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十三日目 指導

 昨日、どんなことあっても今日も一日が始まる。久々に感じる一人の部屋で、彼はいつも通り準備を終えて、仕事に向かう。

 昨日の出来事もあって、普段よりも世間話を弾ませつつ、仕込みと掃除、洗濯といった雑務を終わらせつつ、朝食を受け取って部屋に戻ると、風呂上がりなのか、シンプルな、薄い桃色のシャツとロングスカートを履いたシナロアが見えた。


「おはよう」


「―、マクスか。おはよう」


「あぁ、おはよう。風呂上がりか?」


 マクスウェルの呼びかけに足を止めた彼女の隣に並び、再び歩き始める。うっすらと濡れた髪について問いかけると、彼女はそうだね、と隠すことなく答える。


「ちょっと、体動かしてたんだよ」


「突然だな」


 特に動じることもなく、彼が流すも、彼女は喋りだす。


「昨日の一件でさ、私も多少は戦えないといけないと思ったんだよね」


「そうか」


「…止めないんだね」


 特に反応のないマクスウェルに向け、少し不満げに言い放つが、彼は特に気にした様子もなく答える。


「それがお前の望みなら、私がとやかく言う理由もないからな。お前の仲間ではあるが、親でもなければ飼い主でもなんでもない」


「…まぁ、マクスはそういうタイプだよね」


「良くわかってるじゃないか。…と、そろそろ部屋だな。朝食としよう」


 そんな話をしている内に彼らの部屋に到着し、二人はとりあえず朝食を済ませることにした。



「―マクス、戦い方を教えて」


 二人で朝食を摂っている最中、突然シナロアは頼み込んできた。


「突然だな。―別に構わんが、何があった?」


「…さっきも話したでしょ」


 彼女は真意を話すことはなく、口を尖らせて答え、マクスウェルは何かを察したのか楽しげに笑う。


「そうだな、何かあった時の備えは必要だ。

 それなら再確認となるが、お前のスキルは―」


「"閃光"、"影送"、"振動"、"再生"、"回帰"かな」


 彼女のスキルを再確認した上で、確認のために一つ聞いた。


「身体強化系はないのか?」


「今のところないね。親族の集まりでもあまり聞いたことはないし、多分、私の家系はそういったスキルを発現しにくいのかも」


「成る程。そちらは期待できない、と」


 マクスウェルは口元をナプキンで拭ってからふむ、と考え始め、一つ、提案する。


「ならば私の武術を教えてやろう」


「…マクスって拳法家か何かだったの?」


「そんな大層なものじゃない。ただ、私の育ての親から伝授された護身術を教えるだけだ。

 元はと言えば、ある男が妻や子の自衛のために編み出した武術だからな。多少非力でも問題なく使える筈だ」


「今さり気なく貶した?」


「気のせいだろ」


 さり気なく非力と言われたが、マクスウェルは適当にとぼけて、食事をとる手を進める。



 食事も終わり、片付けや軽い掃除を終え、仕事の時間までまだ少し時間が残っていた。

 そこで、部屋の広いスペースにシナロアを立たせ、マクスウェルも前に立って構える。


「じゃあ、隙間時間にサクッとやるか」


「あ、今日からなの?」


「最初から大した事を教えるつもりはない。微妙に空いた時間で教えられる程度のことからでも力にはなるはずだ」


 シナロアも、彼の言葉に納得して、少し重心を落とし、拳を握った所で、彼は訂正した。


「再生や回帰があっても、案外指の骨は折れやすい。殴るのに慣れていないか、きちんと鍛えていないなら拳は握るな」


「…じゃあ、普段マクスがやってるみたいにやればいいの?」


 指摘を受けて、彼女はマクスウェルの構えを真似、手を開き、足を引いて重心を少し落とす。


「それでいい。昨日、お前もやっていたが、お前の筋力に頼るよりも、打撃部分に振動を加えるような戦い方のほうが、効率的にダメージを与えられる。

 少し、打ってみろ」


 マクスウェルは魔力を固め、手にミットのようなグローブを填めて胸のあたりに構えて打ってこいと指示する。彼女も無言で頷いて、そこに一発、掌底を叩き込むと同時に振動も加えるが、彼は微動だにせずにそれを受け止めた。


「…っ、大体、感覚としてはそんな感じだな。あとは、もう少し深く振動を撃ち込むように意識しろ。

 お前は今、このミットに攻撃していると思うが、それより先、私の手に振動を届かせるイメージだ」


「…微妙に難しいこと言うね」


 マクスウェルの指導に、彼女は困ったように笑うと、彼もふぅ、とため息混じりに答える。


「これでも分かるように話してるんだがな」


「いや、言いたい事は分かってるよ。それでも、実践してみるとなると難しいなってね」


「そこは感覚になるからな。何度もやってみて身につけるしかない」


 マクスウェルはそう言って、ミットを構え、何度か彼女の攻撃を受け止めるが、なかなか成功しない。

 5回目の攻撃を受け止めて、彼は手を下げた。


「…時間だな」


「あれ、もうそんなに経ってた?」


 マクスウェルの指摘にシナロアも時計を見ると、始業の時間が迫っており、少し慌てた様子で構えを解いた。マクスウェルも魔法で涼しい風を送り込み、シナロアに乾いたタオルを渡して汗を拭くように促す。


「元々大した時間はなかったからな。今後、時間がある時には実践を踏まえた稽古をつけてやるから、頑張ってついてこい。―私の指導は厳しいからな?」


「はい!」


「良い返事だ」


 汗を拭いて、髪を整えたシナロアが返事をしつつタオルを返し、彼も額の汗を拭いて、二人で主人の下へ向かうことにした。

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