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十四日目 新たな闘技場へ

 今日もサクとトルーカの指導を適当に行い、時間を潰したマクスウェルは日暮れ前に帰ってきて、軽く汗を流してから、下ろしたての執事に着替え、長い髪を一つに纏める。


「マクス、随分やる気だね」


 流石の御前試合となれば、パラナも参加しないわけにはいかず、仕事も早く切り上げることになったため、自室に戻っていたシナロアが、少し面白そうに声を掛ける。


「やる気はないが、多少なりとも身なりは整えないとな。私が妙な格好で行けば、パラナの品位を貶めることになる」


 あくまで主人の名誉のため、と言いたげに鏡を見ながら、細かい埃やシワがないか確認しているマクスウェルに向けて、シナロアは面白そうに見ていた。


「マクスってさ、王様を名乗ってる割にはこういう時は律儀だよね。傍若無人な所は多いけど、ちゃんとしたところではちゃんとしようとするし」


「第一印象は大事だからな。気にする必要のある相手であれば、当然気を遣うさ。まぁ、お前も知ってる通り、必要なければ一切気にしないがな」


 彼は当然と言いたげに答え、問題ないことを確認して、何処からか肩に軍部の紋章が刻まれたえんじ色の ロングコートを取り出して更に着込む。


「あれ、上着るの?」


「誰と遭遇するか分からないからな。私の服装から何が出来るか、何をするか予測されたくない」


「わかるものなのかな?」


「全ては分からずとも、予測はつく。手札を見せないということは結構重要なんだぞ?」


 そこまで話して、そうだな、と例を挙げる。


「先日の総司令との戦いがあったが、奴らは全員、全身が見えなかっただろう?」


「そうだね」


「アレが結構厄介でな。服の下に暗器を忍ばせていたり、ある衝撃で起動する罠を用意していたらどうする?」


「……考えてなかったよ」


「そう言うことだ。見えない、と言うことはあらゆる可能性を相手に押し付けられる。情報として、アドバンテージを得られることは重要なことだ」


 マクスウェルはコートのシワを伸ばしたりしながら、説明してから、まぁ、と続けた。


「これは試合の時は脱ぐがな。道中までのカモフラージュというやつだ」


「あ、そうなんだね」


 ここまで話していたにも関わらず、意外な返事に呆気を取られるが、彼も仕方ないと言いたげに答える。


「妙な小細工をして、それが決定打になったらつまらんだろう?」


「そう言われるとそうだね」


「まぁ、そういうことだ。

 それに、私も仕方ないとは言え軍部の紋章入りのコートなんて着たいわけではないからな。脱いでいいならそれはそれで好都合だ」


 彼は肩に刻まれた紋章を撫でつつ呟くと、今更シナロアはそれに気がついたようだ。


「それってパラナから?」


「そうだな。私も扱い的にはパラナの直属、つまり軍部に属する扱いとなっている。本来ならば、私のような奴隷(闘技者)には余りある名誉だろうが、私としては不要なものでしかないからな」


「形式上仕方ないから、そこはねぇ…。パラナも個人的な部隊を組んでる訳じゃないしね」


「そうだな」


 マクスウェルも分かってはいるため、諦めたように首を横に振り、顔を隠すためにフードを目深に被る。


「そろそろ時間だな、行ってくる」


「行ってらっしゃい。今日は遅くなるのかな?」


 扉に手をかける彼の背中に聞くと、数秒悩んでから、扉を開けつつ答えた。


「そうだな、遅くなるかもしれん。寝てても構わん、明日もあるから支障が出ない範囲で好きにしててくれ」


「ん、じゃあ適当にしてるよ。じゃあ改めて、行ってらっしゃい」


「あぁ、行ってくる」


 シナロアは手を振りながら彼を見送り、マクスウェルは片手を上げて部屋を出ていった。



 部屋を出て、集合場所の転移用の部屋に辿り着くと、えんじ色の礼服を纏ったパラナと、腕のあたりに軍部の紋章が刻まれた、白地のコートを纏った鉄仮面、クルドが待っていた。


「時間通りだな、マクスウェル」


「そういうお前は早く来ていたようだな。気合十分じゃないか」


「ほざけ」


 いつものように茶化すマクスウェルを一蹴し、パラナは彼に背を向けて、転移の準備を待つ。


「今回の舞台は、王城地下にある闘技場、王族、貴族、もしくはそれに認められた者たちだけが入れる場所となる。

 観客の層が違うだけで、闘技場には変わらんから、お前の移動制限にも変わりはないようだ」


「なるほどな」


 パラナの説明を適当に聞き流し、彼は転移の準備を眺めており、しばらくすると、カプセルのような転移装置からは淡い光が漏れ出した。


「じゃあ、行こうか。主人」


「そうだな。任せたぞ、闘技者」


 二人は前だけを見て、そんな言葉を交わしてから一緒に小さく笑った。


「堅苦しいな、いつも通りに行くぞ」


「そうだな、マクスウェル。勝ち負けはどちらでもいいから、生きてくれ」


「御意」


 主人からの命令を受けて、マクスウェルは普段通りに応じて―新たな戦場へと歩みを進めた。



 地下闘技場は石造りの建物のようで、彼らはゴツゴツとした岩に囲まれた部屋に転移した。

 パラナの屋敷や他の転移室と同じ、転移用のポータルと照明以外は存在しない殺風景な部屋はさっさと出ると、同じ材質の石で作られた廊下が続いていた。廊下は白い照明で足元まで照らされており、特筆するべき所もない。

 パラナは無言で歩みを進め、マクスウェルとクルドは無言で彼の後ろに着いていく。

 しばらく道なりに進み、曲がり角をそのまま曲がったところで、二手に分かれる道に出て、パラナは行き止まりに立って説明する。


「ここで一旦別れることになる。私から見て右手が主人たちの観戦兼待機室、左手が闘技者の待機室となるからな」


「なるほど」


 マクスウェルは静かに答えてパラナの隣まで歩き、己の行き先である方向に向かい、彼に向き直る。


「じゃあ、行ってくる」


「健闘を祈る」


 パラナの激励を受けて、マクスウェルはフードの下で小さく笑ってコートを翻し、片手を挙げて歩いていった。


「クルド、行こうか」


「えぇ」


 彼の背中を見送ってから、二人も待機室へと向かっていった。

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