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一日目 vs亡霊

 リンとの食事を終えたあと、案の定腹を下したのでトイレに寄ってから、マクスウェルは廊下で待機していた従者の元に来ていた。


「ここの食事は口に合わなかったか?」


 トイレで格闘してからか、腹を抱えて前屈みになっており、少し白い顔をしているマクスウェルに対して茶化すように言うと、彼は辛そうに答える。


「いや…味は悪くなかったんだが異界の飯は下すことが多くてな。

 元より普段から食べているものも違えば腹にいる常在菌も違う。まぁ、それが原因で三日くらいは腹に来るが、それ以降は問題ないから安心しろ」


「……何を言っているのかよく分からんが、とりあえず戦えはするな?」


 マクスウェルの説明に対して、全く理解できないと言った顔で従者は聞き、彼は力なく頷いた。


「お前のコンディションがどうであれ、相手は容赦はしない。それで勝てませんでしたでは済まないぞ」


「―それは、今まで死んできた者を見てきたからこその言葉か?」


「無駄話をするな」


 さりげなく失言を誘導しようとするが、難なくあしらわれてしまい、彼は舌打ちをして体を起こす。


「よっこいしょ…っと。

 それと可能であれば頼みたいんだが、この試合のあと、パラナに相談したいことがあるんだが、ここに呼ぶのは可能か?」


 突然の頼み事に対し、従者は不審げに聞き返す。


「伝言ではだめか?」


「今後に関することだ。一言二言で済む伝言ではないから、パラナと直接相談したい」


 しばらくお互いに無言で見つめ合い、彼がふざけて頼んでいるわけではないと理解したのか、ため息混じりに頷いた。


「あい分かった。主人に伝えておく」


「助かる」


 その言葉を最後に、二人は背中を向けて歩きだした。



 日が傾き始め、少し日差しも弱くなってマクスウェルとしては過ごしやすくなってきたが、会場の熱気はむしろ上がっているようだ。

 綺麗だった闘技場は血や土くれによって荒れ始めており、それが更に観客を沸かせるのだろう。

 正面にある太陽のようなもの向けて手をかざし、視線の先―フードを目深に被り、裸足で地面に立つ、土に汚れたローブを纏った20手前の若い女性に目を向ける。

 フードの下から僅かに見える顔の輪郭は細く、恐らくろくなものを食べさせてもらっていないことが分かる。伸びた髪も手入れもされておらず、ボロボロだ。ただ、みすぼらしい見た目に反して右手に握っている錆び付いたメイスには血糊がへばり付いており、少なくとも多少の修羅場は潜り抜けていたことは理解できた。

 彼が彼女を観察していると、いつものやかましい司会の声が響いた。


『さぁ二回戦始まりました!

 初戦は早速大荒れとなった、"人食い"を退けた、単勝の人気七位! パラナ氏の闘技者です! 愛称や名前についてはパラナ氏本人から控えるように、とのことでこのような呼称で失礼します! 正直初戦で食われて死ぬと思ってましたし私も何度も呼ぶとは思ってませんでした!』


「あのアマぶち殺されたいのか」


 司会の本音に笑い立つ会場のなか、少しキレ気味にマクスウェルが呟くも聞こえるわけはなく、司会は続けていく。


『そしてこちらも番狂わせ、とまではいきませんが、初戦を勝ち抜いた"亡霊(ファンシー)"! こちら、優勝経験がないこともあり、人気は最下位となっています。そして、今回優勝できない場合、廃棄処分が決定されており、もう後がない状態ですね!

 彼女の健闘に期待です!』


「…こいつが、そうか」


 バカにしているような解説は半分聞き流し、彼は少し前、食堂で話していたリンの会話―闘技場に唯一いる、亡国の貴族出身の闘技者を思い出した。


「……」


 彼女はなにも語らない。ただ、ゴングを待ちわびるようにメイスを構えるのみ。それに対して、マクスウェルは脱力して目を閉じ、深呼吸する。


 やかましい会場の声は、もう彼の耳には届いていない。ただ、開始のゴングを待つのみ。

 そして長い静寂のあと、戦いを告げるゴングが鳴った。



 鐘の音と同時にマクスウェルは駆け出し、人食い戦でも見せた、驚異的な身体能力で一気に距離を詰める。

 あと数mほどの距離のところで、彼の体は何か巨大な衝撃を受けて弾き飛ばされた。

 駆けていた勢いのまま、闘技場の端まで飛んでいき、激突する。


「…これは、」


 とても懐かしい記憶が脳裏をよぎる。―それは遥か昔、勇者と呼ばれる者と共に、彼が魔王になるための旅の記憶。これは、あの時の仲間が使っていた"奇跡"―瞬間、現実に引き戻される。

 二発目の衝撃波が彼の体を襲い、破壊された瓦礫の山に体が埋もれる。


「―私も、年を取ったな」


 こんなものに懐かしさを感じるとは。瓦礫の山のなかで反省するも、その口には笑みが溢れていた。


 瓦礫の山から無傷のまま、彼は飛び出し、着地と同時に横に飛び退いて追撃の衝撃波を回避する。

 その場から動くことない亡霊は右手にメイスを握ったまま、左手に光を貯めてこちらを目で追っている。

 マクスウェルは大きく外周を回るようにして駆け、彼女の動きを少し観察するが、追加の衝撃波は飛んでこない。打ち止め、ということはあり得ない理解している。ならばこちらの接近を待っているのだろう。そう理解した彼は彼女の思惑通りに軌道を変えて距離を詰める。

 それと同時に乱射される光は弾けて衝撃波を生み出すが、彼は軽々とそれを回避してお互いの間合いに入った瞬間、視界が光で満たされた。


「―!」


 光の玉の一つは閃光弾だったようで、彼の視界が潰される。その隙を見逃さず、彼女がメイスを振り回すよりも先に既にマクスウェルは距離を離していた。しかし、閃光で潰された視力はすぐには戻らない。

 無防備な彼の体に、無慈悲なまでに衝撃波が浴びせられる。吹き飛ぶ土塊と、爆撃のような派手な轟音に会場は沸き上がる。衝撃波の嵐が止んだ後には―真っ黒な人型が影のようにその姿を崩した。


「若いの、的はよく見ておけ」


 いつの間にか、彼女の後ろに立っていたマクスウェルは、彼女が振り向くよりも早く掌底を叩き込んだ。

 華奢な体は軽々と飛んでいき、地面を転がるが、彼女は器用に受け身をとってすぐに立ち上がる。その動きでフードが外れ、その顔が露になる。

 蒼い瞳は暗く澱んでおり、痩せこけているせいで、彫りは深い方なのだろうが、余計に不気味見えた。


「…やはり、マナの通りが悪いな」


 手首をぶらぶらとさせながら彼はそう呟き、再びフードを被り直している彼女を待っていた。

 準備が終わったのを見届けてから再度構え直す。わざわざ追撃もせずにフードを被る時間を与えたのは挑発と思われたのだろうか、先程よりも激しく衝撃波が飛んでくるが、めんどくさそうに駆け出し、再び距離を詰める。

 再び数歩で間合いに入るところで衝撃波の中に閃光が紛れていたが、分かっていたとばかりに腕で光を遮ったが―その姿勢のまま、マクスウェルの体が拘束される。


「……!」


 声すら出せず、マクスウェルは拘束を無理やり力で解く前に、彼の顔面にメイスが直撃した。それは流石に回避は出来ず、彼は後ろに吹き飛んで地面を転がっていく。

 人食いとの戦いから、この程度ではまだくたばるわけはないと誰もが思い、亡霊もメイスを握って追撃し、倒れたままの彼の顔面にもう一発振り下ろすが、その寸前で転がって回避し、その勢いのまま立ち上がる。その顔は、とても、とても懐かしそうに笑っていた。


「―リリー、レックス、セシル、あぁ…懐かしくて涙が出てしまう。私も、本当に年を取ったな」


 不気味と思えるほどの笑みに亡霊も警戒するように立ち止まり、涙を流す蒼い瞳が彼女を捉えた。


「若いの、懐かしいものを思い出させてくれた礼だ。―魔王として戦ってやる」


 瞬間、先ほどとは比較にならないほど、一瞬で距離を詰められ、彼の拳が腹に突き刺さる。その勢いで下がった顎を膝が蹴りあげた。


「―アキュリス」


 彼の手に小さな光の玉が作り出され、無造作に放り投げると、そこから数多の小さな槍が降り注ぐ。それは彼女の体を無慈悲に貫ぬいていく。―しかし、絶命には至らない。


「"再生能力"、か。このスキルは間違いなく呪いの類いではないのか?」


 憐れむように彼女を見下ろしていたが、まだ終わりじゃないと言わんばかりに彼女は立ち上がった。


「…」


 彼女はなにも喋らない。フードの下の顔は見ることは出来ないが、その顔にはどんな感情が刻まれているのだろうか。

 ヤケクソと言わんばかりに衝撃波、閃光、拘束、全てが入り乱れて彼を襲うが、


「…無駄だよ」


 彼がトン、と靴で地面を鳴らすと、周囲の地面が板のように隆起し、彼を守る防壁となる。

 嵐が止み、ボロボロとなった硬い土の板が崩れ去り、そこから無傷の彼が現れる。


「もういいだろう。眠れ」


 刹那、彼の拳が彼女の顎を捉え、その意識を刈り取った。




 終了を告げるゴングが鳴り、歓声の中、服に付いた土埃を払ってから司会の言葉と一回戦の前に従者が話していたことを思い出した。


「…………、」


 魔法で作り上げた剣を握る。

 勝者は敗者に何をしてもいい。例え、殺害しても罪には問われない。きっと"廃棄"されるのであれば、この場で殺すことが彼女への救済になるのだろう。

 だが、彼にも一つ引っ掛かっていたことがある。それは、彼女はこの闘技場にいる唯一の"まともな闘技者"であること。

 ほとんどこの世界の味方がいない今、可能性に賭ける価値はある。

 そして生殺与奪の権利は私にある。故に―


「―やめだ」


 魔剣を消し去り、治りの遅い傷は治療してやり、彼は彼女を抱えて闘技場を後にした。

 

用語解説…前作のキャラの名前とか出されても分かるわけないだろ!!!ここで補足だ補足


アキュリス…マクスウェルの汎用とする魔法の一つ。

光の玉から無数の槍を生み出す魔法。

コスパがよく、牽制にも使える。便利。


魔王の過去…『王は何を為す』シリーズの内容

元々魔王として君臨していたマクスウェルは神と敵対し、ほぼ相討ちの形で勝利する。その戦いで力を使い果たした彼は眠りにつき、その戦いから500年後目を覚ます。

その時代で再び魔王になるべく、色々やっていく物語。

魔王への道は勇者一行と共に行動をしており、以下仲間たちの紹介。


リリー…勇者。元はサーカスの曲芸師。闇2コンボ7倍の火力は出せない。影を利用して拘束する裏魔法のプロ。下記のレックスの閃光→裏魔法での拘束はマクスウェルも苦戦させられた。


レックス…僧侶。教会出身であり、立場はナンバー2である"枢機卿"。亡霊の衝撃波、閃光と非常に似通った奇跡と呼ばれる攻撃を使っていた。


セシル…戦士(女)。元帝国15番隊隊長。勇者一行と同行するに当たって除隊している。イケメン。

"亡霊"との共通点はないです。まぁ三人のパーティーだから多少はね?

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