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十四日目 vs剣聖 前編

 総司令と良く分からない会話を終えて、ようやく時間になったマクスウェルは控室から戦場へと進んでいった。


 ―開けた先にあったのは、円形の闘技場。広さとしては直径1km程。結構な広さであるが、スキルによっては巨人化といったモノもあるため、相手次第では心許ない広さとなる。地面は石ではなく土であり、何度か踏みつけて感触を確かめる。踏ん張る分には全く支障のない硬さだ。

 上方には観客席が広がっていて、分厚い防護ガラスによって、声が通らないようになっている、訳ではなく喧しい話し声が直接降り注いでいた。どういう仕組みになっているかは分からないが、安全を担保しつつ音声を遮らない構造になっているようだ。

 マクスウェルは野次を無視しながら闘技場を進んでいき、50mほど先にいる人影に気が付いて足を止めた。


 敵は、紅白の袴を纏った男。身長は彼より高く、恐らく180後半。マクスウェルと同じ長い黒髪を結って後ろに下げており、顔にはふざけたひょっとこの面を着けている。腰には1mほどの刀を帯刀して、ゆったりとした佇まいの反面、一切の隙が見当たらない。その立ち姿一つで、今までの敵とは全く異質の敵であると理解した。

 喧しい歓声だけは聞こえるが、司会のような声は聞こえない。恐らく、都合よく観客席にだけ聞こえるようになっているのだろうか。

 マクスウェルは静かに敵を観察し、既に両腕をマナで覆い、手甲を形作る。


「もし」


 低くともよく響く声が聞こえ、マクスウェルは意識を戻して敵へと向き直る。


「呼んだか?」


「あぁ。そなたが噂の"天魔"であろう?」


「そうだな。お前は?」


 敵は思ったより気さくに声を掛けるが、構えは一切崩した様子はなく、油断は一切できない。マクスウェルも適度に脱力しながら答えると、小さく笑ってから答えた。


「"医療"に仕える刀の一本よ。名は"剣聖(サンクード)"と呼ばれている」


「なるほど、"剣聖"、か。見たところ、相当な手練と見受けた」


「その言葉、そのまま返そう」


「褒め言葉として受け取ってやる」


 戦いを始める前から、お互いにその実力を認め合う。そんな短い会話をしている内に喧騒が収まり、静かな間が開く。

 それは、試合の始まりが間近であることを感じ取らせ、二人は無駄話はやめて大きく息を吸う。


「さて、仕合といこうぞ!」


 剣聖の一喝と同時に、マクスウェルはカモフラージュで背景と同化させていた翼と角を顕にし、試合を告げるゴングが鳴り響いた。


 その瞬間、天魔の腕を狙った斬撃を弾き返し、剣聖はその場を飛び退いたと同時に地面が大きく抉れる。

 目にも留まらぬ刃と衝撃。天魔はやれやれと首を横に振ってから左手を前に、腰を落として構えを取る。それに対して剣聖は刀の柄に手をかけ、居合の構えを取る。

 一瞬の静寂の後、天魔が先に動き、前進と同時に迫る斬撃を手甲で弾き返す。迫る天魔に対し、居合の立ち姿で待ち受ける剣聖。その間に視認すら困難な斬撃が飛び交うが、天魔は尽く、その手甲で弾き返した。

 そして、遂に互いの間合いに入る。


 先手は剣聖。光速の居合を右の手甲で受け止め、返す左の爪が襲いかかる。それを後方に飛んで避け、着地と同時に接近、体を両断しようと抜き身の刃を薙いだ。それよりも先に天魔の左手が軌道を塞ぎ、マナで作られた手甲の爪と、刃がぶつかって金属音が鳴り響く。

 二人は無言のまましばらく均衡していたが、同時にお互いの武器を弾き、接近した状態で小細工抜きの打ち合いがはじまった。

 剣聖の一本の刃に対し、天魔は両手がある。手数において、天魔が有利となるが、リーチにおいては得物のある剣聖が有利となる。互いの絶妙なアドバンテージが噛み合い、勝負は拮抗し、互いに有効打と言える有効打はない状況になっていた。

 しかし、まさしく達人と言える者同士の激しい撃ち合いに会場は大いに湧き、手に汗握りながら勝負の行方を見守っていた。


「……、」


 距離を取られ、フェイントを混ぜた斬撃を読み間違えることなく、片手で受け止めた天魔は冷静に相手の動きを観察していた。

 それは剣聖も同じく、天魔の反撃を予測して、掴まれるよりも先に刃を退かせ、攻撃への対処を行う。

 天魔の爪を受け止め、弾き返したが、体勢を崩すまでは至らず、その衝撃に従って体を反らして受け流す。


「……、」


 剣聖は再び距離を取り、今回は天魔も同様に距離を離す。そして一瞬、お互いに構えを解いた、と思った瞬間、再度動き出した。


 天魔は一旦後方へ引くと同時に、斬撃が地面を抉り、重心を低く構えた剣聖がそのまま前進―天魔の眼前まで"転移"する。

 体重を乗せた袈裟斬りを、天魔は体を反らしつつ片手を添えて軌道をずらし、がら空きの背中に空いた片手で掌底を撃ち込んだ。

 しかし、それは有効打になり得ず、天魔の手首から先が千切れ、何処かに消えていた。

 突然の流血に会場が沸くが、天魔自身は動揺することなく腕を押さえながら距離を離し、数秒すると千切れたはずの腕が戻って来る。そして瞬く間に傷口が塞がり、何事もなかったように手甲を纏い直し、再度構えを取った。


(―奴のスキルは少なくとも"座標操作"で間違いない。私の呪いの程度からも、その他にスキルがあったとしても多くはないはず。問題があるとすれば、あの剣技に加えて、スキルの精度が高すぎることか。

 だが、それだけの精度が必要となれば、それ相応の代償もあるはず。おおよそ予測はついているが、あとはそれが正しいかの検証といったところか)


 天魔も、この短い時間のやり取りで、相手のスキルはある程度特定が出来た。ただ一つ問題があるとすれば―


(仮にスキルの範囲が分かったとしても、この魔力量で私がどこまでやれるのかが問題といったところか)


 天魔がそんなことを考えながら、剣聖と打ち合いをしていたところで、その隙を狙ったように鋭い突きが放たれる。

 しかし天魔も考え事はしているもののそこまで油断はしておらず、軽々とそれをかわし、空いた背中に掌底を撃ち込むが―再び直撃する前に自身の身体の一部が座標をずらされ、そのまま放り出された手は千切れて何処かに捨てられる。それでも天魔は意に介せず、残った手で掌底を撃ち込むと、想像とは裏腹に剣聖の体に直撃した。

 両腕犠牲にするつもりの攻撃が通ってしまい、焦ったがそのまま魔力と共に撃ち込んで、更に体内にある魔力を起動、追加の衝撃を放って中央付近から壁の端まで大きく吹き飛ばすことが出来た。


「……」


 天魔は何も言わずに、再び千切れた腕を拾って治し、問題ないか手首の感触を確かめる。

 壁に叩きつけられた剣聖は、切れた口から流れる血を吐き捨て、追撃することなく観察している天魔の下まで移動する。しかし、ダメージがある分、剣が少しぶれており、天魔も腕を掴んで軌道をずらし―再び腕が持っていかれるが、そのまま接近して肘を鳩尾に撃ち込む。

 反射で怯んだ剣聖に向けて、頭突きを食らわせ、体勢を崩して後退したところ、体重を乗せた蹴りを当てて吹っ飛ばす。


 一転攻勢、何処かしら傷を得ながらも、順調に打撃を加えていく天魔に歓声が送られる。

 肩から丸ごと持っていかれたものの、事前に止血は施している。その腕を治しつつ、彼は大きく息を吐いた。


「……タフだな」


 出来るだけ魔力も一緒に撃ち込み、ダメージを加算しているとはいえ、剣聖の膝を折るにはまだまだ足りないようで、彼は平然としている。

 しかし、天魔に対しての意識は変わったようで、ズレたお面を直しながらも明確な殺意が見て取れた。


 ずっと片手で握っていた刀を両手で握り直し、重心を落とし、体の中心に構える。


「参ったな、まだ本気ではなかったか」


 雰囲気の変化に対し、彼はまるで他人事のように呟いた。

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