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十四日目 vs剣聖 後編

 雰囲気が一変し、天魔も少し警戒を強めて相手の動きを、注意深く観察する。剣聖は改めて柄を強く握り直し、流れるように一閃、その斬撃は座標を変換され、離れた天魔の元へ直接叩き込まれる。

 先ほどまでは軽々とガード出来た一撃を受け止めるも、比較にならないほど重く、天魔もたまらず後退する。

 そして重いだけではなく、速度も変わった。距離を離しても、座標を調節されて的確に斬撃が飛んでくる。天魔の異常なほどの動体視力のおかげで今のところ、全ての攻撃に対処はできているものの、このままでは一方的に攻撃を受け続けるしかない。

 この攻撃を受け続けるのは流石に負担も大きいため、一息吐いてから続けて迫る斬撃を受け流し、こちらも剣聖の足元に"振動"に似た衝撃波を放つ。

 それに対して彼は横に飛んで避け、着地と同時に再度刀を振る。しかし天魔の前方に刃は見えず、咄嗟に周囲に防御膜を展開したところ、左後方に感触を感じ、すぐに逆側に飛ぶ。

 座標を移動して襲いかかる刃は空を切り、天魔は一気に距離を詰める。足を踏み出した瞬間、視界の隅に映る刃はかわし、足を狙った位置に出てきた刃も飛んで避け、改めて二人は間合いに入る。

 先手は天魔。槍のような突きは最低限の動きでかわし、隙だらけの胴体を薙ぎ払おうとしたが、片足を上げて防ぐ。しかし衝撃は受け止めきれずに天魔は大げさに後ろに大きく飛ぶ。

 そして空中で器用に一回転して着地、そのまま再び迫る。先に間合いに入った剣聖が仕掛け、首をめがけて一閃するが、天魔は屈んで避け、その勢いで蹴り上げて刀が空を舞う。

 剣士は得物を持たねば戦えないか、答えは否。剣聖は何事もなく一歩引いて拳を握って構え直し、臆することなく天魔へと向かっていく。

 回避が出来ない接近戦に持ち込み、腹に拳を捩じ込むが、天魔は両腕でガード。返しの手でがら空きの顔面に叩き込もうとしたが、その前に天魔の頭突きがめり込み、数歩ふらつきながら後退する。ヒビが入りつつある面は気にせず、少し後退したところで落ちてくる刀を軽々とキャッチし、即座に"座標操作"を兼ねた斬撃で牽制する。最初は受け流し、二撃目は受け止める。すぐに弾き返し、距離を詰めようとしたところ、突きの構えを取り―天魔の腹部を刃が貫いた。


「ぐぅっ…!」


 不意打ちのような攻撃に天魔の足元がふらつき、倒れそうになるがなんとか踏み留まり、刀に手を伸ばす前にそれが引き抜かれ、鮮血が噴き出した。

 しかし、出血はすぐに治まり、ゆっくりと傷口も塞がっていく。

 剣聖が動くよりも前に間合いに入り、天魔の爪が襲いかかる。それを受け止めてから弾き返すも、体勢を崩すまでは至らない。追撃の爪は触れる寸前で、手首までの座標を切り替えて無理矢理引き千切る。しかし、その代償に剣聖の集中が切れてしまい、ほぼ無防備な状態で天魔の蹴りを受け止める。刀で自傷しないようにうまく転がりながら、受け身を取りつつ起き上がる。その隙に千切れた腕を天魔はくっつけ直す。

 起き上がった直後、構えを取る前に天魔が間合いを詰め、渾身の拳を刀の棟で受け、天魔と同じように衝撃を外に逃がそうとする。しかし、ぶつける寸前で拳を開き、刀を掴んだ。


「!?」


 流石に武器折りを狙っていたのは予想出来ず、剣聖が少し混乱した隙を逃すことはなかった。思い切り振り払うが、それと同時に手を離し、隙だらけとなった体を狙って掌底を叩き込んだ。


 天魔は、この戦いで気づいた事がある。この相手は剣の腕で見れば非常に強力な相手だが、スキルの使い方については粗い点が多い。座標操作のスキルで自身周囲の座標をずらすことで如何なる場所からも刃を通すことができ、触れる相手の一部だけの座標をずらすことで、カウンターも可能。使い方も合理的であるが、スキルにあまり頼っていないのが目に見えて分かる。

 故に、スキルを使用する時はどうしても集中が切れてしまい、連続して座標を操作したカウンターが使えなかったり、ある程度離れた相手でなければ遠隔攻撃の精度も高くはないと気付いた。単純に拳だけで戦うには相性の悪い相手だが、スキルが勝ち筋になると理解できれば、まだ勝機はある。

 身体は相当痛めつけることになってしまうが、敗北や死につながらなければ、天魔も躊躇はいらない。


 そして、剣聖もそれが見抜かれているのは理解しているだろう。故に、真正面からの斬撃だけでなく、死角や想定外の位置に座標を移して攻撃していると分かる。


 戦況の分析を終え、天魔が掌底を叩き込んで、地面に転がっていた剣聖に向き直る。


 距離は十数メートルほど。間合いからは遠く、遠隔攻撃を狙っているのは理解できる。天魔としてもそれは避けたいため、奇襲のために探知用の魔力の膜を張りながら、剣聖との距離を詰める。


 一撃目は右方から。相手の腕の動きや向きから最適の動きでかわして、さらに一歩進む。

 返しの手は左方からの切り上げ。正面から見えないものの、首筋に冷たいものを感じて即座に屈むと、首元に移動していた刃が頬を掠めていった。

 無理矢理屈んだこともあって、天魔も前に倒れ込むように転がり、距離を詰めながら立ち上がる。その隙に剣聖も距離を数歩離そうとするが、そこで天魔が先ほど剣聖に撃ち込んだ魔力を操作し、足の動きを固める。完全に動きを止めることはできないものの、距離を離すことだけは阻止することができた。

 剣聖もこれ以上距離を離すのは無理だと判断し、天魔のマナの拘束を打ち破ってから、突きの構えを取り、天魔も周囲に意識を配って集中する。

 狙いは首ではなく、心臓。天魔の背後から冷たい殺気を感じるものの、彼は振り返ることなく前進する。

 距離は十分、間合いに入ったと思ったところで、拳よりも先に天魔の旨を胸を刃が貫いた。


「――!!」


 天魔は言葉を発することなく、即座に貫かれた刃に手を当て、片手でマナを撃ち込み軟化、そして右手で力を込めて刃をへし折った。

 そして、この場で空間への干渉を行えるのは何も剣聖だけではない。

 天魔もへし折った刀の欠片を握ったまま手だけを転移させ、背後で刀を握っていた手にその刃を突き立て、切り落とす。


「―!!」


 剣聖も声なき声をあげるが、その情報を処理するよりも早く、手を元に戻した天魔が拳を握って、目の前に迫っていた。

 使用できる魔力を全て筋力強化に偏らせた一撃が、剣聖の顔面を捉え、そのまま地面に叩きつけられる。轟音と共に硬い地面に亀裂が入るほどの衝撃が加わり、観客たちは沸いた。


「……、」


 その衝撃で巻き起こった土埃から離れた天魔はすぐに、突き刺さっていた折れた刀を掴み、引き抜いていく。そして、噴き出した血をすぐに止血し、傷口に手を当てて治療を続けていたが―土埃の中で動きがある。


 先程の攻撃を受けても、剣聖はまだ意識が残っていた。それだけではなく、亀裂が入っただけで済んでいたお面にも驚いたが、この感覚からして他の闘技者と比べても"再生"のスキルも弱いはず―天魔もすぐに合点がいった。


「…衝撃の瞬間だけ、首を移動させたか」


 座標操作によって、一時的に首を移動させることで衝撃を緩和していたと理解し、治療半ばとは言え、天魔も構えを取らざる得ない。

 お互いに大きな傷を負っていて、力尽きるまでの根気比べが始まると思っていた所で―ゴングが鳴り響いた。


「なに…?」


 互いに殺意を剥き出しにして、真の殺し合いと言うのに、鳴り響いたゴングに二人の動きが止まる。そこで冷静になり、今回は勝敗を決するまで戦ういつもの闘技場の戦いではなく、王のための御前試合であることを思い出し、二人は構えを解いたところで―剣聖の腕を切り落としていたことを思い出した。

 天魔は切り落とした手首を拾い、剣聖に渡す。


「…再生は出来るか?」


「いや、拙者はそこまでスキルは、な」


「そうか。そのままは出血も酷いだろうし、治療するぞ」


 淡々と答え、強く握って無理矢理止血していた剣聖の手首を掴み、切り落とした手首を付けながら、魔法で傷口の修復を始める。

 淡い光が傷口を塞ぎ、綺麗になったところで手を離した。


「応急処置として、止血と縫合代わりの治療をしておいた。あとでちゃんと診てもらっておけ」


「恩に着る」


 剣聖の治療が終わり、退出しようとした時、向こうの入口から、背中に炎に炙られるナイフの紋章が刻まれた白いコートを纏った者が歩み寄ってきた。

 そしてその者は一礼してから、男性と思われる低い声で話し出す。


「お二方、お疲れ様でした。

 見たところ、外面の治療は問題ないようですが、内面はまだ完治していない様子。我が主から、検査をするために連れてくるように申し付けられたのですが、同行いただけますかな?」


「私は問題ないが、主人の許可は得ているのか?」


 当然の質問を返すと、彼は小さく頷いた。


「えぇ、了承していただいております」


「それならば良い。剣聖は歩けるか?」


「無論だ。…そこまで傷ついてはおらんよ」


「そうか」


 問題ないことを確認した上で、マクスウェルは剣聖と共に彼に着いていった。

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