九日目 対話と方針
昼食と情報交換を終え、マクスウェルは屋敷に戻り、事前に打ち合わせをしていた時間に、従者たちの自室に入っていった。
「待ったか?」
「いや、予定通りだろう? とりあえず座ってくれ」
部屋にはクルドが既に待機しており、長机に対面する形で二席の椅子が用意されており、二人はそれ以上は無駄な会話をせずに席に着いた。
「急な相談で悪いな」
「こちらとしても願ってもない対話だ。気にするな」
クルドの言葉にマクスウェルは首を横に振り、真面目な顔で直接聞いた。
「で、ドウルの件についてだな。具体的に何を聞きたい?」
「そうだな。
早速だがあいつに与えた怪我はどれくらいだ?」
マクスウェルがわざわざ呼ばれた理由は、執務で多忙な主人の代わりに、先日の詳細の聞き取りをすることだった。
「仮面の破壊と、顎の骨に軽くヒビが入っただろうな程度だな」
「お前にしては随分と手心を加えたんだな」
律儀にメモを取りながら、茶化すように言われたが、不満げにマクスウェルは返す。
「アクレの乱入で意識が乱れた所に麻痺毒を塗ったナイフを刺されたんだ。
不死の呪いで死ねない状態にしてから、拷問して情報を得たかったんだが」
「……後半については聞かなかったことにしてやる。
あいつ、麻痺毒の暗器まで持ち出してたのか?」
「そうだな。そういえば昨日話してなかった」
彼は淡々に答え、クルドはこの会話をメモしながら頭を掻く。
「で、解毒はアクレ嬢がしてくれたのか?」
「あぁ、ドウルにはその時点で逃げられた」
大雑把に説明したところで、クルドは一つ息をつく。
「なかなか面倒になってきたな。
スキル装備もそうだけど、暗器の使用までとなると、アイツは元よりスパイとして活動してた可能性が高い」
「そうなのか?」
不思議そうに聞くと、今更隠す必要もないか、とクルドが説明を始める。
「俺ら三人は、軍部でも諜報や暗殺を担う、暗部的な立ち位置にいる。年齢や素行の問題で外されたごく一部が、パラナ様のお付になるんだ。
護衛の役目もあるから、スキル装備は申請すれば自由に使えるが、暗器となると話は別だ。何せ、暗殺で使う武器だからな、本来前線を退いた俺らに許可は下りるはずがない。
それでも、アイツは暗器を使っていた。つまり、」
「パラナの従者とはまた違った立ち位置と」
マクスウェルが続けると、認めたくはないがな、とクルドは続けて頷いた。
「更にアイツは俺らと違って、パラナ様にずっと付いてるわけじゃないから、幾らでも"小細工"をする余裕があったってわけだ」
「なるほど」
マクスウェルも納得したように頷いて、改めて話の流れを戻す。
「何度かあいつに言質を取ろうとしたんだが、一切答えてくれなかったな。あんたら的には、後ろには誰がいると思う?」
「さぁな。総司令の線が濃いが、お前の暗殺をしようと思うような事があるのか、俺には分からん」
「私も、特殊な闘技者というだけで命を狙われる理由は分からんな」
マクスウェルはしれっとそんなことを言ってから背もたれにもたれかかり、笑顔で聞いた。
「それともう一つ、話すのを忘れていたんだが、その時に亡国の姫君と接触していたのが悪かったか?」
「……、お前、なんつった?」
「何って、亡国の姫君さ。名前はトルーカと言ったか?」
マクスウェルの報告を聞いて、クルドは何かが繋がったのか、唸ってから話しだした。
「あぁぁぁぁあ! そういうことか! マクス、そういうことはもっと早く言え」
「どうした?」
不思議そうに聞く彼に対して、クルドはため息まじりに説明を始めた。
「あいつがここに左遷される前の担当は、その例の亡国なんだよ。そこでやらかして、こっちに左遷されてる。シナロアの時点で怪しいとは思ってたが…まさかその上もいたなんてな」
「なるほど? いやよく分からんな。左遷されたあとの話なのに、なんの関係がある?」
「わかりやすく言うと、あいつとしても因縁と言うか、やらかしさえなければ、それなりの報酬も期待できた場所だからな。あいつにとっては、今でも思うところがあるんだろう」
クルドの説明を聞いて、マクスウェルはとりあえず納得した体で話を続けた。
「それはともかく、だ。その場合だとしたら、後ろにいる連中は絞れるのか?」
「んー、そういった事情まで把握してドウルを採用したとなると、総司令の線がかなり濃くなってくるな。
それまで知ってるのは、総司令というか、軍部くらいだし」
「まぁ、そうなるか。それなら軍部にカチコミにでも行くか?」
話がある程度まとまった所で、マクスウェルが血の気の多い発言をすると、流石にクルドも難色を示す。
「血の気が多すぎる」
「ジョークだ」
マクスウェルは楽しそうに笑って言い、クルドは呆れた様子だ。
「お前、真面目な話をしてるんだぞ」
「あまり堅苦しいと息苦しくないか?」
「まぁ、それはそうだが」
指摘に対して屁理屈で返され、クルドが折れた所で二人は笑い合う。
「適度に肩の力を抜くのはいいぞ。あまり気を張っても議論が進むとは限らんからな」
「そうだな。
で、話を戻そう。お前の口ぶりから、トルーカとも顔見知りなんだな?」
「あぁ」
トルーカとの関与を確認され、彼は隠す素振りもなく頷くと、じゃあ、とクルドは続ける。
「お前は可能であればそいつの護衛をしてやってくれ。ドウルの奴は、あぁ見えて短気だからな。お前が張ってても、隙を見て狙ってくる可能性がある。ついでに、ロクに戦えない姫君まで着いてくるなら尚更だ」
その指示を聞いて、ふん、とマクスウェルは鼻を鳴らす。
「餌になれと」
「そうだな。俺は俺で、仕事の片手間に軍部に探りを入れておく。
お前に比べれば、俺やパラナ様のほうがまだ動きやすいからな。任せておけ」
「成る程。ところで、ドウル、ないし"敵"と対峙した場合は"どこまで"許す?」
適材適所で動け、と暗に言われ、彼は応じてから最後の確認をしたところ、意外な答えが返ってきた。
「好きにしろ」
「…本気か? 私は本当に好きにするぞ?」
目を丸くして再確認するも、クルドの答えは変わらない。
「あぁ。好きにしていい」
「了解した」
許可は得た、とでも言わんばかりに席を立ったところで、クルドはマクスウェルを呼び止めた。
「マクス、」
「どうした」
「主人はそんなこと言わないが、俺らはホームパーティーを楽しみにしてるからな」
そうか、と返そうとした所で、クルドの意図を理解したマクスウェルは、意味深ににやりと笑い、その場を後にした。
「あぁ、楽しみにしてるがいい」




