十二日目 いかゃちおいしのた 後編
臨戦態勢をとったマクスウェルを見て、残る四人の従者たちも、先ほどとは想像もつかない敵意と殺意を剥き出しにする。
「さぁ、たのしいおちゃかいの後の運動といこうか」
この場面でも、マクスウェルは余裕を崩さず、笑顔を見せる。それと同時に彼の側面に転移し、毒が塗られた暗器を首めがけて突き刺して来たが、彼は見向きもせずに一歩動いて避けて、逆に空いた首に爪を突き刺し、そのまま頚椎を捩じ切った。
"再生"があろうと、即死する怪我に対しては無力。それを理解した一撃にて、一人が地面に伏せた途端、再び立ち上がる。
「さぁ行け、"自走人形"」
死亡と同時にマクスウェルの魔力を与えられ、命はなくとも肉体の機能を補完された屍は新たな主から与えられた役目を遂行する。
「…なんと、死者すら操るか」
「あぁ、珍しいだろう。古い友人から教えてもらった禁忌さ。
魔力を電気信号に変換し、ある程度のパターン化させて残しておくことで死して尚、戦える人形の完成だ。
この理論は一部のゴーレムにも適用できて―いや、無駄話はやめておこう」
総司令の呟きを聞いていたマクスウェルが得意げに説明し、残り三人の従者たちに、マクスウェルとの戦闘に恐怖が見え始める。しかしマクスウェルは一切の迷いなく、冷たい殺意を宿したまま攻め始めた。
一体の自走人形に相手をさせている間に、残り二人に向かっていくが、一人は遠くに離れて転移し、背後から"振動"の弾丸を放つ。彼はスーツに帯びた魔力を固め、何事も無かったように正面の一人を殴りつけるが、空間を遮られ、拳は止まる。それでも彼は止まらず、返しのもう一発を放ち―別空間の壁を繋げ、全力の一撃を叩き込む。
しかし、彼の拳が貫いたのはほとんど活動を停止した"自走人形"だった。
「…転移、とは少し違うな。座標をずらされたか」
マクスウェルの一撃を受けて完全に自走人形は沈黙し、再び集合した三人を視界に収める。
再びマクスウェルが構えたと同時に三人は散開。時間の"遅延"、空間を"歪曲"、地面から"創造"して生えてきた触手による三種の拘束を受け、彼も咄嗟の対処が間に合わず、素直に動きを止めた。しかし、彼の表情には焦りは見えず、三人の行動をただ見ているだけ。それがブラフか、本心か分からずとも、彼らは止まれない。
各々がマクスウェルへと攻撃を仕掛けようとした瞬間、高さ二メートル近くもある赤い刃が周囲一帯に突如生え、従者たちも回避が間に合わず、数多の凶刃に串刺しにされる。
「駄目じゃないか。肉体的な拘束だけで私を止められたと思うなんて」
窘めるように、小馬鹿にするように彼は話し、いとも容易く拘束を全て解除する。そして数多の刃に突き刺されようとも、誰一人として絶命には至らず、マクスウェルは感心したように声を漏らす。
「いやはや、大した生命力だな」
まだ戦意を失っていない従者たちを見て、マクスウェルは不敵に笑い、周囲に以前使った黒塗りの巨砲―電磁砲を始めとした、対物ライフル、大砲といった大型の兵器を大量に展開し、手を挙げた。
「耐久実験といこうか」
そう呟いて手を降ろし、数多の兵器が一斉に火を吹いた。
鼓膜が破けるような爆音と共に、硝煙と飛び散った土の臭いが立ち込める。
空間を操作するスキル持ちは居たはずだが、事前にマクスウェルが周囲の空間"軸を固定"していたこともあり、防御は不可能のはず。それでも三人の従者たちはかろうじて人の形を保っており、それぞれ肉体の半分以上を失っても尚、まだ生きて"再生"しようと藻掻いていた。
「やはり、これは呪いの類だろう」
少しだけ憐れみの目を向け、マクスウェルは彼らにトドメを刺そうとしたところで、新たな人影が彼の目の前に現れた。
それは他の従者たちとは異なる、緋色のローブを纏い、顔はフードを目深に被っていて見えない。ローブの背中にはご丁寧に軍旗と同じ、真っ黒な獅子と蛇が絡み合った刺繍が施されていた。
「……、」
新たな従者はマクスウェルと無言で向き合い、その隙に地面に転がっていた従者たちを全員転移させてしまう。
マクスウェルはそれを止めることもなく、静かにソレに向き合うが、動くことはない。―何故なら、この世界で初めて脅威と認識していたから。本能が、この"敵"をすぐに殺すように暴れるのを、理性で必死に抑え込む。
マクスウェルは気持ちを落ち着かせるように一つ深呼吸をして、目の前の敵に聞いた。
「―お前もやるか?」
「いや、それは尚早だ。お前も退け」
戦闘の最中、流れ弾による傷一つ負っていない総司令が近付きながらそう言うと、敵は静かに彼の後ろに着いた。
「はっきりいって、この勝負は我々の負けだ。お前もこれ以上、ここを破壊するのは良くないだろう?」
総司令の提案に、彼は周囲を改めて見直すと、先程の戦闘、特に最後の一斉砲火によって焦土にしてしまっていた。確かにこれ以上暴れると、パラナから大目玉を食らうのは容易に想像できる。
正味な話、この"敵"相手にこの状態で戦ったとして、勝てるかどうか確信がなかったこともあり、マクスウェルは素直に提案を飲むことにした。
「そうだな。このあたりにしておこう」
「賢明な判断、助かるよ」
これ以上の戦闘には意味がない、そう言いたそうにマクスウェルが素直に構えを解いた。
そしてしばらくの沈黙を経てから、総司令はふむ、と考えこんだ。
「この絶好の機会に奇襲でもすると思っていたが、意外だな」
「やる意味がない。お前を殺したところで、先にあるのは混乱だけだ。
そんなこと、主人も望んでいない」
マクスウェルの素直な答えに、彼は少しだけ、ほんの少しだけ嬉しそうに笑う。
「そうか」
「……」
その微妙な表情の変化をマクスウェルが見逃している筈はないが、彼は黙って距離を離す。敵意がないとは言え、危険な"敵"相手に不用意に背中を見せられるほど、彼も信用していない。その当然とも言える警戒を見て、総司令も目を伏せて小さく一礼する。
「それでは 私たちも失礼しよう。―"天魔"、今日は面白いものを見せてもらった」
彼はそう話してその場から跡形もなく消え去り―中庭で一人待機していたマクスウェルは、ずるずると地面に座り込んだ。
「……あれは、間違いないな。
全く、予想できた事態とはいえ、とんでもないモノが紛れ込んでいるのだな」
日もほとんど陰り、暗い空の下で、彼は小さく呟いた。




