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十日目 二人の主人

 屋敷に帰還し、事の顛末を早速パラナとその従者二人に報告すると、三人仲良くため息をついた。従者二人は鉄仮面で見えないが、恐らく渋い顔をしているのだろう。


「ドウルは死んだか」


「不死の呪いで自決を阻止したとしても、私の魔力の供給から逃れたら、そのまま死が与えられる。

 ただ、スキルというのでどこまで出来るかは私には分からん。十中八九死んだと思うが、確実とは言えん」


 マクスウェルの話を聞いて、ずっと渋い顔をしたままだったパラナも、ようやく口を開いた。


「何にせよ、よく無事に戻ってきたな。それだけでも、私は安心したよ」


「それはそうですね。ただ―」


「どうした?」


 言葉に詰まったクルドに対し、マクスウェルが続きを聞くと、少し答えるか迷ってから説明した。


「―"映写"、お前がみたスキルを持ってる闘技者は、パラナ様を含めた、子どもたちの闘技者には存在しない。そして闘技者ではなくても、お前と短時間とはいえ、まともに相対できる者だ。存在するとしたら、領主本人の管理する闘技者、ないし護衛だろう」


「なるほどな。きな臭くなってきたな」


「しかし、領主本人とも敵対する可能性は元からあった。今更気にすることはないだろう」


 言葉の割には楽しげなマクスウェルに対し、パラナは落ち着いた様子で話し、また一つ、ため息まじりに指示をする。


「マクスウェル、お前は私の闘技者であることは周知の事実だ。不要な接触をしたと言いくるめられて、面倒事が舞い込んでくるだろうな。

 だが―お前はそのまま好きにしていろ」


「首輪を付けなくて良いのか?」


 意外そうに聞くも、パラナの答えは変わらない。


「どうせ、私たちが嗅ぎ回ってる時点で通る道だ。早いか遅いかの違いだろうから気にするな」


「御意」


 マクスウェルは、主人の指示に静かに応じた。話も一区切りついたところで、ヴェルディが面倒そうに手を挙げた。


「でも一つ、問題があってね。

 ……、人手が足りなくなる」


 スパイだったにしても、きちんと仕事はしていただけに、その一人分の穴は小さくない。マクスウェルとしては非常にどうでもいいと思って聞き流していたところ、思わぬ白羽の矢が立った。


「そうだな。一人分の穴は割とデカいが―マクスウェル、都合の良い女が一人いたと思うんだが、こちらに回したりは出来るか?」


「…シナロアをお前らと一緒に仕事をさせろと? お前ら、あいつの背景を知った上で言っているのか?」


 とても正気ではないと言いたげなマクスウェルに向けて、きっぱりとヴェルディが告げる。


「あの子は大分吹っ切れてるように見えるけど―書斎の許可を得ているからと言って、ずっと引きこもらせるつもりかい?」


「…痛いところを突くな、お前らは」


 マクスウェルはパラナを含む、この国の調査をシナロアに依頼している。そのために買い取ったのだが、何日かかるか分からない調査のために、客人を好き勝手に居座らせるのは危険だと判断されて仕方ない。ここで断るのは余計に怪しまれるだけであり、今後の調査に支障をきたす。だからといって、パラナの従者として働かせるのは、彼女の精神面もあるが、時間的な都合で調査に支障が出るのも事実だ。

 応じても、断っても問題が起きるのであれば、将来的にいい方向に転がる可能性に賭けた。


「…あの子の上司としては、了承しよう。だが、どうするかはあの子が決めることだ」


「あぁ、腐っても元闘技者に暴れられたら困るからな。そこはよく話してくれ」


 パラナは珍しくしてやったりと言いたげな笑みを浮かべて、マクスウェルに告げた。


「とりあえず、話はこのあたりで良いだろう。マクスウェル、下がっていいぞ。あの子と話すのも忘れないでくれ」


「分かってる。では、失礼するぞ。―良い夜を」


 マクスウェルもこれ以上要件はないと判断し、一言言って部屋を出ていった。


 そして、マクスウェルが出ていった所で、従者の二人は大きなため息を吐く。


「…パラナ様、本当にあの子を着けるつもりですか?」


 ヴェルディが信じられないと言いたげに聞き直すも、彼は表情を変えずに答える。


「もう決めたことだ。それに、変に嗅ぎ回られるくらいなら、手元に置いておいた方が良いだろう」


「貴方は知らないかもしれませんが、我々は恨まれて当然のことをしています。パラナ様の身に何かあれば―」


「―あれば、なんだ?」


 氷のように冷たいトーンで聞き返すと、ヴェルディは言葉に詰まり、一歩下がる。


「……失礼しました」


 パラナは口調を和らげ、話を変える。


「よろしい。ところで、ドウルの最後の通信先は―軍の本部で問題なかったな?」


 その話題に、クルドが乗ってきた。


「えぇ、間違いないでしょう。そして、ドウルは捨て駒にされた」


「みたいだな。大方、奴らが知りたかったのは、スキルを装備していた相手でも、マクスウェルの呪いが機能していたかどうかだろう。―全く、用心深い奴らだ」


 パラナはバカバカしそうに話し、一つ、ため息をついた。


「奴が八百長…と言うと怒りそうだな。うまいこと調節して戦っていたのではないか、と勘ぐられていたようだな。元々、暗器を使われていたのもあって、無理に制限する真似は出来なかったが」


「そうでしょうね。そして、彼らはあの魔王に掛けられた呪いが、スキル持ちにしか作用しないことにも気が付いたでしょう」


 淡々とそれぞれが今回の結論を述べ、ヴェルディがそういえば、と聞いた。


「マクスウェルが出会ったあのスキル持ちとやらですが…」


「いや、白だろう。"アレ"と対峙したら、奴も流石に人の姿を捨てる筈」


 ヴェルディの言葉を即座にパラナが否定し、ふぅ、と一息ついて肘杖をつく。


「何にせよ、我々として、今後は上の邪魔も入ることになるのか。

 面倒極まりないが、仕方がないな」


「えぇ。仕方はありませんが―本当に、良いのですか? あの魔王を放し飼いにするのは、些か危険すぎませんか?」


 クルドが心配そうにパラナに進言するが、彼は首を横に振る。


「下手に首輪を着けようとすると、反抗こそせんが、いずれ何処かでしっぺ返しをくらうぞ。確かに胡散臭いところはあるが信頼には値する男だ」


「……そうですか」


 クルドもそれ以上、パラナに言い返すことはせず、素直に引くことにした。そこで話の区切りもつき、時計に目を向けると大分遅い時間となってしまっていた。

 パラナも疲れたように伸びをしてから、彼らに声をかけた。


「お前らも遅くまで疲れただろう、そろそろ休むと良い。

 今日も一日、ありがとう」



 ―一方、マクスウェルたちの部屋。

 いつものように、夕食を共にしながら、なんの予兆もなく彼が告げた。


「シナロア、この前話してたお前が従者になるという話だが、今日、パラナの方からお前をよこせって言ってきたぞ」


「えぇ…」


 夕食のチキンのソテーを切り分けながら、シナロアも流石に困惑気味の反応を返した。

 

「何せ、従者の一人を恐らく私が殺してしまったからな。その穴埋めとして、使えそうな人材を寄越せということだ」


「一応確認するけど、マクスウェルはいいの?」


 しれっととんでもないことを口走っているが、シナロアは敢えてスルーし、時間的に本来頼まれていた仕事が進みにくくなることについて再確認すると、彼も苦笑して答える。


「仕方ない。主人直々の頼みだからな」


「まぁ、分かったよ」


「助かる。早速だが、明日から頼むぞ」


 素直に応じてくれたことに感謝を述べ、オニオンスープを一口含む。


「大丈夫。ところで、今日はもうお風呂入ったの?」


「軽い運動もしてきたからな。手短に済ませてきた」


「ん、分かった。今日は一人で入ってくるよ」


 二人はそんな、特になんでもない会話をして、時間を過ごしていく。



 シナロアが入浴をしている間、マクスウェルは一人、今日の闘技場やパラナとのやり取りで得た情報をまとめていた。


(―早速、機神と情報交換を出来たのは僥倖だったな。問題は、今後衝突しかねない領主たちのスキル持ちか。

 別段負けるような相手ではないと思いたいが…搦め手も使ってくる奴が増えてくるとなると…はてさて、一筋縄ではいかないだろうな)


 ふと、視界の隅に左手首のの契約印が目に入り、大事な主人のためにも、少し頑張らなくてはな、と思うマクスウェルであった。

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