四本の角に加え、四枚の翼を生やし、鮮血のような赤いスーツを纏った天魔と、鏡の花弁を持った大輪の花へと変異した鏡華は、戦闘を再開した。

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