十三日目 嘘と本音
その後、いくつか話を交えてパラナと防衛長官は分かれ、彼らは今ある仕事に手を付け始めた。
「ところで再確認だが、お前、御前試合がどういうものか理解しているのか?」
「相手が、領主の子供たちの闘技者から領主の闘技者に変わったようなものだろう?
それに、この国の王が直々に観戦するという形で」
「まぁ、概ねその感覚で正しいが…王を楽しませることを最優先にするのが少し違うくらいだな」
「私には呪いもあるからな、その辺りは何とか出来るだろう」
「そういえば、そんな物があったな。先日の件ですっかり忘れていた」
「覚えておいてくれ」
マクスウェルは少し困ったように指摘し、パラナは手を休めずに聞いた。
「一つ聞くが、お前は呪いを自力で解除出来るのか?」
「…あまり答えたくない質問だな」
「"答えろ"」
珍しく、パラナが強い口調で命令すると、マクスウェルは観念したように答えた。
「妙なところで命令をするな。…別に、解除しようと思えば解除は出来る。
ただ、解除したところであまり状況は変わらんだろう。むしろ、私がそんな事をしたら新たに枷が増えるだけだ」
「そんな所だろうと思った」
パラナは淡々と答え、マクスウェルに告げる。
「これは私からの命令だ。危なくなったら、そんな枷はすぐに外せ。
今後の闘技場は、今までのような児戯では済まされん。私としても、この状況でお前を失うのはこちらの地位が危ぶまれる」
「そうだな。大見得切って喧嘩を売った手前、私の生存は必要か」
パラナの言葉を受けて、マクスウェルも笑って一礼した。
「主人からの命令だ。ここにいる間だけでも、お前の忠実な従者として戦い続けてやろう」
「そうしてくれ」
新たな契約のように、二人は言葉を交える。そして、一段落と言わんばかりにマクスウェルは飲みきったティーセットを片付けながら聞いた。
「ところで暇なんだが」
「屋敷内の仕事を適当に手伝ってやってくれ」
「御意」
パラナの許可を得た途端に彼は手早く片付けを済ませて、部屋を出ていってしまった。
「……マクス、呪いを解けたんだね」
「あいつは初日から、契約の呪印を調べると言って勝手に内容を解析していたからな。解呪方法も理解している可能性が高いから、念の為聞いただけだ」
シナロアのツッコミにパラナが淡々と答え、そこまで分かっていて何故今まで放置していたのか、と言いたそうな彼女に向けて続ける。
「こちらとしても得体のしれない相手だからな。下手に刺激して、暴れられても困る。
今は、奴を召喚して二週間ほどが経過した。状況も召喚した時と比べて大きく変わった。
あいつがどこまで考えているかは分からんが、思っているほど危険な思考はしていない。何なら、呪いによって縛られた状況すらも楽しんでいる節がある。
奴に限って下手な真似はしないとは思うが、保証はない。何かの手違いで再起不能になってしまった時は、今となってはこちら側の損失も大きな物となってしまう。そうなる前に、生きるための手段を増やすのは間違いとは思わん」
パラナはそこまで話してから、まぁ、とため息まじりに続ける。
「アイツなら何食わぬ顔で勝手に解除して、自分で呪いを付け直すようなふざけたマネ位ならやりそうだけどな」
「…あー、やりそう」
シナロアも妙に納得してしまったところで、パラナは少し伸びをしてさて、と書類に向き直った。
「何にせよ、今日、私たちがやるべきは、この仕事を何とか片付けんといけないことだ」
「…はーい」
「長官曰く、また仕事増えるみたいですからね。…シナロアはまだ余裕がありそうだから、追加でお願いしてもいい?」
仕事、と聞いて好機と言わんばかりにヴェルディが頼むと、彼女も流石に少し嫌そうな顔をするものの、仕方無しと言わんばかりに頷いた。
「…まぁ、良いですよ。
その分は食べさせてもらってますし」
「助かる」
パラナは申し訳無さそうに目を伏せ、改めて仕事に没頭し始めた。
その夜。いつも通りに部屋に戻った二人は夕食を済ませ、食後の休憩をとっていた。
「シナロア、お前はこのあと、予定あるか?」
「いや、特にないから書斎から借りてきた本でも読もうかなって」
「仕事熱心だな」
マクスウェルは嬉しそうに笑ってから、それはありがたいが、と前置きを置いて聞いた。
「早朝にやると支障が出る訓練をやってみようかと思っていたのだが、どうする?」
「…ハードなの?」
「そうだな、お前が知る中でも最高に辛いかもしれん」
マクスウェルは正直に話すが、その後脅すつもりはない、と付け加える。
「お前が強くなりたいなら、手っ取り早くできる可能性がある方法だな」
そこまで話を聞いて、彼女は何かを察したように彼の目を見る。
「…流石にちょっと、覚悟がまだ出来ないかな」
「だろうな。だが、多少なりとも参考にはなるだろうから、一度やってみてから考えればいいんじゃないか?」
「……、マクスって結構強引だよね」
「まぁな」
マクスウェルは悪そうに笑いながら彼女のツッコミを受け取め、改めて聞いた。
「で、どうする…?」
「……―」
マクスウェルの問いかけに、彼女はしばらく悩んでから―




